第59回活動報告:夜番
夜番
活動報告者:海川越郁 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「大丈夫でしょうか?」
そういって、森を見つめているのはツーチだ。
ゆーやたちが森に入って行ってもうかなり時間が経っていて、すでに日は暮れている。
ちょっと暗いどころか、今日は雲だ出ているので、森の方は漆黒の闇に包まれている。
そんな中にゆーやたちがいるというのは、不安なのだろう。
それに、いつも家の中は寝る時以外は明々と電気がついて明るいからね。
この村の日々は夜になると、灯りは蝋燭ぐらいで、すぐに寝静まるから、夜が本番のツーチたちにとっては違和感があるんだろうね。
いままで地獄の訓練だったし。
と、そんなことはいいか。
「大丈夫だよ。やばそうだったら逃げてくるし、いざとなれば……」
「いざとなれば?」
「必殺。先生呼び!! があるからね」
「ああ……。それは、怖いものはありませんね……」
「でしょ? さ、もう暗いし、部屋に戻ろう」
私はそういって、ツーチを連れて部屋に戻ると、中ではスィリナ、ファオン、アンも起きて室内で話をしていた。
「ありゃ? 寝ないの?」
「いやー、コイク様。この時間はマンナ様にしごかれてたからさ」
「はい。なんか眠れないです。それに、ゆーやさまたち大丈夫でしょうか?」
「あの4人がどうかなるとは思えないがな。まあ、私は警戒で起きているのは知っているよな」
3人とも違う理由で起きているようだ。
ファオンは先生のしごきせいで、アンはツーチと同様森に入って行ったみんなが心配で、スィリナは一応村に魔物が来ないとは言い切れないので、村長たちと話し合った結果、私とスィリナが夜番で起きているということになったのだ。
「あー、結局みんな起きてるのか。どうしようか?」
「どうしようって言われてもなー。訓練するわけにはいかないし」
「早く寝たほうがいいんでしょうか?」
「私としては話し相手がいて助かるな。じっと静かに起きているのは結構きついからな」
確かに、何もしないで、寝ている時間に起きているというのは案外辛いものがある。
私もゲームや本がないのでどうしたものかと思っていたところだ。
「じゃ、とりあえず。何か雑談でもしようか? って、3人は何か話してた?」
「いや、これと言ってとくには話はなかったな。剣の手入れをしていた」
「うん。なんとなく起きてただけだな」
「はい。思い思いに過ごしていました」
3人特にこれといったことをしているようではないので、私は懐から、トランプを取り出す。
「あ、トランプです」
「おー、持ってきてたんだ。コイク様」
「忙しいと使う暇はないだろうなとは思ってたけど、アイテム袋があるし、待機中は逆にこういうのがあった方がいいと思ったからね。スィリナはどう思う? やって問題ないかな?」
「別に正規軍というわけでもないし、眠気が紛れるからいいだろう。ちなみに、私もトランプは好きだ」
この3人もリーフロングの家でトランプをやっているので、思ったよりも乗り気だった。
スィリナが難しいかなーと思ったけど、賛成してくれてよかった。
それからは、しばらくトランプで遊んで、ファオンとアンが眠くなったので、そのまま終了して、夜の静けさの中、スィリナと一緒にのんびりしている。
2人だと神経衰弱ぐらいしかやれないからね、少しやったあとはお茶をのんびり飲んで待機することになったのだ。
「ほい。お茶」
「ああ。ありがとう」
2人は寝ているので、静かに窓際によってお茶を飲むみながら、雑談することにした。
「ねえ。スィリナはこんな感じで、2人、ナーヤとアノンと別行動っていう仕事は経験あるの?」
「いや、あまりないな。ほら、町を助けたって時は、個別に指揮を執っていたからな。その時ぐらいだな」
「ありゃ? じゃあ、結構心配?」
「いや、そこは心配していない。私はユーヤとヒビキは信頼している。無論、コイクもだ。それに私が信頼のおいているナーヤとアノンが組んでいるのだから、どうにでもなるだろう」
「おー、そこまで信頼してもらえるとは……」
「何を言っているんだ。あれだけ実力を見せつけて、さらにはリーフロングではさんざん世話になった。これで信頼しない奴は頭がおかしいな。何かするなら、リーフロングで何か起こっている」
「ごもっともで。じゃ、今回の調査で、何か発見できると思う? それとも原因を見つけれられると思う?」
この手の仕事はしたことがないから、私は今後の展開がさっぱり読めないので、スィリナに聞いてみたかったのだ。
ファオンたちが起きていると、不安にさせる可能背もあったから、寝静まった時に聞いてみたんだけどね。
で、スィリナは少し考えたあと、口を開く。
「……うーん。原因は、正直難しいと思っている。森はそこまで大きくないとはいえ、それは他に比べてというだけで、人が隅々まで調査するというのは非現実的だろう。まあ、だが、何か原因のきっかけぐらいは発見できるかもな。森の中をこれだけ静かにしたんだ。痕跡が全くないというほうが変だろうからな」
「確かに」
やっぱりというか、なんというか、私たちの今回の仕事は特に成果を上げられそうにないか。
まあ、拍子抜けだったり、安心したっていうのもあった。
いきなり大仕事で、大活躍とかは、ラノベの世界だけだよねー。
ただの強い敵を倒せって仕事じゃないからね。
いきなり、村の防衛戦だよ?
そんなの無理に決まってるじゃん。
そりゃ、多少はせんせいから人を使う、指揮するときの講義は受けたけど、絶対本番だと失敗する自信があるね。
と、そこはいいや、スィリナはゆーやたちが大した成果は上げられないと思っているわけだ。そこが大事。
「となると、村の仕事はこれで終わりで、ガーナンのおっちゃんに引き継ぎって感じになる?」
「おそらくそうなるだろうな。いや、確実にそうなるな」
「確実に?」
「ああ。私たちが原因と思しきものを退治したり、見つけて対処したとしても、それで終わりと判断するのは、私たちじゃない」
「そっか。私たちが終わらせたよってだけじゃ、信用ないもんね」
「信用もそうだが、村の近くでここまでの異変が起こっているんだ。領主として動かなったというのは、体面上悪いだろうな」
「そっちかー。やっぱり領主って大変なんだねー」
「簡単になれるものではないだろうな」
将来的にそういうのを目指している私たちにとっては、結構面倒な問題だよねー。
なんかこう、代官とか優秀な人材を集めて、そこらへんをカバーしてもらう。
私はどうも苦手だ。せんぱいやゆーや主導になるだろうね。
「さらに、移動したオークの集団がいるという報告もしないといけないからな。下手をすると、私たちは仕事の報告をおえたあとは、そのオークたちを追いかけて討伐しろっていう仕事をしないといけなくなるだろうな」
「あー。オークが別の場所で人を襲う可能性があるわけか。で、その被害が出る前に退治をってことか」
「そうだ。状況を知っている私たちが頼まれる可能性は高いだろうな」
「確かにねー。わざわざ、説明して引き継ぎとか面倒だし、私たちがやった方が早いよね」
となると、次の仕事も決まった感じ?
「まあ、コイクたちや私たちの戦力から考えて、討伐部隊に組み込まれる可能性の方が高いと思うがな」
「結局、またここに戻ってくるのかー」
「それは間違いないだろう」
うへー。
ちょっとした簡単な魔物退治かと思えば、大事になっているから、案外ラノベみたいな展開になってる?
いや、ちゃんと下地は積んでいるし、ある意味必然?
とりあえず、ゆーや、せんぱいとしっかり話して今後の方針はしっかり決めて置こう。
「まあ、どうなるかは結局、ナーヤたちが無事に戻ってきてからだ。ナーヤたちに何かあれば、私とコイクで捜索という面倒になる」
「それもそれでいやだなー。手間がかかるうえに、厄介なのがいるって確定だし」
どのみち、私たちは面倒にしかならないのか。
……仕事は常時依頼の討伐だけにしておこう。
ちょいと、真面目なお仕事をと思えばこれだよ。
案外、ラナさん狙ってこの仕事回してきた?
いや、それなら、薬草の仕事を出さなかっただろうし、運がないってやつか。
「コイクたちは初めての仕事でこんなのに当たるとは不幸だったな」
「だねー」
「コイクたちが強いのは昨日の魔術を見せてもらったことで、理解しているが、ツーチたちのこともある。無理だと思えばすぐに撤退するぞ。いいな?」
「異議なし」
私たちだけならともかく、ツーチたちは初心者だし、村の人たちのこともあるから、無理はできないのはわかっている。
避難を優先して、ガーナンのおっちゃんに協力を要請して、最悪、せんせい出陣を願おう。それで何とかなる。
「ま、今後の話はいいとして、スィリナはなんで冒険者になったの? そういえば聞いたことなかったよね。ナーヤのことは聞いたけどさ。言いたくないことだったらごめんね」
「ああ、そういえば、話してなかったな。別に隠すような話でもないさ。私はこんな感じの村の生まれでな。別に今のように、有名な冒険者になるという願望もなく、ただ村を出て、外の世界を見て見たいという子供らしい動機が、冒険者になった理由だ」
スィリナは特にためらうことなく、冒険者になった経緯を話してくれた。
ただの村娘が外の世界を見たいがために冒険者になっというある意味当然で、ある意味豪快な話だ。
「親御さんとかに反対されなかった?」
「もちろん反対されたさ。女子供が冒険者になんてなれるわけがないとな」
当然の話だ。
魔物とか盗賊が闊歩する世界で、女子供が旅をして無事でいられる可能性は限りなく少ない。
しかも、その魔物や盗賊と対峙する可能性が高い冒険者となれば、無事でいられるのはほんの一握りだろう。
「しかし、そこで言う事を聞いては、そのまま村で一生を過ごすことになる。それは嫌だったからな。こっそり荷物をまとめて、夜に飛び出したわけだ」
「夜に? よく無事だったね」
「今思えば運がよかったんだろうな。武器もナイフ一本だけだった」
「すげー」
どんだけ根性あるんだろう。
いや、なるほど。これだけの根性があったのだから、こうやって有名な冒険者になっていると思えば納得の始まりだ。
とまあ、そんな感じで、雑談を興じつつ、夜が明けるまで起きていたのだが、特に何か起こるわけでもなく、太陽が空に昇り、無事に朝を迎えた。
「ふぁ。あ、いつの間にかねてたか」
「うーん。おはようございます」
ファオンとアンも起きて、一緒に朝食を取ったあとは、私たちは入れ替わりに寝ることにする。
「あとは頼むぞ。ファオン、アン」
「じゃ、何かあったら起こしてね」
そんな感じで、私とスィリナはベッドですやすやと寝た。
やっぱり、徹夜は慣れていないので、ベッドで目をつぶったらすぐに寝れた。
いや、そういえば、ゲームとか本を読んでて徹夜はよくあったかな?
まあ、旅先での夜更かしはそうそうないからそういうことで……ぐう。
「……ろ。……きろ。……おきろ」
ん? なんか揺さぶられている?
もう、まだ眠いのに……。
「こーいーくー。おきろー」
……この声は、ゆーやか。
もう、そんな時間だっけ?
いや、ゆーやが起こすときは、10分前後は余裕があるからまだ寝られるはず。
「あと、10分」
私はそういって寝なおそうとすると、頭に何かが直撃する。
ゴンッ!!
「のぉおぉぉぉぉおおーーーー!?」
私は頭を抑えながら、ベッドから転げ落ちる。
いた、いた、いたーい!?
「なんだよゆーや!! 前からいってるでしょう!! やさしく!!」
「やさしくしてたよ!! 相変わらず起きないよな越郁は。周り見ろ」
「は? まわり?」
そういわれて周りを見ると、みんなが私を見つめていた。
「おはよう?」
「ああ、おはよう。越郁君。徹夜明けですまないけど、起きてもらえるかな?」
「ナーヤたちが、森の奥で色々あったらしい」
「ごめんね。なるべく早く済ませるから」
「いやー。すまないと思うけどねー」
「ということだ。色々あるから起きてくれ」
ようやく頭がはっきりしきた。
つまり、みんな帰ってきたわけだ。
「……あー。そっか、ゆーや。みんな。おかえり」
「「「ただいま」」」
よーし。
とりあえず。あと10分。
ゴンッ!!
「のぉあおぉあぉあぁおー!?」




