第54回活動報告:明かされる実力の一端
明かされる実力の一端
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「え? ええ!?」
「わ、私たちですか!?」
いきなり戦闘をするようにと言われたツーチとアンは慌てている。
まあ、普通はそうだろう。
だが、訓練の賜物か、慌ててはいるが、腰に佩いていた武器はすでに抜いて構えているあたり、里中先生がすでに体に染み込ませているというのがわかる。
で、ファオンだけは、全然慌てている様子はなかった。
意外と言えば意外なのだが、元冒険者だから当然と言えば当然だ。
まあ、そのファオンの存在もあって、みんな戦闘を任せてもいいと思ったんじゃないだろうか?
そんなことを考えていると、慌てている2人に対してファオンが声を掛ける。
「ツーチ、アン、落ち着け。来るぞ」
「わ、わかりました!!」
「は、はひっ!!」
「大丈夫。マンナ様の訓練を思い出せばいい。あれに勝る恐怖はない」
「「了解」」
……一気に冷静になったのは、ファオンのおかげでもあるけど、その後ろに大きく先生が立っていたのは間違いない。
そして、3人が立て直したのを見て、僕たちは気配を消してツーチたちから離れる。
一緒にいれば、ゴブリンたちが僕たちを狙いかねないからね。
スィリナさんたちも、見事なぐらいに気配を消して一緒に下がる。
そして、20メートルほど離れたとき、茂みの中から小柄な人らしきモノが3匹飛び出してきた。
肌は緑色……いや若草色が正しいか?
後はエルフのような耳と長い鼻で、装備はこん棒に腰ミノという感じだ。
そんな感想を思っていると、ファオンが叫ぶ。
「ツーチ!! アン!! ゴブリンで間違いない!! 遠慮はいらねえ!! 一人一匹ずつ!! いいな!!」
そういうなり、ファオンは返事を待たずにすぐにゴブリンへと間合いを詰めて……。
「ギィィ……!?」
スポーンとゴブリンの首が空を舞う。
ファオンの動きに難のためらいもなく、首を的確に斬り飛ばした。
冒険者をやっていたとは聞いたけど、やっぱり本当のことだったんだと、今更ながら思った。
で、ツーチとアンだが、流石にファオンのようにはいかず……。
「そ、それ!!」
「う、たぁ!!」
なんとも心もとない掛け声で、お互いゴブリンの足を切り付けるだけに留まる。
まあ、悪くないと思う。足が傷ついたせいでゴブリンの動きは確実に鈍った。
だが、その後の2人の反応がおかしかった。
なぜか、切り付けたあと不思議な顔をして首をひねっていたのだ。
「2人とも、止めだ!!」
「あ、はい!!」
「うん!!」
しかし、ファオンの声ですぐに我に返り、動きの鈍ったゴブリンに止めを刺す。
それで、安心するのではなく、辺りの警戒に移っているので、合格だろう。
「おおー。お見事。でも、警戒解いていいよ。他にいないから。でも、なんか途中変だったね」
越郁君も同じことを思ったのだろう。
拍手をしながら、ツーチたちに聞く。
スィリナさんたちも同じ感想を持ったのか、頷いている。
「確かに、ゴブリンの足を切ったあと、動きが止まったのは、戸惑いではなかったな」
「そうねー。なんとかいうか、驚きなのかしら?」
「そんな感じだったね。……ああ!! 思ったよりも、あっけなかったってやつでしょう!?」
アノンが自信満々にそういうと、ツーチたちは頷く。
「はい。思ったよりも、手ごたえがなくて」
「もっと強いかと思ってました」
なるほど。そっちで戸惑っていたのか。
まあ、先生の訓練を受けていたらゴブリン程度はね。
と、思っていると、3人の口から驚愕の事実が語られる。
「まあ、不帰の森でオークの相手をしてたからな。私はともかく、ツーチとアンはそりゃ拍子抜けするだろうさ。なにせゴブリンだし」
「ええ。ここまで弱いとは思いませんでした」
「マンナ様は油断しないようにって言ってたから」
「「「……」」」
どうやら、すでにこの3人は不帰の森にて、オーク退治をしたことがあるような口ぶりだ。
流石に予想外ですよ先生。これはやりすぎではないでしょうか?
「ま、まぁ、動けるのはわかったからいいだろう」
「……動けるというより」
「戦力として考えていいレベルだよねー……」
スィリナさんがそうまとめるが、ナーヤさんとアノンが正直な戦力評価をする。
……あとは経験さえ積めば、パン屋じゃなくて冒険者でやっていけるんじゃないか?
うーん。とりあえず、進路相談はこの仕事の後にしてみよう。
ここまで強いとは思わなかったよ。
「ツーチたちの実力もわかったところで、休憩はどうする? 続ける?」
「んー。僕はもう行っていいと思うけど、実際働いたのはツーチたちだしね。どうだい? 疲れてるかな?」
「いえ。ユーヤ様。意外な弱さに驚きはしましたが、疲れていません」
「はい。じゅうぶんに休めました」
「うん。あれじゃ準備運動にもならないね」
3人はそこまで疲れていないらしく、僕たちはそのまま移動を開始することになる。
そして、そのまま走りっていると、一時間ほど過ぎたところで中間地点の目印である大きな木が見えてきたので、位置確認も兼ねて再び休憩となった。
「大きな木だねー」
「ざっと20メートル近いな」
「そうだね。不帰の森レベルだね」
単体でポツンと大きな木があって、そう感想をもらしたけど。
僕たちがいた不帰の森はこの大きさがデフォルトだったから、結構すごい森だったんだろうな。
日本では精々7、8メートルぐらいだからね。20メートルもあると、圧倒される。
もっとも、杉とからな最大屋久杉とかが30メートル近いらしいけど、日本の森の環境では精々15メートルがいいところで、植林も多いから精々7、8メートルの間が多いわけだ。
しかし、ここまで3時間か。
時速約15キロ前後で3時間だから、45キロほど走ったわけだ。
あと半分ってことは村までは90キロってところだね。
道にもよるけど車でも2時間ぐらいの距離だね。
「なるほど。不帰の森の奥はこんな木が生い茂っているのか」
「面倒そうね」
「だねー」
私たちの言葉にそう感想を漏らす。
「はい、森の中ランニングではとても大変でした」
「下手な魔物よりも硬いからな」
「です」
……先生、なんでここまで急いでたんですか?
いや、先生に感謝をしないといけないのだ。彼女たちを強くしてくれて、僕たちに手間がかからないのだから。
とまあ、トラブルがあったのはこのぐらいで、その後の後半の道のりは何もなく進み……。
「あそこだ。あの、森の手前にある村が目的地の場所だ」
「へー。思ったよりも家があるね。てっきり、家が精々十件ぐらいかと思ってたけど」
「いやいや、コイク。それだと、魔物に襲われて終わりだから。そして冒険者の依頼のお金も出せないから」
冷静なアノンのツッコミだったが、僕にとっては納得のできる説明だった。
当然のことなのだが、言われてみて初めて気が付くという感じだ。
村とはいえ、数にすれば100人以上は硬いだろうと思う。
日本みたいに閑散とした様子ではなく、誰もが近場の畑に出ていて賑やかと言っていいだろう。
日本みたいに車などの移動手段もないし、働く場所もないのだ。
となると、この村の生活の糧は畑で耕したモノや、狩猟して取れたモノしかない。
当然、村はそれなりに賑わうのだ。
下手をすると、都会のお昼の住宅街より人がいる気がする。
正直な話、活気で言えばこの村の方がある。
仕事で疲れて帰ってくる日本の人々にくらべれば、泥にまみれているが、和やかに話しながら畑仕事に勤しんでいる姿はまぶしい。
日本はこういうモノを失ったんだなーと思わずにはいられなかった。
近所付き合いとか、今の日本に存在しているのか怪しいからね。
「とりあえず。村に入って話を聞きませんか?」
「そうね。ユーヤの言うとおりね」
「そうだね。情報と、今日の寝床の確保をしよう」
勇也君の言うことはもっともなので、すぐに村に入る。
すると、やはり視線が向けられる。
「だれだ? あの姉ちゃんたち?」
「随分と若いな?」
「行商か? でも、馬車もないもないなー」
どうやら、僕たちは村の人たちからすると冒険者に見えないようだ。
まあ、当然か。こんな僕たちを見て凄腕の冒険者と思う人の方がおかしいと思う。
そんなことを思っていると不意に冒険者って言うのは見た目も大事だという話を思い出した。
僕たちもやはりなにか、凄いぞというわかりやすい何かがいるんじゃないかな?
後日、検討してみよう。
そんなことを考えていると、白いひげを生やしたお爺さんと、同じようなひげを生やしたごついおじさんが出てきた。
「お嬢さんたち、なにかようですかな?」
「こちらの方は村長。私はこの村の自警団のリーダーだ。村に危害を加えるようであれば私が容赦はしないぞ」
なるほど。
この人が村長か。そして、隣のおじさんが護衛の人ってところかな。
さて、この状況で冒険者と言って信じてもらえるのか……。
と思っていると、村長さんが口を開く。
「……ん? その鎧は……、もしかして冒険者さんかい?」
「はぁ? 村長何言ってるんだ。こんな嬢ちゃんたちが村の依頼を受けた冒険者なわけないだろう?」
「まあまあ、落ち着いて。とりあえず、冒険者ならカードを見せてもらえるかな?」
どうやら、村長さんはスィリナさんのスケベ鎧の意味を知っているらしく、すぐに冒険者カードの提示を求め来た。
やはり、判りやすいという目印は必要なのだと強く実感した。
冒険者カードを受け取った村長さんと自警団の叔父さんはカードを確認して、スィリナさんに返した。
「遠路はるばる、こんな辺境のところまで、まさかランク7の方が来られるとは思いませんでした」
「し、しかし、私たちには、高ランクの冒険者を雇うような余裕は……」
「いえ、そこはご心配なさらずに。ちゃんと冒険者ギルドを通していますので提示された額で納得して引き受けております。余分に取ろうとは思いません」
スィリナさんの言葉で、自警団のおじさんはホッと息を吐く。
なるほど、何か袖の下を要求されるのかと思っていたのか。
「さて、こんなところで話もなんです。どうぞ私の家へご案内しましょう」
そういうことで、僕たちは村長さんの家へと招かれることになる。
「へー、思ったよりもしっかりしてるんだ」
「こら、越郁。失礼だぞ」
「あ、ごめんなさい。別にぼろいって意味じゃ……」
「いえいえ、お気になさらずに。こんなはずれの村にこんな綺麗な家は似つかわしくないは自分でも理解しておりますから」
越郁君の発言にひやひやしたが、村長さんはにこやかに返してくれる。
あとで、越郁君に注意しておかないとね。
勇也君はなんだかんだ言って甘いから。
「前に魔物襲撃があった時に半壊しましてな。立て直したのですよ」
「あー、なるほど。だから、今回は事前にというわけですね」
「はい。ご理解いただけて何よりです」
被害が出たという話は聞いたが、やはり自分の目で見て見ると違う。
この人たちは真剣に問題を解決したくて、依頼を出したのだ。
大げさでもなんでもない。死活問題なのだ。この人たちとっては。
「では、さっそくですが、明日の為に話だけでも聞いていいですか?」
「はい。ありがとうございます」
「依頼の内容によればオークの群れが現れたとか」
「ええ。詳しくはこちらの自警団のマーロウから説明させましょう。マーロウ」
「はい。実は……」
マーロウさんから聞いた話は、冒険者ギルドで聞いた内容と違いはなかった、森で狩り採取をしている時にオークの集団を見つけ、討伐してほしいという話。
場所は、森の中に入って3時間ほどの場所とのこと。
村の守りも考えて、村の方にも人数を割いて欲しいということが、追加という感じかな?
「ふむ。まずはオークの集団を見つけるのが目的だし、私たちのチームとコイクたちのチームで別れよう。ツーチたちは村で待機だな」
スィリナさんの提案には特に反対することなく、僕たちは明日に備えて早々に寝ることになったのだが……。
「ほーー。甘くておいしいですな。ジャムをまさかパンにいれるとは」
「町ではこんな美味いものが売られているのか」
「おいしいでしょー。バンバン食べてー。作りすぎた分があるからねー」
その前に、村のみんなと一緒に騒いで寝るのが遅くなったりならなかったり……。




