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自然散策部ではなく異世界調査部だったりします  作者: 雪だるま弐式


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第53回活動報告:初めての旅

初めての旅



活動報告者:海川越郁 覚得之高校一年生 自然散策部 部員



「さーて、色々あったけど、今日を無事に迎えられたねー」

「そうだな」

「うん。よかったよ」


私たちはそういいながら、日が昇る前に家の前に立っていた。

そう、今日はいよいよ、冒険者としての仕事だ。

不帰の森に行く前の肩慣らしというやつではあるが、私たちにとっては初めての外へでて冒険者として仕事をするので、色々ドキドキワクワクだ。

今までは持っていた素材を売るだけだったからね。どちらかというと商人に近いだろう。


「というかさ、多かったねー」

「多かったな。商業ギルドや冒険者ギルドは早朝が混むとは聞いていたけどあそこまでとは思わなかった」

「だね。冒険者ギルドはともかく、商業ギルドは昨日、パンが出来たときに納品するべきだったね」


せんぱいのいう通り、せめて商業ギルドへの委託販売用のパンは昨日渡しておけばよかったと思うぐらい、人で溢れかえっていた。

農家の人は朝が早いって言うのは本当なんだねと生で実感した。

冒険者ギルドの方は、出発の宣言をしておかないと、いざというとき捜索隊が出ないらしいから、ちゃんと当日報告したのだ。

登山届みたいなもんだね。

そんな話をしているうちに、スィリナたちが家から出てきた。


「おもったよりも遅かったな」

「そうね。何かトラブルでもあったのかと思っちゃったわ」

「だねー。で、何かあったの?」


スィリナたちはここ最近一緒にパン作りで朝早く起きていて、本日も朝早く起きて、出発準備をして家で待っていたのだ。


「いや、商業ギルドも冒険者ギルドも人が多くてさ」

「「「ああ」」」


私がギルドが混んでいたというとあっさり納得する。


「冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドもあったな」

「なっとくね。どっちも朝は混むから」

「分けて行けばよかったね」

「「「ああー」」」


アノンの発言にそうすればよかったと3人で声をだす。

ギルドに行くんだから3人で行って挨拶したほうがいいかなと思ってたんだけど、ここまで時間がかかるなら、アノンのいう通り別れて済ませたほうが、手間は半分だっただろう。


「お待たせしました。家の施錠は確認しました」

「火の元もちゃんと消えているのは確認した」

「お荷物も持って用意は万全です」


最後に家の戸締りの確認をしていたツーチたちがスィリナと太刀と同じような、大荷物とまではいかないけど、カバンを背負って家から出てきた。

二週間近く旅をするのにはギリギリまで減らしたような感じで、背中に大きいカバンを背負っているだけだ。

ちゃんと、買った武器は腰につけているけど、私たちから見ればまだぎこちない気がする。

まあ、心配性な親の目というやつかねー?

とはいえ、下手に手を貸すわけにはいかない。

これはツーチたちの経験の為であり、今までの訓練がちゃんと出来ているか?というのを見るためのものでもある。


「よし。戸締りも終わったのなら、行くか」

「そうね。さっさと行きましょう」

「馬車で3日なら私たちで走れば1日半ぐらいでいけるからね」


スィリナたちのいう通り、今回は馬車や馬に乗ったりはしない。

オークの群れがいるかもしれない以上、馬は襲われて逃げればいいももの、殺されたりすれば、損失が大きい。馬車も同じように、というか機動力がなお低いので向かない。

色々物資を運ぶとかには便利なんだけどね。普通の人には。

一部の人には私たちと同じようにアイテムボックスを持っている人もいるので、あまりありがたみがない。

まあ、長距離の旅にはテントを建てる必要がないので、帆立て馬車は便利だろうけど。

と、そんなことを考えている間に、門の前まできて、いざ出ようとしていると上から声を掛けられた。


「おーい」

「んー?」


上を見ると、ガーナンのおっちゃんがこっちに手を振っていた。

横にはダザンさんもいてこっちに頭を下げていた。


「おー、お見送り?」

「そうだな。この後、見回りもあるからついでもあるがな」

「えー。気を付けてねとかないの?」

「んー。コイクたちが危険だとなると、その時はこの町を放棄しないといけないだろうからな。死ぬ前に逃げてくれると俺としては助かる」

「現金だなー。ま、その時は逃げるよ」

「おう。ユーヤ殿もヒビキ殿も気を付けてな」

「はい。ガーナンさんもダザンさんもお気をつけて」

「家の方は一応防犯はしていますが、何かあればよろしくお願いします」

「ああ、任せて置け。じゃ、いい旅を」


そういわれて、私たちは送り出された。

短い期間しかまだ滞在してないけど、どこうやって見送りしてくれる人が出来たって嬉しいね。


「……コイクたちは本当にすごいんだな」

「……そうね。ガーナン辺境伯様が見送りなんて」

「……うん。私、自重するよ」

「やはり、コイク様たちは素晴らしい主様です!!」

「すげー。コイク様についていって正解だった」

「すごいです!!」


他の6名はどうやら、ガーナンのおっちゃんが見送りに来てくれたことにやたら驚いていたり、興奮していた。

おっちゃんは気さくなのにね。


「いやいや、辺境伯様をおっちゃん呼ばわりとか」

「コイクはすごいわね」

「流石に私もそんなことはできないよ」


と、スィリナたちから私が非常識みたいなことを言われた。

いや、本人がOKしてくれたから呼んでるので問題ないからね。

私が非常識というわけじゃない。

そんな話をしながら、ある程度リーフロングの町から離れるのを確認して、私たちは一旦止まる。


「じゃ、そろそろ走ろうか」

「そうだな」


この世界。レベルとかあるおかげで、身体能力が高い人はとことん高い。

私たちもそうだけど、スィリナたちも高いので、馬とか馬車を借りなかったという経緯がある。

だが、いざ走るとなると問題になるのが、ツーチたちのことだ。


「3人はきつかったらすぐに言ってね。おんぶするから」

「無理することはない。たった一週間程度で強くなるならだれも苦労しないからな」


私とスィリナでツーチたちにそういう。

正直、ツーチは無理を言って走るとか言いそうと思っていたんだけど。


「はい。その時はすぐに申告させてもらいます。意地を張ってはかえってコイク様たちの足手まといになりますから」


と、あっさりしていた。納得の理由もついていたので、安心した。

ファオンとアンも同じように頷いていたので、走りだすことになったんだけど……。



「……あれ? おかしくね?」

「……おかしいね」

「……結構スピードでてるんだけどな」


走り出してしばらくして、私たちはツーチたちの異常に気が付いた。

横を走っていたスィリナたちも同じことを思っていたらしく、私たちがその疑問を口にした途端に会話に入ってきた。


「……一体どんな訓練をしたんだ? この速度についてこれるなんて中堅の冒険者並みのはずだぞ」

「ファオンはともかく、ツーチはお嬢様って感じだし、アンちゃんに至ってはまだ子供よね?」

「まあ、別にいいんじゃない。予定より速度出せてるだし。思った以上の実力ってことなだけでしょ」


スィリナとナーヤは困惑しているが、アノンはお気楽に考えているようだ。

まあ、教えたのがせんせいだしね。

これぐらいは予想しておくべきだった。

とりあえず、ツーチに話しかけてみる。


「ねえ。ツーチ、きつくない? 休憩する?」

「いえ、まだ疲れていません」

「ファオンは?」

「私も別にいいや。というか、こうやって走ってみて実感したけど、ずいぶん実力上がってるよな。アン」

「はい。ファオン様には全然でしたけど、毎日重い荷物を背負って走っていたり、戦闘訓練した結果はちゃんとでているからすごいです!!」


元冒険者のファオンはともかく、一般人のはずのツーチにアンもケロッとしていてまだいけると答えるのに内心驚く。

マジでどんな鍛え方したのせんせい……。

2人から休みたいという話を貰って、休もうと思っていたのだが思惑が外れた。

いや、2人が大丈夫って言うならいいんだから、いいのかな?


「しかし、この見渡す限り草原の中のどこに森があるんだか」

「まあ、人の目線の高さから見える先は精々4キロ先ぐらいだからね。馬車で凡そ3日ってことは、最低50キロ近くはあるだろうし先は長いよ」

「50キロっていうと、他県まで行けるぐらいですね。そりゃ遠い」

「今時速何キロぐらいで走ってたっけ?」

「えーと、時速計だと16キロだね。市民マラソンだと男性の部類で、マラソン選手のトップは時速20キロ越えるよ」

「おおう。なんのチートもなく、鍛えただけでこの速度を超えて走るマラソン選手恐るべし」

「いや、厳密には僕たちみたいに荷物は背負ってないからな。越郁」

「あ、そっか。つまり、その荷物を背負って平気で走っているツーチとアンは化け物か!?」

「いえ。普通に鍛錬の賜物です」

「です!!」


ちっ、これだから異世界ファンタジーは。

そんなことを思っていると、スィリナが口を開く。


「一旦休もう。道が間違っていないかも確認しないといけないからな」

「そうね」

「よっしゃー。休憩だー!!」


ということで、スィリナが気を利かせてくれて一旦休みとなった。


「そういえば、どれぐらい走ってたの?」

「えーと、時間的には約2時間ぐらいかな」

「日の傾きからみても、そのぐらいだな。ナーヤ目的の村まではどのぐらいだ?」


そういってスィリナがナーヤに地図を広げて見せる。


「そうねえ。大体3分の1ってところじゃないかしら?」

「まだ、目印の大木もみえていないしねー」


アンナが言うように地図には半分まできたという目印に大きな木がかかれている。

だけど、私はあまりの地図に唖然としていたくらいだ。

ただ中央にリーフロングと書いてあって、適当に下に行くと大きな木があって目的の村。

それだけである。

いや、具体的には上には不帰の森が書いてあって、それに沿って右側が隣の国、ちょっとそれて左に行くと他の町が書いてるだけ。

素晴らしいおおざっぱな地図である。

子供が書いた宝の地図かよ。と思ってしまうぐらいだった。

正直、こんな地図でたどり着けるのか不安に思っていたが、幸い、道は荒れてはいるが続いているのでここをたどれば問題ないとナーヤが言ったので安心した。

流石に道がないのにあっているとか言われた心配になっただろうけど。

とまあ、そんなやり取りがあったあと私たちは食事休憩をすることにした。


「いやー。アイテムボックス万歳!! 焼きたてパンが食べられる幸せ」

「普段ならうるさいと、いうところだが今回ばかりは同意だな。ありがたい」

「そうねー。乾パンや干肉とかじゃ味気ないから」


スィリナたちはそういって、私たちの出したパンを喜んで食べていたのだが、ツーチたちはそうもいかなかった。


「はぐっ……。硬いですね」

「……懐かしんだけど。美味くないよな。コイク様たちにもらっちゃだめかな?」

「ファオンさん、だめだよー。これも訓練っていってたじゃないですかー」

「……そうです。これはマンナ様が言ってた訓練の一つです」

「……一瞬ためらったよな。ツーチ」

「はぐはぐ。でも、慣れればこれはこれで美味しいですよ?」


3人はせんせいからの指示で、町で買ってきた旅用の美味くない食料をかじっているのだ。

しかも私たちにはわざわざ美味しそうな物を食べるようにと言って。

つまり、心を鍛えろと言っていたわけだ。

いつでも美味しいものが食べられるわけでもない、こういうときもあるんだと教えるのが、チート持ちの私たちだとなかなか難しいそうだ。

うん。理解できる。つい甘やかしたくなる。

そんなことを考えていると、不意に周りの草が激しく揺れ始める。

ふぅん。様子見じゃなくて襲ってくるか。

実は食事を始めたあたりから、探知に引っかかった生物が複数いたのだが、別に危害を加えるということはなかったので放置していたんだけど、匂いにつられてやってきたってところかな。

私がそんなことを考えていると、ゆーやにせんぱいはもちろん、スィリナたちも食事を中断して立ち上がっていて、それに遅れてツーチたちが慌てて、立ち上がり構える。


「さて、気配から察するにゴブリンぐらいだと思うけど。どうする?」


私がそうみんなに聞くと、スィリナから提案があった。


「ゴブリンだというのは同感だ。だったら、ツーチたちの実力を見るのにはちょうどいいだろう? どうだ?」

「ああー。いいかもしれないね。いきなりオークとかは心配だし」

「そうねー。流石に今回はアノンの意見に賛成だわ」

「僕もいい機会だとおもう」

「同じく賛成。越郁はどうだ?」

「私も賛成」


ということで、ツーチたち頑張ってみようか。




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