第49回活動報告:そろそろ冒険者しよう
そろそろ冒険者しよう
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「そろそろ、私たちは活動を再開しようと思う」
そう朝食で言ったのは、スィリナさんだ。
ここ4日ほどスィリナさんたち輝きの剣のパーティーは、越郁の提案を受けて、このパン屋で泊まり込みつつ、色々な話を聞かせてくれた。
冒険譚だったり、町の話だったり、魔物の情報だったりと、この世界にきて日の浅い僕たちにとってはとても有益な話ばかりだった。
ボイスレコーダーを使って、話を記録して報告書を書くときに大いに参考になった。
だが、それも今日までのようだ。
一応部屋や食事はこちらが提供しているのだが、冒険者としての勘を鈍らせたくないとのことと、僕たちと一緒に不帰の森に行って、実戦での動きを確認したいという意味もある。
「うーん。そうね、思ったよりものんびりしちゃったわね」
「えー。もうちょっとゆっくりしない? 別にコイクたちの所に泊まってるんだから、お金かからないしー」
ナーヤさんはスィリナさんの話に同意するが、アノンさんの方はどうやらまだのんびりしていたいようだ。
僕としてはどっちでもいいかな?
この町にいる間はパン屋で稼げばいいし、金銭面的な負担は全然賄えし、ツーチたちが家に戻ってきたのをちゃんと確認できる。
逆に不帰の森へ向かうにしても、お互いの動きを見て連携などの訓練もできるし、貴重な素材もしっかり教えもらえるだろう。
どっちにしろ、僕たちにとって無駄になるようなことではない。
「このまま好意甘えていていいわけないだろうが。というか、不帰の森で共同で仕事をするのも、コイクたちとの約束の一つだ」
「あー、そういえばそうだったね。ナーヤはどうなの? 不帰の森に行くって話」
「え? それは約束したんだし、行くのは当然でしょう。でも……」
「でも? 何か問題でもあるのか? ナーヤ?」
「そうね。いきなり不帰の森はまずいんじゃないかしら? 強い、手練れってのは知っているけど、協力して戦うと足を引っ張るケースもままあるからね。不帰の森の前に、近場の魔物退治でもするべきじゃない?」
「一理あるな」
そうナーヤさんの話に納得するスィリナさんだが、それに口を挟む先輩。
「まってください。流石に今から行こうといわれても、お店の方がありますんで、私たちは無理ですよ。告知とかをして、明日明後日からですね」
「ああ、確かに、急な話だったな」
先輩の言う通りかな。
いきなり明日から冒険者の仕事でこの店を閉めたら騒ぎになるだろう。
避けられるのなら避けるべきだ。
「やーい。スィリナのあわてんぼう」
「うるさいぞ。このままのんびりしているのは問題だという話だ」
「なら、今日はいつもの通りにパン屋を手伝って、お昼からみんなで目ぼしい仕事でも、ギルドに探しにいかない? それでいい仕事が見つかったら、パン屋の方は休みを取るって感じで。どう? ヒビキ?」
「それならいいですよ。お客様たちにも説明する時間がありますし」
「じゃ、今日はいつもの通りということで、お店を開ける準備をしようか」
「「「おー」」」
越郁の締めでいつものように、パン屋の開店準備をする僕たち。
すでにスィリナさんたちも慣れたものだ。
パン作りも普通に売りに出せるものを作れるし、お金の計算もできる。
スィリナさんはただで食事付きで泊めてもらっているという感じだが、実は十分に働いてもらっていたりする。
「しかし、ツーチたちはもくもくと食べて寝たな」
「ええ。何というか、死闘の中で食事をとっているって感じよね」
「うん。よく、あんなになる訓練を続けられるよねー」
スィリナさんたちの言うように、ツーチたちも実はこの朝食に同席していたのだが、静かに食べて寝てしまった。
もう訓練を始めた当初のように会話をする余裕もないようだ。
確か、先生から刃を潰した剣で訓練を始めたとか聞いていたから、今が一番厳しい時期だろう。
骨をボキボキ折られて、立ち上がって治療してもらって、また折られるという連続。
あれは辛い。そして今後ももっとつらい。実剣でやるからね。スパッと切り落とされることになる。
なので、ああいう不作法は特に咎めるつもりはない。
というか、よく僕たちに文句を言わないでいるなと感心しているぐらいだ。
「しかし、たった4日ほどで慣れたものだな」
「案外、パン屋の才能があったのかもね」
「冒険者引退後はコイクたちからジャムパンを作る許可をもらってどこかの町でお店やってみるのもいいかもね」
「そうだな。引退後のいい職が見つかった気がする」
「その話だと、私たちは冒険者引退後も一緒って感じね」
こんな感じで、スィリナさんたちの冒険者引退後の道も示せたようで、何よりだ。
「はいはい。おしゃべりはそこまででお願いします。お店開けますよ」
僕がそういうと、みんなが頷く。
そして、お店を開けると……。
「「「ジャムパン4つ!!」」」
「「「長いパンを2つ!!」」」
リーフロングの主婦という名の狂戦士たちが、お店へと乗り込んでくるのであった。
まずは、この戦いを乗り切らいないとね。
いつものように、お昼前にはパンは完売して、僕たちはツーチたちが起きてくるのを待って昼食をとるついでに、朝の話をツーチたちにする。
一応同席してはいたが、訓練の後の極限状態で話を聞いていたのか分からなかったからな。
「……ということで、午後は冒険者ギルドに行って仕事を見繕うって話になってたんだけど、覚えてる?」
「なん、となくは」
「私はぜんぜん」
「おぼえてないです。ごめんなさい」
やっぱりか、話しておいてよかった。
「気にしなくていいよ。せんせいの訓練あとだしね。頭に入ってこないよね」
「ま、そうだね。で、僕たちは仕事を探しにいってくるから、ツーチたちはいつもの通りでいいよ」
「はい。かしこまりました」
ツーチは先輩の話に納得したんだけど、ファオンはそうでもなかったようで、質問をしてきた。
「仕事を探してくるってのはいいけどさ。私たちもその仕事手伝えるのか? というか、パン屋どうするんだ?」
「あ、そういえばそうです」
ファオンの言葉にアンも反応する。
そういえば、仕事を探してくるのはいいけど、パン屋とかツーチたちをどうするかは決めてなかったな。
どうするのかと越郁をみると、うーんと悩んでいたが、すぐに顔を上げる。
「私としては、ついてくるならついてきてもいいし、パン屋の方は休みでもいいと思っているよ。お店を開こうにも、ツーチたちはパン作りはできないし、お金の計算もできないしね。最初からパン屋の方は休む方向だったし」
ああ、そういえば、パン屋の方はお断りを入れて休むって話だったな。
「でも、ついてくるなら。せんせいの許可は必須だね」
「そうだね。先生の許可がないと連れて行くわけにはいかないね」
「あー、そうだな。流石に先生の許可がでてないのに連れて行くわけにはいかないか」
里中先生の許可が下りないということは、実力がないと判断されているのだ。
そんなツーチたちを連れて行くきにはなれない。
「まあ、許可はでるかともかく。ツーチたちはついてきたいの?」
そう、問題はそこだ。
ツーチたちが付いてきたいのかだ。
「私としては、ご主人様たちについていくのは当然かと思います。ですが、家を守れと言われるのであればここを守る所存です」
ツーチは私たちについてきたいが、家でのお留守番を言い渡されてもいいと思っているみたいだ。
「私はコイク様たちについていってみたいな。スィリナ様たちの戦いも見られるんだろう? 留守番は惜しい気がするし、どれだけ強くなったか試してみたいって言うのもある」
ファオンは冒険者だったころの血が騒ぐみたいで、仕事についていきたいようだ。
「えーと、私は、まだぜんぜん強くないので、足手まといになるとおもい、ます。だからお留守番がいいです」
アンはお留守番がいいと。これは仕方がない。
アンは小さい、コイクよりもだ。こんな小さな子がいくら訓練を受けているからと言って、命の取り合いに喜んで行く方がおかしいだろう。
しかし、3人ともバラバラの意見になったな。
僕としてはてっきり3人一緒の意見になるかなと思っていたけど、それは思い込みだった。
普通に考えれば、3人とも別の人なんだし、意見が分かれて当然だ。
僕がただ、あの3人をひとまとめ、グループとして意見をまとめてくるとばかり思ってだけだ。
いままで、偶然というか、意見が一致していただけのことだ。
「うん。3人の意見はわかったよ。とりあえず、今日はいつもの通りで、私たちが見つけた仕事によってはついてきた方がいいかもしれないし、留守番してくれた方がいいかもってこともあるから。まあ、細かいことは帰ってきてからだね。じゃ、行ってくるから、そっちも仕事よろしく」
「「「はい」」」
ということで、僕たちは家を出て冒険者ギルドの方に向かう。
その道中スィリナさんがツーチたちの話に意見があったようで口を開く。
「そっちの事情に口を出すのはあれなのだが、今回の仕事で手頃なのがあった時は、ツーチたちを連れて行くべきだと私は思う」
「なんでまた?」
「私たちがツーチたちの実力を見られるということと、ツーチたちの実戦での動きをみられるからだ」
「ああ、そうね。それは見て見たいわ」
ナーヤさんはスィリナさんの言っていることが分かったのか、納得する。
「どういうこと?」
「こういう、戦力にならない人たちが言う事を聞いてくれるかってところが、道中楽に行けるか、苦労するかってことになるんだよ。指示に従わずにバラバラに逃げられたら目も当てられないからね。それがわかれば、ツーチたちが基準の戦力がなくても、王都への道をついてきても大丈夫かなーって思ってるんだよ。スィリナは。そうだよね?」
アノンがそうコイクに説明すると確認するようにスィリナさんを見る。
「ああ、そうだ。ツーチたちはなるべくコイクたちについて来たいと思っている。私たちもこの4日ではあるが、彼女たちと話はして仲良くなっているし、世話になっているところもある」
「足手まといだからって、置いていくのはちょっとね。でも、実戦でどうなるから分からないっていうのは困るわけ。特に遠征の時とかね」
「ああ、だから、冒険者ギルドでツーチたちのことを知れる内容の仕事をってことかい?」
「そうだ。もともと、冒険者ギルドでの仕事はコイクたちとの動きを確認することが目的だしな」
「ツーチたちも一緒でも特に問題はないってことですか」
「そういうこと」
先輩と僕はスィリナさんの話に納得する。
「じゃ、ツーチたちがいても問題ない仕事をさがそう」
「「「おー」」」
最後は越郁が締めて、冒険者ギルドへと入って行く。
中はお昼を過ぎているので、相変わらずガランとしている。
朝に来ると冒険者の仕事受注で忙しいらしいけど、僕たちは未だに見たことがない。
「あ、コイク様たちに、スィリナ様たちですか?」
カウンターから受付のラナさんがこちらを見てやってくる。
「やほー、ラナさん」
「ラナ。この前は迷惑をかけた。すまない」
「はい。元気そうで何よりです。コイク様。そして、もういいですよスィリナ様。今は仲良くやられているようで何よりです」
笑顔にすらすらと言葉がでるのは、流石受付のお姉さんといった感じだ。
「で、今日はお2人そろって何か御用でしょうか?」
「あ、うん。その前に、はい。パンの配達」
「わぁ、いつもありがとうございます」
嬉しそうにパンの入ったバスケットを受け取り、前日渡したバスケットと代金を越郁に渡す。
この前、ジャムパンが食べられない冒険者ギルドのみんなのために、配達を始めたのだ。
ガーナンさんや、魔法薬屋のハブルさん、商業ギルドのゼイルさんという感じのお世話になっている人限定でだ。
流石に、一般の人相手に配達なんてしていたら、僕たちは一日中配達をしていることになるだろう。
パン屋で食べていくわけではないので、それは勘弁だ。
そんなことを考えている間に、越郁とラナさんの話は進む。
「今日はね。スィリナと一緒に不帰の森に行くって話の前に、連携とかを確認するために、近場で簡単な仕事をやろうって話になったんだよ」
「コイクたちと組めば不帰の森の希少な素材は手に入りやすくなると思ってな」
「なるほど。少々お待ちください。仕事を見繕ってきます」
ということで、僕たちの仕事探しは始まった。




