第61回活動報告:腹が減っては……
腹が減っては……
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「ユーヤ様、助かりました」
そういって笑顔で近づいてくるのは、ダザンさんだ。
どうやら、守備隊長の彼がオークたちと戦っていたらしく、その戦いに僕たちが参戦したことで一気に方が付いた。
周りにはオークの死体が転がっている。
「ヒビキ様に、コイク様、それに輝きの剣の皆様もご助力感謝いたします」
ダザンさんはそういって深々と頭を下げてくる。
「気にしなくていいよ。おうちを守るためだし、それにダザンさんとは友達だからね。助けるよ」
「コイク様。……ありがとうございます」
屈託のない綺麗な笑顔の越郁にそういわれて再び深々と頭を下げてお礼をいうダザンさん。本当に真面目だな。
そんなことを思っていると、先輩が出てきて口を開く。
「ダザンさん。挨拶はその程度で。被害は? けが人などがいれば、治療をしないと。僕も薬に回復魔術は使えますから」
「治療費は後で、請求するわよ?」
「ああ、ヒビキ様に、ナーヤ殿が治療してくれるなら助かります。治療費に関しては、ガーナン様にちゃんと請求しますのでよろしくお願いします」
「では、さっそく、ダザンさんは負傷者を集めてください。私たちはここで治療の準備をします」
「わかりました」
そういって、ダザンさんは負傷者を集めるために行動を開始する。
先輩もいそいそとアイテムボックスから道具を取り出す。
「勇也君も、越郁君も準備をして。2人とも回復魔術は使えるだろう?」
「あ、そうだった。つい」
「そうでした」
なんか先輩に薬作りとかを任せていたので、自分たちで治療ができるってのをすっかり忘れてた。
「あ、あの……私たちはどうしましょうか?」
「先に家に戻っておくか?」
「それとも、ここでお手伝いしますか?」
あ、ツーチたちのことを忘れていた。
彼女たちもオーク退治を手伝ってくれた。
ゴブリンとの遭遇戦で強いことはわかっていたが、オークとなると勝手も違うからどうなるかと少し心配ではあったけど、難なく退治してくれた。
だけど、治療に役立つかと言えば微妙だ。
負傷者をこっちに連れてくることぐらいしか仕事がないだろう。
そう悩んでいると、先輩が口を開く。
「うーん。スィリナ。ツーチたちと一緒に町に入ってくれないかな?」
「それがいいだろう。ここにいても私やアノンも役には立たない。さっさと報告をした方がいい。ツーチたちも一緒にきて、家の安全を確認する方がいいだろう」
「ありがとう。じゃあ、ツーチたちはスィリナたちについて町に入って家の確認をお願いするよ」
「はい。かしこまりました」
「そのあとはどうするんだ?」
「ごはんでも作っておきますか?」
そうアンが言うと、コイクとアノンがすぐに反応する。
「あ、それいい。私たちは忙しいしさ。家で御飯があれば帰ってから楽だよ」
「コイクにさんせー。家に帰ってごはんがあるのは嬉しいしー」
僕としても助かるので、頷く。
他のみんなも同じ意見のようだ。
「じゃ、そういう感じで頼むよ。僕たちはここで治療が終わり次第、家に戻るから、スィリナたちもそこで合流しよう。ガーナン辺境伯様には明日にでも一緒に話に行ったほうがいいだろうからね」
「そうだな。じゃ、行こうか」
「「「はい」」」
そういう感じで、スィリナとアノンはツーチたちを連れてリーフロングへ入っていき、僕たちは負傷者の治療を行うことになった。
あの大規模なオークの集団がと戦っていたのにも関わらず、被害自体はそれほどもまでもなかった。
まあ、当然というか、ダザンさんたちが防壁の上で監視していたらオークの集団が近寄ってきているのが見えて、すぐに避難や人を集めて迎撃態勢を取れたのが幸いだったらしい。
上から弓を放って、手傷を負わせたあと、門に取り付いた連中を排除していたところに僕たちが出くわしたらしい。
そういえば、森から逃げてきた数は50匹以上だったと聞いていたけど、門に取り付いていたのは精々いて30匹ぐらいだった。
20匹ほどは草原の中で息絶えていたようだ。
「大事なくてよかったです」
「いやいや。ヒビキ様たちがいたからこそですよ。腕がほぼ取れかけていた者もいましたが、それも治してしまわれた。本当に感謝いたします」
そういって、ダザンさんが頭を下げてお礼を言ってくる。
しかし、僕たちの回復魔術の回復力の毎度ながら驚きだ。
ダザンが言っていたように、ほぼ腕が取れかけていた人や、グチャグチャに骨が粉砕されていた人もいたが、それも回復魔術で治ってしまった。
いや、実際、先生からぶった切られて治療をしているから、治るというのはわかるけど、それでもすごいと改めても思う。
そんなことを考えていると、フルフェイスの兜をかぶった兵士の人が近寄ってきて……。
「そうだな。コイクたちには感謝してもしたりん。兵士を減じることもなく、そのまま復職できるからな。全く、あの程度で情けのないことだ」
なぜか、とてもふてぶてしいことを言ってきた。
しかし、とても聞き覚えのある声で……。
「お、お前!! コイク様たちになんて失礼な言い方を!!」
「いやいや。ダザンさんちょっとまって、この声。ガーナンのおっちゃん?」
「は?」
ダザンさんは越郁の指摘に驚いたのか間抜けな声を出す。
それを見て、兵士は笑いながら兜を取ると、そこには……。
「ぶははは!! コイクの方が俺のことを良くわかっているな!! そうだ。ガーナンだ。ダザン。もうちょっと洞察力を養え」
ガーナン辺境伯様がいた。
一般兵士の格好で。
「それに、部下の鍛え方が足らん。奇襲に近かったとはいえ、門に取り付かれたあと、個別に対応したのは判断ミスだったな」
「はっ、それは申し訳なく。ってそこじゃないです。なぜガーナン様がこんなところに!?」
「こんなところじゃないだろう? ここは俺の町だ。守るのに理由がいるか」
「領主がこんな前線に出てどうするんですか!?」
「あ? 部下の仕事ぶりを見に来たんだよ。ま、コイクたちに本当に感謝しろ。コイクたちがいなければ兵士をやめることになったのや、命を落とすことになったのが5人はいたぞ」
「ぬぐっ」
「とりあえず。治療が終わったんだし、事後処理だ。コイクたちはすまないが、明日に治療費の支払いをするから城に来てくれないか? いまた立て込んでいてな」
そういわれて、ガーナンさんはそのままダザンを引っ張って行って、現場の指示へと戻って行った。
「じゃ、私たちも町に戻りましょうか」
「そうだねー」
「ツーチたちやスィリナも待っているだろうし、行こうか」
「だな」
僕たちも治療の仕事がなくなったので、町へと入ってツーチたちと合流することにした。
まずは、家の方に戻ることになった。
スィリナたちがもう報告を終えて戻っているかもしれなかったし、家の状態も確認したいのもあった。
それに、ナーヤさんも荷物は置きたいだろうし。
ということで、家の前まで戻ってくると、心がなんというか軽くなった。
「なんか、ただいまーって感じだね」
「わかる。もうこの家は僕たちの帰るべきところなんだなって思うよ」
「そうですね」
「私も、って言ったら嫌かもしれないけど、私もなんかほっとするわ」
ナーヤさんもそういって安心した感じだった。
「もう、ナーヤは仲間だしね」
「そうだね。ナーヤにはお世話になったし、もう身内だから」
「気にすることないですよ。さ、家に入りましょう」
「ありがとう」
そんなことを話して、僕たちは家の中に入ると、いい匂いが漂ってきた。
「「「ただいまー」」」
「おかえりなさいませ」
「おー、おかえり」
「もう少しでできますから、待っててください」
家の中では、ツーチたちが料理を作っていた。
どうやら、料理が完成するほど、治療していた時間は長くはなかったらしい。
「えーと、スィリナたちはまだ戻ってないみたいだね」
「はい。スィリナ様たちは、荷物を置いて冒険者ギルドに行ったまま、まだ帰っておりません」
「じゃあ、僕たちはこのままスィリナたちの様子を見に行くよ。帰るのが遅かったらそのまま食べてていいよ。夜には、先生に報告もあるからね。状況によってはそのまま訓練に突入だ」
「うん。可能性はあるから、十分に食べて休んでおくといいよ」
僕たちがそういうと、一緒についていくと言いたげだった顔はすぐに、上下に振って納得した。
……やっぱりというか、先生の訓練はすさまじい物なんだろうなと思わせるものだった。
そんな話をしている間に、ナーヤさんが荷物を置いてきたようでリビングに戻ってきた。
「さて、ご飯が冷めないうちに、2人を連れ戻しに行くわよ。ツーチたち、ちょっとだけ遅らせて、一緒に食べましょう」
「「「はい」」」
ナーヤさんにそういわれてツーチたちは元気よく返事をする。
こうなると、意地でもすぐに戻ってこないとな。
「よーし!! とりあえず、スィリナたちを引っ張って戻ってこよう。詳しい話はご飯を食べた後でも十分だしね」
「そうだね。僕たちもスィリナたちも疲れているから、まずは食事をしてからだ」
なんか、越郁も先輩も乗り気だな。
「じゃ、2人を連れてくるから、行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」
「なるべく早く帰ってきてくれよ」
「いってらっしゃい」
そんな声を背中に受けつつ、僕たちは駆け足で、冒険者ギルドへと駆けていった。
すると、その途中で、ラナさんがこちらに向かって走ってきているのに気が付いた。
「あ、コイク様!! それに皆様!!」
「やっほー。ラナさん。お仕事から戻ったよ」
「あ、はい。お疲れ様です。じゃなくて!! お話はスィリナ様たちから伺っています。そのことで、大至急冒険者ギルドに来てほしいのですが、ここにいるということは、門での負傷者の治療は終わったという事でしょうか!?」
「ふえ?」
なんか、ラナさんが凄い勢いで話しかけてきて、ついていけない越郁は反応できないでいる。
これは僕が聞いた方がいいなと思って代わりに口を開く。
「えーっと、負傷者の治療は終わりました。ガーナンさんからは、明日城に来るようにと言われています。で、冒険者ギルドで何かあったのでしょうか?」
「はい。スィリナ様たちから、とんでもない話を聞きましたので、辺境伯様からの要請がないのであれば、今すぐ冒険者ギルドに来てください」
「「「とんでもない話?」」」
なんか大事になるようなことあったっけ? と、4人で首を傾げていると、ラナさんはものすごい怒りの笑顔になり……。
「陸竜を倒したと伺いました。その遺体をヒビキ様が持っていらっしゃるということも。近場の村で陸竜が現れたとなれば、それは緊急事態になります。確認を急ぎたいのです」
「「「ああ」」」
そういわれて、全員、ラナさんが焦っていた理由がわかった。
しかし、僕たちにとっては、先輩がトイレの姿を見られて、黒焦げにされた可哀想なオオトカゲぐらいのイメージしかなかったので、そこまで危機感がなかったのだ。
それを見たラナさんは深くため息をつき……。
「……はぁ。ということで、冒険者ギルドまでご同行願えますか?」
「いいよー。陸竜は置いて行って、好きなだけ調べて」
「そうだね。僕たちはその間に、ご飯を食べてきますよ」
「はい?」
今度はラナさんが越郁と先輩が何を言っているのか分からない顔をした。
だが、言葉の通りだ。
「調べる時間がかかるでしょうから、私たちは一旦スィリナたちを連れてご飯を食べてくるわ。どうせ、すぐに終わる話じゃないんでしょう?」
「あ、はい。そうです」
「なら、食事に戻るのは問題ないでしょうか?」
「……ええ。そのためにも冒険者ギルドに陸竜をいいでしょうか?」
そういうことで、何か言いたそうなラナさんをよそに、冒険者ギルドで陸竜を置いてきて、さっさと逃げて……、じゃなくて、家に戻って行った。
「うおーい!? なんで戻るんじゃ!?」
モッサギルド長の声が聞こえた気がしたが、まあ、気のせいだろう。
まずはツーチたちが作ってくれたご飯を食べないとね。




