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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
日頃の感謝の気持ち編
109/198

第108話 プレゼント探し

 オレは王都の近くにある寂れた鉱山に来ていた。

 昔はいろいろな資源、特に宝石が取れていた場所らしい。今はもう廃鉱になっているが、昔の坑道は残っている。


 なぜここに来たかというと、フラウの誕生日プレゼントを手に入れるためだ。

 ドワーフの血を引く少女なので、何か加工できる材料を渡せば喜ぶと考えたが、『錬金術』で生み出せるものをプレゼントとして渡すのはどこか味気ない。

 そこで、宝石を手に入れられないかとここに来てみたわけだ。


「若いの、お前も仕事か?」

「ああ、欲しいものがあるからな」

「何だ、金が目的かぁ? そんなことで命を懸けるなんてやめときな!」


 坑道の入り口を眺めていると、知らないおっさんが話しかけてきた。

 このおっさんはボケてオレに話しかけてきたわけでは無く、恐らくオレと同じ依頼を受けているのだろう。

 依頼とは、坑道に住み着いた魔獣退治だ。魔獣を追い払って余った宝石を探す。それがオレのミッションという訳だな。


「まあ安心しな、若いの。魔獣は根こそぎ退治してやるぜ、一頭当たり500ベルの報酬、全てオレ達が頂く!」

「ああ、頑張れ」


 おっさんはどうやらギルドメンバー数人で依頼を受けたようだ。4人ぐらいのパーティーで坑道の中へ入っていった。


 ……あまり時間もないし、オレも入るとするか。


*


「……即落ちしてんじゃねーか」

 中に入って3分ほど歩いた地点、おっさんのパーティーは全滅していた。気絶しているだけで命に別条がないのは幸いか。

 通路の真ん中だと邪魔なので、仕方なく入り口まで引きずってやることにした。何かに殴られたような傷跡があるが、こんなありきたりな傷じゃ何の情報も得られない。


 持ってきていた松明の光を頼りにずんずんと中に入っていく。

 ……そういえばこうやって単独行動するのも久しぶりな気がするな。寂しいわけでは無いが、やはり賑やかな方が心が安らぐ。

 仲間の大切さを再認識しながら歩いていると突然何かの音が聞こえた。


「うおっ! ……蝙蝠か」


 音の正体は蝙蝠であった。松明をやや上に掲げると、天井には何体もぶら下がっており、わずかな光を反射して目を怪しく際立たせている。

 大した脅威ではないが、変な病気とか持ってなければいいが。


 こんなところで足止めを食らっている場合ではない。天井にも気を付けながら、少し足を早める。

 侵入者に気付いた蝙蝠が時折羽ばたきをはじめ、頭をかすめるように飛んでいく。

 聞くところによると蝙蝠は超音波で障害物を感知できるらしい。ぶつかる心配はないが、顔に近づかれると非情に鬱陶しいな。


「……痛った!」


 ぶつからないと噂の蝙蝠が頭にぶつかってきた。片手ほどの大きさのくせに、まるで石で殴られたかのような衝撃が頭を揺らす。


「くそ、血が出てきたな」


 ぶつかった部分をさするとぬめりを感じ、松明でよく確認すると赤い液体がついている。

 ……いや、これはおかしい。噛まれたならともかく衝撃で血が出るか?


「……ガーゴイルか!」


 こいつらはただの蝙蝠ではなく、『石の肌』をもつ蝙蝠型の魔獣、ガーゴイルだ。

 最近久しく魔獣とかかわりがなかったので気付くのが遅れてしまった。


 直撃を受けない様に鉄の鎧を生み出し、装着状態で進んでいく。たまに鎧にガーゴイルがぶつかるとガンガンとまさしく石つぶてのような音をたてている。


 別にオレは魔獣に用事は無いのだが、こんな状態じゃ宝石を探すのに集中できないな。

 一度追い払うことにしよう。


「喰らえ、錬金術奥義・針鼠!」

 誰も周囲に居ないのをいいことに技名を叫んでみる。なかなか恥ずかしいので、今後はやめとこう。

 この技は体中から全周囲に針を生み出す攻防一体の技だ。体のどこからでも鉄を生み出せることを利用した合理的必殺技と言える。


 生み出した針は岩のような固い皮膚を持つガーゴイルを力づくで突き通す。所詮は岩のまがい物、鉄の敵では無かったな。


「……しまった、服が穴だらけだ」


 オレとしたことが失敗してしまったようだ。上半身から針を生み出しまくったせいで、服が穴ぼこになってしまっている。

 針を生み出したのが上半身だけでよかった。もし下半身からも生み出していたら、錬金術奥義・金の玉どころではない、"本物"が顔を出すところであった。


「うわっ、まだ生き残りがいたか!」


 服を見てショックを受けているところに、またガーゴイルが顔をかすめてきた。

 どうやら針鼠は隙間が多いので一網打尽とはいかなかったようだ。ならばもう一つの新技を試すとしよう。


 オレはアルミニウムを生み出すと、それを極限まで細かくする。砂よりも細かい、まるで小麦粉のようになったそれを洞窟の奥にばらまく。

 空気より重いそれが霧のように充満したことを確認すると、松明を投げ込んだ。


「……うおおおっ!?」


 アルミ粉が大爆発を起こし、視界がオレンジ色に染まる。

 自分の身を守るために咄嗟に周囲に鉄の壁を作り出すが、それごと洞窟の入り口に吹き飛ばされるかと思った。

 これぞ錬金術奥義・粉塵爆発。あまり使わないようにしよう。


「ごほっ、ごほっ。……大惨事だな」


 洞窟内で起きた衝撃はガーゴイルを爆殺してしまっていた。死骸がゴロゴロと転がっている。

 何という残酷さ。心の中で鎮魂歌を歌い、先に進んでいく。


「よし、時間もないしこの辺を探すとするか」


 大分奥まで侵入したところで、つるはしを生み出し壁を叩き始める。爆発のお蔭か岩肌の剥がれている部分もあるため、掘り忘れた宝石が眠っているかもしれない。

 一心不乱につるはしを叩きつけ続ける。


*


「フラウさん、誕生日おめでとうございます!」

「おめでとう!」

「えっ、嘘っ!? 皆、準備してくれてたの!?」


 ギルドホームで始まったフラウのサプライズ誕生パーティー。いつもの食事場所に入ったフラウを、巨大なケーキとメンバーの祝いの言葉が迎えてくれた。


「シビル様から誕生日を聞いて、こっそり準備していたんです! プレゼントも届いていますよ!」

「わあっ……! ありがとう、僕、本当に嬉しいよ!」


 エミリアがプレゼントの包みを渡す。姉からのプレゼントは無事に間に合ったようだ。


「食事の準備もできてますし、早速始めましょうか! ケーキを切り分けますね!」

「うん、ありがとう! ……ところで、フリードさんは?」


「えっ! えーっと、サプライズの準備中です」

「そっか。じゃあ、楽しみにしておくね!」

 フラウの疑問に、エミリアが冷や汗を隠しながら答える。


(もう、御主人様どこに行ったんですか! 夕食には帰ってくるって言ったのに!)

 エミリアは朝のことを思い出していた。プレゼントを取ってくるという言葉を残して、それから姿を見せていない。

 仕方なくパーティーを始めてしまったが、もしかして何かあったのか……。心配する気持ちが大きくなってしまっていた。


 そわそわしていると、突如入り口が大きく開け放たれた。

 そこにはボロボロの姿でフリードが立っていた。額から血を流し、服は穴だらけだ。


「ご、御主人様、どうしたんですかその姿!」

「ふっ、間に合ったようだな」


 別にまったく間に合っていなかったが平然とした態度で部屋へと入っていく。仲間の注目を集めているがお構いなしにフラウの前に立つと、小脇に抱えていた半透明の塊を机に置いた。


「フリードさん……?」

「フラウ、誕生日おめでとう。これはアメジストの原石だ、お前の為に取ってきた」


「僕の為? ……フリードさん、この為にそんなボロボロに?」

「別に大したことは無い、実質ノーダメージだ」

「ありがとう、嬉しい、嬉しいけど……」

 フラウはフリードの姿が心配で、あまり喜べないでいた。フラウに変わってエミリアがフリードに詰め寄る。


「御主人様、何ですかその恰好は! 楽しい席なのにそんな凄惨な姿じゃ喜ぼうにも喜べませんよ!」

「む? ……そうか、悪い」


 フリードもやっと自分の姿に気付いたようだ。バツが悪そうな表情をして服を着替えるために自室へ向かおうとする。

 だが、フラウが後ろから抱き着き、フリードの動きを妨げた。


「おい、フラウ?」

「ありがとう、僕、本当に嬉しいんだ。だけど、フリードさんが元気で側にいてくれた方がもっと嬉しいなって」

「ふっ、オレはいつも元気だ。……服を着替えてくる、乳首チラ見せじゃダサいからな」

「……ぷっ。あはは、もう、何それ!?」

 フラウが笑いながら手を離すと、フリードは自室へ戻っていった。


「よし、御主人様も帰ってきたし、仕切り直しましょう! 折角の誕生日ですからね!」

「うん!」

 一瞬の困惑があったものの、フラウの誕生日は異国にて盛大に祝われたのだった。


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