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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
美食の国ビストリア編
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第103話 交渉

 ついに海賊兼王子と接触することができたオレたちは、誘いに乗って船内へと足を運ぶことにした。


「臭っ! 何だこの煙は?」

「悪いな、オレは煙草を吸ってんだ」

「……外で吸えばいいだろう」

「そうなんですよ! まったく、王子は何度言っても聞かないんですから」


 従者の女が王子に小言を言うが、王子はそれを聞き流す。

 どうやら王子様は慣れっこのようだな。


「……御主人様。何ですか、その目は」

「いや、なんか王子に親近感が湧いてな」

 小言を言ってくる者が、ウチにもいるよな。まあオレを思っての発言という事はわかるのだが。


「よし、適当に座りな。ここで話をしようじゃねえか」

 船底にある部屋に入ると、王子は床にドカッと座り、こちらも座るように促す。


 まったく、王子感のない奴だ。オレたちも同じように床に座り、話をすることにした。

 王子の横には、男女の従者が座る。


「それで、お前らは一体何者だ?」

「言っただろう、観光客だと。オレたちはハレミアからはるばるやってきたが、シーフードを食えない悲しみから海賊討伐を思い立ったってわけだ」


「そんなの嘘です。国王様か料理ギルドが派遣した刺客でしょう」

「……いや、こいつはオレたちに敵意を向けてねえ。刺客じゃねえはずだ」

「ほう、オレの心が読めるのか?」

 読心術は珍しい魔法だが、過去に事例が無いわけでは無い。


「そんな大層なもんじゃねえよ。オレは自分に向けられた悪意だけを感じる『疑心暗鬼(サスペクトマリス)』の魔法を持ってんだ」

「そうか。それで、横の奴が海賊行為をしていた海を操る女か?」


「……不本意ながら」

「こいつの波を操る『波瀾万丈(サージングビロウ)』は攻撃範囲なら圧倒的だ。近づかれちゃ意味がねえがな。こっちのサウロは『鮫の第六感(アンピュラー)』で、水中に存在するありとあらゆるものを感じ取れる」

「王子、そんなにべらべらとばらさないでください!」

「いいんだよ、こいつは刺客じゃねえんだからよ」


 王子はなかなか大胆な男のようだ。オレが刺客じゃないと分かった時点で、まるで友人の様に話しかけてきた。

 人の上に立つ者として最高と言えるかはわからないが、こんな男だから海賊の真似事をしても慕ってくれる者がいるのだろう。


「おっと、オレばっかりしゃべっちまったな。元々はお前の話を聞く予定だったな、何でも聞いてくれ」

「そうだな……」

 話をしようとしたところで、船が何かにぶつかった様に揺れた。


「王子、着いたようです」

「ああ、そうだな。……悪い、続きは地上でしようぜ。ようこそ海賊島へ、ってとこだな」

 話している間にも、船は進み続けていたようだ。船内では結局何も話せなかったな。

 再び船の上に出て、海賊島へ降り立つことにした。


*


「うーん、服に煙草の臭いがついちゃったよ」

「地上に降りれて良かったな。あのままだと体の芯まで煙草の臭いがつくところだ」


 地上の空気は何だかいつもよりさわやかに感じる。王子は換気を覚えるべきだな。


「御主人様、凄いです! 周りに海しか見えません……!」

 エミリアが来た方向を見て声を上げる。ここはまさに絶海の孤島といった感じで、本当にこの島だけがぽつんと海上にあるようだ。


 海を眺めていると、先行する王子たちと結構距離が開いてしまった。慌てて後を追うと、島の中央に位置する灯台のような建物に入っていくことにした。


「王子、お帰りなさいませ!」

「御無事で何よりです!」

「おーおー、お前らも相変わらずだな。何か変なことはなかったか?」

 建物の中には何人かの男が見える。数は少ないがわざわざ王子に付き添って海賊行為の真似事をする奴らだ、どいつもこいつも腹心に違いない。


 王子は適当に声をかけながら、階段を踏みしめ灯台の上に昇っていく。

 灯台の上まで登りきると、少し広いバルコニーのようになっており、そこでは何とバーベキューの準備が進められていた。


「どうだ、美味そうだろ? 近くで取れた魚介類でいつもバーベキューしてんだ」

「おお、夢にまで見たシーフード! 有難く食べさせていただこう!」

 気が付けばもうお昼前だ。海賊行為を働きながら自分たちは魚介食べ放題とはなかなかあくどい。


「それで、話の続きをしようぜ。まだ焼き上がりには時間がかかる」

「そうだな。さっきも言った通り、オレたちが観光客だというのは事実だ。シーフードを食べたいというのもな」


「シーフードに命を懸けるとは、悪意はないが頭のねじも外れてんな」

「ふっ、何に命を懸けるかはオレが決めることだ」

「御主人様、別に格好よくないです……」

 エミリアに小言を言われるが、気にせず言葉を続ける。


「反抗期じゃあるまいし、特に理由が無いならもう止めてくれないか。陸ではお腹をすかせた妹たちが、魚介料理を食べるのを夢見て毎日泣いているんだ」

「何だと!? ……ちっ、海賊行為はここらが潮時か?」

 ……意外と簡単に話がついたな。スピード解決とは天才に相応しい結果だ。


「王子、そんなバレバレのウソに騙されないでください! 海賊行為に付き合った我々が馬鹿みたいじゃないですか!」

「おっと、そうだったぜ。フリードとか言ったか、悪いな。オレたちには目的があるんだ」


「目的?」

「ああ、こいつ――ナサレサはうちの国じゃ魔法を使うのを禁止されてんだ。海を荒らすと魚が逃げて、漁ができねえってな。こいつだけじゃねえ、他にも同じように魔法を禁止されてる奴がたくさんいる」

「何だと? ……禁止とは驚いたな」

 生産にも料理にも使えない魔法は禁止までするとは、どこまでも食が中心の国らしい。


「だからオレは親父……国王に直訴したんだ。いろんな奴を認めてやれってな。帰ってきた返事は、伝統を守れ、だとよ」

「それに反抗して、海賊行為で意見を通そうとしているのか?」

「その通りだ。オレの求めるものは、自由な国だ。だから煙草も吸うぜ、こいつは自由のシンボルだ」

「……煙草は止めた方がいいぞ」


 ともかく、話は分かった。だがこの問題は簡単に解決できないな。

 一言でいえば王子が諦めるだけで解決だが、この天才はそんな単純な答えで満足しないのだ。


「……話が長引いちまったな。バーベキューを食おうぜ」

 王子は料理の方を向くと、色づき始めた魚や海老を皿に取り始めた。


 ……オレたちも食べるとするか。


*


「美味しい、美味しいよ!」

「本当です! 塩だけなのに、魚の旨味を感じます!」

「確かに美味いな。生きててよかった……」

 オレは待ちに待った魚の美味さに舌鼓を打つ。素晴らしい、やっぱり海があるって良いな。


「それで御主人様、どうするんですか?」

「ふっ、解決策はもう思いついている。名付けて、『王子を人質にするぜ作戦』だ」


「わかりやすい作戦名だね」

「誰にでも理解できるように表現できるのが天才だからな。一応説明しておくと、王子に人質の振りをしてもらって、それを盾に王子の希望をオレが代わりに要求する」


「……国王が応じなかったら?」

「王子を捨てて国に帰ろう。もう用事は終わったしな」


「投げっぱなしじゃん!」

「そうならないようにするのが天才だ」

 2人の心配はわかるが、元々こっちからすれば失うもののない闘いだ。伸び伸びとやらせてもらうとしよう。


「そんなことより食事だ。こうしているうちにも鮮度は失われているぞ」

「あっ! まったくもう……!」

 作戦会議は終了だ。来る作戦に備え、まずはしっかりと腹ごしらえをすることにした。


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