第63回活動報告:問題が発生
問題が発生
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「……ということがありまして」
僕は今回の冒険に関しての報告を里中先生に告げる。
トラブルはあったが、ツーチたちには何も問題はなかったこと、陸竜という魔物はリーフロングではものすごく危険な生物ではあるが、僕にとってはいまいち強さがわからなかったこと、最後に調査の協力を頼まれたなど。
まあ、一応、先に報告に来た勇也君や越郁君からも同じ説明を受けているはずなので、すぐに僕も戻れると思っていたのだったが……。
「……なるほど。宇野空さんも気が付いていませんか」
「え?」
僕も気が付いていない?
「何のことでしょうか? 僕たちは何か忘れているのでしょうか?」
「ほかの学校や、世間の会社などがどうかは知りませんが、私たちの学校はゴールデンウィークは3日間で終わりとなります。土曜日は通常授業です」
「は?」
最初は何を言っているのか理解できなかったが、じわじわと里中先生の言った言葉が頭に染みてくる。
私たちの学校? ああ、そういえば、私たちは学生だっけ。
そして、ゴールデンウィークは私たちの学校は3連休で、土曜日通常授業で、次の日が普通に休みだった。
「つまり、明日一日は動けないという事でしょうか?」
「はい。そうなりますし、土曜日の夜から日曜日の時間を部活動に充てて、大体12時間前後ですね。日曜日の夜一杯まで持って行っても24時間。つまり、24日以内に調査を終えて、こっちに戻ってこなくてはいけません」
び、微妙だ。
今回の仕事だって、生き返りでほぼ2日、調査に5日は要した。
これは、私たちが俊足だからできたことであり、今度はリーフロングの兵隊たちも来る予定になっている。
つまり、生き返りでも時間がさらにかかり、森の調査もさらに時間がかかるということだ。
馬車で3日だから、生き返りで約6日。
森の調査は正直どれだけ時間がかかるか分からない。
僕たちの簡単な調査だけでも5日ほど時間を要したんだ。
正式な領主軍の調査となると数倍はかかっていいだろう。
時間的にはギリギリだし、少しでもトラブルがあれば超過してしまうのは目に見えてる。
「どうしたらいいでしょうか?」
「うーん。いい案がないことはないですが」
「どんな案でしょう?」
「別に難しいことではありません。普通に宇野空さんたちは定期的に私に報告がある義務があるので、それを利用して、戻るればいいんです。幸い、すでに私の弟子ということで有名になっていますし、私に支持されたといえば問題はありませし、前にも言いましたが、特別休暇支援精度を使えばいいんですが」
「それはいいアイデアだと思います」
それなら私たちが調査から少しの間抜けてもみんな納得するだろう。
特別休暇支援制度も異世界管理局の力を使って、都合のいいようにしてくれる。
だが、それを提案してくれた先生の顔は納得していないという感じだった。
「なにか、まだ問題があるのでしょうか?」
「んー。問題と言えば問題ですが、私も原因があるので、宇野空さんたちだけの責任でもないんですよね」
「というと?」
「今回はおそらくこれで乗り切れるでしょうが、これから宇野空さんは約2年、海川さんや山谷君は約3年、学業との折り合いをつけて行かなくてはいけません」
「あ……」
先生の言いたいことがようやく理解できた。
「これから、長期にわたり私たちが仕事ができるとつらいって話ですね」
「ええ。GWのような長期休みは稀ですからね。色々聞いていましたが、実際やってみるのは違いますね」
「先生も、初めてなんですか?」
「そうです。私はこれが初めての個人での赴任になります。まあ、そこまで深刻にならないでください。私の先輩たちに色々聞いてみます。長期の旅などの時はどうしているのかとか」
「わかりました。お手数ですがよろしくお願いします」
僕はそういって、頭を下げる。
「気にしないでください。私も未熟だというはなしですから。前もいいましたが、勉強はちゃんとしていますか? ここで勉強を怠ると、結構忘れちゃいますからね?」
「僕や勇也君は大丈夫だとおもいますが……」
「はぁ、やっぱり海川さんがネックですか。でも、彼女は……」
「勇也君に言えばなんとかがんばるかと」
「ふむ。とりあえず、中間テストが5月末ですし、その結果を見てからですね」
なんだか、いきなり地球の現実を見せられた気がする。
いや、実際にそうなのだろう。
こっちで気ままに冒険して終わりではないのだ。
仕事だからこそ、ちゃんとしなくてはいけないことがある。
それだけのことだ。
しかし、まだ先生の顔色は優れず、心配した表情で僕に質問をしてくる。
「学業の方は、まだいいんですけど。学校の方の友達とはうまくやれるでしょうか?」
「あー……」
友達か。
それを聞かれると確かに難しい。
学校とは勉強するだけの場所ではない、社交性、社会を学ぶ場でもあるのだ。
まあ、異世界で社交性学んでいるともいえなくもないのだが、この場合は学校での円滑な生活の為にという話だ。
僕も奏とは、学年が上がってから少し疎遠だ。
元々、僕は奏ぐらいしか仲の良い友達がいないのだが、今年になってからというか、この異世界に顔を出す様になって、私の体感的にはすでに1か月ほど会ってない。
いや、奏にとっては立った一日二日のことなのだが、私にとってはかなり会っていないので、ここら辺のことを心配しているのだろう。
だが、奏とはこの程度のことで仲が壊れるとは思っていないし、部活にも顔を出して、山登りも一緒にした。
しかし、勇也君や越郁君はどうだろう?
彼らは入学したてであり、本来であれば学校で友達を作って仲良く遊んだり、勉強をしたりと切磋琢磨はずだった。
だが、この異世界散策部により、本来得るべきものが彼らが取りこぼしているとしたらと先生は心配しているのだろう。
私はすでに学校では1年ではあるが、過ごして、奏のようないい友達もいるが、2人はそうじゃない。
下手をすると、学業に問題が出かねない。
「……そこはそれとなく、聞いてみます」
「頼みます。流石に、私から聞くのはあれなので」
「ですよね」
2人に、いきなり先生が友達はいますか? って聞かれて、驚くだろうし、逆に意固地になって隠したり、嘘をつく可能性だってある。
「まあ、ともかく、話は分かりました。しかし、調査に同行するに当たっては時間の制限があるということをよく考えてくださいね」
「わかりました」
そんな感じで、僕の報告が終わり、家に戻るとすでにみんなは寝ていた。
今日は色々あって疲れているし、起こすことなく、僕もすぐに横になった。
「朝か」
僕もやはり結構疲れていたらしく、横になって、先生と話したことを思い出していたけど、すぐに寝てしまったようだ。
しかも、朝日が見えるから、パンを作っているいつもの時間ではなく、寝坊というやつだ。
いやまあ、今日は疲れているだろうということで、目覚ましはかけておらず、厳密には寝坊ではないんだよね。
「まあ、習慣を破ると、そう思ってしまうよね」
1人そんなことをつぶやきながら、ベッドから降りる。
体の方は寝たことでずいぶんと軽い。
「んー。さて、みんなは起きているかな?」
体を伸ばしたあと、部屋をでてリビングに降りると、ツーチたちが起きていて、パンを焼くいい香りがしてくる。
「おや。3人だけかい?」
「ヒビキ様。おはようございます」
「あー、おはようございます」
「おはようございます」
「あ、おはよう。で、質問を繰り返すようだけど、3人だけかい?」
3人ちゃんと挨拶を返し、状況を聞いてみると……。
「はい。他の皆さんはまだお休みなっております」
「私たちは、村で待機だったし、普通の時間おきちゃって……」
「パンをまた作るって言ってましたし、私たちだけでやってみることにしました」
「勝手なことをしたことは、謝罪いたします。ですが、パンの方は作れるようにならないと困ると思いましたので、練習の一環として作らせてもらいました」
なるほど。
このパンの香りはツーチたちだけで頑張ったパンの香りか。
で、他のみんなはまだ起きていないと。
「話はわかった。別にツーチたちがパンを作ったことは咎めたりしないよ。他のみんなが起きてないのがわかれば十分さ。しかし、いい匂いだ。僕はパンができるまで待たせてもらうかな。どこまで、ツーチたちで出来たのか確認もしないといけないしね」
「はい。もうすぐ焼けると思いますので少々お待ちください」
「自信作だから、きっとおいしいに決まっているよ」
「あ、お水おもちしますね」
そんな感じでパタパタとツーチたちが動き回っているのを見ていると、階段を下りてくる足音が聞こえてきて、スィリナたちが降りてくる。
「……おはよう。すまない、寝坊したようだ」
「ごめんねー。なんだかんだ言って疲れてたみたい」
「……あー、パンのいい匂いー」
スィリナとナーヤはいいとして、アンナは寝ぼけているようだね。
まあ、本能なのか、大人しくテーブルについてパンが出てくるのを待っているというのはすごい。
私がそんなアンナに感心していると、スィリナやナーヤは私だけしかいないことに気が付いたのか、質問をしてくる。
「ん? もしかしてまだ、コイクにユーヤは起きていないのか?」
「あ、本当だ。コイクはともかくユーヤもだなんて珍しいわね」
「……すやぁー」
「ええ。2人ともまだ寝ているみたいです。まあ、別にパンを売る必要はないんで、ゆっくりしててよかったんですけどね。ツーチたちが早起きしたみたいで、パンを作ってくれているんですよ。今後の為にって」
「ああ、なるほど」
「それで、ツーチちゃんたちだけで忙しくやっているのね。なんで、手伝ってないのか不思議だったわ」
「あじみするー」
「「「……」」」
なんというか、わざとらしい寝言をいうアノンに視線が集まる。
しかし、実際寝ているように見える。
「えーと、アノンはいつも寝ている時はこんな感じかな?」
「いや、こんなのは初めてだ」
「あれじゃない。いい匂いだから夢の中でもパン食べてるとか。そんな感じの寝言だったし」
そんなことを話しているうちに、勇也君に越郁君も降りてきた。
「ほら、越郁。みんなもう起きてるぞ」
「あー? パンのいい匂い」
どうやら越郁君もアノンと同じような夢を見ているようだ。
「おはよう。勇也君」
「おはようございます。先輩、スィリナさん、ナーヤさん、アノン?」
「おはよう。アノンはほっといていいぞ」
「コイクと同じように香りにつられて夢見心地なのよ」
「なるほど」
と、こんな感じ挨拶を済ませていると、ツーチたちが出来たパンを運んできた。
「お待たせしました。皆さま、おはようございます」
「お、みんな起きてる。パンができたぞー」
「お水もどーぞ」
テーブルの上に置かれるパンたちは、僕たちが作っているものと何もそん色はないように見える。
それは勇也君やスィリナたちも同じようで……。
「よくできてるね」
「だが、問題は味だ」
「そうね。って言ってもスィリナや私もツーチたちとパン作りは同じレベルなんだけどね」
「でも、スィリナやナーヤが食べて違和感があるなら、それは商品にできないから気にせず評価してくれ」
そんなことを言いながら、パンを食べならがら、どう先生と話した問題を告げようかなーと思っていると、新たな問題に気が付く。
そういえば、学業の合間のこれからのパン屋の進退を考えないといけない。
思ったよりも、学業と仕事の両立は厳しいんだとパンを食べながら思ってしまった。
で、そんな僕の想いとはよそに……。
「うめ、うめ!!」
「はぐ、はぐ!!」
ちびっこ2人はいつの間にか覚醒してパンを掻っ込んでいた。




