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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
日頃の感謝の気持ち編
112/198

第111話 反面教師

 その珍客が現れたのは、突然の事であった。


「ん? 客か……?」

「お兄様、私が出ますね!」


 朝食を済ませ、コーヒーを啜っていると、玄関から呼び鈴の音が響いた。

 今日は学園が休みの為、家にいたステラが応対の為に玄関へパタパタと駆けていく。


 しばらくすると、客を連れて戻ってきた。


「お兄様、先生が来ました!」

「フリード君、久しぶりね〜」

「……お久しぶりです、ミキノ先生」


 これはまた面倒な客が来たものだ。

 この女は学園に努める講師の1人、ミキノ(38)だ。担当は、恋愛学。


 天才であるオレは当然この女の講義もしっかり受けていたが、正直碌な学問ではないと思っている。

 女には優しくしろだの、謝るときは甘いものを持って行けだの、まあ参考にしている部分は一応あるが。


「今日来たのは、ちょっと今金欠で〜」


 でた。この女が面倒なのは、授業内容が時間の無駄なことではない。この性格だ。

 こいつは一言で言うと淫乱、もう一言付け加えると人間の屑だ。


 恋愛学の実践と称して、男をとっかえひっかえしている。それだけでもお近づきになりたくないが、金遣いも荒いので在学中に金をせびられたことがある。こんな奴を教師にしておくな。


「それで、お金の相談がしたいなって」

「……相談料は20万ベルからとなっております」

「ちょっと、なんでお金の相談で相談料を取るのよ!」


 面倒くさいのでとっととお帰り願おう。この女は百害あって一利なし、悪霊退散、エンガチョだ。


「そんな邪険にしなくてもいいじゃない、ちょっとお金をくれるだけでいいのよ」

「くれるって何だ、返す気が無くてもせめて借りると言え。さあ、とっとと帰ってください」

「もう、仕方ないわね。タダでとは言わないわ、代わりに先生が恋愛学の特別授業をしてあ・げ・る」


 ……何故金もとられて時間も奪われなければならないのか。

 どうやってこの悪霊を追い払おうか悩んでいると、エミリアが加勢しに来てくれた。


「先生、うちもあまりお金がありませんので、お金の相談は乗れないかと思います」

「あら? あなた、確か元生徒の……」

「……エミリアです」


 エミリアも学園に通っていたのだが、この悪霊は男の顔しか覚える気が無いらしい。


「わざわざ同級生をメイドにするなんて、やるわね! ひゅうひゅう!」

 ……うざいな。


「でも、だったら尚更私の特別授業を聞くべきよ! いい、女ってのは恐ろしいのよ、この真面目そうな子も裏では貴方の悪口を言っているに違いないわ!」

「なっ、何だとっ!?」

「いやいやいや、騙されないでください! そんなの言ったことありませんから!」


 エミリアは否定するが、果たしてどうだろうか。悪口はともかく、いつも迷惑をかけてしまっているのは間違いない。

 心の中では『いつも好き勝手行動しやがって!』と思ってる可能性はある。実際定期的にお説教されているしな。


「先生、お兄様を困らせないでください!」

「あら、ステラ。別に困らせているつもりはないわ、私は自分の恋愛学に基づいて答えを出しているだけ」


 流石に今の在学生は覚えているようだな。ステラも健気にオレに助け舟を出そうとしてくれている。


「……そんなこと言って、あなたもお兄さんに不満があるんでしょ? わかってるわよ」

「なっ、何だとっ!?」

「そ、そんなことありません!」

「本当かしら? なんたって家族だもの、身近な存在なら不満だって0じゃないはずよ」


 確かに否定はできない。ステラには時々厳しいことも言ってきた。

 まだ子供で反抗期もあるはずだが、そんなそぶりは今のところ見せていない。心の内に貯めこむタイプの可能性もある。


「ふふ、緊張してるわね。私の『心の音色(ハイパーテンション)』であなたの動悸が激しくなっているのが分かるわ」

「……人の心音を聞くな」

「分かったでしょ、あなたには私の講義が必要よ! でも大丈夫、私が解決策を教えてあげる。授業料は20万ベルでいいわ!」


 くそ、やはりこの悪霊を払うには金を払うしかないな。決して講義が聞きたいわけでは無い、決して。


「御主人様、こんな人にお金を払う必要ありません!」

「……いや、必要経費として諦めよう。こいつを追い払うにはそれが最短だ」


 小声でエミリアと相談する。とにかく、この女の話を聞いてとっとと帰ってもらうとしよう。


*


「じゃあ、講義を始めるわね」

「……よろしく頼む」


 机の上に置かれた20万をさっと懐に隠し、話を始めた。

 エミリアたちは部屋を出ている。『話を聞きたければ1人20万よ!』……という事らしい。


「いいかしら、女の子はわがままなのよ、ハーレムを作って喜んでいる場合じゃないわ!」

「ハーレムを作っているつもりは無いが」


「いいから黙って聞く! あなたどうせ、ちょっと怒らせても後で謝れば良いっしょ! ……とか思ってるんでしょ」

「ぐっ……、否定できんな」


 男遊びが激しいだけあって、それなりに思うところをついてくる。経験が物を言うという事だな。


「安心なさい、私がどんな女の子にも通用するテクニックを教えてあげるわ」

「へえ、どんな方法だ」


「ふふ、がっつくわね。いい? どんな女の子も、耳元で愛を囁かれたら心が動くわ」

「むう、結構気恥ずかしいな」


「それに、シチェーションも大事。安心して、絶対に通用する私のマル秘技を教えてあげるわ。その名も『壁どんどこ』!」

「壁どんどこ?」


 なんだか怪しげな技だが、一体どんな技だろうか。


「これは私が累計450人の男と付き合って、胸キュンだと思ったことを集めて編み出した技よ。まずは見せてあげるわね」

 さらりとクソビッチな事実が判明したが、それは一旦忘却し、ミキノの指示に従って2人で壁際に寄る。


「まずはこうやって女の子を壁に追い詰める! 腕を壁に当てて逃がさないようにするのがコツね」

「はあ……」

 仕方なく指示通りに、手を壁に当てて追い詰める。ミキノ(38)の顔はもう目と鼻の前だ。


「上出来よ。ここからが本番、壁に当てた手でリズムを刻みなさい。壁を使ってどんどことね!」

「はあ……」

 壁に寄りかかっている格好なので結構面倒だが、ダンダンと壁を叩く。


「よし、ここからが勝負よ! そのリズムに合わせて、耳元で愛の歌を歌いなさい!」

「……それは恥ずかしすぎるだろう」


「はっ、情けないわね! 女の子の為に恥をかけない様では大成しないわ! ……でも練習だしまあいいわ。代わりに私の唇を奪いなさい」

「……死にたいのか」

 真面目に聞いて損した。これ以上は心に傷を負うだけだ、壁を離れ再び着席する。


「ちっ、教え子の味を知っておこうと思ったのに」

 ……気色悪。


「いや、まあ、20万ベル分の授業は受けさせてもらった。本当にありがとう、とっとと帰れ」

「あら、そう? じゃあ、今日はこのへんで帰るわ。またよろしくね」


 オレが丁重に帰宅を促すと、貰うものは貰ったといった感じでさっと帰ってしまった。

 ……やれやれだ。


*


「御主人様、あの方はもう帰りましたか?」

「ああ、あとで玄関に清めの塩を撒くとしよう」

「……今は岩塩しかないですが」


 嵐が去って行ったあと、エミリアが様子を見に来た。席を立ち、疲れたので体を伸ばす。


「御主人様、結局どんな話をしたんですか?」

 テーブルをアルコールで拭きながらエミリアが訪ねてくる。さっきの内容を伝える価値があるのか、非常に悩むところだ。


「……そのうち実践してやろう」

「? ……そうですか」

 オレのあまり言いたくない雰囲気を感じ取ったのか、深くは聞いてこなかった。


「今日ほどエミリアたちに感謝したことは無いな。うちにあんな奴が居なくて良かった」

「それは、御主人様が優しいからですよ! ギルドの雰囲気は上に立つ人で決まるのですから!」

「そうか?」

「そうです!」


 まあ、敏腕メイドが言うならそうなのだろう。

 オレは気を取り直し、岩塩を削ることにした。


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