第60回活動報告:こんなことがありました
こんなことがありました
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「もー。で? 何があったの?」
勇也君にちょっと過激に起こされている越郁君。
夜警戒していてあまり寝ていない越郁君には悪いと思うけど、今は仕事の話が大事だから起きてもらうしかない。
「何があったというかね」
「そうだねー」
ナーヤとアノンは言いにくそうにしている。
そんな姿を見たスィリナは首を傾げる。
「ん? 原因を発見したのか? それとも見つけてないのか? どっちだ?」
「あー、たぶん。見つけたと思うわ?」
「いやいや、見つけて、倒したってのが正しいんじゃない?」
「なんだかはっきりしないな? 森の中で何があったんだ? ユーヤにヒビキ?」
「だね。どうしたの?」
そういって、今度は僕と勇也君に視線が集まる。
「えーと、簡単に言いますと。森の奥でドラゴン、ああ、ナーヤさんたち曰く陸竜って言うのに出くわしました」
「陸竜がいたのか!?」
「へー、ドラゴンがいたんだ」
勇也君の答えに驚くスィリナと対照的に全然驚かないコイク。
まあ、私たちにすれば、最初にいた不帰の森にはドラゴンがいたからそこまで驚くことではないのだが、スィリナの驚きようをみると、やはり異常事態のようだ。
「で、逃げかえってきたわけだ。どんな陸竜だった? 見たことのあるタイプだといいんだが」
スィリナはそういって、ナーヤとアノンに確認を取る。
その行動は常に先を考えるリーダーとして頼れるものだが……。
「そういうわよね。やっぱり」
「だよねー。まあ、とりあえず、見てもらえば早いんじゃない?」
「見てもらう?」
「そう。見たほうが早いわ」
「だって、その場で倒したし」
「はぁ? たおした?」
やっぱりというか、信じてもらえていない。
だが、嘘ではない。
流石にこの場に出せる大きさでもないので、一応最初から説明してみる。
「僕たちは昨日の夜、オークの巣、集落で様子を見ることにしたんだ」
「ああ、原因が戻ってくるかもしれないと判断したんだな?」
「そう。で、その判断は正しくて、朝早くに陸竜が戻ってきた」
いや、戻ってきたというのはどうなんだろう?
犯人は現場に戻るとかいうやつなのかもしれない。
と、そこはいいか。
「それで、戦闘になって、なんとか倒したんだ」
「……本当に倒したのか?」
「一応、ナーヤもアノンも証言しているけど。あと証拠もあるけど、この部屋じゃね」
収まりきれない。
出した途端に部屋が破壊されるのは目に見えている。
それだけ大きいのだ。
「……わかった。とりあえず、村長たちに話をしてこよう。いきなり陸竜の死体をこんな村で見せれば大騒ぎになるのは目に見えているからな」
「そうだね」
だからこそ、まずは話してみようということになったのだ。
ナーヤろアノンは絶対言葉だけでは信じてもらえないといっていたが、やっぱりその通りのようだ。
この一帯ではやはりドラゴンというのはそれだけ強力な生き物らしく、簡単に倒せるものではないと、ナーヤとアノンも呆れていた。
呆れていたというのは、早朝、僕が用を足しに少し3人から離れたときだった。
『ふう。すっきりしたけど。やっぱり、トイレのないところでの用足しは違和感しかないね……』
そういって、周りを見渡すと……。
『グルル?』
『……』
ヘンタイドラゴンがこちらを見つめていた。
下着を降ろしたままの僕を見つめていたのだ。
だから当然……。
『キャァァァァァ!!』
ズドーン!!
「……なるほど。それで、この陸竜はこうなったと」
スィリナはそういって、ヘンタイドラゴンを見つめていた。
いや、丸焼きドラゴンという感じで、元々の色はどんなだったか分からないくらい黒ずんでいたが。
「……話を聞いた時は、まさかと思いましたが、こうして陸竜を見せられると信じないわけにはいきませんな」
一緒に話を聞いていた村長さんも、黒焦げのドラゴンを見て引いている。
いや、ドラゴンに恐れおののいていると思う。
決して、私の所業にドン引きしているというわけではない。と思う。
「ま、こんな感じで、ヒビキのスゲー魔術で陸竜はこの通り」
「おそらく、危険は去ったと思うわ。だけど、この陸竜がどこから来たのかって話になるんだけどね」
「そうですね。村長さん。ドラゴン、この陸竜はこの森に昔からいたんですか?」
「いやぁ、そんな話は聞いたことはないですな。オークや狼がたまにはぐれで見るぐらいです。おそらく、どこからか来たのでしょう。そして、この森で暴れて、オークや動物たちが移動した。そんなところでしょうな」
確かに、村長さんの推測が正しいと思う。
日常茶飯事でこの森にドラゴンがいたのなら、今更オークや動物がいなくなるわけがない。
このドラゴンという脅威が森に現れたからこそ、森から逃げて行ったのだろう。
だが、ナーヤのいう通り、このドラゴンはどこから来たのかという疑問が残る。
「この森の周囲はどうなっているんですか? 近くにドラゴンの棲み処でもあるんですか?」
「そういうのも聞いたことがありませんな。近くにドラゴンがいるのならば、そもそも村を作ったりはしませんからな」
確かに。
近くに対処できない脅威があるのに、村なんて構えたりしないだろう。
「となると、いったいどこから来たんだろうね?」
「さあ。私には予想もつきません」
「「「うーん」」」
僕たちは首を傾けて色々悩んでいると、不意にアノンが口を開く。
「まあ、悩んでも仕方ないよ。まずは、これを冒険者ギルドと領主様に報告してもらって、しっかりとした調査隊を送ってもらう事じゃない? 私たちがここで悩むよりよっぽどマシだよ」
と、意外にと言ったら失礼かもしれないが、アノンからそういわれて、みんな驚きの顔をした。
「そ、そうね。私たちだけで判断していい話でもないわね」
「そうだな。アノンのいう通り、今は当面の危機は去ったということで、すぐに冒険者ギルドと領主様に報告へ行った方がいいだろう」
「でも、こんなドラゴンがいるんだし、村長さんたちはいざとなったとき逃げられる準備ぐらいはしてた方がいいかもしれないね」
「越郁のいう通り、カバンにでもとりあえずリーフロングまで逃げられる準備はしていた方がいいかもせれません」
「僕もそれがいいと思いますが、村長さんたちはどう思われますか?」
僕がそう村長さんたちに聞くと、悩むことなく頷いてくれる。
「アノンさんや皆様のいうとおりですな。陸竜がでたとあっては、もうこんな小さな村の蓄えだけで対処できる話ではありません。ご領主様も援軍を出してくれるはずです。どうか、ご連絡お願いできないでしょうか?」
「わかりました。確かにお伝えします」
そういって、スィリナが対応していると、越郁君が首を傾げながら質問をしてきた。
「あれ? じゃあ、普段はガーナンのおっちゃんは助けてくれないの?」
「いえ。巡回の兵士などは3日1度はこられますが、何せ僻地ですからな。本来であれば、この村に兵士など向かわせてもらえることもなかったのです」
「そうなの?」
「ええ。他の地方など、村などには、税を徴収するぐらいで、盗賊や魔物退治は自力でなんとかしろと言うのが多いですからね。ご領主様はご立派な方ですよ」
「へー」
なるほど。
まあ、当然というべきか、この魔物や盗賊が当たり前に蔓延る世界で、自分のお膝元をがら空きにして他の守りを優先するとこはないか。
いや、地球でも同じか。まずは自分を守れて、なんとかしてから、他の人を助けるんだ。
「オークの件でも多少ではありますが、領主様に話を通したときに、支度金をいただきました」
「そうなんだ。じゃ、急いで連絡してくるね。今すぐ行った方がいいんでしょう?」
「それはそうですが、ナーヤさまたちはお戻りになられたばかりでお疲れではありませんか?」
そういって村長さんたちは僕たちを見つめてくる。
確かに、普通なら森の奥深くでドラゴンを一匹仕留めてきたんだから疲れていると思うのは当然だろう。
だが、先ほど話した通り、僕が単独でドラゴンは倒してしまったので、疲れと言っても森の中を歩いたぐらいの疲労しかない。
その程度の疲労は、先生の訓練で嫌と言うほどやっているから、今更疲れたという枠に入らない。
問題は、ナーヤよアノンだけど……。
「私たちは何もしてないから疲れていないわよ」
「ただ森の中歩いてたぐらいだしね。村長さんに冒険者ギルドと領主様宛の手紙をもらったらすぐにでれるよ」
2人とも大丈夫のようだ。
となれば話は早い。
村長さんは、すぐに手紙を書き上げて、僕たちに託してくれた。
「では、私たちは町へと戻ります。どうなるにしろ、一週間以内には町からの連絡が来るはずです。それがなければ、何かトラブルがあったと思って村の方から連絡を取ってみてください」
「はい。何から何まですいません。そしてありがとうございます。道中お気をつけて」
そういって、村長さんたちは深々と頭を下げてお礼を言って、見送ってくれる。
さあ、僕たちは期待に応えられるように駆け足で、急ごうと……。
「この問題が片付きましたら、是非もう一度この村にお寄りください!! お礼を兼ねて、村を上げて歓迎させていただきます!!」
「「「お待ちしております!!」」」
しているところを、そんな声で止められる。
皆で顔を見合わせたあとは頷いて……。
「「「また来ます!!」」」
そう返事をして、僕たちは急いで草原を駆けて行った。
今回は、ツーチたちの体力もわかっているので、それなりの速度で、休みなしに駆けていき、村に向かった時よりも、早く町に着いた。
「おー、見えてきた見えてきた」
「まだ、お昼を過ぎたぐらいだね。かなり早く着いた」
町の壁が見えてきたことで、僕たちは走るのをやめて歩きに変える。
そして、歩いている間に相談を済ませて置こうという話になる。
「ツーチたちは大丈夫かい?」
勇也君がそう聞くと、3人は頷いて返事をする。
「はい。多少は疲れていますが、まだまだいけます」
「だな。少し汗かいているぐらいだ。よゆーよゆー」
「だいじょうぶです!!」
顔を見る限り、無理をしている様子はないから、大丈夫だね。
精神的にも、村のみんなから頼むといわれて出てきたから、やる気もある。
「よし。ツーチたちには、申し訳ないが、私たちの荷物をコイクたちの家に運んでくれないか? 私たちはこのまま冒険者ギルドと、領主様にご報告してくる。いいな? ヒビキ?」
そう確認を取ってくるスィリナに僕は頷く。
「それがベストだろうね。ツーチたちは、荷物を置いて、家に何も問題がなければ、僕たちに合流すること」
「家に問題ですか?」
「特に何か問題があるとは思っていないよ。でも、泥棒とかが入ってたのに、気が付きませんでしたってのはアレだし。一応、家の設備や備品がなくなったりしていないか、確認してくれ」
「なるほど。かしこまりました」
そんな感じで、町に入ってからの予定を考えていると、何か門の方が騒がしい。
「なんだろう……って!? オーク!?」
「なに!?」
「ほんとだ!?」
アノンのいう通り、なぜか、門にオークの集団が殺到していた。
その数30匹ほど。
この道は僕たち以外に旅人がいなかったから、異変に気が付かなかったけど、他の道は様子を見た旅人や商人たちが距離を取るために引き返したりしている。
「しかし、衛兵や冒険者が押しているところをみると、不帰の森のオークではなさそうだな」
「そうね。不帰の森のオークはかなり強いって聞いているし……って、そうなると」
ナーヤがはっとした顔つきになり、僕たちもある答えにたどり着く。
「もしかして、村の近くの森から逃げたのがこっちにきた?」
「可能性はあり得るけど、今はオークを退治するのを手伝おう」
「おっけー」
「どのみち、あいつらを退治しないと町に入れませんからね」
「任せてください」
「やってやるぜ!!」
「がんばります!!」
ということで、町に入るのに邪魔なオークの集団に僕たちは襲い掛かるのであった。




