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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
アルトちゃんの秘密編
122/198

第121話 交渉

「ルナちゃん、おはよう。おっと、警戒するなよ、今日は本は借りない」

「……ずっと借りないで欲しいです」


 オレは第3位ギルド『ユグドラシル』へ来ていた。戦争まで時間がない、早く助力を求めたいところだ。


「ローズは居るか?」

「……今わしの薬を買いに行っておるよ」

「これは、クロード様。お久しぶりでございます」


 どうやらギルドマスターであるクロード様も帰ってきていたようだ。だとしたら話が早いかもしれないな。


「クロード様、実はお話が……」

 オレは早速、ウイスクとの戦争の情報を話すことにした。


*


「……何と、まさかそんなことが」

「これは一大事です。助力をお願いしたく、お願いに上がりました」

「分かった、力を貸そう。ローズにも伝えておく」

「……ありがとうございます」


 クロード様はオレを疑うような事は無かった。信頼されているのはありがたいことだ。

 次に第2位ギルド、念のため第1ギルドにも話をしに行かなければな。


「少し待つが良い。わしが各ギルドマスターに手紙を書こう、わしの頼みなら無下にはされないはずじゃ」

「……感謝します」


 クロード様は少し席を外すと、2つの封筒を持って再び現れた。

 オレはそれを受け取ると頭を下げ、すぐに『ユグドラシル』を飛び出した。


*


「よし、次は第2位ギルドだな」


 オレは大きな建物を見上げる。ここは第2位ギルド、『再誕の炎』のギルドホームだ。

 壁は漆黒に染め上げられ、はっきり言って怪しさ満点だ。まるで黒魔術の研究でもしていそうな屋敷だ。


 どんな雰囲気のギルドか知らないのだが、手紙もあるし早速入るとしよう。

 全力で呼び鈴を鳴らすと、男が現れた。この天才を、あろうことか怪しいものを見るかのような目つきで見る。


「……何者だ」

「ギルド『ミスリルの坩堝(るつぼ)』のフリード・ヴァレリーだ。ギルドマスター、マルジェナ殿に会いたい、紹介状もある」

「……ついて来い」


 警戒されながらも侵入に成功し、部屋まで案内された。

 出された紅茶を遠慮なく飲んでいると、ほどなくして女性が現れた。


「あのじいさんが手紙を寄こすなんて、珍しいわねぇ。何の用かしらぁ?」


 この女性は一度見覚えがある。裁判の時にセシリアの横に座っていた女性、ギルドマスターのマルジェナで間違いないだろう。

 じいさん、というのはクロード様の事か。序列があるとはいえ、なかなか言うな。


 マルジェナはオレの目の前に座ると、どうやら今から手紙に目を通すようだ。


 無言で手紙を見るマルジェナを観察する。歳は恐らく30代、桃色がかった髪を三つ編みにして肩に垂らしている。

 まるでオーラは感じないが、敗北を知らない女だと聞く。相当な魔法使いなのは間違いないだろう。


「……ふぅん、戦争ねぇ。くだらないわぁ」


 やっと口を開いたと思ったら、残念な答えが返ってきた。

 心底興味なさそうに、手紙をたたんで封筒に戻すと、机の上にポイっと投げ捨てた。


「……いいのか? ここまで戦火が及ぶ可能性もあるぞ」

「あらぁ、生意気な口を聞くわねぇ。もしここまで攻めて来たら私が殲滅してあげるわぁ、遠慮なく死んでいらっしゃい」


 実力に自信はあるようだが、協力するつもりは皆無らしい。

 期待はしていなかったものの、ここまでだとは思わなかったな。


 他に用事があるのか、手紙を残して席を立つと、部屋を出て行ってしまった。

 やれやれ、オレも次の場所に向かうか。


*


 オレが最後に来たのは第1ギルドだ。誰もいないという事は無いだろうし、とりあえず呼び鈴を鳴らしてみよう。


 激しく呼び鈴を鳴らすと、面識のない女性が出てきた。

 黒髪をストレートに伸ばした女性で、何故かこぶし大の光る球体が、衛星の様に彼女の周りをぐるぐる回っている。


「誰だお前は?」

「……それはこちらのセリフですが。ここは我々のギルドホームです」

「まあいい、セシリアかシャオフーに会いたい。どっちか居ないか?」


 話しながら手紙を渡す。『ユグドラシル』の紋章が書いてあるので、誰が差出人かはわかるだろう。


「今はセシリア様もシャオフー隊長も不在です。手紙を渡しておきましょう」

「……仕方ないな、出来るだけ早く渡してくれ。一大事なんだ」


 女性は頭を下げると、扉を閉めてしまった。

 第1ギルドも馬鹿じゃないだろうし、差出人を見ればすぐに行動してくれるだろう。


 とりあえず、今すぐにやることはやったな。次はオレたちの準備だ。


*


「酒は何日分用意していくべきか? やはり非常食も必要か? うーん、悩むな」

「フリードさん、何をうんうん唸ってるの?」


 ギルドホームの地下でワインセラーを見ながら悩んでいると、近くで作業をしていたフラウが話しかけてきた。

 まだ戦争のことはエミリアにしか話していない、来週戦争に行くことはまだ知らないだろう。


「いや、ちょっと戦争に行くから酒を持っていこうかと思って」

「ふーん、頑張ってきてね。……って、戦争!?」


 フラウが素っ頓狂な声を上げる。そんなに驚くような事だろうか。


「噂で聞いた、メルギスに行くってやつ?」

「いや、がっつりウイスクと殴り合いになりそうだ。天才の腕の見せ所だな」


 オレの言葉を聞いたフラウは顎に手を当てて、考え込むようなそぶりを見せている。

 フラウは留学生なので、連れていくつもりは無い。だから話さなかったのだが、フラウの気持ちはそうでもない様だ。


「フリードさん、僕も行くよ! こんな時の為にたくさん新兵器を作ったからね!」

「……それは無理だな。遊びじゃないんだ、もし何かあったらお前の姉に顔向けできない」

「遊びじゃないならお酒を悠長に選んでちゃダメでしょ」


 くそ、辛い所を突いてくる。

 まあ、結局いつも通り守ってやればいいという事だな。


「わかった。ただし、オレのいう事をちゃんと聞くように」

「うん、わかった!」


 何故嬉しそうな返事をするのか。……その辺は余り気にせず準備を続けるとするか。


*


 メルギス領内。

 占領されたばかりのそこは荒れ果てており、ウイスクの兵士たちが土埃を上げながらガレキの片付けを行っていた。


 その街の様子を、王宮の高い位置から見下ろす男がいる。


「セルジューク様ーっ!」


 後ろから女の声が響くと、セルジュークと呼ばれた男は無言でゆっくりと振り返った。


「セルジューク様、作業の進捗はまずまずといったところです。このままだと予定通り、明日には片付けも終わるかと」

「そうか、ご苦労だったミスレア」


 ミスレアと呼ばれた女の報告にセルジュークは一言だけ答えると、また街の様子を見る。

 だがミスレアは下がらず、セルジュークの横に並ぶように立ち、同じように街を見下ろした。


「……それで、先ほど聖女様の使者が来ていましたよね。何と仰っていましたか?」

「ハレミア侵攻の命令だ。既に第2部隊から第4部隊までを準備させている。動きを悟られないように、隊長格中心で少数部隊を編成するように命令済みだ」


「なるほど! ハレミアとも言えど、我が国の主力に強襲されればひとたまりもありませんね!」

「上手く行けばな。我々第1部隊は引き続きここに待機する。ハレミアの主力部隊を足止めすることが我々の仕事だ」


「わかりました! 隊長なら返り討ちも出来そうですけどね」

「……」


 ミスレアの言葉にセルジュークは答えず、静かに街を見続けた。

 少し沈黙が流れたが、ミスレアが小さく息を吐くと、再び話を始めた。


「それにしても、聖女様はどうしちゃったんでしょうね? ちょっと前までは、踏み荒らされた花壇を見て涙を流すほどの心優しい女の子だったのに、今は戦争の指示を出すほどになるなんて」

「……」


「私、あの男が怪しいと思ってるんです。胡散臭い吟遊詩人みたいなやつ。きっと世間知らずの聖女様をたぶらかして色々吹き込んでるに違いないです! セルジューク様もそう思いますよね!」

「ミスレア、下らないことを考えるのはよせ。兵士が国に疑念を抱けば刃が鈍る。今は戦争に集中しろ」


「ですけど……。セルジューク様はあいつを信用しているんですか?」

「信用していない。だが、パット……パトリシア様のことは信用している。あの子は聖女として、ウイスクを導く光だ。その導きに、私も従おう」

「……わかりました。私も、もう何も言いません」


 ミスレアは一礼をして、仕事を再開するためにその場を去っていった。

 残されたセルジュークは一瞬太陽を見上げると、再びその視線を眼下に落とした。


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