第56回活動報告:調査二日目
調査二日目
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「ちぇー。コイクたちは何も見つけられなかったか」
「そう簡単に見つかれば、誰も苦労しない。というか、この村にとってはいいことだろう」
「そうだね。私たちが見つければいいんだから。頼りにしているよ。アノン」
「よーし。任せてよ。先輩冒険者として、良いところを見せてあげよう」
「ヒビキ、あんまりおだてないでくれ。調子に乗る」
「はは、これでおだてられるといわれてもね」
僕はそう苦笑いしながら、スィリナたちと共に森の中を進む。
アノンのいうように、昨日の越郁君たちの探索ではオークの群れを発見できなかった。
足跡も形跡も何もかももだ。
てっきり足跡ぐらいはと思っていたんだが、これは骨が折れそうだ。
ああ、昨日の村で待機している間に呼び捨てでいいと言われたので、いまはこんな感じで呼んでいる。
「しかし、案内の狩人さんでも連れてくればよかったかな? 昨日の越郁君たちは何も見つけられなかったみたいだし」
「うーん。そこは私も考えたが、オークの群れと遭遇した場合、狩人の安全がな」
「下手すると囲まれるからね。私たちはいいけど、狩人さんを守りながらってのはなかなか厳しいかもねー。まあ、これで見つからなければ、連れて行けばいいんじゃない?」
「そうだね。それがいい」
僕はこの手の仕事に関しては素人だ。
2人の言っていることは理にかなっているし、文句を言うつもりはない。
やはり、この仕事に来て正解だと思う。
こうやって、色々学ぶべきことは多い。
アノンのいう通り、人を守りながらという状況はいままで僕たちは経験したことがない。
いずれ経験することにはなるのだろうが、必要もないのに関係のない人を危険にさらす理由もない。
「とはいえ、次に狩人さんを連れて行くときは、全員で言った方がいいかもね」
「確かに、3人では狩人のフォローは難しいだろう」
「うーん。そうなると、村の方の防衛がまずくないかい?」
「ツーチたちを残すとか?」
「まあ、それもありだろうが、ツーチたちに防衛戦が務まるか……」
「でもさ、こっちに連れてきても狩人さんの護衛ぐらいでしか役にたたないよ?」
「難しいね。明日以降のことは戻ってからじっくり話そう。今日の探索でオークの集団が見つかればいいわけだし、今は集中しよう」
「そうだね」
「そうだな」
というわけで、また調査を再開するが、そう簡単に見つかるわけもなく、休憩時間になる。
「見つからないねー。本当にいたのかな?」
「この森で生計を立てている狩人が見間違うわけないと思うがな。勘違いだったにしては冒険者ギルドに依頼までしてきたんだ。単なる損では済まされないぞ。村の共有財産を目減りさせたんだ。下手すると狩人は村を追い出されるぞ?」
「スィリナのいうように嘘じゃないと思うけど。足跡も見当たらないってのはおかしい気がするね。まあ、見つけらられてないだけなのかもしれないけど」
不帰の森ほどではないとはいえ、この森も広い。
ちゃんと動植物が住みかとしているんだから、人が簡単に踏破できるような大きさではないのだ。
とはいえ、集団でいたというオークの痕跡がないのはおかしいと思うんだけどな。
足跡は葉っぱなどの上を通ったり、雨なんかで消えたとしても、集団で移動したのなら、排せつ物や、食事の後なんかがあるはずなんだけど、それすらも見当たらない。
そのルートを見つけていないと言えばそれまでだけど、魔力探知に何も引っかからないんだよね。
かといって、魔力探知の関係をスィリナたちに言うのは説明が面倒だしね。
「ま、焦っても仕方がない。今日は地道に探すだけだ」
「仕方ないかー」
「と、追加のパンはいるかい?」
「「いる」」
そういわれて、追加のジャムパンを渡して、のんびりとした休憩を送り再び森の中の調査を続けると、木々が倒れているところへとたどり着く。
「……ここをオークが通ったのか?」
「そうかなー? オークがこんなにバキバキと木を折れるわけがないと思うけど?」
「アノンの意見に賛成かな。オークでは木々はなぎ倒せないだろうし、なぎ倒せるとしたらそれだけすごい魔物とかがいたってことになる」
「確かに、これはオークの仕業ではないな」
「でも、魔物って感じはしないんだよね」
そういいながらアノンは無残に折れた木に近寄り観察をする。
「一帯に血はないし、これさ、昨日ナーヤが言ってた、コイクやユーヤの魔術の後じゃない?」
「「あー」」
そういわれて、納得がいった。
越郁君たちはナーヤと実力把握として、魔術を見せることになったのだが、思ったより手加減か聞かなくて辺りを吹き飛ばしたと聞いた。
あれだけ練習してなぜ? と思っていたが、どうやら、不帰の森では魔術の威力が抑えられているらしく、外で使うと威力が上がるらしい。
ならリーフロングで魔術を撃ったのに? と思ったが、リーフロングは不帰の森を切り取って作った町らしく、場所的には不帰の森の範囲なんだそうだ。
そこで、大火力の魔術を撃ったからなおのこと驚かれたというわけだ。
そして、マンナ様こと里中先生は恐れられるようになって、僕たちにとってもありがたいことになったようだ。
「そういえば、リーフロングにいると魔術の威力が落ちると言われていたな」
「使ってなかったから判らなかったね」
「ん? その様子だと、2人とも魔術が使えるのかい?」
「つかえるぞ。といいたいが、牽制程度だな。ファイアーボール」
「だね。ストーンボール」
2人はそういって魔術を放つと、倒壊した木に当たり、跡を残す。
跡を見るに、確かに牽制程度だろう。
スィリナのファイアーボールは表面が焼け焦げたぐらい。
アノンのストーンボールも小石を投げつけたようなレベルで、急所にでも当たらないと致命傷にはならないだろう。
「まあ、こんなものだ」
「でも、これはこれですぐに飛び道具が使えるから便利なんだけどね」
「確かに、飛び道具が使えるのは便利だね。しかし、アノンはエルフだからてっきり魔術が得意かと思っていたんだけど、人それぞれってことかな?」
「どちらかというと、ヒビキのいうように、魔術が得意なものが多いな。エルフが多い国は魔術が強いとよく言われる。このアノンは珍しいタイプだな。身体能力強化に特化している」
「近接戦ができないと、エルフだって辛いからね。まあ、それでもコイクには軽くあしらわれたけど。これでも強いつもりだったんだけどなー」
「アノンは十分強い。冒険者のランクがそれを証明している。が、考えなしの上に、喧嘩を売った相手が悪かったな。私もあの場面はアノンがちょっと灸をすえて、終わりだと思っていたのだが、あっさりとアノンが返り討ちにあって唖然としたものだ」
「まあ、世間知らずだったからね。コイクも僕たちも。それを教えてもらえてありがたかったよ。こうして一緒に行動もしてもらえるから、あの出会いは今となっては笑い話だよ」
「そうだな。アノンがあっさり組み伏せられてギャーギャーいってるのは笑えた」
「なにをー!? と、もういい加減そのくだりはあきたし、ヒビキの魔術を見せてもらおうよ」
ということで、僕も魔術を撃つことになったのだが、威力が上がっているという話からどれだけ加減をすればいいのか分からないので、2人にはあらかじめ離れてもらい、スィリナと同じようにファイアーボールを唱えてみる。
ズドーン!?
結果、木が吹き飛んだ。
いや、木を巻き込んで辺り半径5メートル範囲が吹き飛んだ。
「……ん? 爆発の魔術だったか?」
「……いやー。見た目はファイアーボールに見えたけど。発音もファイアーボールだったし」
アノンのいう通り、ファイアーボールのつもりだったんだけど、スィリナのいうように、爆発の魔術に見えるのは間違いない。
というより、2人ともわかっているような感じだ。
だって、セリフが棒読みだからね。
「……思ったよりも威力が上がっているみたいだ」
越郁君の話を聞いてそれなりに出力は絞ったはずなのに、このざまだ……。
ああ、もしかして、スキルの賢者とかいうので魔術の威力に補正があったからかな?
「次はもうちょっと押さえてみるよ」
「おー、そうしたほうがいいだろう」
「そうだねー」
と、いいながらスィリナとアノンは僕から遠ざかる。
何か言うべきかとおもったが、予想以上の威力で当たり前の反応だよね。
火力が調整できない人なんか信用できるわけがない。
2人が下がったのを確認して、もう一度ファイアーボールを放つ。
ボムッ。
今度は上手くいったようで、木は幹が半分ほどえぐれた状態でギリギリ立っていた。
……うん。上手くいったんだよ。そういうことにしておこう。
「かなり加減してこれか」
「うひゃー。コイクが魔術使わなくてよかった。私、今生きていることに感謝するよ」
とまあ、そんなことがありつつ、私も何度が魔術を撃ち調整できたと思う頃には、見るからに森が開けていた。
「これで、ここに村が作れるな」
「そうだねー。開拓の手間が省けたかな」
スィリナやアノンのいう通り、村ぐらいならできそうな広さを魔術でやっていた。
「生態系に影響がないといいけど」
自分でやっといて、今更ながら生態系を気にしてしまった。
「というか、こんなに騒ぎを起こしてオークたち逃げちゃわない?」
と、アノンの一言により、仕事失敗かと焦ったが……。
「いや。それならそれでありがたいだろう。オークたちは逃げて私たちは村を守ることに成功したということになるから、無駄に戦闘もなく楽だろ」
「あー、そういう考え方もあるか。死体の処理とかも大変だしね」
「今回に限っては、ヒビキたちがいるから死体処理は楽だけどな」
「あ、そっか。なら倒そう!! がっぽがっぽだよ!!」
「がっぽがっぽと言ってもオークだしな。しかもまだ見つけていない」
「そういえば、形跡全然ないよねー」
そう、結局、魔術の練習はできたが、オークの痕跡はまだ見つかっていない。
僕の魔術練習も終わったことだし、もっとしっかり捜索してみようということになって、3人でもうちょっと森の奥深くまで入ってみることになる。
「こんな奥かなー?」
「私たちと狩人の距離間隔が違う可能性もあるからな」
「十分にあり得るね」
なじみの森を歩きなれた人と、歩きなれてない人では距離間隔が違って当然だ。
まあ、それも考えて1時間近く最初から多めに歩いていたのだが、その予測よりももっと奥深くだったという可能性も捨てきれない。
だが、これだけ歩いて疑問に思うことがあった。
「そういえば、ここまで歩いてい来る間、全然動物を見なかったけど、狩りってそんなものなのかい?」
僕がそう聞くと、スィリナとアノンは足を止めて、振り返る。
「確かに、言われてみれば変だな」
「鳥一匹みてないよね。地面を歩く動物は敏感だから逃げるだろうけど、それでも何か気配を感じるはずなんだけど……」
2人とも僕が言ったことに、首を傾げる。
やはり、この森の状況はおかしいらしい。
「そもそも、オークの集団が村の近くに来たという話だけど、元々この森にはオークはいるって話だよね」
「ああ、この森は不帰の森ほどではなくとも、それなりに大きいからな、森の奥深くには多くの魔物がいて、未だ未開拓らしい」
「まあ、元々王都から離れて、リーフロングの近くだからね。魔物の巣があるかもしれないこんなところを開拓するなら他の方に力を入れるよね。現にリーフロングは、不帰の森を切り開いて希少な資源を取りに行っているし」
「アノンのいう通りだな。この程度の森はよくある」
ふむふむ。
その話を聞いて私はあること予想を建てた。
「もしかして、何か森の奥で魔物同士の大きな縄張り争いとか起こっているかもしれないね」
「ああ、それで、オークたちは逃げてきたのか」
「もう見かけなかったのは、他の場所に移動しているから?」
「まあ、予想だけどね。未だにオークの足跡すら見つけていな……」
そう言いかけて地面を見ると、人が通ったような跡を見つけた。
背の高い草を切り分けて進んでいるような感じの道?とは言いにくいがそんなのがあった。
「あれは、オークのだったりするかい?」
「ん? おお。ちょっと調べてみよう」
「おー」
ということで、調べた結果私たちはオークの集団が移動した痕跡を見つけたのであった。




