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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
美食の国ビストリア編
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第104話 再び王城へ

 オレはバーベキューを食べながら、フェリペ王子に『王子を人質にするぜ作戦』の全貌を伝えることにした。


「オレが人質……?」

「ああ、外圧で国王を揺さぶってみようという考えだ。我が子可愛さに思わず従ってしまうに違いない。……このエビ、美味いな」

「取れたての奴だからな。だが、そう上手く行くか?」


「失敗したらオレは国外に逃げる。王子がばらさなければお互い被害はないはずだ。……このイカも食感と甘味が最高だな」

「ああ、そのイカはオレも大好物だ。その作戦、もう少し聞かせてくれ」


「ちょっと御主人様、食べるか相談するかどちらかにしてください! 話が進まないじゃないですか!」

「王子も、そんな他国の人間をそう簡単に信用しないでください!」

 お付きの者たちが、オレと王子に注意をしてきた。まったく困ったものだ。


「大変だな、王子も」

「そっちもな」

 どうでもいい所でシンパシーを感じてしまったが、食事を泣く泣く中断し作戦会議に集中することにした。


「お前の作戦、やってみる価値はあるかもしれねえな。だが、親父はオレを見捨てるかもしれねえぜ? 尻の穴のちっちゃい男だからよ」

「ほう、尻の穴が……」

「どこに感心してるんですか。もっとお上品な話をしましょうよ」

 この作戦は一回限りだ。王子と顔を突き合わせ、細かい所を相談する。


*


「よし、作戦も決まったし行動に移ろう」

「ああ、すぐ部下どもに船を準備させるぜ!」

 小一時間ほど相談を重ね、早速決行することにした。


 作戦はこうだ。波を操るナサレサの魔法で、少数精鋭で一旦港街に行きオレの仲間を回収する。

 次に魔法で川を遡り、一気にビストリア王都まで駆け上る。本気を出せば、夕方には着くほどのスピードが出せるらしい。

 最後に王子を盾にしながら国王のとこまで詰め寄り、脅す。ついでに尻の穴も確認しておく。


 ……なんて天才的なプランだろうか。一分の隙もない、我ながら完璧な作戦だな。


「御主人様、準備ができたみたいです。海沿いに向かいましょう」

「ああ。……くっくっく、血の雨が降りそうだな?」

「いや、降りませんから」


 メイドに急かされ、船のある所まで向かっていく。

 来た時と同じ、10人ぐらい程が乗れる船で行くようだ。王子たちは従者含め3人なので、オレの仲間を入れるとギリギリだな。

 オレたちも飛び乗ると、ついに出発だ。


「しっかり捕まれよ。ナサレサ、頼むぜ」

「はい。……海の王よ、仄暗い水底より顕りて我が力の礎と化せ! 『波瀾万丈(サージングビロウ)』!」

 突然の詠唱。それを言わないと魔法が使えないわけでは無いよな?


「王子、これは?」

「スルーしてやってくれ、こいつは自分の世界を持ってんだ」

「……集中できないから静かにしてください!」


 怒られてしまったので素直に口をつぐむ。周囲の海面がざわついたかと思うと、波がオレたちの乗る船を勢いよく押し出し始めた。


「うおっ、凄い速さだ!」

「全速力で行きます! 各自、振り落とされないように!」

 船はぐんぐんと加速をつけていく。オレはエミリアとフラウを船の中に押し込むと、門番の様に入り口の前を塞ぐ。


「おお、もう港町が見えてきたぞ!」

「波止場に止める! 出来るだけ早く仲間を回収して来いよ」

 港街ものすごい勢いで近づいたかと思うと、ものすごい勢いで急停止する。オレは勢い余って陸地に投げ飛ばされるが、ばね状の鉄を生み出し美しく着地する。


「お兄様!? うわーん、無事でよかったです!」

「ステラ、他の皆も……! まだ港にいたのか」

 ステラが泣きながらオレの胸元に飛び込んできた。なぜか皆、港に待機したままだったようだ。昼飯は食べたのだろうか。


「もう、心配しましたわ! 様子がおかしいから鎖を手繰り寄せてみたら、中身が空っぽですもの!」

「悪い、いろいろあってな。そんなことより、すぐにビストリアの王都に戻るぞ!」

「フリード、どういうことだ?」

「話は後だ、すぐに宿に荷物を取りに戻る」

 困惑顔の4人を急かし、速攻で荷物を回収する。すぐに船の近くへ戻ってくると、4人を船に押し込んだ。


「ちょっと何ですの、この船! 煙草臭いですわ!」

「少しの間我慢してくれ。よし、出発してくれ!」


「わかりました。……海の王よ、仄暗い水底より……」

 それはもういいが。


*


 オレの仲間を乗せ合計10人になった船は、恐ろしい勢いで川を遡っている。

 馬車よりも早いそれは、まさに放たれた矢の如し、といった感じだ。


「いいかよく聞け。オレたちはここにいる王子を人質にして、王を脅すつもりだ。『色々な魔法使いを認めてあげてね♡』ってな」

「……何故そんなことをする必要がありますの? 内政干渉ですわ」


「良い質問だな、だがそれには答えない。理屈では無いのだからな。……ただ一つ言えること。それは、王子にはバーベキューのお礼をしなくてはならないという事だな」

「……やれやれですわ」

 オレの説得は成功し、喜んで協力してくれそうだ。

 この国にもう心残りは無いとはいえ、別に失敗するつもりもない。オレは天才だからな。


「見えてきました、王都クレモンです!」

 見覚えのある街が視界に映り始めた。この川は王都の生活用水としても使われているようで、この船のまま街まで入れそうだ。


「王城の堀もこの川と繋がってるはずだ。このまま船で突っ込むぜ!」

 船はさらに勢いを増し、だんだん細くなる川を駆け上っていく。


*


 無事王都にたどり着いたオレたちは、王子に掴まった人質の振りをしてもらいながら王城に侵入していく。

 以前通った場所なので、一応顔バレを防ぐために『錬金術』で作った黄金の仮面を被っている。これで正体はバレないはずだ。


「おらおら兵士ども、王子がどうなってもいいのか!?」

「手前らどきやがれ、こっちは掴まってんだよ! 手をだしたら容赦しねえぞ! 早く親父の部屋まで通せや!」

「……もう少し捕虜っぽい言動をしましょうよ」


 どうやら王子は演技が下手なようだ。オラつきながら兵士を遠ざけていく。多分一般人がいたらそいつらも避けていくのだろうな。


「ああっ王子、おいたわしや……!」

「くぅっ、代われるなら代わって差し上げたい……」

「あいつめ、オレたちの王子様を! もう、手はないのか? この世に、救いは無いのか……?」

 ……兵士が鈍感で良かったな、全くバレていなさそうだ。


「この上が謁見の間だ。とっとと行こうぜ」

「ああ」

 豪華な扉を王子が蹴破り、中へずかずかと入っていく。部屋の奥には一段高い所に椅子が置いてあり、そこに立派な服装の男がいた。身なりからして国王に間違いない。


「なっ、何だお前たち! フェリペ、どうしたのだ!?」

「親父、掴まっちまったぜ! こいつらが何か言いたいことがあるみたいだから聞いてやってくれ!」


「国王よ、我々はこの国で虐げられていた魔法使いだ。料理人や生産者の優遇を止め、他の者たちにもチャンスを与えよ! 了承しないのなら、王子の命は無いと思え」

「何だと? ……そんなこと簡単に認められぬ! 食は我が国の根幹なのだ!」

 オレの完璧な作戦が通用しないだと? この国王に、親としての愛情は無いのか。


「……ちっ、ならば演技も終わりだな」

「何!?」

 演技をしていたつもりだったのかという疑問は置いておくとして、王子は捕虜の振りを止めて、直接国王に近づき胸ぐらをつかんだ。


「フェリペ、やめぬか! 父に対して何の真似だ!」

「何の真似もくそもねえな。オレの要求をさっさと聞きやがれってんだ!」

 もう自分の要求とか言ってしまっている。完全にプランは崩れ去ってしまったな。


「そこまでだ、王子!」

「あん?」

 突如入り口の方から声がし、そちらを向くと『クッキング四天王』のリーダー、ロドリゴが立っていた。


「料理人の地位を奪うなどと、たとえ王子様であっても聞き捨てなりませぬ! これはお灸をすえる必要がありますな」

「手前……。諸悪の根源が!」

 芸人としか思えない奴だが、王子にとってはそうではない様で一触即発の雰囲気になっている。


「御主人様、どうするんですか?」

「乗り掛かった舟だ、よく話は見えないが王子の味方をしよう」

「もう船は降りてますわよ」


 王子は戦いに使える魔法の持ち主ではない。ちょっとばかし加勢をしてやるとするか。


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