第52回活動報告:旅道具って何がいるの?
旅道具って何がいるの?
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
先輩からツーチたちの連れだし許可が下りて安堵していたけど、やっぱりタダで喜んでいいものではなかった。
連れて行くからにはツーチたちの身の安全は僕たちで守れと、先生から当たり前だけど、厳しい言葉を貰った。
この冒険はツーチたちの実力を計るだけではなく、僕たちを鍛えるための内容でもあるみたいだ。
「さて、ツーチたちも聞いたと思うけど、私たちはスィリナたちと一緒にオーク退治に行くことになりました。無論、ツーチたちも一緒にくるんだよ」
「はい。覚悟はできています」
「任せてくれ」
「がんばります」
といことで、準備の為に訓練を切り上げた3人に改めて越郁が説明しているけど、本人たちはやる気満々らしい。
まあ、僕たちについてくるために訓練してたんだから当然だよな。
「でも、このまま連れて行くことはできない。だって、3人とも旅支度が出来てないからね。今日はもう日が暮れているから買い物はできないけど、明日、3人の旅道具を買いに行くよ。だから何が必要かよく考えてね。自分たちで持つ荷物だから、ちゃんとバランスを考えて。値段に関しては僕たちに遠慮する必要はないからね。ああ、武器だけは金額上限を決めておくけど。どんな武器を使いたいか、買いたいかを決めておいてね」
そう、今回僕たちがアイテムボックスを使ってツーチたちの荷物を運ぶのは禁止されている。
ツーチたち3人で必要な物を分担して持つ必要があるのだ。
「あの、武器はサブも選んでいいのでしょうか?」
「うん。もちろん。メインとサブ二種類だね」
そこはちゃんとする。
メイン武器が弾き飛ばされた無手とかはありえない。
買うお金がないなら別だが、買うお金があるからそういう所はけちったりしない。
「あ、でも、旅になにが必要なのか……しりません」
「そうですね……何が必要なのでしょう?」
「まあ、色々あるけど、今回の場合は遠征だしな。ツーチたちを考慮すると……」
アンがそういうと、ツーチも同じ思いだったらしく首を傾げる。
ファオンは元冒険者ということもあって、必要な物はわかっているみたいだけど、ツーチとアンを連れた遠征ということで悩んでいるみたいだ。
まあ、物が多ければ多いほど、キャップなどはゆっくりできるだろう。
でも、その分荷物が重くなるっていうのはさっき越郁が言った通りだ。
何を持っていくべきで、何を削るべきなのかはこれもやっぱり人によって違うから何とも言えない。
とはいえ、日中スィリナさんたちが買ってきたものを見せてもらったから、それを書きだして説明することにする。荷物自体も未だにバラバラで収納してない、手に取ってみてくれといわれているので、それもツーチたちの前に持ってくる。
「これがスィリナさんたちが、遠征するために用意した荷物だね。参考になると思うよ。そして、これが何を買ったかのメモだね」
それを渡すとツーチたちが一斉にメモをのぞき込む。
だが、アンはまだ勉強を始めて間もないので、文字がそこまで読めず首を傾げている。
「アン。それはね……」
「あ、ユーヤ様。すみません。べんきょうできなくて……」
「気にしなくていいよ。訓練や仕事で大変だからね。ツーチにその合間を縫って教えてもらっているのは知ってるから。僕たちが教えられたらいいんだけど、こっちの言い回しとかは知らないから、教えるには向かないんだよね。ツーチもアンの勉強に付き合ってくれてありがとう」
「いえ。これも私たちの為でありユーヤ様たちの為にもなりますから、当然のことです」
正直な話、女神とかいう人のおかげで言葉通じて、文字も自動的に書けるようになっているだけで、あいうえお順とか、アルファベット順という文字の並びは知らないし、翻訳でことわざも自動的になっているので、教えようとしても無理なのだ。
「部屋にあんな立派な机と筆記用具を用意してもらって勉強しないなどありえませんし」
「私、頑張って沢山勉強します!!」
「文字はともかく、数えが苦手だなー」
「ああ、それなら僕たちが教えられるから心配ないよ。今度の遠征が終わったら算数を教えてあげよう。すぐとは言わないけど、少ないお金のやり取りぐらいなら暗算でパッと答えが出るようになるから」
「流石、ユーヤ様たちですね。こんな私たちに惜しげもなく学を授けてくれるのですから」
ああ、勉強するって言うのは、こっちじゃお金のかかることで、貴族とか商人ぐらいしかまともにしないんだっけ?
まあ、地球でも義務教育というのが出来たのは近代になってからだから、まだまだこっちの世界では遠い話なのだろう。
「さて、それはいいとして……」
スィリナさんたちが買ってきた一週間の荷物を読み上げて聞かせる。
実のところ、この荷物の大半を占めるのは食料と水だったりする。
テントというのは一応存在するが、スィリナさんたちは所有していない。
これもまあ仕方のないことで、テントは荷物でしかないからだ。
魔物や盗賊がいる世の中で、外の様子が伺えないテントを少人数で使うのは奇襲してくれと言っているようなものだ。
視界もテントが大きい分狭くなるし、死角も増えるので、よほどの遠征でもない限り使わないらしい。
というか帆立馬車をそのままテント代わりにした方がいいというのがこの地域の主流だ。
あとは、替えの靴。これが重要だったりする。
現代の靴と昔の靴は全くと言っていいほど性能が違うのだ。
まあ、現代で長距離を足で歩くなどということはそうそうない。
しかしこの世界は違う。主な移動方法は足だ。馬はお金持ちが使用するもので、一般人は歩くしかないのだ。
そして、先ほど言ったように靴の性能が低い。
つまり壊れやすく、替えの靴がない場合は裸足で歩くことになる。
じゃあ、僕たちの方で……とも思ったけど、今回はあくまでもツーチたちの実力を見るためのものだから、僕たちの支援は極力してはいけない。
靴の予備を持っていくという判断もできるか? 持って行かなくて痛い目を見てもそれはツーチたちにとってはいい経験だ。
と、そういう説明も交えて話終える。
「……以上だね。これが、スィリナさんたちが持っていくものだね」
「なるほど。実に理にかなったものなんですね」
「いや、普通の冒険者装備というか、旅装備だぞ」
「そうなんですか?」
「うん。これは大体一般的。まあ、アンの分は少し減らさないとな。体が小さい分」
ツーチは感心しているが、ファオンは元冒険者だったので当たり前の一式に見えたようだ。
とうなると、スィリナさんたちの旅道具一式は一般的のもののようだ。
特にスィリナさんたち専用の独特というわけではないようで安心した。
「よし、じゃあ。今日はそろそろ寝ようか」
「「「え?」」」
僕がそういうとツーチたちは意外そうな顔をする。
「そうだねー。もう夜も遅いし……って、なんかツーチたちどうしたの?」
ツーチたちの様子を見ていた越郁は眠そうにしていたが、ツーチたちの変な顔を見て首を傾げる。
「ああ。わかった。ほら、越郁君。ツーチたちはこれからが本番だろう?」
「あー。そういえばそうだったね。今からが訓練本格的だよね?」
そういうことか。ツーチたちは夜に訓練して、朝から昼まで寝ているから、本人たちにとっては、今からが気合いを入れて起きている時間なのだ。地獄の。
で、その会話を聞いたツーチたちも自分たちの状態に気が付いたようで……。
「そうでした……。夜は寝るんですよね」
「寝るな。普通は寝るな」
「夜は何もできないから寝るんです。……普通は」
当たり前のことを口に出して確認していた。
それだけ、先生の訓練が厳しかったんだろうな。
夜は訓練。という図式がすでにツーチたちの中で出来ているということだ。
「眠れる時に寝る練習と思えばいいよ」
「勇也君のいう通りだね。休める時に休む。まあ、だけど目が冴えて眠れないのなら、明日買いに行くものを部屋で話しあうといい」
「わかりました。とりあえず、部屋に戻って寝てみます」
「やったー。今日は夜に寝れるぞー」
「わーい」
3人はそういうと、二階へと上がっていく。
「……あれは、ツーチだけ起きて、旅道具を書き留めているだろうね」
「あー、ありそう」
「まあ、あまり遅くなるなら寝るように言いましょう」
「そうだね。それがいいだろう。今寝ろって言ってもツーチは納得しないだろうしね。とはいえ、僕はすぐに寝てしまいそうだけどね」
「んー。たぶん私が一番遅くまで起きてるだろうから、注意しておくよ」
「越郁もあんまり夜更かしするなよ。明日も朝早いんだからな」
そんなことを話して、僕たちも明日に備えてベッドに入った。
というか、明日はパンを売りながらお客さんに説明と、2週間分のパン作りだ。大変だぞ。
あ、ちなみに、ツーチはやっぱり僕たちが寝るまで起きていたので、越郁に注意してもらって、ようやく寝たようだ。
僕としては、今まで昼夜逆転のような生活していたから、ファオンやアンも眠れないかもしれないと心配していたが、ぐっすり寝ていたので安心した。
冷静に考えれば、あの先生の訓練がなく寝られるのだから、体も休息を求めるだろう。
……ふぁ、色々考えていると眠く、意識が遠のいて……。
「ふいー。何とか終わったねー」
「は、初めてお手伝いしましたが……なかなか疲れますね」
「慣れてないとそんなものだよ。私も数日は疲れた」
そんな話をするのは、越郁、ツーチ、スィリナさんだ。
朝になって初めてツーチたちはパン屋の仕事を手伝った。
無論、お金の計算などがあやしいファオンとアンは裏で委託販売用のパン作りをしてもらい、表の方は計算ができるツーチのみだったが、やはり、慣れないことをして疲れるようだ。
「パンが嫌いになった」
「眼前にパンしかないです」
「ジャムの甘い匂いが……うぷっ」
「甘いものは見たいくないのです……」
いや、どうやらファオンとアンも永遠にも感じるパン作りをずっと裏でやっていたせいか、精神的に疲れているようだ。
「先輩。どうですか?」
僕はそんな3人をよそに、ファオンとアンと一緒に裏でパンを作っていた先輩にどれぐらいパンが出来たのかを聞く。
「そうだね。昨日はずっとパン作りしてたかいがあったね。スィリナたちがいてくれて本当によかった。具体的にはあとは、もう300個ぐらいで終わるぐらいかな」
「喜んでもらえてなによりね」
「結構たのしいよねー」
「お前はすぐに飽きて、妙なパン作ってただろうが」
あと300個ぐらいか。
なら、ツーチたちの買い物に同行するのはできそうだな。
「じゃ、ツーチたちは買い物に行ってもらっても大丈夫ですかね?」
「ああ、問題ないよ。でも、お金を持つのは僕たちの誰かがいいだろうね。あと、お店の案内をしてもらいたいから、スィリナさんたちの誰かが来てくれると助かるんだけど」
「「はーい!! 私が行く!!」」
先輩がそういった瞬間に、越郁とアノンが同時に手を上げて立候補した。
それを見たスィリナさんが即座に口を開く。
「アノンは遊ぶに決まっているからダメだ」
「えー!?」
そして、僕も越郁を見て言う。
「越郁も何か心配だなー」
「えー!?」
絶対遊ぶだろう。
武具集めしたいとかも言ってたし、越郁の買い物がメインになりかねない。
「越郁。武具集めは今日の目的じゃないぞ? ツーチたちの武具を含めて旅道具一式が必要なんだ」
「わかってるよー」
「というか、アノンも越郁もそうだが、容姿で子供に見られる。そうなると買い物の時に足元を見られたリするだろう。無用なトラブルは避けるためにも、私はこのままパン作りを手伝うとして、ナーヤいけるか?」
「ええ。いいわよ」
「それなら、僕たちの方からは、男の勇也君がいいだろうね。全員女性だと面倒だろうし」
「ああ、それはそうだな。頼むユーヤ」
「はい。わかりました」
確かに、女性たちだけだと色々問題もあるだろう。
ということで、僕とナーヤさんはツーチたちを連れて買い物に出るのであった。




