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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
日頃の感謝の気持ち編
115/198

第114話 輝く星

 成り行きでシャオフーとのダンスバトルをすることになったオレは、始まるまでに腹ごしらえをしていた。


「くっ、貴族の集まりだけあって酒が美味いではないか、実に不愉快だ」

「なんでイラついていますの?」


 オレは白ワインを飲みつつ、軽食を口に運ぶ。

 食べやすさを重視してか、一口大の肉や魚を小さな串で刺したそれは、やや物足りなく感じる。


「ところで、どうやってダンスで勝敗を決めますの?」

「ふっ、オレたちのダンスを見れば他の奴らは涙を流して負けを認めるだろう」

「……そうだと良いですけれど」


 心配してもしょうがない、オレを見習って堂々と構えておけばいい。

 ルイーズは余り軽食には手を付けず、あたりを眺めている。だが、しばらくして口を開いた。


「……フリード様、少し離れますわね」

「どうした? 何か見つけたか?」

「いえ、何でもありませんわ」


 急にどうしたのだろうか、少しそわそわしているようにも感じる。

 履きなれない高いヒールを履いているのだ、付き添ってあげた方がいいだろう。


「会場は広い、離れ離れになったら大変だしオレもついて行こう」

「それには及びませんわ」

「そう言うな、遠慮するような仲でもないだろう?」


「ですから、構わないで良いですわ。だって、お花摘みに」

「何だって? よく聞こえないぞ、もう少しはっきり……」

「お・ト・イ・レですわ!」

「……行ってらっしゃい」


 ルイーズは顔を真っ赤にして耳元で目的を口にすると、ドレスの裾を掴み、やや早歩きで立ち去っていった。


 まったく、何故女の子というのはトイレぐらいで恥ずかしがるのだろうか、人に見せるわけでもあるまいし。

 男なんてむしろ見せたいと思っている奴の方が多いのにな。オレは違うが。


「あの……」

「ん? どうした、マドモアゼル?」


 ワインをがぶ飲みしながら待っていると、お嬢さんから声をかけられる。知らない顔だが、どこかの貴族だろうか。


「もしよろしければ、私と踊っていただけませんか?」

「……悪い、連れが居るんだ」


 オレが謝ると、彼女も頭をペコリとさげて去っていった。もうすぐダンスが始まるのであろう、あちこちで声掛けが始まっている。

 やはり貴族は面子も大事なのであろう、パートナーがいないというのは情けないからな。


 オレはそれからも何回か声をかけられた。1人で堂々と立っているとやはり目立つようだ。

 それにしても、うちのお嬢様は遅いな。もうダンスの時間になってしまうぞ。


 やはり、探しに行くしかないか。


*


「……! ルイーズ、大丈夫か!?」

「あっ、フリード様……!」


 トイレ周辺をうろうろしていると小さな人だかりを見つけ、そこを覗くとルイーズがうずくまっていた。

 近くに寄り様子をよく見る。どうやら足を押さえているようだ。


「少し足を捻ってしまって……」

「肩を貸そう」

「痛……!」


 通路の真ん中だった為体を動かそうとしたが、結構な痛みのようだ。仕方ないので、両手で抱えて端の方へ持っていく。


「ちょ、フリード様!」

「よっと。お嬢様にはお嬢様抱っこが似合うな」


 とりあえず端っこに避難し、『錬金術』で椅子を生み出してやる。足を見ると、真っ赤にはれ上がっていた。


「慣れないヒールが仇となってしまったな。足は折れてなさそうだが」

「……折角ダンスの練習をしましたのに」

「定期的にやっているならそんなに悔しがる必要はない」


 ここまで来たがしょうがない。体の方が大事だからな。

 だが、ルイーズは顔を俯かせると、嗚咽する声が漏れ始めた。涙が頬を伝い落ちる。


「うっ……く……!」

「おいおい、泣くことは無いだろう」

「だって、だって……!」


 胸ポケットからハンカチを取り出し、涙を拭きとる。

 自分の情けなさの為か、ダンスができなかったことが悔しいのか……。プライドの高いルイーズは自分が許せなかったようだ。


 オレは無言で泣き止むのを待っていると、会場の中心がざわつき始めた。どうやらダンスが始まるようだ。


「フリード様。私にかまわず、あちらに向かってくださいませ。パートナーを探さないと間に合いませんわ」

「馬鹿を言うな、オレのパートナーはお前だけだ」


 ルイーズが顔をごしごしと拭き、オレに声をかける。だがオレは怪我人を放っておくほど冷たい人間ではない。


「でも、勝負に負けてしまいますわ……!」

「さあ、お前を置いてダンスをしに行くのと、怪我人に付き添うのはどっちが大事だろうな?」


 会場はすっかり騒がしくなってきた、ダンスが始まったようだ。


「外に出ようか、ここは少々気が散る」

「あっ、ちょ、ちょっと!」


 ルイーズを抱き上げると、会場を後にすることにした。幸い貴族たちはダンスに夢中で、入り口は割と空いていた。

 数人の好奇の目に晒されながらも、外に出ていく。もうすっかり日が落ち暗くなっていた。


「もう夏が近づいているとはいえ、夜風は涼しくて気持ちいいな」


 オレが話しかけるが、ルイーズは無言でオレの胸に顔を埋めている。


「まったく、いつまで泣いているつもりだ?」

「なっ! もう泣いてなどいませんわ!」


「そうか。……ルイーズ、ダンスの代わりに別の思い出をくれてやろう」

「え? きゃあああぁぁ!?」


 オレは足に鉄のスプリングを生み出すと、それを操り自分の体をルイーズごと空中へ弾き飛ばす。

 体から鎖を生み出すと、ある大きな建物に巻き付けそこに体を引き寄せる。王都の中心でも割と高い建物のてっぺんにたどり着いた。


「ちょっと、こっちは怪我人ですのよ!」

「はっはっは、少しは元気が出たみたいだな」


「もうっ、泣いてた自分がばかばかしくなりますわ。……ところでここは何の建物ですの?」

「ここは王都の時計塔だ。いつもお昼を告げる鐘が街中に響いているだろう? それはこの建物の中から聞こえているんだ」


 この時計塔はかなりの高さの建物だ、街中に音を響かせるためだろう。

 ルイーズは落ちないようにオレの体をぎゅっと握りつつ下を見まわす。上流地区は街灯が整備されているので、眼下に明かりの海が広がる。


「……素敵な景色ですわね」

「ああ、この景色は選ばれしものにしか味わえない。ダンスがなんだ、あんな低い所で輝いても何の価値もないさ」


 オレはさっきまで居たホールを指差す。たくさんの貴族が集まり他の建物に比べても強く光っているが、ここから見ればちっぽけな光の1つに過ぎない。


「光を放つならせめて星ぐらいは高みを目指さないとな」

「……そうですわね」


 空を見上げると、今日は雲一つなく多くの星が輝いているのがしっかり見える。


「あの、他より強く光っている星がまるでフリード様みたいですわ」

「おいおい、オレを見くびるな。例えるならオレは太陽だ」

「……ふふっ、傲慢ですわね」


 しばらく頭上の光の海と、地面の光の海を交互に楽しむ。ルイーズも機嫌を直したようだな。


「……そろそろ降りようか。腹も減ったしどこかで食べて帰ろう」

「もう、ムードが台無しですわ。あんなにワインを飲んでましたのに」


「お酒は別腹だからな。ところで帰りは抱っこコースとおんぶコースが選べるが、どうする?」

「何ですの、それ」


 ルイーズは呆れながらも、オレの背中に飛びついてきた。おんぶコースをお望みらしい。


「よし、しっかり捕まっておけよ」


 オレは高い時計塔の屋根を蹴り、光の海へ飛び込んでいった。

 落下時の風に紛れて、お嬢様の嬉しそうな声が聞こえた気がした。


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