第73回活動報告:合流とさらなる追跡
合流とさらなる追跡
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「おーい」
「ん? お、アノンだー!!」
そういって、越郁がナラリーさんたち森の外周調査チームを見つけたのは、ラナさんが予想した通り、馬車の車輪跡を軽く追った2日後だった。
この2日間で、新しい発見などはなく暇だったので、その間にラナさんから他国の情報を聞いたり、戦闘訓練したり、学校の勉強したりと時間を潰した。
だが、越郁にとっては退屈だったようで、特に勉強はしぶしぶといった感じだった。
いや、わかってたけどね。
それも、今日で終わりか。
僕も越郁を追いかけて、ナラリーさんたちと合流する。
「ひさしぶりだな。ユーヤ」
「ヒビキもね」
そういって、声を掛けてくるのは、スィリナさんとナーヤさんだ。
見たところ、特に怪我もないので安全な旅路だったんだろうけど、とりあえず道中の話を聞いてみる。
「道中はどうでしたか?」
「特になにもといいたいが……」
「魔物が森に入って行ってたわね。この3日で4回ぐらい見かけたわ」
「ゴブリン程度だったから見逃したわ」
「こちらの人数も多かったからな。ゴブリンどもは慌てて森の中に逃げ込んだという感じだったな」
途中で会話に入ってきた、サラさんにドーザさんが詳しくゴブリンのことを話してくれた。
なるほど、流石に完全装備の人を襲うほどゴブリンはバカではないようだ。
この前はツーチたちが弱そうに見えたから襲ってきたのかな?
あ、それとも僕たちも含めてかな? スィリナさんたちも女性だし。
そんなことを考えていると、越郁とアノンさんがナラリーさんとラナさんを引き連れてこっちにやってきた。
「おー、スィリナたちにサラ、ドーザも元気だったー」
「コイクは相変わらずだな」
「だね」
スィリナさんにサラさんたちが苦笑いをして答えると、ドーザさんだけ慌てて違うことを言い出した。
「って、ちょっとまて、コイクたちがいなくて俺たちは散々だったぞ!!」
「え? 何かあったの?」
「飯だ!! 飯が、不味い!! いや、あれが普通なんだけどな。とりあえず、今日はコイクたちの飯が食えるんだよな? な!?」
ドーザさんがそういうと、後ろで待機していた領兵の皆さんも、どうなるんだという感じで見ていた。
で、そう詰め寄られた越郁はと言うと……。
「えーっと。ねえ、ゆーや、まだ在庫ってあるよね?」
「あ、ああ。沢山作り置きはしておいたから、問題はないぞ」
「じゃあ……」
と、越郁が口を開こうとするのを見て、歓喜の表情を浮かべるドーザさんたちだったが……。
「まった、越郁君。晩御飯については、僕たちがどうこうする権利はないよ。リーダーである、ナラリーさんとラナさんに確認を取らないと。こういうのは勝手に判断してはいけないんだよ」
当然の注意を先輩が言った。
すると、当然、みんなの視線はナラリーさんとラナさんへと向かう。
今日の晩御飯はどうなるんだ!!
という、鬼気迫る感情と共に。
流石にその視線に驚いたのか、2人とも少し慌てた様子で……。
「え、えーと、コイク様たちは問題ないようですし、私は構いませんが、ナラリー様はどう思われますか? ナラリー様さえよければ、コイク様たちのご飯にできるかと」
いきなりラナさんはそういって、ナラリーさんに全ての判断を押し付けた。
というより、今まで僕たちと一緒に温かい食事をしてきたのだから、今更反対なんて言えないよな。
恨まれているとラナさん自身心配していたし。
で、晩御飯の判断を委ねられたナラリーさんはというと……。
「え? え!? 私が決めるんですか!? ちょ、ちょっと待ってください。物資の方は余っていますし、腐る様なものはありませんよね?」
「あ、はい。一様旅を考えておりますので、今日明日で腐るようなものはありません」
ナラリーさんは生真面目に、荷物の中身を兵士に確認している。
というか、これは当然か。
「となると、帰りの荷物が減らないということになりますね。うーん。せめて、水と干し肉は消費していただきたいのですが。水は特にかさばりますし、腐りますから。干し肉も古い物を出してもらったのでそう長くは持ちません」
「確かに……」
旅用に用意した食料とはいえど、この世界というか、リーフロングの食料が精々一週間がいい所なのだ。
干し肉やドライフルーツに文句を言っている感じだけど、これでも実はかなり贅沢なもので、基本は押し固めた乾パン。ショートブレッド。形状としては日本ではカロ○ーメイトが近い。がメインになる。
まあ、この成果には魔物が徘徊しているので、そこから肉を得やすいというのがあるので、地球よりは、肉の回収率はいいのかもしれない?
でも、これも魔物を倒せるのが前提だから、一般の旅人は乾パンだけやドライフルーツになるのが一般的だ。
そして意外なのが水。
水自体は、物理的に腐ることはないが、それは純水だけであり、不純物を含んでいない滅菌した水がリーフロングに用意できるわけがないので、蓋を開けてしまった水樽は精々一週間からそこらへんになるのだ。蓋を開けていない水樽もよくて2、3週間がいい所。それ以降は自分たちで補充する必要があるのだ。
それにナラリーさんの言っているようにこういう荷物は重く、旅を続けるのには必要不可欠であり、減らせるものでもなく、旅をするに至って一番の問題だったりする。
その荷物が減ることで移動が早くなるというのを計算に入れることはよくある。
「ということで、私たちに下賜された、食料を無駄に腐らせるというのは許容できませんし、今後の移動で消費される予定の荷物を持って回るのは御免です。ですので、コイクさんたちの食料を食べつつも、私たちが持ってきた食料の中で長持ちしない物を消費することになりますが、それで納得していただけますか?」
と、ナラリーさんは提案をする。
言っていることは当然のことなので、反対は出ずに、今日の晩御飯については、僕たちの所から半分、ナラリーさんたち領兵が持ってきた食料から半分ということになった。
「いやー、美味い!! 飯が暖かい!!」
「これがいいわー」
「「「だなー」」」
そんなことを言いながらわいわい食べるドーザさんとアノンさん、それに領兵のみなさんたち。
合流したのは、お昼を過ぎて夕方に近かったので、そのまま野営の準備に入ったのだ。
詳しい話はご飯を食べた後にして、調査の方は明日に持ち越しになった。
「まったく、ドーザがうるさくてごめんなさい」
「いや、こっちもアノンがうるさくてすまない」
「ごはんを集るようなことになって申し訳ありません」
それぞれの代表が僕たちに深々と頭を下げる。
「いえいえ。お気になさらず。それよりも、ラナさんから話は聞きましたか?」
先輩がそうやんわりと返して、そのままどこまで現状を把握しているのかを聞く。
すると3人は軽く頷く。
「軽くだけどね」
「ああ。確か、陸竜を乗せてきたとみられる馬車の跡を見つけたとか」
「嫌な予感が当たったと言いましょうか、早めに見つかってよかったと言いましょうか……」
そんなことを話しているうちに、みんなの様子を見て回っていたラナさんが戻ってきた。
「ふむ。そこまで森の外周を調査してきた疲れはないようですね。これでしたら、数日は馬車の跡を追うことはできるでしょう」
「あ、やっぱり追うんだ」
越郁がそう聞き返すと、ラナさんとナラリーさんは頷く。
「リーフロングの安全保障の為ですからね」
「それに、人為的となると、リーフロングに喧嘩を売っている人物かそれとも組織が存在するはずです。物資や時間の関係から、長くは調査できませんが、出来うる限りは調べたいと思っています」
やはりというか、2人は馬車の跡を追跡するということで意見は一致しているみたいだ。
まあ、意見がバラバラよりはいいのかもしれないけど、僕たちにとってはフルタイム、20日ギリギリまで調査することになったわけか。
「しかしだ。なぜ、こんな村の森に陸竜を解き放つ必要があったかよね?」
「確かに、サラの言う通りだ。陸竜は魔物の中でも強いことは強いが、倒せない魔物ではない。不帰の森と接してるリーフロングの人たちなら何とかなるだろう。実際、私たち冒険者と少数の領兵だけで調査に来ているのがその証拠だ」
確かに、サラさんやスィリナさんの言うように、何かの陰謀があたっとしても、リーフロングがこの程度で揺らぐようには思えないよな。
そんな感じで、みんな食事の手を一時止めて考えていると、その中で自由に食べていた越郁とアノンさんが口を開く。
「別に、今答えを出さなくてもいいじゃん。ただ、逃がす場所を探してただけかもしれないしー。もぐもぐ……」
「そうそう。悩んでも仕方ないし。まずはご飯食べよう。はぐはぐ。あ、いらないって言うならもらうよ?」
「「……」」
緊張感のない二人の言葉だが、言っていることは事実でもあり、既に暗くなっているし、とりあえず、その場での話し合いはやめて食事に専念して、本日はゆっくり休むことになった。
そして、翌日……。
「……これが見つけた馬車の跡ね」
「森の陸竜の足跡から見て、ここから出てきたのは間違いないな」
やはりというか、サラさんやスィリナさんも同じような意見だ。
他のみんなもチームで別れて辺りを詳しく調べている。
とりあえず、僕は森の方にいるドーザさんたちの所に向かってみると……。
「しかしだ。昨日、お前たちが話してたように、なんでこんなところって話になるよな」
「そうよねー。というか、よく陸竜を解放した時に襲われなかったわね」
「あ、そう言えば、そうだねー。森の方はこんなに荒れているのに、草原の方はとくに荒れてないし、よほど強い人でもいたのかなー?」
「強い相手がいたとしても、陸竜がおびえるか?」
「さあ? 陸竜の生態に詳しいわけじゃないし」
「というか、おびえてたら、こんなに森をなぎ倒したりしないよー。静かに逃げるでしょう?」
「「「んー」」」
ドーザさん、ナラリーさん、アノンさんはそろって首を傾げている。
3人のいう通り、確かに痕跡は変だなー。
そんなことを考えつつ、他の人はと思って辺りを見回してみると、越郁が近場の木陰で昼寝しているところを見つけた。
まったく、こいつは……。
「こらっ、起きろ!!」
「ふひゃ!? なになに!?」
「何じゃない。他のみんなが調査している時に何を……」
と、僕が続けようとしていたら、ドーザさんたちが声をあげる。
「「「ああー、そうか。眠らされてたのか!!」」」
「「へ?」」
なにやら、越郁の行動がみんなの役に立ったらしい。
「えーと、眠らされていたというのは?」
「ああ、考えてみれば当然のことだ。陸竜が起きていて素直に檻なんかに入るわけがない」
「となると、答えは一つ。意識がなかったということ。つまりは、寝てたわけよ」
「それで、檻から出されて、寝ている間に、ゴブリンかオークにでもちょっかいを出されて起きた。それで、森の入り口から奥へと荒れているわけだ」
「なるほど。だからオークの集落までの道が荒れていたわけですか」
ラナさんはみんなの推測に納得している。
確かに、陸竜の習性を聞いて変な痕跡だと思ったけど、この話なら納得できる。
オークたちは陸竜を引き連れて、集落まで逃げてしまったわけか。
「ふむふむ。陸竜を投棄というやつですか。そういう話は聞いたことがありませんが……。冒険者ギルドでそういう仕事は?」
「いえ。私たちの所ではありません」
「つまり、リーフロングではない場所への聞き込みが必要ですね。まあ、ともかく、そろそろ周辺の調査は終わりましたし、この馬車の跡を追ってみましょう」
「「「はい」」」
そういうことで、僕たちの調査は次の段階へと移っていくのであった。




