第29回活動報告:奴隷たちの反応と事情
奴隷たちの反応と事情
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「ううっ……腹が……」
「……うぷっ。食べすぎました」
「お腹いっぱい」
そういって空になったカップ麺の残骸が散乱する机に突っ伏す3人。
最初はどうなるかと思っていたが、カップ麺は気に入ってもらえて、嬉しそうに食べるものだから、食べたいといわれたものを片っ端から作って食べさせていたらこうなった。
あれだね。
ひな鳥に餌よやるような感覚というか、美味しい美味しいと言ってもらえると、自分の料理でなくても、我が日本が誇るカップ麺を美味しいと言ってもらえと我が事のように嬉しいのだ。
オリンピックで日本人がメダルを取ると誇らしいと思うような感覚に近いと思う。
異世界においてもカップ麺は受け入れられたという事実はそれだけ僕たちにとっては嬉しいことであり、地球や日本のすごさを改めて実感し、誇りに思えるのだ。
「まあ、何事も限度があるっていう話だね」
「だねー。美味しいっていってくれるからついちょーしにのって色々食べさせすぎちゃったね」
「……幸いというか、全部食べてくれたから後かたずけは楽だけどな」
そういって、勇也君はいそいそとゴミ袋を広げて、カップ麺の残骸を片づけて行く。
えーと、ひいふうみい……。
約一人当たり4つか。すごいね。
まあ、この時代平民がお腹いっぱい食べられることなんてほとんどないだろうし、その反動かな?
僕は一つが精一杯だね。
「さて、後片付けはゆーや一人で十分として……。どうするせんぱい?」
「とりあえず、少し落ち着くまで待っていよう。今から色々話しても頭に入らないよ」
「やっぱりそうだよねー」
「お茶でも飲んで待っていよう」
「あ、ゆーや。お掃除おつかれー」
「ただゴミ袋に入れただけだしな。でもさ、こっちのものと違って、発砲スチロールとかビニールとかって捨てたところで土に帰らないよな」
「「あ」」
勇也君が集めたごみを見せながら言って気が付いた。
そういえば、この世界で出るごみは今のところ燃やせるごみしか存在しない。
鉄や鉱物で出来ているものは再利用されるし、この世界ではごみというものは燃やして終わりなのだ。
しかしながら、勇也君のいう通り、地球のごみはそうではない。
ビニールやプラスチックなどはそのまま捨てても土に帰らないし、通常の焼却処分基本禁止されている。有害物質がでるからだ。
だから、ごみ処理場で専門的な高温処理をされるか、ごみを使った埋め立て地に利用されるぐらいである。
「うーん。思わぬ落とし穴だ。これじゃこっちで好き勝手カップ麺を食べられない」
「いや、普通にアイテムボックスに入れたらどうだ?」
「勇也君。流石にごみを他の食料品が入っている中に入れるのはねー」
「そんなもんですかね?」
ここで主夫である勇也君の男らしい面を始めてみた。
あんまりこういうことは気にしないタイプらしい。
ん? でもこれって男らしいというかずぼら系かな?
「そんなこと言ったら、匂いのキツイ薬草をせんぱいいれてるじゃないですかー」
「それとこれとは違うだろう。というか、越郁はもっと部屋の片づけしろよな。先輩に言われてやっぱりごみと一緒っていうのは気分はよくないんだよ」
……なるほど。
越郁君のお世話の結果こうなったというわけか。
勇也君、君は立派な主夫だね。
いや、よくよく考えれば、主夫や主婦にとってごみ処理というのは当然の仕事。
遊びに行った先でごみを散らかすことはなく、ごみをまとめて、ごみ箱か家に持ち帰るのはマナーとして当然だ。
ちゃんとビニール袋で覆っているのだし、衛生面も大丈夫。
これは私が汚いものを近くに置いておきたくないという嫌悪。
汚いというのなら、ちゃんと洗浄しておけば細菌の発酵も防げる。
つまり、私の先ほどの発言は間違っている。
そう思った私は、越郁君に家の片づけをと話すところに声をかける。
「……勇也君」
「はい?」
「どしたのせんぱい? 真面目な顔して?」
「先ほどのアイテムボックスにごみを入れる件は勇也君の判断で間違っていないと思う。ちゃんと洗っているんだろう?」
「あ、はい。残っている具とか、汁とかはちゃんと処分していますよ」
「それなら清潔だ。他に使えることもあるかもしれないし、ごみ袋にまとめて入れておけば問題ないよ。ちょっとした汚いというイメージがあって頭ごなしに否定してしまった申し訳ない」
「いえいえ、僕も説明が足りませんでした」
「はー、せんぱいは真面目だねー」
「越郁は部屋の掃除ぐらい自分でしろよ。ポテチの食べかすとかでゴキ〇リがきて叫んでただろう」
「いや、ごっきーは誰だって叫ぶよ。ねえ、せんぱい」
「そうだろうけど。そんなGが出るような越郁君の部屋にはいきたくないと強く思ったね」
真剣にお呼ばれしてもいかないと心に誓った。
未来永劫Gと仲良くなれるとは思えない。
そういえば、そういうモンスターがいる世界もあるって里中先生が言ってたね。
……この世界がそうでないことを祈ろう。
と、そんな雑談をしていると、ようやくお腹一杯になっていた3人も落ち着いてきたのか、動きが見える。
「ううっ、ようやくお腹がこなれてきた」
「って、ファオン、アン!! ご主人様たちに食事の後片付けをさせるなんてダメです!? も、申し訳ありません!!」
「あ、あわわわ!? ご、ごめんなさい!?」
「あ、す、すいません」
ツーチの言葉に、自分たちがまずいことをしてしまったと把握したのか、アンはともかく、ファオンまで頭を下げてきたことから、僕たちに片づけをさせるというのは結構まずいことなんだろうね。
ここの常識だと。
まあ、奴隷が主人を働かせたって事実は外聞が悪いよね。
下手すると処刑かな?
だけど、僕たちにはそんなことをする理由もないからね。
「なはは、美味しくて食べすぎるってことはあるからね。気にしないでいいよ」
「初めての味だったのもあるだろうしな」
「そうだね。故意でないのはわかっているから罰したりはしないよ」
僕たちがそういうと、3人はほっと息を吐いて、こわばった体から力が抜けるのが見えた。
「ま、次からは調整してね。色々教えたいこともあるからね」
「「「はい」」」
越郁君がそういうと3人は素直にうなずく。
「さて、注意は終わったことだし、越郁君が言ったように色々教えたいことがあるから、いいかな?」
「ああ、いいよ」
「ファオン。はいと言いなさい。申し訳ございません、ヒビキ様」
「ごめなんさい」
「まあ、ファオンはそういう所を気を付けないと、あとあとまずいかもね。無礼討ちとかされるかもしれないから、ツーチから色々と教わっておくといいよ」
「は、はい。すみません」
どうやら、領主様や商業ギルド長とかの知り合いなのを知って素直になっているのかな?
それとも、無礼討ちかな?
まあ、お貴族様やお偉いの横暴はどこの世界でも一緒ってことかな?
「じゃ、まずは君たちの部屋に案内しよう。ついてきて」
僕たちはそういうと2階に上がりつつ、客間分を用意しててよかったと胸をなでおろした。
即日奴隷を買ってくることになるとは思わなかったからね。
「ここが君たちの部屋だ」
「私の部屋?」
「私たちの部屋ですよ、ファオン」
「うわー、凄いです。広いです」
ファオンのコメントに相変わらず鋭いツッコミをするツーチの2人は案外仲がいいんじゃないかと思いつつ、おっぱいの大きい小さなアンが喜んでくれているのは嬉しい。
越郁君はアンのおっぱいをどうにかして触ろうとするだろうね……。
そこら辺のことを考えてあげないと。
お風呂の時は念入りに洗ってたしね。
まあ、あれだけ大きいと気になるのはわかるけど。
そんなことを考えつつ、アンのおっぱいを見ながら部屋の説明をしていく。
といっても、ベッドや机は4つあるから、好きなところを使うように、喧嘩はしないで話し合いでということぐらいだったけどね。
でも、彼女たちにとっては驚きだったようで……。
「うひゃー、ベッドとかフカフカだ。藁じゃないな。なんだこれ? 宿よりすごいんだけど」
「机、椅子……。かなり上等なものですね。しかも引き出しもついている。執務用? なんでこんなものが……」
「ねー、コイク様ー。このフカフカの丸いのなんですか?」
「それはね、アンのおっぱ……ぎゃふ!?」
「それはクッションって言って、自分が座る場所や、頭とかを乗せて保護するものかな? そうやってアンみたいに、前に持ってもフカフカで気持ちいだろう?」
「はい。気持ちいいです。でも、コイク様は大丈夫なんですか?」
「ううっ、アンのおっぱ……ぎゃふ!?」
「大丈夫。ただのネタだから」
……越郁君もあまりツーチと変わらない気がするんだけどな。
いや、むしろアンみたいな小さい子にセクハラしているからなお悪い?
「? よくわからないですけど、大丈夫ならいいです」
「ごめんねー。越郁君は悪ふざけがすぎるから」
私も首を傾げるアンの頭をなでて、悪影響のある越郁君から遠ざける。
「うきゃー、私のおっぱいがー」
「……越郁。流石にやめろよ」
「……すいませんでした」
流石に勇也君も怒ったのか今までにないぐらい低い声で注意すると、越郁君はすぐに謝った。
そんな冗談も交えつつ、3人にとりあえず部屋の使い方と言ってもベッドや机、魔力で動くランプの使い方を教えて、再び下のリビングに戻ってくる。
「こほん、とまあ、あそこが君たちが寝泊まりする場所だよ。ま、頑張り次第で小部屋とか待遇は良くしていくから、頑張ってお店を盛り立てよう!!」
「はい。お任せくださいコイク様」
「がんばります!!」
越郁君の話に賛同しているのはツーチとアンで、なぜかファオンは横を向いている。
どうかしたのかと思って、近づいてみると……。
「え、これ以上に良くなるの!? なら、冒険者に戻るよりも……」
「ああ、そういえば、そんなことを言っていたね」
「うわっ!? って、ヒビキか」
私に驚いたファオンの声に越郁君も
「どうしたのせんぱい?」
「いや、ほら、ファオンが騙されて奴隷になったとかいう話があったじゃないか」
「ああ、そういえば、結局あの時はおっちゃんが間に入ってちゃんと聞いてなかったね。で、どうしてまた騙されたとか?」
「え、あー、えーと……」
2人でファオンを見つめると、一緒にいたツーチやアンのキツイ視線も集まり、ファオンは少し居心地が悪そうな感じになっている。
あちゃ、話を聞く場所を間違たと僕が思っていると、勇也君がお茶を入れて持ってきた。
「まあまあ、ファオンも不本意に奴隷になったようなことは越郁から聞いているし、ちゃんと話してみたらどうかな?」
「あ、うん。でも……」
勇也君の言葉に賛同しつつも、ファオンが視線を向けるのはツーチとアン。
2人はなぜかキツイ視線でファオンを見ていた。
「ツーチもアンも、そんなに睨まないでやってくれるかな? ファオンも君たちの待遇を悪くするためにわざとやっているわけじゃないと思うからさ。もちろん、こんなことで君たちの待遇を悪くしたりしないから、安心して」
ああ、なるほど。
さっきから僕たちに逆らうばかりの行動が多いから、流石に真剣に怒っているのかとファオンも気にしているのか。
「大丈夫だよ。2人も見てたでしょう? なんかあの時嵌められたとか言ってたし、その話を聞く前に色々やっててわすれてたよ。ごめんねファオン」
「いや、べつにいいけど……」
おいおい。と思いつつ僕たちも忘れていたので、人のことは言えないか。
「聞くだけ無駄だと思いますが……ユウヤ様やコイク様がそういうのであれば」
「私も大丈夫です」
とりあえず2人も自分たちの立場が悪くなることはないと聞いて安心したのか、キツイ視線はやめてくれて、ファオンもそれでようやく、自分が奴隷になったいきさつを話してくれた。
長かったので、簡潔にまとめると、なんか、一緒に仕事を受けた冒険者たちがグルでファオンを売りさばいたそうだ。
まあ、ファオンからだけの話しだから何とも言えないんだけどね。
「だから、冒険者ギルドに行って事情を説明すれば何とかなると思ったんだ」
「なるほどね」
不正に売りさばかれたなら、そりゃー冒険者ギルドの信用問題になるよね。
僕はそう思っていたけど、ツーチは冷たい表情を変えずに口を開く。
「騙されて奴隷というのはよくあることです。取り合ってくれるでしょうか?」
「それは、ツーチの経験からかい?」
私がすぐに切り返すと、何も言わずに視線を逸らす。
ふむ、そういう経験があるからこそ、ファオンの言動に色々不満が溜まっているわけか。
私たちが事情を聴くのも、きっとツーチにとっては色々不快なんだろう。
きわめて有能に明るくふるまってはいるのは、今までの経験から来ているんだろうね。
と、今はツーチのことはいい。
「さて、とりあえず、不正をした冒険者がいるというのは冒険者ギルドにとっては不利益だね。私も一緒に仕事をする可能性があるから、そういう輩がいるのは迷惑でしかない。明日一度、冒険者ギルドに行って話してみることにしよう。上手く行けばファオンは奴隷から解放されるかもね」
そんな風にファオンにとっていい話をしたつもりなんだけど、ファオンはなぜか困ったような顔になる。
「あれ? ファオン、どしたの?」
「あ、いや、コイク様たちの奴隷の方が生活しやすいから、今更冒険者に戻ってもって馬鹿なこと考えた」
「あー」
いや、馬鹿なことではないと思う。
この世界の環境に比べると、僕たちの住む環境は数段上だとおもう。
まあ、それが常時続くと思ってもらっても困るけど、たった一日体験しただけで僕たちに信頼を置くというのがファオンが騙された一端な気もする。
良くも悪くも単純で純粋なのだろう。
さらに、まだファオンの言っていることが事実と分かったわけでもない。
僕たちを騙そうとしている可能性も考えておかなければいけない。
いや、冒険者ギルドを巻き込むんだからほぼありえないとは思うけど。
「ファオンがこのまま奴隷を続けるかは、それとは関係ないし、まずは冒険者ギルドに話すでいんじゃない?」
「え? いいの?」
「私たちとしては、3人も知っていると思うけど、色々秘密があるから、私たちと一緒にいたいなら奴隷ってのが都合がいいから奴隷のままでいてもらうけどね。ファオンがそのまま私たちの奴隷でいたいっていうなら別に止めないよ。まあ、情報抜かれてやめられてもこまるから、最低1年は奴隷でいてもらうけどねー」
「一年か……」
悩むのかファオン。
「ま、今日はゆっくり休んで、明日、冒険者ギルドに行くまでに決めておくといいよ。さて、明日は商業ギルドからの仕入れもあるし、そろそろ休むよ」
さてさて、明日はどうなることやら。
と、3人はこれから休むとしても、僕たちは報告書を書かないとね。
奴隷の3人の報告はどうしたものか、勇也君や越郁君と話して決めたほうがいいかな?




