第67回活動報告:道中での和解と不安
道中での和解と不安
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「皆様、昨日は大変失礼をいたしました。なにとぞ、我がリーフロングとよき関係をお願いいたします」
そういって、頭を下げるのはナラリーさんだ。
朝、僕たちはラナさんと合流して、ゼイルさんの所によって用事を済ませてから、万全の体制で城の方に向かった結果がこれだった。
なんというか、昨日のキツイ感じは消えていて、凄く申し訳なさそうにして、城門の前に立っていたのだ。
まあ、後ろにガーナンさんが腕を組んで立っているところから、叱られたんだなーというのは察せられた。
だが、あのキツイ人が怒られただけで、こんなにおとなしくなるモノかと不思議にも思っていると、越郁が口を開く。
「ん? 昨日のことなら気にしてないけど……。あれ? ナラリーさん一体どうしたの? なんかすごくへこんでない?」
超直球だった。
察してはいるだろうけど、とりあえず聞いてみたんだろうが、僕も含めて周りのみんなは顔が引きつっている。
だが、その中でガーナンさんだけは笑いながら反応する。
「あはは。何、簡単だ。びしっと、俺が仕置きをしただけだ」
「お仕置きって、物理的に?」
「物理的にもだな。久々に剣も交えて実力を把握しておきたかったからな。だが、事情も聴いて、ちゃんと言い聞かせたから、無理やり頭を下げているわけじゃないぞ」
「事情? もしかして、王都で平民に優しくとか馬鹿にされてたとか? それとも、平民に舐められたとか?」
越郁の意外な発言にガーナンさんやナラリーさんだけでなく、僕たちも固まる。
「……どこで聞いたんだ?」
「いや、勘」
「かん?」
「だってさ、元々ナラリーさんはガーナンさんが育ててたんでしょう? このリーフロングで」
「まあ、そうだ」
「それで、リーフロングにいたころは今回みたいにきつくなかったんでしょう?」
「ああ」
「なら、答えは一つじゃん。王都でなんかあったしかないでしょう。元々このリーフロングにいて、あんな性格になるわけないじゃん。そんなんだったら、ガーナンのおっちゃんも会議に参加させるわけないし」
「「「……」」」
皆が意外そうに越郁を見つめる。
ああ、そういえば、こういう鋭いところがあったな。
それで、いじめっ子とかを撃退してたっけ。
「ということで、ナラリーさん今日はよろしくねー。私たちのことは聞いていると思うけど、あんまりここら辺の常識しらないから、戦力だけは期待できるらしいよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「ま、胸糞悪い王都の連中の事なんか忘れて、のんびりやろう」
「はい。あ、いえ。あんまりのんびりするのは……」
「あー、そういう意味じゃないよ。気を張らずに、自然体にってこと。私たちと仲良くやろうってことね」
「あ、はい。そういうことであれば……」
越郁が終始ナラリーさんを圧倒して、話を進めていく。
そうそう。越郁はこんな感じなんだよな。
その様子をみていたガーナンさんが噴出した。
「ぶはっはっはっ!! いや、やはり越郁は大物になるな!! いいか、ナラリー越郁たちは信用できる。だから、安心していってこい」
「はい」
「他の皆も、仕事をよろしく頼むぞ」
「「「はっ!!」」」
兵士の皆さんもガーナンさんに返事をして、移動の準備を始める。
「冒険者諸君。概ね、越郁がいった通り、王都で色々あったらしい。その関係で、あのような態度を取っていたようだ。ま、ただの言い訳だ。我儘を言うようなら、昨日言ったように捨ててきて構わないからな」
「事情は理解しました。これからはナラリー様次第でしょう」
そういって、冒険者の代表として返事をするのはラナさんだ。
そして、ナラリーさんに顔を向け……。
「では、ナラリー様。出発の挨拶を」
ナラリーさんはそう言われて、多少顔を赤くしつつも、昨日のような険悪な雰囲気はなく、穏やかな感じで口を開く。
「これから、私たちリーフロング領主部隊と冒険者ギルドの部隊は合同で、森に現れたという陸竜の調査に向かいます。これは皆さんの協力が必要不可欠です。私が言えた義理ではありませんが、どうか、ご協力願います」
ナラリーさんはそう言って、深々と頭を下げる。
そんな姿をみて、ヤジや不満を言うような人はこの中におらず。
「よーし、じゃあ、出発だー!!」
「「「おー!!」」」
越郁の合図でみんな腕を振り上げて叫ぶ。
「ほら、ナラリーさんも一緒に。おー!! って」
「は、はい。おー!!」
そんな感じで、僕たちは当初の不安はほとんど解消された状態で、町を出て行くことになった。
「いやー。今日はいい天気だねー」
「だね。雨だとこうはいかないからね」
そう言いながら、越郁とアノンさんは草原を走る。
馬車を持ってだ。
いや、持つというのは上にじゃなく、引っ張る意味で。
馬の代わりに馬車を引いて……いや、振り回していると言っていいだろう。
「……うそ」
そう呟いているのは、馬に乗っているナラリーさん。
まあ、普通なら小さい女の子と言っていい越郁とアンナさんが荷物満載の馬車を動かせるわけがないのだけれど、ここは異世界。
越郁はチート持ち出し、アンナさんは魔術もできるエルフだ。
これぐらいは簡単だといって、馬を外して自分で持って激走していたりする。
それを見て絶句しているというわけだ。
他の兵士たちも同じように多少驚いてはいるが、すぐに落ち着きを取り戻すあたり、伊達に不帰の森の近くに住んでいるわけではないのだろう。
流石に、あれだけ上下に弾む馬車に乗り込む兵士たちは居なかったが……。
アレに乗ったが最後、10分もしないうちに気分が悪くなるのは目に見えているからな。
「しかし、越郁さまのおかげで、随分と空気が柔らくなってよかったです。おそらく天性の才能という奴ですね。人を惹きつける」
ラナさんがそういうと、先輩やスィリナさん、サラさんも頷く。
「そうですね。越郁君が言うとなぜか嫌味に聞こえないですから」
「確かに、ただただ純真という感じだな」
「そうそう。こっちが色々試しても見ても何にも反応しないんだから」
「ん? サラは何か越郁とあったのか?」
「いや、ほら、冒険者ギルドでの登録の時に試験管務めたのよ」
「あー。アノンがやった感じか……」
「あったね。僕たちも受けたけど、越郁君はなんというか、楽しんでいたね」
「それよそれ、私が、小さい越郁に、こう冒険者の厳しさを教えてやろうと思ってね、殺気とか、脅しとか、実力行使とか色々仕掛けたんだけどね……」
「全部、軽く躱されたというか、楽しまれたわけだ」
「ま、経歴を聞いていたし、多少はできるかなーと思ったけど、別格すぎたけどね」
そんな話をしながら、僕たちは村へとのんびり向かっていく。
まあ、のんびりと言っても、僕たちが走っていた時より遅いだけで、馬車の速度は越郁にアノンさんが引っ張っているので、普通の移動よりはかなり早い。
だが、兵士さんたちがランニングについて来れないので、大体この前の速度よりは半分以下というところだ。
これでも、驚きの進行速度なようで大幅な移動の改善ができたようだ。
今日は村までの道半分の所にある大きな木のところまで到着したところで、夕方を迎えたため、野宿をすることになった。
「まさか、ここまでとは……」
野営準備中もナラリーさんは呆けたままではあったが、ちゃんと色々な雑用などはやっていたので器用だなーと思った。
夜の警備は、予定通り兵士さんたちが請け負ってくれたので、お礼として、僕たちは作り置きしていたシチューとかをふるまい、晩御飯の用意の手間を無くしてあげた。
野宿するときで一番面倒なのが、食事の用意だからな。
ただ旅用の干し肉とかを出して食べるだけじゃないか、と思うことなかれ冒険者という個人個人で管理しているならともかく、兵士さんたちは良くも悪くも町に雇われている、所謂会社員というか領主の兵だから公務員であり、食事も管理されている。
自分のお金でなく、経費、つまりは税金だからだ。
ずさんに管理して、無くなったからと言ってすぐに補給できるわけもない。
そして、こういうことを管理するのが、領主兵代表のナラリーさんということだ。
まあ、全部こちらで用意するのはアレなので、干し肉の供出だけしてもらったのだが、それでも、一日分でだされた干し肉は1人、手の平の半分ぐらいの大きさのジャーキーだけ。
ここまで運動してきた人たちにとっては少ないと思うが、予算の関係や、荷物の量などで、こんなモノらしい。
……社会で働くって大変だなと思った。
あ、ちなみに、出したシチューはとても好評で……。
「……家のシチューとは比べ物にならない。さきほど見せ貰った実力と言い、この料理に使われている技術もなにもかもが違う。だから、お父様は」
兵士の皆さんはともかく、ナラリーさんは逆に恐れ慄いていた。
これ、大丈夫かなと思っていたけど、越郁がすぐに一緒にご飯を食べ始めて色々話を始める。
「やっほー、ナラリーさん。シチュー美味しい?」
「あ、はい。とても美味しいです。信じられないほどのいろんな種類の香辛料を使っていることがよくわかります。本当に、コイクさんたちは不帰の森の中にある都市の出身なのだということが分かりました」
「ありゃ? やっぱり疑っちゃってた?」
「……正直にいえば、その通りです。その、コイクさんやアノンさんはお若いので」
「あはは。よくあることだからね。仕方ないよ」
「あの、コイクさんはなんで、こんなによくしてくれるのでしょうか? 最初はあんなに失礼をしたのに」
「うーん。朝、会った時も言ったけど、失礼に感じなかったんだよねー。無理に頑張っているって感じでさ」
「無理に見えたでしょうか?」
「他の皆はともかく、私は見えたかな。ま、私もこんななりだからね。その関係で冷やかされたりはしたから、こう、意地を張ったりもしたからわかったんだと思う」
「なるほど」
あったあった。
越郁はいじめられると逆に意固地になるんだ。
で、我慢の限界が超えると一気に泣き出す。
そんなことを小さい時から付き合ってみてきたから、今はわかるけど、最初の頃は何が何だかわからなかったよな。
ああ、そうか。ナラリーさんは、僕がいなかった越郁に似ているかもしれないのか。
だから、越郁はきがついたのかな?
「ま、そんなことより明日は村について色々やるんだし、沢山食べてゆっくり休もう。ほらほら」
「あわわ!?」
そういって越郁はナラリーさんのお皿にシチューを注ぐ。
「なんというか、ナラリーさんのことは越郁君に任せた方がよさそうだね」
「ええ。コイク様はよほどに相性が良い様です。私としても他のみんながピリピリしなくて済むので助かります」
先輩やラナさんもこの状況は微笑ましく思っているようで、とくに口出しするようなことはなさそうだ。
「まあ、越郁とナラリー様のことは、私たちもあれでいいと思うが、森の調査はどうなるかな」
「さあ、ナラリー様の言うように、森の外周をぐるっとして痕跡を調べるしかないからねー」
「ま、普通に考えるなら、ただ痕跡を見つけて終わりね」
そういうのはスィリナさんたちだ。
確かに、森の調査は20日しかないし、何かしら大きな動きはないだろう。
僕たちがやるのは森の安全確認ぐらいになるはずだ。
「陸竜との戦闘がわずかながらあるかもってくらいね。その時はドーザが盾になるから」
「陸竜のサイズを考えると、俺だけに集中させられるとは思わないけどな。まあ、できるだけやってみるさ。だが、あっという間にコイクたちが倒しそうだけどな」
「「「あははは……」」」
そんな感じで、冒険者組も和やかに会話をしながら、夜は更けていくことになる。
さて、森の調査はみんなが言うようにスムーズに終わるんだろうか?




