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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
美食の国ビストリア編
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第106話 お片付け

 オレは火傷してしまった腕を、これでもかとメイドに舐められていた。


「お兄様……」

「ステラ、見てはいけませんわ」

 ルイーズはまるでオレたちを見てはいけないものかの様な態度を取り、ステラの両目を塞いでいる。


 ……まったく、これはいつもいつも怪我をするオレへの戒めなのだろうか。


 羞恥心に耐えながら、王子たちの様子を目だけで伺う。

 どうやらまだ国王と言い争いをしているようだ。戦いは終わったというのに飽きないものだ。


「フリード様、お怪我は大丈夫ですか?」

「カテリーナか。傷を治してくれるメイドがいるから問題ない」

 メイドにぺろぺろ舐められながらという舐めた態度で問いかけに答える。体を動かそうとすると怒られてしまうので仕方がない。


「それで、ロドリゴは?」

「地下に送りました。我が国には魔法を防ぐミスリル製の牢獄がありますから」

「そうか。ならそろそろ部外者は帰るとしよう。親子喧嘩中のようだからな」


 オレは傷の治療の終わった腕を振る。流石はエミリアの魔法、今回もしっかり元通りになった。

 腕が千切れでもしない限り、何も影響はないな。


「それでは、宿はこちらが手配しましょう。せめてものお礼です」

「お偉いさんをボコってお礼をされるわけにはいかない。適当に宿むぐっ!?」

「あ、ありがとうございます、カテリーナ様! お言葉に甘えさせていただきます!」


 オレは会話途中の口を封印され、エミリアの独断で寝る場所を借りることになった。

 道案内をしながら城内を先行して歩いていくカテリーナの後をついて行く。


「……エミリア、どういうことだ」

「だって、もうほとんど手持ちがありませんよ! 素直に好意を受けましょう!」

 仕方ないな、今更やっぱり辞めとくと言う訳にもいかないし、黙ってついて行くことにしよう。


 カテリーナは、客人用と思われる広い個室に連れて行ってくれた。

 なかなかの広さと豪華さで、ホテルの一等室と変わらないレベルだ。


「御主人様、きれいな部屋ですね」

「ああ、そうだな。……今日は疲れた、オレは寝させて貰う」

「なっ!? 御主人様、夕食を摂らないんですか……!」

「……オレのことを食べることしか考えていない人間だと思ってないか?」

 大食いキャラ扱いは心外だ。オレの魔法は結構体力を消耗するのだからな。


「違いますの?」

「こう見えて他のことも考えている。じゃあ、お休み」

 オレは皺一つないシーツの上に飛び込むと、すぐに眠りにつく。


*


 翌朝。オレたちは戦闘でボロボロになった謁見の間の修復をしていた。

 不本意ながら自らの戦闘で破壊してしまったので、最低限自分がやれることをする。


「よし、シャンデリアの修復完了だ。金めっきも完璧だ」

「フリードさん、流石!」

 オレの魔法を見ていた護衛兵に、完成したシャンデリアを受け渡す。取り付けを任せている間に、今度は破壊された床と壁を元通りにしてやるとしよう。


「どんな風に直しますの?」

「とりあえず鉄で埋めて、表面だけ大理石にしてもらおう。石と鉄の組み合わせは強靭だからな」

 オレはそう言うと、鉄のレンガをドサドサと生み出す。これで大体埋めて、隙間に鉄を流し込めば修理完了だ。


「……! お兄様、軽いです!」

「本当だ、何で?」

 さっきからオレの周りで修復を手伝っていたステラとロゼリカが、レンガを持とうとして驚きの声を上げる。


「これは中身が詰まってないからな」

「中身がスカスカだと弱いんじゃないの?」

「ふっ、ただのスカスカじゃないからな」

 レンガを一つ持ち上げると、錬金術を使って真っ二つに割り、断面を見せつける。


「わっ! 六角形がいっぱいです!」

「ただ単に隙間を開けるだけじゃなく、多角形の穴をきれいに並べると軽さと強靭さを両立できる。こういう構造を蜂の巣になぞらえて……」

「ハニカム構造、ですか。博識ですね、フリード様」

 オレがどや顔で解説しようとしていたところで、一足先に回答をされてしまった。声の主を振り返ると、生産ギルドの長、カテリーナが立っている。


「流石は蜂博士、ご存じだったか」

「蜂博士ではないですが……。それより、手伝っていただいてありがとうございます、客人にそんなことまでしていただくなんて」

「一宿一飯の恩義があるからな、当然だ」

 オレは簡単に答え、作業を再開する。周りの人も精力的に手伝っているので、そろそろ片が付きそうだ。


「へえ、お前の魔法は便利だな。やっぱり食だけじゃなく、そういう魔法使いも必要だぜ」

 今度は王子が謁見の間に現れた。オレの仕事ぶりを見て感心している。


「王子、あとで会いに行こうと思っていたところだ。親子喧嘩の決着はついたのか?」

「いや、やっぱり食中心主義は崩せないってよ。だけど代わりに1つ、ギルド運営を任せて貰えることになったぜ!」

 どうやらチャンスを貰うことはできたようだ。幸か不幸か、昨日の戦闘が国王の心境を変えたのかもしれないな。


「へえ、良かったじゃないか」

「ああ、この国でろくに魔法で活躍できなかった奴を集めて、いろいろな人を色々なことを手助けできるギルドを作るつもりだ。お前みたいにな」

「ふん、オレの真似がそう簡単にできるかな?」

「ちょっと御主人様! さっきから態度が失礼ですよ」

 おっと、友人の様に話しかけてくるからつい砕けた対応になってしまった。


「むっ、ここにいたでござるか!」

 やれやれ、今日は来客が多いな。どちらかというと来客はオレたちだが。

 『クッキング四天王』の残り3人がぞろぞろとやってきてオレの前に立つ。ちなみにもう名前は覚えていない。


「何だ、解散宣言か?」

「いや、貴様にお礼を言っておこうと思ってな。まさかあやつがあんな野望を抱いていたとは……」

「止めてくれたことに感謝なんてしてないんだからねっ!」

「意識を変えてこの3人で再出発さ!」

「これからは『クッキング四天王』改め、『クッキング三帝』としてやっていくでござる!」

 ……格上げしてんじゃねーか。


 正直その辺はどうでもいいので、適当に聞き流していると、再び王子が話しかけてきた。


「フリード、これからどうすんだ? もう少し遊んでいくか?」

「いや、だいぶ満喫したし、今日中に準備を整えて明日の朝一で帰るつもりだ。金もなくなってきたしな」

「そうか、残念だ……。よし、明日お土産を準備しといてやるぜ!」

 王子からありがたい申し出がでてきた。

 お土産を買う金もなくて困っていたところなのでここは素直に応じよう。食に関しては素直がモットーだからな。


 それよりも、王族とたまたま仲良くなれたので、あのことを聞いてみようか。


「王子、折角だしちょっと聞きたいことがある。この国にも"竜の体"があるのか?」

「竜? オレたちが拠点にしてた島に封印されてる"竜の尾"のことか?」

 実はあの島に封印されていたのか。見ておけば良かったな。


「欲しいのか? 食材にもならねえし禍々しいしでゴミにしか見えねえぞ」

「王子も食に支配されてないか? ……まあ、それさえ聞ければ問題ない。ここだけの話だが、"竜の体"を集めている奴がいる。正体不明だが、碌な奴じゃないのは確かだ」

「……! まあ、島にあることは王族しか知らねえからな、ちゃんと保管しておくよ」


 王子とも約束を交わしたところで、この国にはもう心残りはないな。……欲を言うともう少し食事を楽しみたかったが。


「お兄様、レンガで穴を塞ぎ終わりました!」

「よし、これで片付けも終了だな。ステラ、学園を休み過ぎてしまったな。帰りの馬車内ではみっちりしごいてやろう」

「うう、折角手伝ったのに……」

 ぶー垂れる妹の頭を撫でると、お偉いさんを尻目に部屋を去る。


 ……帰ったら怖いメイドに怒られないように、また仕事を探し始めるとしよう。


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