表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自然散策部ではなく異世界調査部だったりします  作者: 雪だるま弐式


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/78

第55回活動報告:森の中での雑談

森の中での雑談



活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員



「ふぁ~ねむい」


そんなことを言いながら歩くのは越郁だ。

昨日はさっさと休むつもりだったのに、色々放出して、仲良くなって宴会みたいになった。


「まあ、ああいうのもいいと思うわよ。おかげで村の人たちとは仲良くなれたし。こういうのは大事よ。後ろを心配しなくていいんだから」

「そうですかね」


そんな風に越郁のフォローをするのは、ナーヤさんだ。

実は今、この3人で森の探索をしている。

当初は、スィリナさんたち、僕たちと分けていたのだが、元々連携の話もあり、偵察というのに慣れていない僕たちが仕事をするのは不安だというのを言うと、臨時の混成をすることになった。

ナーヤさんが僕たちのチームついてきてくれて、先輩がスィリナさん、アノンさんと一緒に村で警備にあたっている。

まあ、向こうは向こうで、色々確認をするらしい。

この一週間で偵察のメンバーを入れ替えるので、スィリナさんやアノンさんからもちゃんと動きを学べるように考慮してくれている。


「……で、ナーヤ。森の感じは?」

「今のところ感じないわね。まあ、まだ入って2時間ほどだし、こんなものよ。すぐに見つかる位置にオークの集団がいればもう村は襲われているわよ。鼻はいいからね」

「ああ。そういえば、不帰の森のオークも鼻が利いたね。ゆーや」

「だな。追いかけまわされた」

「へー。不帰の森のオークも鼻はやっぱり利くのね」

「そういえば、ナーヤさん。やっぱり魔物って、その地域で特色がでたりするの? こう武器が違ったり体毛の色がとか」

「あー、そういうのはあるわね。木の多いところは武器がこん棒だったり、岩があるところは石斧だったり、体毛もなんか地域で灰色だったり茶色だったりてのは見たことがあるわ」


やっぱり、そういうのはあるのか。

魔物といっても、動物と変わらない感じだ。

人を襲う習性があるって話だが、そこはなわばりの関係だろう。

話が通じないわけでもないし。ああ、不帰の森のオークたちからドラゴンを横取りした時は申し訳なさでいっぱいになったな。


「でも、こんなにのんびり話しながら進んでいいんですかね? 普通は息をひそめて、静かに移動するんじゃ? こう周り囲まれたりとかしませんか?」


自分で言ってなんだけど、生命探知とかの索敵は常にしているからありえないんだけど。


「うーん。時と場合によるわね。今回に限ってはこうやって動き回るのが正解。何せ見つけ出したい目標がいるから。人を襲うタイプなら襲ってくるからね。そういうのに限って隠密とかしないし。まあ、いないってわけじゃないけど。そういうのはこの森で生息しているなんて話はきいていないわ」

「へー。隠れて襲ってくる魔物かー。それってヘビみたいなの?」

「そうね。その手のタイプもいるけど、面倒なのはゴースト系ね。足音がしないから、魔力感知がないとびっくりするわよ」


いるんだ。お化け。


「お化けかー。となると、ゾンビもいる?」

「いるわね。とても臭いし、人の亡骸だから、好き好んで仕事を引き受ける人はいないわね」

「「あー」」


この世界の人だって好き好んでグロを見たいとは思わないよな。

どっかのゲームでグロは慣れたけど、臭いはなー。

と、そんな話をしながらサクサクと森を歩いていく。



「……かれこれ4時間か」

「これで、ようやく猟師たちが言ってた場所ぐらいね」

「地元の人じゃないですからね。でも、ここら辺にも特に何も感じませんね」


幾ら僕たちが優秀な冒険者とはいえ、警戒しながらサクサク歩いて、慣れた猟師と同じ速度で森を進めるわけがない。


「で、どうするの? 予定通り深く入ってみる?」

「そうねー。一旦、休憩して、様子を見てからね。帰りのこともあるから、奥に行けても1時間がいいところだけど」

「それは仕方ないですね。今日の所は様子見ですし」


本格的な調査は次回からだ。

なれていないうちに、森の奥深くに行くというのは流石に僕たちも避けたい。

そういうことで、食事をしながら休憩をする。


「で、ナーヤ的には、猟師さんたちが見たっていう話はどう思う?」

「見間違いって言うのはないと思うわ。だって毎日、獲物を探して生きる糧にしている人たちだからね」

「まあ、それはそうですね。となると、オークの集団はいると?」

「たぶんね。一匹ならまだ見間違いって言ってもいいんだけど、流石に複数、集団を見間違うのはありえないし」

「移動してたってことは、別にこの森にいるってわけじゃないよね?」

「その可能性はどうなんだろう?」

「なくもないわね。その時は予定通り一週間村と森を行ったり来たりね」

「うへー」

「別に、僕たちが一週間全部行くわけじゃないだろう。明日は、先輩たちだろ」

「まあねー」

「正直、オークが見つかれば見つかったで、集団がどこから来たのかとか、殲滅できたのかっていう確認もあるし、追加でギルドに派遣人員頼まないといけないから、多変になるかもね」

「うひゃー。どっちもどっちだね」

「だから、下手な冒険者は引き受けなかったのよ。こういう仕事はどこまですれば完璧なのかわかりずらいからね」

「なるほど」


こんな面倒なことは確かにしたくないし、簡単に受けていいものでもない。


「逆にわかりやすい仕事もあるからね。指定魔物の討伐とか、素材の回収とかがそうね。こういうごちゃごちゃした内容はランクの高い冒険者にしか任せないわ。そういう判断もできる優秀さがいるってわけ」

「そうなると、私たちだけでこれを受けるのはやめた方がいいね。まだ冒険者としては初心者だし」

「まともな仕事は全くしたことがないからな」


この仕事が初めて町の外にでる仕事だし。


「……うーん。まあ、言っていることは正しいわ。自分の実力を過信しない、安全を確認して、当然のことね。でも、私としては、なんとかなりそうな気がするのよね」

「その評価は嬉しいですけど、失敗すれば村の人に迷惑がかかりますからダメですよ」

「私たちだけなら好き勝手出来るんだけどね」

「大事な依頼者の希望をくみ取っているから、問題ないとは思うんだけど……。まあ、悪いことじゃないからいいのよね。どうも、私としてはコイクたちは、あんなといっちゃ悪いけど、リーフロングを出て世界を見に行くべきだと思っているのよね。きっと、大きなことをしてくれる予感がするの」


ナーヤさんの僕たちへの期待がなぜかでかい。

なんでだろうな?


「なんででしょうね。ま、それだけの何かがあるのかもね」


なんか、考えていることとナーヤさんのセリフが被った。

しかし、ナーヤさん自身もなんでそんなことを思っているのか分からないようだ。


「なはは。その期待に応えられるよう頑張ってみるよ」

「ええ。私の予感が外れていないって証明してくれればうれしいわ」


やめて。その調子に乗りやすい越郁をおだてないで。無茶なことやるから。


「まあ、それはいいとして、ナーヤさんは魔術タイプでしたっけ?」

「ええ。そうよ」

「どんな魔術を使うんですか?」

「ああ、そういえばアンナとは少し手合わせしたけど、スィリナとナーヤとはないよね。やっぱり炎?」

「うーん、残念ながら炎じゃなくて、水ね。炎は火矢程度ね。というより、私は治療が専門なのよ」

「あー、シスターみたいな恰好なだけあるの? というか、シスターさん?」

「元が付くけどね。まあ、シスターと言っても田舎のくいっぱぐれた子供が教会に捨てられて、そこからちょっと頑張った結果かな」

「回復魔術師が教会から抜けられるものなの? 重宝されるんじゃない?」

「重宝はされたわね。主にお金儲けで」

「あー。それで嫌気がさして?」

「いえ。上司に歯向かってクビよ。おかげで田舎から出る羽目になったわけ。ま、ぶんなぐってやったからすっきりしたけどね」

「ナーヤさんやるー」

「それで、ブラブラしている時にスィリナに誘われたってわけ」


やっぱり、ナーヤさんだって色々あってここにいるんだな。

そんな感想を抱いていると、今度はナーヤさんから質問が飛んでくる。


「そういえば、私のコイクの体術は見たけど、ユーヤやヒビキはもちろん、コイクの魔術はみたことはないわね。すごいってのは聞いているけど」

「ああ、そういえば見せてなかったね」

「だな」


言われて気が付いた。

コイクとアノンさんが出合い頭で争っただけで、それ以降は話し合いですんだので、お互いの詳しい実力はしらない。


「まあそれを、今回の仕事でそれを把握しようってはなしだけどね」


ああ、そんな話だった。

ツーチたちの意外な戦闘力のおかげですっかり忘れていた。


「ということで、ここまでくれば、人目につかないし、オークがいるなら騒動を起こして引き寄せられるかもしれないから、ここでお互いの実力把握でもしない?」

「おー。さんせー」

「僕も賛成です」


話を聞く限り、メリットの方が多い。

まあ、加減をしないと森が吹き飛びそうなので、そこらへんは調整しないといけないだろうが。

そういうことで、僕たちはさっそく魔術の試し打ちをすることになった。


「じゃ、まずは私からね。最初は基本的な魔術の威力から見せあいましょう。それ!! ウォータースパイク!!」


ナーヤさんがそう魔術を唱えると、水の針?棘みたいなものが空中に出現し、目の前の木へと突き刺さる。


「すげー。突き刺さった!!」

「すごいな」


水の棘は木に刺さったあとも消えずそのまま残る。

なんで、刺さった後も形を維持しておく意味があるのかは不明だが、あれかな? 貫通した時のことを考えているのか。

刺さった時点で水に戻ったら、後ろの敵に攻撃は届かないから。

触ってみると、硬い。

水というより、氷に近いのかもしれない。


「えーと、喜んでくれて何よりだけど、これぐらいは序の口よ? コイクたちもこれぐらいはできるわよね?」

「んー。たぶん」

「同じものは難しいけど、似たようなことならできるかもしれないです」

「まあ、得意な属性は違うからね。私のは見せたし、今度はコイクたちよ」


そういわれて、コイクが前にでて、半身を引き、胸に拳を構える。


「よーし。いくぞー。こんな感じだったかな。ウォーターパイルバンカー!!」


いや、それ、棘じゃなくて杭になってないか?

つか、構えは正拳突きじゃね?

と、突っ込む前に、パイルバンカー(水)は木へと飛んで行き……。


どっかーん!?


木に大穴を開けて、そのまま後方の木も削り取りながら、森の奥へと消えて行った。


「やりすぎだ」


こつんと越郁の頭を叩く。


「んー。遠くまで飛ばすつもりはなかったんだけどね。近距離で消えるってシステム難しいね」

「そんな器用なことしなくていいから、普通に撃ちだせばよかったのに」


近距離で止めたいなら、パイルバンカーの発射速度から考えて、コンマ1秒ぐらいの設定がいるだろう。そんなの即席で出来るわけがない。

あーあ、森の被害はさほどではないけど、パイルバンカーが飛んで行った先に無関係な人とか動物、魔物がいないといいけど。

そんなことを考えていると、傍観していたナーヤさんが口を開く。


「……おっそろしい威力ね。突き刺したというより、突き壊したって感じね。確かに、コイクのいう通り、近接ですぐに展開できるなら、魔術師も近距離で十分に戦えるわね。もっとも、魔術師本人の体術がいるだろうから、そこを覚えないといけないだろうけど」


なぜかナーヤさんは、越郁のバンカーを見て、魔術師の新たなる方向性を見出しているらしい。

格闘魔術師。まあ、漫画とかではよくあるし、新たなる道の開拓というのは悪いことではないはずなので、そっとしておこう。


「じゃ、ナーヤさん。僕もやりますね。ウォータースパイク」


僕は越郁と同じようなことはしない。

ナーヤさんがやったものと同じ魔術をはな……。


チュィン!!


なんというか、甲高い音を立てて、木を突き抜けた。

いや、綺麗に貫通したといった方がいいだろうか。


「おー。ゆーや的にはこれがいいわけねー。まあ、威力は一点に絞られているからこっちの方が、周りの被害は気にしなくていいか」


……すまん。突き刺さる程度のつもりだったのに、なぜか突き抜けた。

銃弾とかでも、木なんか厚みのある物体を貫通なんてそうそうできないのに。

どういう理屈だ? この仕事が終わったら、先生に聞いてみよう。


「……こっちは、不意打ちにとても便利ね。矢みたいに物体が残らないし、奇襲されたってことにも気が付かないわ。これもかなりすごいわね……」


あー、そういう使い方もあるな。

ナーヤさんに言われて気が付いた。

やっぱり、こういうことは色々人を交えて意見を貰った方がいいんだなー。

と、木漏れ日の差す森の中でのんきなことを考えているのであった。


あ、まだ仕事中だったな。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ