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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
日頃の感謝の気持ち編
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第110話 優しさのおすそ分け

「くっくっく、こんな立派な鮭を持って帰ればロゼリカも大喜びだな……!」


 オレは王都行きの馬車に揺られながら、今夜の食事に思いを馳せていた。

 脇には、カチンコチンに凍り付いた鮭が置いてある。


 昨夜、魚泥棒を退治したことで養殖業のおっさんはとても喜び、お礼に立派な鮭をタダでもらうことができた。

 しかも氷魔法の使い手も紹介して貰ったので、そこで冷凍保存までしてもらっている。


 この鮭があれば、ロゼリカも大興奮だろう。オレだって既に興奮が止まらない。


「……帰りに浮いた金で酒も買っておくか」


 今夜の計画を立てつつ、馬車の行き先を見つめる。

 馬車の進行方向に、王都の姿が見え始めていた。


*


「御主人様、どこに行ってたんですか! 昨日帰ってこなかったので心配してたんですよ!」

「……子供じゃないんだから1日ぐらいでお説教は勘弁だ。それよりもこれを見ろ、今夜はこいつを食うぞ!」


 ホームに帰りつくと、またもやメイドに怒られてしまった。小言を程よく無視しつつ背負っていた鮭を渡す。

 まだ凍り付いたままで鮮度抜群だ。


「何ですか、これ?」

「晩飯だ。今夜はパーティーだな」

「……もう、いっつも食べることばかりなんですから」


 メイドの背中を押して玄関からホームの中へ入っていく。

 時間はまだお昼過ぎだ。昼食抜きの悲しみも、もはや夕食の喜びへの布石でしかない。


「うわ、何そのでっかい魚!?」

「おお、ロゼリカ。この前魚が好きって言ってたよな。お前の為に手に入れてきたぞ」

「私の為に……?」


 ロゼリカはオレの顔と魚を交互に見ている。嬉し過ぎて声も出ないと言った感じだな。


「その、あ、ありがとう……」

 か細い声でお礼の言葉を言うロゼリカの頭にポンと手を置く。


「エミリア、食事の準備を頼む。オレは疲れたからちょっと寝る」

「わかりました、腕に寄りをかけますね!」


 エミリアもロゼリカの為ならと意気込んでいる様子だ。オレは宣言通り、部屋に戻って昼寝をすることにした。


*


「わっ、今日の晩御飯、なんか豪華です!」


 夕食の時間になり、他の者もテーブルに集まり始めた。普段より豪華な食事にステラが目を輝かせている。


「最近みんな頑張ってるからな。今日は御褒美という事だ」

「まだまだたくさんありますけど、出来立てのうちに食べ始めちゃってください!」


 エミリア1人で食事の準備をしているため、追いついていない様だ。オレは配膳を手伝いつつ、ステラたちを座らせて食事するように促す。


「美味しいです!」

「本当、美味しいですわ……!」


 今日もエミリアの食事は最高のようだ。皆の笑顔が見れて良かった良かった。

 料理も出尽くしたし、オレも食べ始めるとしよう。


*


「うーん、鮭の皮に米のお酒は最高だな」


 オレは食後もテーブルに座ったままで、しっかり焼いた鮭をつまみにお酒をちびちびと飲んでいた。

 昨夜は酒を飲めなかったので、その分の元を取らないとな。


「ねえ、フリード」

「む? どうした、ロゼリカ」


「今日の夕食、美味しかった。ありがとう」

「ふっ、お礼ならエミリアに言うと良い。美味いのは敏腕メイドのおかげだからな」


 まったく可愛らしいことだ。夕食に好きなものが出たぐらいで感激するなんてな。

 まあ、そんなに喜んでもらえるならわざわざ取りに行った甲斐があるものだな。


「ところで、鮭はもう残ってないの?」

「なんだ、まだ食べたりないのか? 鮭の皮食うか?」


 子供は食べ盛りだからな、食べれるときに食べさせてあげよう。

 皮の入った皿を見せるが、首を横に振られてしまった。ショックを隠し切れない。


「そうじゃなくて、その、美味しかったから友達にも食べさせてあげたいなーって」

「友達?」


 友達なんていたのか? と失礼なことを言いそうになってしまったが、そういえばいたな。

 見た目で虐められていた子をたまたま助けたことがあったな。なんか変な同盟も組んでいた気がするが……。


「良いじゃないですか! まだ3分の1ぐらいは残っていますから、明日のお昼に何か料理を作ってあげますよ」

「本当、エミリアさん!?」


 キッチンで洗い物をしていたエミリアが、エプロンで手を拭きながら現れた。

 料理担当が乗り気なら異論はないな。もとよりロゼリカの為のプレゼントなのだからな。


 ロゼリカは嬉しそうに礼を言うと、自分の部屋に戻っていった。オレも酒を飲み干し、部屋に戻ることにする。


*


 翌朝、オレは地下にあるフラウの工房に来ていた。


「フラウよ、例の物はできたか?」

「あっ、フリードさんおはよう! ほら、完成してるよ!」


フラウは金属製の箱を指差す。この箱は燻製器で、前面は扉の様に開き、中は金網が棚の様になっている。


「流石だな、完璧じゃないか」

「まあ、フリードさんに作ってもらった鉄板を折り曲げただけだけどね」


 これを使えばスモークサーモンが作れるな。ロゼリカの友達の分を抜いても少し余ったので、長期保存して酒のつまみとして残しておくことにしよう。


 早速下の段に木片を入れ、網の上には切り身を置く。フラウに火をつけてもらいフリードクッキング開始だ。

 煙が逃げるように、地下室の排気口の傍で火の様子を見る。


「フリード、フラウさん、おはよう!」

「おはよう、ロゼリカちゃん」


 しばらくボーっとしていたら、ロゼリカが地下室にやってきた。両手にはバッグを持っている。


「おお、ロゼリカ。エミリアに食事を作ってもらったか?」

「うん。ほら、サンドイッチを作ってもらったんだ!」


 手に持っていたバッグをオレに見せつける。どうやら結構な量を作ってもらったようだ。

 恐らく今すぐに友達のとこに行くので、オレに連絡に来たわけだな。報告・連絡・相談は大事だからな。


「じゃあ行ってくる!」

「気をつけてな」

 ロゼリカはすぐに階段を上っていった。


「よし、フラウ。オレも出かけてくるから火の番を頼む」

「え? ちょ、ちょっと!」


 友達とうまくやれているか、ちょっと気になるな。オレも後をつけてみることにした。


 バレないように程よい距離感で、ロゼリカを追う。どうやら下流地区に向かうようだ。

 てっきり公園辺りで会うのかと思っていたが、建物の前で止まると、そのまま中に入っていった。


 もう家に上がり込む仲という事か? 嬉しいことだ。

 少し悩んだが、こっそりオレも侵入することにした。一目見るだけならセーフだろ、多分。


「……? ここは普通の家じゃないな。公民館か?」


 中はオレの想像と違い、人の住む生活感は無く、公共施設のような雰囲気であった。

 ロゼリカを見失ってしまったので、廊下をゆっくり歩き姿を探す。


 しばらく歩いていると、ある部屋の中からロゼリカの声が聞こえてきた。扉を少しだけ開けて中を伺う。


「はーっはっは! お前たち、よくぞ我が元へ集まった!」

「うおおおぉぉ!」


 部屋の中はたくさん子供が集まっており、ロゼリカが壇上でその子たちに向かって声を張り上げている。


「これを見よ! これは我に捧げられし供物、新鮮な悪魔の魚のサンドイッチだ! 平等に分けて貪り尽くすが良い!」

「魔王様、魔王様、魔王様!」


 ……何だこれは。洗脳でもしているのか。


 ロゼリカはサンドイッチの包みを開くと、そこに子供たちが群がり手を伸ばす。

 子供たちはよく見ると、皆頭に角が生えている。なんてことだ、『ツノツノ同盟』、ここまで勢力を伸ばしていたなんて。


「魔王様、ありがとうございます!」

「美味しいです、魔王様!」

「はっはっは、しっかり食べてこれからも頑張るのだ!」


 しばらく食事を眺めていたが、やがて食べ終わり口々にお礼を言いながら子供たちが帰っていく。

 後にはロゼリカと、以前助けた羊っぽい女の子だけが残った。


「美味しかったよ、ありがとうロゼリカちゃん」

「うん、喜んでもらえてよかった。でも、これは他のみんなから貰ったものを分けただけだから……」


「優しいね、ロゼリカちゃんのギルドメンバーは」

「うん。親のいない私にとても優しくしてくれるんだ。私もいつか、親のいないあの子たちを自分の力で助けてあげたいな」


「それじゃあこれからも頑張らなくっちゃね、魔王様!」

「ちょ、ちょっと! 魔王の振りは皆を勇気付けるためだけで、別に気に入ってるわけじゃ……!」


 聞き耳を立てているが、どうやら犯罪ではないようで安心だ。もし子供たちを操って怪しげな儀式をしているわけでは無かったようだ。

 ……ロゼリカは日々成長している。うちの妹も甘えてばかりいないで頑張ってほしいものだな。


 オレはバレる前に退散することにした。


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