第1話 Sacrimony その4
「Manus Dei、ですか?それはどういう意味。。。」
六郎は娘を放して窓の方に目を向けた。
「昔はね、若かった頃、俺はよく世界を旅していてな。あのときはカス隊もアポ令もなかったし、このピリナースの町を離れることが今より簡単だった。ある国にはああ言うことを聞いた。ほら、俺らは時計の針を『針』って言うんだろう?縫う道具みたいに?でも、あの国には『手』って呼ばれていた、時計の針が」
「そうなのか?」
不思議といつも、父の説明を聞くと、動揺が消えてしまい、心が和む。ふうみはふと、そう思いだした。
「そうだな。だから、時間を操る時計には、『神の手』という名前が一番適切と思ったのさ。で、古代言語に訳すると、Manus Deiに成るな」
「なるほどね、父さん。って、そんなことより、どうやって。。。」
「Manus Deiは返してもらうよ、ふうみ。」
娘の質問を最後まで聞かずに、六郎がまた彼女を見て手を伸ばした。前と同じく優しい声だったのに、その声に鉄のような強い響きがあって、ふうみがそれに逆らえなかった。頭より先に体が動いて、懐中時計が六郎のもとの戻した。
「落ち着いたか」
ふうみが軽く頭を縦に振った。
「なら、支度をするんだ。必要なものだけを揃って15分後ここに戻って来い。食事は俺が準備するから、君は自分の荷物のことだけ考えて支度する」
「あのう、どういう。。。」
「俺たちはここを出るさ」
「出る?」
「そう。町の近くに『白河劇団』が止まっているので、あそこにしばらく身を潜むとするんだ」
ふうみが眉をひそめた。
「えっと、どうしていきなり劇団?」
「ああ、一様、朝に成ると、そこに手紙を送って君の面倒を任せるつもりだったが、君がすでに全てを知っているなら、二人で行った方がいいと思うんだ。白河劇団の主役かつ監督が俺の兄だからな」
それを聞いて、ふうみが完全に話の意図を失った。
だって、生きて17年で初めて父に兄がいたことを聞いた。
アポ令でカス隊、時間を操る時計で頭がすでに一杯だったのに、今は突然に新しい親戚が現れた。次は『実は、君はすでに死んでいて蘇った』とかが述べられていても、可笑しくないぐらい。
「君には彼のこと何も言わなかったが、君が生まれるずっと前から大喧嘩して、話さなくなったけど、今なら仲直り出来るだろう」
六郎は机から一枚の封筒を取ってふうみに渡した。
「俺か送ろうと思った手紙さ。念の為、持っててくれ。さあ、支度をして来い」
ふうみが我に戻ろうとしたが、それもあまり上手く行かなかった。とは言え、手紙ぐらい受け取れた。質問も一つすることが出来た。
「でも、どうして夜中に?」
「午後1時とは言え、カス体が必ずここに来る。なら、急いだほうがいい。それとも、また彼らに殺されたいのか」
「また?」
「そうだ。Manus Deiを使ってここに来たってことは、君は一度死んだからだ。Manus Deiが君をまだ死んでいない時に戻したにすぎない。Manus Deiは、そういう時計さ」