第35回活動報告:どんなパンを作る?
どんなパンを作る?
活動報告者:海川越郁 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「思ったよりもおいしいね」
私はそういいながら、ライ麦パンをかじる。
本日のお昼ごはんの献立は、買ってきた沢山のパンだ。
お店をやるうえで必要な敵情視察ってやつだね。
「でも、あまり味に変わりはないな。お店によって工夫している感じにはみえない」
「え? そんなの必要なのか?」
そんな質問を返すのはファオンだ。
ファオンはこのライ麦パンを特になにも文句を言わずに食べていて、ゆーやの発言は意外だったらしい。
「パンはパンですよ?」
「はい。パンはパンの味しかしないはずですが?」
アンとツーチも同じように首を傾げる。
「なるほど。君たちはこのパン以外のパンを食べたことがないからね」
「せんぱい、どういうこと?」
「簡単に言うと。食の広さを知らないのさ。まあ、それほど社会に余裕があるわけでもないからね。確か同じような中世ヨーロッパでは、パンというのは構成を指す意味合いであって、ライ麦といえばもちろんライ麦パン。白パンといえば高級な小麦粉をつかったパンという意味で、パンの固有名詞は存在しなかったんだ。食に対する工夫がなかったということだね」
「えーと、よくわからないけど、クロワッサンとかないって感じ?」
「そうだね。このテーブルにある小さい球体のパンと、大きい半球状のパンだけがここら一帯のパンなんだろうね」
……なるほど。この地域一帯のパンはすべて同じ形で、小麦粉が違うだけということか。
創作パンというものは存在しないのか。
そういえば、同じパンばかり売ってるなと思ったよ。
「じゃ、そこを工夫すれば売れるかな?」
「売れるかもね。まあ、その前に3人にはほかのパンも食べてもらおうか。こっちの住人の口に合うかも大事だからね」
「でも先輩。市販のパンとか僕たちには作れませんよ?」
「味の確認だよ。別に同じものを作る必要はないからね。発想の方向性が間違っていないかとかね」
「なるほど」
そうだよね。
私たちが美味しいと思う味でも、こっちの人たちの口には合わないかもしれない。
あれだ、日本人は納豆平気だけど、外国人は大抵だめだよね。
だから、日本のどのパンが好まれるかを知れば、パンを作るときの参考になる。
「さて、ということで、僕たちの所のパンを食べてもらおうかな」
そういって、せんぱいはアイテムボックスに入っているパンを取り出していた。
僕たちもカップ麺以外にちゃんとパンも買ってきてたから取り出そう。
「なんだこれ?」
「パン?」
「見たこともない形ですし、何か間に挟んであるような……」
で、日本のパンを見た3人の反応はこんな感じ。
まあ、丸パンしか知らない3人からすれば、これはパンなのかと問いたくなるだろうね。
外国で見た寿司がこれ寿司じゃねーよと言いたくなる改変をしているのと一緒かもしれない。
そんなことを考えていると、ゆーやが3人にパンの種類を説明している。
「こっちがアンパンって言って、餡という甘い小豆を入れているパンだね」
「へー。この黒いのが甘いのか」
「あ、甘い匂い」
「すみません。これは砂糖を使っているのですか?」
「あ、うん。使ってるね。ちょっと高級な感じになるかな」
「砂糖入ってるのか!! じゃ、食べる!!」
「あ、私も」
「こら、2人ともはしたないですよ。ゆっくり味わいなさい。意見を求められているのですから」
そういって嗜めるツーチだが、2人は少しかじったあと一気にパンを胃に収めてしまった。
そんな姿をみたツーチはこめかみをピクピクさせながら……。
「……聞いているのですか?」
と怒っているのだが、2人はツーチの話を無視して逆に詰め寄っていた。
「いやいや、そんなことよりまず食べて見ろって!!」
「甘くて、おいしーんですよ!!」
「だから!! あな……もごっ!?」
ツーチがお説教をしようとした口にファオンがアンパンをねじ込む。
もちろん一個というわけではない。
さっきからずっとパンを食べているし、他のパンもあるから、丸いアンパンは4等分されているので、パンをいきなり突っ込まれたツーチが窒息するようなことはないだろう。
さてどうするのやらと観察していると、ツーチは口に入れたものを一度吐き出すのは失礼だと思っているのか、そのまま食べ始めた。
それを静かに見守る2人。
さらにそれを観察する私たち3人。
なんだこの状況?
で、アンパンを食べ終えたツーチの反応はこちら。
「……美味しいです。甘くて、パンが柔らかくて、とても美味しいです」
おー、アンパンはツーチにも受け入れられたみたいだ。
「だろ? すごい美味しいだろう?」
「おいしーですよね」
「……ええ。こんな甘いパンが存在するとは思いませんでした」
しかし、その3人の言葉で不思議に思った。
「甘いってそんなに不思議? でもジャムとかないの?」
そう。パンには付き物のジャムだ。
あれは甘くて保存ができて至れるつくせりの食べ物のはずだ。
しかし、3人の反応はあまりよくない。
「ジャムですか? あれは高いので……」
「そうだよな。コイク様たちほどお金があればいいだろうけど……」
「じゃむってなんですか?」
どうやら、ツーチやファオンを知っているようだが高いみたいで、アンに至っては知らないようだ。
あれー? と首を傾げていると、せんぱいが口を開く。
「アン。ジャムって言うのは、これだね」
そういって、アイテムボックスから定番のイチゴジャムを取り出す。
それを見たアンは目を輝かせる。
「うわー。赤くてキラキラ透明です。宝石ですか?」
「いいや。これは食べ物なんだよ。イチゴを煮込んで、砂糖であまーくして液状にしたものだね」
「おさとう? すっごく高いですよ?」
「やっぱりか。ツーチ、ファオン、ここら辺では砂糖は簡単に手に入る物ではないんだね?」
「はい。貴重な物です。まして、それを大量に使ったジャムは貴族様でもない限りは……」
「だなー。砂糖もここら辺じゃ取れないし、南の方から商人きて売ってくるぐらいだけど、高いからな。魔物が多い地域とかを抜けないといけないから、海からも船を使った仕入れがあるって聞いたことはあるけど、そっちもそっちで魔物に襲われるって聞くしな」
なるほど。
地球では紀元前からジャムらしきものの存在は確認されていて、ヨーロッパでは当初、貴族だけが食べられるという物だったが、中世になると船舶貿易などによる砂糖の大量輸入ができるように、庶民でもジャムが作られるようになったという話がある。
しかし、この世界では魔物という脅威により、そういう流通が損なわれているのだ。
だから、ジャムというのは一般的ではないのか。
というか、ファオンがいう海のルートの方が私は怖いね。
地球でも大型生物は海の方が多いんだし、こっちには魔物がいるんだし、海の魔物はさらにトンデモない怪物になっている気がする。
ほら、地球でもあるようなクラーケンとかいそうじゃん?
対して、この技術レベルだと木造の帆船でしょ?
ただの自殺志願だよね?
私がそんなことを考えて身震いしていると、ジャムの試食会が始まってした。
「うわー、イチゴじゃむ美味しいです!!」
「あめー、すっぱい、うめー」
「ファオン。もっと正確に味の評価をしなさい。イチゴの独特の酸味が砂糖と煮込んだことによって引き立ていて、それをパンと一緒に食べると調和がもたらされていますね」
なんか、ツーチは料理評論家みたいなこと言ってる。
とりあえず、ジャムも気に入ってもらえたようだね。
さて、私もジャムパンをと思っていると、ゆーや不意に口を開く。
「先輩、越郁、このジャムでパン作るのが一番いいんじゃないかな?」
「うーん、まあ、詳しく砂糖とか果物の値段を調べてみないと分からないけど、妥当な判断だとは思うよ」
「なんか、せんぱいはわかってるみたいだけど。私は分からないから説明プリーズ」
「えーと、越郁にわかりやすくね。ほら、ジャムって長持ちするだろう? それに作り方は砂糖と果物だけ。肉とか卵とか野菜とかは保存が大変だし、仕入れも面倒だろう?」
「でも、私たちならそういうのは問題ないよね?」
日本から仕入れればいいだけだし。
「越郁君。なるべく現地で仕入れとかをしないと、このリーフロングが回らなくなるんだよ。そのためにゼイルさんに色々見せただろう?」
「ああ、なるほど。他のお店を潰すことになるのか、でも砂糖とか果物ってあるの?」
「だから詳しく調べてみるんだよ。砂糖と果物の値段を調べて、私たちが一挙に沢山作ってしまえば元を取れるかもしれないからね」
「工場って感じかな?」
「まあそこまででなくてもいいけど、個人で買うには砂糖は高いものみたいだけど、僕たちがお店として買うならそこまでもないはずだからね」
「そこを利用してコストを下げるってこと?」
「そうそう」
「まあ、最悪砂糖は私たちが持ってきたモノを使ってもいいだろうね」
「いいの?」
「あれだよ。やりすぎがよくないって話で、パンを売るなら人気で売り切れって戦法もできるからね」
「ああー。ありますね」
「これなら、他のパン屋が廃業するようなことはないだろうさ。ちょっと高級って感じの菓子パンだからね」
そういう戦法で行くってことか。
「じゃ、今日はジャム作り?」
「いや、パンを作る練習をしておこう。ジャムに関してはまたお店を見て回らないといけないからね」
「そうか。もういい時間だから露店はしまってるよね」
それじゃ今日はパンを作るしかないね。
「よし。ならさっそく準備を始めよう。そこの3人ジャムパンを作るから手伝って」
私がそういうとジャムを塗ってはパンを頬張っていた2人ははっとした表情になる。
夢中で食べてたのか。
「えーと、話は聞いてた?」
「は、はい。もちろんです。こちらのジャムを利用したパンを作るのですよね」
「でもさ、ジャムって塗るだけだろう?」
「あむあむ」
ほっ、どうやら話は聞いていたようだ。
とりあえず、アンは食べるのやめようね。
私がそう言おうとする前にツーチがアンに近づいてそっとやめさせる。
「アン。ご主人様たちがお話中ですよ?」
「ふぁ!? ご、ごめんなさい!? な、なんおお話でしょうか!?」
「ジャムを使ったパンを作るというお話ですね。おそらく、先ほどのアンパンのように中にいれるのではないでしょうか?」
「あー、なるほど。さっきのパンみたいに作ればいいのか」
「それって塗らなくてもジャムが食べられるんですね。すごいですね」
おー、私が説明しなくてもツーチがちゃんと説明してくれる。ありがたいね。
「まあ他にも色々ジャムを使ったパンもあるんだけど、まずはそれかなー」
「えーっと、どうするんでしたっけ?」
「もちろん小麦粉とあとはイースト菌だけど、天然酵母の方がいいだろううけど、寝かせる時間は長くなるから、ドライイーストを使った方がいいだろうね」
「あー、ふっくらさせるために必要なモノだっけ?」
「そうだな。イーストがパンをふっくらさせるために必要なものだよ。越郁も調べただろう?」
「分かってるけど。天然酵母には劣るんでしょう? いいのかな?」
「うーん。パンで世界を目指すわけでもないからね」
あ、そりゃそうだ。
そういいながらせんぱいが一通り道具を取り出す。
小麦粉、塩、ドライイースト、砂糖、バター、卵。
意外だが、バターに卵、塩は普通にお店で手に入った。
こっちのお店、露店でだ。
私的にはびっくりだったが、せんぱい曰くそこまで不思議でもないらしい。
家畜を買うことは昔からあるし、乳製品も紀元前から確認されているそうだ。
ということで、正直な話、イーストと砂糖だけ足りない感じで、結構材料はそろった。
いや、よくよく考えれば当然なんだけどね。
自前で材料を手に入れられないと、パンなんて作れないし。
あとの問題は発酵温度を保つことと、パンを焼く機械なのだが、それは事前にカタログ注文で仕入れたあるから問題なし。
問題は下のパンを作るためのスペースを確保しないといけないってこと。
恐らく店舗を半分ぐらい削ってそこをパンを生産する場所って感じにすんじゃないかな?
大体パン屋さんって、店舗場所が狭くて、作る場所、キッチンの方が広いよね。
「あ、そういえば、私はパンは作ったことあるんだけど、3人はどうなの?」
ここは大事なところだ。
「いえ、私は経験ありません」
「私もないなー。買って食べる派だったから」
「わたしもないです」
うん。
残念。こっちの人の作り方が見れるかと思ってたけど、そうもいかないみたいだ。
「僕も初めてなんだけど、勇也君はどうなんだい?」
「越郁と一緒に何度か作ったことがありますよ。まあ、あの機械を使うのは初めてですから心配ではありますけど」
「大丈夫。なんとかなるって。失敗もいい経験になるからさ」
こう見えて、私とゆーやはどっちも料理ができるナイスカップルなのさ。
と、せんぱいも多少は料理覚えないとね。いい機会だし、色々教えてみよう。




