第58回活動報告:森の深部へ
森の深部へ
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
さて、僕たちは再び森の中にいる。
すでに夜は明けて、次の日になっており、僕たちは村長たちの頼みにより、予想通り森の深くへの調査をすることになったのだ。
やはりというか、リーフロングのガーナンさんに頼むにしても、未だに確定した情報はないし、僕たちとしてもオークを倒すこともなく、ぼーっとしているわけでもないけど、流石にしっかり仕事を果たしたか? と言われると首を傾げるザルを得ないので、こうして、森の深くの調査に協力しているのだ。
「言われて気が付いたけど、本当に変ね」
「ですね。森の中で、鳥の鳴き声どころか、生き物の気配すらないですから」
今回はスィリナさんと、コイクと入れ替わりに僕とナーヤさんが森の調査に行っているのだが、改めて森の中をしっかり確認すると、静かすぎて変だということに気が付く。
「僕も気が付かなかったし、案外勇也君やナーヤたちが調査に行った初日は普通だったのかもしれないね」
「あー、その可能性はあるわね」
確かに、僕たちがいかに森になれてないとはいえ、ここまで静かな森に入って違和感を覚えなかったというのは不思議だ。
まあ、絶対とは言い切れないから、なんとも言えないけどな。
「ま、どちらにしろ、今回は私たちで奥深くまで行ってみればわかるよ」
アノンはそういいながら先頭でずんずん進んでいく。
「だけど、森の奥深くってどのぐらいの所って予想はついているんですか?」
「うーん、そこは行ってみるしかないってところよね。一応、キャンプ道具も持ち出しだし」
「まあ、勇也君の心配もわかるけど、二泊してわからなければ戻ることになっているし、そのあとはまた村長さんたちが判断することだよ」
「あー、そうですね」
なんか勝手に森が静かな原因を見つけなければと焦っていたみたいだ。
初めての仕事で気負ってるのかな?
「アノンさん。こんな感じで、目標が見つからないってタイプの仕事ってよくあるんですか?」
「んー? あ、そうか。ユーヤたちは初めての仕事だしね。肩透かしだと心配になるよね。まあ、よくあるとは言わないけど、討伐依頼の魔物がいないとかは、たまにあるよ。そういう時は、複数のパーティーが入れ替わりに行って、いなければわずかだけど依頼成功ってことになってお金がもらえる。他のパーティーが倒したらそっちに全部行く。仕事は失敗になるけど、まあ魔物だしね。ペナルティはそんなにないかな? 今回のように村が危機にってのなら話しは別だろうけどさ」
確かに、アノンさんのいう通りだ。
魔物だってじっとその場にいるわけがないんだから、絶対見つかるわけもない。
それを発見できなかったからと言って、仕事失敗にしては、冒険者も依頼主も困るだろう。
だから、複数を行かせて確認をしっかりするわけか。
しかし、今回はそうもいかないって話なのかもしれない。
だから、奥深くまでしっかり調べる必要があるってことだ。
何もなければ村にとってはそれがいいんだ。
まあ、お金は無駄になるかもしれないけど。
そんなことを僕が考えていると、先輩も気になることがあったのか、ナーヤさんに質問をしていた。
「ナーヤたちは、今回のように、依頼とは別の仕事になったという経験はあるのかい?」
「んー。経験っていうならあるわよ。でも、そうそうあることじゃないわね。今回のような仕事は珍しいわ」
「だね。ま、ある意味。ヒビキたちが色々持っているのかもね」
そういわれると、否定できないな。
この世界に来たこともあって、笑い飛ばせないでいる。
それは、先輩も同じようなことを思ったらしく、僕に近づいてこっそり話しかけてきた。
「……今まで、すっかり忘れていたけど、案外、この世界に僕たちを呼び寄せたっていう女神の仕業って線もあるかもしれないね」
「……僕もそんなことあるかもって感じになってきました。とりあえず、今日の夜にでも越郁に連絡をとって伝えてもらいましょう」
「うん。それがいいだろうね」
この世界に来た、呼ばれた理由か。
今までのんびりと過ごしてきたから、すっかり頭の隅に追いやられてたけど、先生がいうこの世界の調査の一つに、僕たちを呼んだとされる女神に関することもあるのだから、ある意味避けては通れない問題なのかもしれない。
「いままでずっとリーフロングにとどまっていて、しびれを切らしましたかね?」
「どうだろうね? まあ、それもこの森の奥を調査すればわかることだよ」
「ですね」
そんな話をしながら、僕たちは森の深くへと分け入る。
幸い、前日までのように、オークの集団の痕跡を探すわけではないので、一気に奥へと進んでいく。
最初の時とは違い、この森にも多少慣れてきたこともあり、進む速度はかなり早い。
まあ、一番の原因は森が静かすぎることで、野生動物や魔物を警戒して進むことがないのが大きいだろう。
「さーてと、そろそろ、森の深層近いから、みんな注意してね」
先頭を歩いていたアノンさんがそういう。
「わかるんですか?」
「んー。なんとなくね。間違っているかもしれないけど、空気が違うんだ」
「空気?」
「香りかもしれないかな? なんというか、緑が濃くなったっていうか……」
んー、僕はいまいちアノンさんの言うことがピンとこないでいると、横にいる先輩は何やら納得したようにうなずいていた。
「ああ、なるほど。確かに、ここは緑が濃いからね」
「緑が濃い? ですか?」
「あー、じめじめしているといった方がいいかな?」
「ああ、それそれ」
そういわれて、僕とナーヤさんは森を見渡してみると、確かに、薄暗くてじめじめしてる感じがあるのはわかる。
「じめじめしていて、コケなどが生えているってことは、それだけ木々が育っていて、地面に日や風が当たらないって状況なんだ。ほら、森の入り口はしっかりと乾燥していただろう?」
「言われてみればそうね」
「確かに」
幸いこの調査期間は雨の一つも降っていないので、乾燥しているはずなのに、今の足場は土というより、水を含んだ泥に近い。
木々も入り口にあったモノよりも、大きいものが多く、逆に若い木が見当たらない。
「こういう場所ってさ、そうそうできるものじゃないんだよねー。木の成長度合いからみてもさ、ここはずいぶんと人の手が全然入ってない場所なんだ。人が生活するには、開けた場所がいるからね」
「ふむ。アノンの言うことはわかるわ」
「となると、ここからは気合いを入れたほうがいいってことだね?」
「そうそう。ここら辺にオークの集団が住んでいた場所があるかもしれないしね」
なるほど。
今までオークの巣とかは見つけられなかった。
つまり、森の奥にオークたちがいた場所、巣が存在している可能性が高いわけだ。
そして、そのオークたちが移動した原因も近くにある。あるいは、いるのかもしれないということ。
僕たちはアノンさんの言う事を理解して、警戒を一層強めて森の深くへと足を踏み入れた。
「足元がコケになっているところが増えているから、注意してね」
そんな注意を受けつつ、僕たちは森の深部の探索を続ける。
しかし、やっぱりおかしい状態は変わらないようで……。
「ここまで来て、本当に一匹も動物に会わないって言うのは、流石におかしいわよ」
ナーヤさんがそう呟いて、辺りを見回す。
僕たちもそれに倣って、辺りを見回すが、森はずっと静かなままだ。
いや、静かというより、生物の営みが感じられない、死んだ世界のようだ。
とはいえ、木々だって生きているのだから、それはやっぱり大げさなのかな?
「鳴き声すら聞こえないからね」
「アノンさん、何か方針とかないんですか?」
「方針ねー。まあ、あるにはあるけど、あまり気は進まないんだよね」
「とりあえず、言ってみなさいよ。このままあてもなく、こんな森の深部を歩くのは嫌よ。気味が悪いわ」
「とりえあず、アノンさんの気が進まないっていう方針を聞いてから、その方針にのるかどうか決めたらどうです?」
「まあ、そうだね。じゃ、いうけど……」
そうして、アノンさんが提案したのは、思ったより単純な事だった。
・オークの集団がいたということは、深部に巣がある可能性が高い。そこを調べることで、何かわかるかもしれない。
・しかし、何か原因があった場合は、その原因と出くわす可能性が高いということ。
「なるほどね。気が進まないのはわかるわ」
「オークたちや森の動物たちが逃げ出した原因ともなると、酷い病気か、強い魔物だろうからね。厄介なことになるのは目に見えている」
「でも、結局はその原因を探さないといけないんだから、こっちから見つける方がいいんじゃないですか? オークの巣とかにいる確率は高そうですし」
僕がそういうと、みんなは頷く。
「ユーヤのいう通りだね。幸い戦力は高いし、強くても離脱はできるさ」
「そうね。安全にと言っても、この森が静かな原因を調査しないといけないんだから、原因がいそうな場所に行く方がいいわね」
「ずっと周りに気を遣うのもあれだし、オークの巣を見つけたらそこでキャンプも案外いいかもしれないね」
ということで、僕の意見が採用されて、オークの巣を探すことになった。
最初は簡単に見つかるのか? という心配はあったが、すぐにオークたちがいた痕跡を見つけて、それをたどることになり、そこまで時間はかからずオークの巣を発見した。
「これは、何かに襲われたって感じね」
「だねー。やっぱりというか、厄介だね」
ナーヤさんとアノンさんはそういいながら、テントの残骸のような中を歩く。
僕たちの方は周囲を警戒して待機しているので、2人を眺めるような感じだ。
「オークの巣って言うからには、洞窟みたいなものを予想してたけど、思ったよりも文明的なんだね」
「そうですね。テントも作っているし、皮をなめすとか、武器も持っていましたし、不帰の森のオークも」
「そうだったね。でも、見る限り、ただ巣の移動をしたって感じじゃないね」
「ですねー」
ナーヤさんとアノンさんが詳しく調べてはいるが、どう見てもこれはただの移動ではない。
テントの残骸は畳んだのではなく、破壊されているのだ。
一軒二軒ならたまたまで納得できるが、見る辺りほとんどのテントが倒壊している。
「というか、この巣からみるに、最低でも10世帯はいたんだろうね」
「1世帯3人としても、30人。……かなりの数がいたんですね」
「そんな数のオークの移動をみた狩人さんたちが慌てるのは納得だね」
たしかに、最低でも30人?匹?の集団が移動していれば、慌てるに違いない。
オークは力が強く、初心者冒険者ではまず勝てず、一般的ば冒険者が一対一でようやく、中堅であり、パーティーメンバーがいてようやく集団討伐を受けられるってラナさんが言ってたもんな。
だから、僕たちに依頼してきたわけだ。
今更ながら、この依頼を僕たちに任せたラナさんやギルドの考えが、身に染みてわかった気がする。
集団といっても精々4、5人ってイメージだった。学校の教室のグループみたいな認識。
そこらへんも、やっぱり、日本の感覚なんだろう。
そんなことを考えていると、巣? 集落?の様子を見てきたナーヤさんとアノンさんが戻ってきた。
しかし、その顔色はいいとはいえず、苦虫を嚙み潰したようよな顔をしている。
「最悪」
「やっぱりでもあるけどねー」
「何か見つけたのかい?」
先輩がそう聞くと、2人は頷いて、口を開く。
「足跡よ。この巣を襲ったと思われる足跡」
「ついでに食い散らかしもね」
「食い散らかしですか?」
「そうだよ。あっち」
アノンさんの指さす方向を見て見ると、こん棒に腕だけが付いていた。
食い散らかしという話から察するに、あの腕だけを残して後は食べられたのだろう。
先輩もその跡を見て、ナーヤさんに視線を向ける。
「オークが逃げるような、魔物というと大型だよね?」
「ええ。足跡から察するに陸竜の一種だと思うわ」
「りくりゅうですか?」
「そうだよ。空を飛ばない竜。トカゲの大きいようなやつと思ってくれればいいよ。でも、厄介なんだよね。そういう陸竜ってのは大抵妙な能力があるから……」
そういって再び巣へと視線を向けるアノンさん。
僕たちも一緒に破壊された巣を見て、沈黙するのであった。
これから、どうするんだろう?




