第9話 いざリューストンヘ
昼下がり、オレはギルド管理局へ向かっていた。今日はエミリアも一緒だ。……さすがに二人暮らしなので、家事だけだとやることが無くなってしまったようだ。
「一緒に依頼を探しましょう! きっと今日は良い依頼がありますよ!」
最近テンションの低いオレを気遣っているのだろう。気持ちは嬉しいが、悩みの約半分は君なんだ……。
*
「おや、珍しいな。窓口に客がいるぞ」
管理局に入ると、いつもは閑古鳥のアルトちゃんの窓口に客が見える。
おそらく、初めてギルド管理局に来た客だろう。アルトちゃんは究極の塩対応で有名なので、リピーターが少ないのだ。
何度も訪れる奴は無表情な対応に興奮する変態ぐらいだろう。もちろん俺は違うが。
オレは近づいて様子をうかがうと、客は小さな女の子のようだ。この場所に似つかわしくない高級そうなドレスに、金髪縦ロール。手にはなんて呼ぶのかわからないふわふわのついた扇子を持っている。
見ただけでわかる、ザ☆お嬢様って感じだ。
そのお嬢様がアルトちゃんに向かって騒ぎ立てている。
「何故そんなに時間がかかりますの!」
……どこかで聞いたようなクレームだな。
「ルールですので」
アルトちゃんはシンプルに答えると、下を向いて書類の整理を始める。うーん、清々しいまでの塩対応。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! 貴女では話になりませんわ! 責任者をお呼びなさい!」
「お断りいたします」
アルトちゃんはもはや顔さえ上げない。
「どうした、アルトちゃん。困りごとか?」
このまま眺めていても仕方ないと思い、話に割って入る。
「これはヴァレリー様。見ての通り、困りごとです。そして貴方が来たことで、さらに一つ増えましたよ」
「おっと、これは一本取られたな。はーっはっは!」
「……ちょっと貴方、誰ですの?」
割り込んだオレに向かって、怪訝そうな顔で聞いてくる。
「さっき責任者を呼んでいただろう。それに近い存在だ」
「……貴方が?」
「いえ、全然違いますから……」
後ろから小声でメイドのツッコミが入る。
「それなら話が早いですわ。今からお父様の所に向かわなければならないので、護衛をすぐに用意して頂きたいのですわ」
お嬢様はオレを責任者と勘違いしたまま、話しかけてくる。
計画通り、情報を得ることに成功した。これが天才たる所以だな。
「そうだ、ヴァレリー様。この護衛の依頼を受けていただけませんか。そうすれば私の困りごとも一気に解決します」
どうやら、オレたちをまとめて追い払いたいらしい。
「……目的地はどこなんだ」
「私のお父様はリューストンの領主ですの。エリオット・リシャール。父の名ですわ」
リューストンだと、今から馬を走らせても着くのは夜だな。腕を組んで思案していると、エミリアに服を引っ張られる。
耳に手を添え、小声で話しかけてくる。
「ちょっと、御主人様! リシャール家といえば、貴族の中でも名門中の名門ですよ!? もし粗相でもしたら……」
「……だからどうした。貴族ならむしろ好都合だろう。くたびれた衛兵隊長よりは金払いも良さそうだ」
「それは、そうですが……」
「結局、護衛を引き受けていただけますの? 早く決めてくださらない?」
一刻も早く出発したいのだろう、露骨にいらいらして催促してくる。
「わかった。護衛の任務、引き受けよう」
「では早速準備をお願いしますわ。護衛は何人準備できますの?」
「ここにいる2人だ。すぐにでも出発できるぞ」
指を2本立て、手でVサインを作って見せる。
「……え?」
お嬢様の表情が固まる。
「……2人じゃ多すぎたか?」
追い打ちをかけてみたが、返事は帰ってこなかった。