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自然散策部ではなく異世界調査部だったりします  作者: 雪だるま弐式


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第24回活動報告:お家を整えよう

お家を整えよう




活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長




久々にゆっくりして、あわよくば勇也君と仲を深める作戦も越郁君と考えていたんだけど、奏の登場で私の野望は脆くも崩れ去った。

邪なことは上手く行かないってことかな?

ま、そこはいいとして、静かなこの異世界の中にポツンと存在する、本拠点に戻ってきた私たちは、カタログで頼んだ品物の確認をしていた。


「おー。思ったよりもしっかり作ってるね」

「いや、見た目だけをボロ……じゃなくて、こっちに合わせて作ってるだけだから中は動くように作ってるから当然だろう」

「ゆーやってしんらつー。へー、あの町はゆーやからすればボロっちいのかー」

「揚げ足とるな。趣があるっていうんだよ」


しかし、勇也君のボロボロに賛成するわけではないけど。

それなりに趣がある偽装をしている。

それでいて、中身はちゃんとしたものだ。

今見ているのはただのクローゼットに見えて冷蔵庫だったりする。

電気じゃなくて魔力で動くものだから、非常にありがたい。

家電とかはあきらめるしかないと思っていたら、電力を魔力で補うタイプの家電じゃなくて家魔力がカタログで揃えられていた。


「稼働確認もできたし、納品に間違いはないね。2人はどうだい?」

「うん。こっちも家具系はおっけー」

「商品にする予定の物もちゃんとそろってます」


よし。

これで問題はないかな。

あとは、夜明け前に戻れば大丈夫。

僕がそう思っていると、検品を終えたのを見計らって里中先生が声をかけてきた。


「さて、また町に戻る前に少しお話をしましょうか」


そう言われて、僕たちはリビングで先生の話を聞くことになった。


「里中先生。あんまり時間はないんですが」

「大丈夫ですよ。山谷君。そこまで時間はとりませんから。さて、お話ですが。町でお店をやるという話は聞きました。それで人を雇うという話もです。それでその人が信用できて、見込みがありそうなら私が鍛えてあげましょう」

「えーっと、せんせい? それはどういう?」

「あなたたちが指導しても構いませんが、見習い調査員としてはまだキツイですからね。使えると思った人は、そうですね。一人につき一人。合計3人までは見てあげましょう。私がこちらに待機している間に連れてくることをお勧めしますよ?」

「その言い方だといずれ先生はこちらに待機しなくなるのですか?」

「ええ。その通りです。私はあくまでもあなたたち3人の指導と管理ですから。あなたたちが一人前になれば、私は覚得之町での安全管理の業務に戻ります」


なるほど。

そうか、先生はあくまでも指導員としてこちらにいるだけで、僕たちの指導が終わったら、つまり一人前の調査員となったら、覚得之町で待機して有事にそなえるわけだ。異世界の扉は今のところこの一つだけだけど、他にできない保証なんてないわけだし。すでに51も存在するんだからね。


「まあ、人を使う、育てるというのは何かと難しいものですから。何事も経験というやつですね」

「そっかー。私たちはまだ半人前というか、まだ見習いだしね。なかなか鍛えるのは難しいか」


そうだ、僕たちが人に教えるなんてのはまだほど遠い。

出来ないことはないだろうけど、それは本当に小手先だ。

里中先生に鍛えられた方が何倍もいいだろう。


「はい。ですが、いきなり私に渡されても困りますからね」

「え? なんでですか?」

「ちゃんと、3人が仲間にする人と信頼関係を作るっていないと、私が信頼されるわけがありませんから」

「「「あー」」」


その通りだ。

奴隷を買っていきなり里中先生に引き渡しても混乱するだけだろう。

それでは訓練に身が入らないし、最終的に信頼はしても里中先生が信頼を得るのであって、私たちがたらい回しにしただけでしかないから、僕たちが信頼されるわけではないから、僕たちが雇い入れた意味がない。


「つまり。私たちである程度信頼関係を得てから、里中先生にということですね?」

「その通りです。宇野空さん」


そうにっこり答える里中先生に嫌な考えがよぎる。


「……もしかして、その新人教育をこの期間で学べという感じですか?」

「さてー、そこまで無理は言いませんよ。まあ残る日にちは約40日ぐらいですし。でも、新人教育とかの研修もしてしまうのであれば、評価はしやすいですね。自ら進んで学ぼうとする意欲ありということで」

「「「……」」」


その言葉で僕はもちろん、勇也君や越郁君も察した。

この40日間で奴隷を買い入れて信頼関係を作り、それなりに鍛えて見せろと言っているのだ。

評価に加えるから、苦手とかいうなよ? という脅しである。


「ということで、私の話は以上です。異世界の調査頑張ってくださいね」


と笑顔で送り出された。



約半日ぶりに戻ってきた、リーフロングのお城の部屋。

当初の予定なら、一旦寝て朝にまた合流して商店でのんびりとカタログで取り寄せた物の荷ほどきをする予定だったのだが、それは里中先生の現地協力者を得ろという命令により中止となり、まずは作戦会議となった。


「で、どうするの? いきなり無理難題な気がするんだけど……」

「あれだろう? このままだと僕たちだけで色々やりかねないから釘を刺してくれたんだろう?」

「勇也君のいう通りだろうね。僕たちは今のところ、誰かを協力者として迎え入れるつもりはなかった」

「え? でもお店の方は……」

「お手伝いさんなだけで、僕たちのことを知る同志ではないだろう? そこを危惧しているわけだよ」

「うーん。いや、話は分かるけど。こういうのって探して見つかるモノなのかなー? 焦って探すと逆に失敗しそうなんだけど」

「里中先生は無理に誰かを連れてこいとは言ってなかっただろう? 意識しておけって話だよ」

「勇也君のいう通りだね。探そうとしないと後は完全に運だ。やることには変わりないし、必要な時に人材がいない方がまずいから今のうちに探しておきなさいっていうことだろうね」

「あー、そうか。ついでに私たちが早期に見つけられれば里中先生が指導をしてくれるか。うん。このチャンスを逃すなみたいな感じか」


越郁君も勇也君と僕の説明で納得したようだ。

あまり意識してなかったのが問題なんだよね。

たった3人で出来ることなんてたかが知れているから、せめて現地の人をという事だろう。

越郁君がいったお店のお手伝いも、本当にお手伝いのつもりだったし、先生の言葉はある意味正しい。

いつまでも見習いのつもりでいるな。ちゃんと調査員をしろってことだよね。


「じゃ、夜が明けたら今日は奴隷選びってことなか?」

「別にそこまで急げって話じゃないだろう。まずはもらった家をちゃんとしないと、人が住めないからな」

「そうだね。勇也君のいう通り今日はまずちゃんと家を整えよう。あばら家に住まわせて信頼なんて得られないからね」

「そりゃそうか。じゃ、今日は家を整えるってことで。町の衛生改善は遠いなー」

「それは遠いだろうね。衛生観念ってのを植え付けないといけないからね。医者、病院でも開業してそこらへんを伝えるのも手だろうけど、誰かがそこに掛かり切りになるだろうしね」

「はぁー。臭いのは我慢か。とにかく家の周りだけはどうにかしよう。よし、そうと決まれば、夜明けまであと4時間ぐらいか。私はひと眠りするけど、2人はどうするの?」

「今から家にっていいたいけど、ガーナンさんと顔を合わせないのはまずいだろうからな。同じくひと眠りかな? 先輩はどうします?」

「僕もいったん寝るよ。何せ日本が夜の時に来たからね。起きてる時間的にも休みが必要だよ」


ということで、一旦解散して貸してもらっている部屋でみんな4時間ばかりだけど眠ることにする。

中途半端なので寝れるかと心配したけど、思ったよりも疲れていたらしくベッドで目を閉じて、次に目を開けたときには朝になっていた。



朝は特に何も問題なく、ガーナンさんと軽く話して朝食を取ったあと、ダザンさんを案内役に家の方に戻ってきた。


「さーて、午前中は家の掃除で、お昼頃に商業ギルドに顔をだして、その後奴隷選びかな? その時にダザンさんよろしくー」

「はい。わかりました。何か手伝うことはありますか?」

「んー。何かあるかな?」

「家具の配置を手伝ってもおう。僕と同じ男だし」

「そうだね。ダザンさん、男の力頼りにしていいですか?」

「もちろんですとも」

「じゃ、私と響せんぱいが家の掃除。ゆーやとダザンさんは男の力を生かして、家具の配置で。みんな頑張るぞー」

「「「おー」」」


そんな感じで、午前中は4人でせっせと掃除と家具を置くことになる。

家具を見て不思議がらないか不思議だったけど、ダザンさんは見た感じアイテムボックスから家具が出てきたことに驚いていただけで、家具自体には特に疑問を抱いている様子はなかった。

カタログの偽装は完璧だったという事かな。


「ゆーや、ダザンさん頑張れー」

「頑張ってくれー」


越郁君と僕の目の前には、タンスを抱えて所定の位置へ運んでいる2人がいる。


「下がります。いきますよ」

「はい」


息を合わせてせっせと運ぶ2人。

魔術ブーストでやれば僕たちでもできるんだけど、ここは男の見せどころということで、掃除に徹している。

流石に家具を持って階段を上がるようなことはしていない。

二階でアイテムボックスから家具を出しているので、そこまで鬼ではない。

時間の無駄でもあるからね。

で、最初に僕と越郁君の家具の設置を見届けたあとは、他の勇也君の部屋、執務室や客部屋とかは指示だけだして、下の店舗スペースの方の掃除を始める。


「で、越郁君。この店舗スペースはどうするつもりだい?」


店舗スペースとは言え、ただ広いだけだ。

カウンター一つも残っていない。

ひとまず、必要そうな店舗什器は揃えてきた。


「うーん。日本と同じ、欲しいものを持ってカウンターにだと下手に死角は作れないよねー」

「そうだね。残念ながらそこまでここの人たちの良識を期待してはいけない」


貧しい人や良識のない人が犯行を行いやすい環境を作るの方がこの場合悪い。

小銭をばらまいて、拾って返してくれるのは日本ぐらいのもので、外国ならそのまま持ち去られても当然だ。

むしろ、拾おうとすると泥棒と呼ばれることもある。

現在の地球でこんなものだから、異世界にそんな良識を期待する方が間違いだ。


「でも、わざわざ注文されてから商品を取り出すのは面倒だよねー」

「なら、出入り口の近くにカウンターを置いて、カバンとかを持っている人は一旦荷物をこっちで預かって専用のかごに入れてもらうとかがいいだろうね」

「あとは、背の高い棚は壁沿いに置いて、中央には腰ぐらいの高さの台に商品を置くか、それとも何もなしって感じかな」

「それがいいだろうね。家への勝手口は鍵をかけるか、棚でふさぐ感じかな。というか、そこまで商品が多くはないけどね」

「だねー。ま、とりあえず空の棚でもいいからおいておこう」


掃除をしつつ、棚を話した通りに壁沿いに並べていく。

小一時間ぐらいでお店らしくはなってきた。

商品はないけど。

すると、勇也君やタザンさんは上の家具を置き終えたのか下に顔を出してきた。


「おー、越郁できてるな」

「そうですな。お店らしくなっていますな」

「あとは商品かなー」

「上が出来ているなら、自分の部屋の整理でもしようか、商業ギルドに行くにはまだ早いし」

「そうだねー。私とせんぱいは女の子だから個人でやるとして、ゆーやとダザンさんはどうする?」

「うーん。今まで自分の部屋はついでに片づけてたからな。倉庫の掃除でもしておく」

「では、私も倉庫の掃除を手伝いましょう」

「そっか、じゃ、お昼は私たちが用意しておくから、倉庫の掃除頑張ってねー」

「わかったよ」


そういうことで、再び僕と越郁君は上の部屋に戻り荷ほどきをする。

もちろん泥棒が入らないような魔術的仕掛けがあるから盗難の心配はないけど、そこまで大事なものは置かない。

せいぜいダミーの服とベッドぐらいかな?

他はアイテムボックスに入れられるからね。

便利だよね。アイテムボックスって。


「さて、荷ほどきってほどでもなかったし、ゆーやとダザンさんの為にお昼ご飯でも作ろうか」

「そうだね」


倉庫掃除を頑張ってくれている2人の為だ。

こっちも気合いを入れて料理を作ろう。


「と、意気込んだのはいいけど、下手に日本の食材は使えないよねー」

「そうだね。パンも硬い奴だったよね。ああ、昨日冒険者ギルドに行く途中で、露店があったじゃないか。あそこで何か食材を買ってこよう」

「よし。じゃ、出発だー」


食材を求めて、昨日見た露店へと足を延ばす。

わいわいがやがや、そんな擬音がふさわしい賑わいだ。


「人が思ったよりも多いね」

「たぶん、夕方になるとライトもないしお店はやってないんだろうね」

「あ、そうだよね。24時間のコンビニとかあるわけないし」

「だね。とりあえず、明日の分ぐらいまで買い込んでもいいんじゃないかな」

「それがいいね。と、どんなのがあるかなー」

「何が売ってるのか楽しみだね」


観光や市場調査も兼ねて露店を覗くと思ったよりも野菜は豊富だった。

小麦はもちろん、定番のキャベツ・テーブルビート・タマネギ・ニンニク・ニンジンは当然あったし、ジャガイモ・インゲンマメ・トマト・トウモロコシなど、地球ではアメリカ大陸原産とされる野菜もあった。

こうなると、バニラやトウガラシ、カカオなんかも高級品で存在するかもしれない。

お肉もウサギのお肉などが普通に売られていた。

値段的には野菜に比べてかなり高め。

見知らぬ野菜も存在したけど、今日は美味しい料理を作るためだから、冒険をするつもりはない。


「いやー。これだけあるなら結構料理ができそうだね」

「うん。思ったよりも種類が豊富で値段もそこまで高くなかったね」


そこまで時間をかけることもなく材料を買い集めて雑談しながら家に戻ろうとしていると、不意に奥の露店から怒鳴り声が聞こえてきた。


「お前!! 自分の立場が分かっているのか!! おら!! お仕置きだ!!」


バシン!!


「あぐっ!?」


僕と越郁君は顔を見合わせて、その声がする方へと足を進める。

そこには、人がたくさん首輪につながれて……売られていた。


「奴隷か。やっぱり生で見ると腹立たしいね」

「右に同じだよ」


人が売られているのを見て憤らない日本人なんていないだろう。

そして、先ほど声の音源はあの太った鞭を振り上げているおじさんと、地面に倒れている少女だろう。


「客に向かって挨拶もできんのかお前は!!」

「……私は奴隷じゃ、ない」

「奴隷だ!! お前は売られたんだよ!! 全く何度も言わせるな!!」


バシン!!


再び鞭が振るわれて、少女を打つ。


「うぐっ。ぼ、冒険者ギルドに……かく、にんをとれば……」

「黙れ!! それが本当だとしても、私が損をするだけだろうが!! そのまま黙って売られてろ!! 間抜けな自分を恨め!!」


バシン、バシン、バシッ……。


鞭の連打は途中で止められる。

越郁君が止めたからだ。

これは暴れるかな? そう思って身構えていると、のんびりした口調で越郁君は話しかける。


「ねー。おじさん。この子私に売ってくれない?」

「あ? 客か?」

「そ、お客」

「見ての通り、言う事はなかなかきかねーぞ。聞いての通り奴隷されたことを認めちゃいねえ。こういって同情を引く奴はごまんといる」


なるほど。

わざわざ、一人一人話を聞いてたらきりがないし、奴隷から逃れるためにはそういう嘘をつくのもあるだろう。

このおじさんも越郁君に忠告しているから、悪い奴隷商人というわけでもなさそうだ。

つまり、こういうのが当たり前の商売なんだろうね。


「元気がよさそうだからね。この子は荷物持ちとか力仕事かな。あと、ちょっと広い家を買ったからさ、あと2人ぐらい見繕いたいんだよね。お手伝いって感じ子いる? 女の子がいいかな」

「ふーむ……。お金を持ってるのか……ってちょっと待てよ。嬢ちゃん、コイクって名前か?」

「そうだよ。どっかであった?」

「いや、昨日偶然、冒険者ギルドで見かけただけだ。サラさんとドーザさんと倒してたよな?」

「うん。試合では勝ったね。実戦だと分かんないね」

「随分と余裕に見えたがな。と、そこはいいか。確かマンナ様の弟子でもあったな。金はもってるのか。じゃ、この娘も十分買えるだろう」

「え? この子高いの?」

「ああ、隠しているが獣人だ」

「マジ!? 見せて見せて!!」

「え? ああ、いいぞ」


越郁君の言葉に驚いた少女は髪に隠れていた三角耳を出した。


「うひゃー。ねえ、君は種族的になんなのかな?」

「あー、えっと、普通に犬人族だけど」

「まあ、そこまで珍しくもない。人に比べると脚力が強くて感覚が鋭い。が飯を良く食う。そこらへんでお金が足らなくて冒険の犬人は奴隷になるやつも多い。頭が悪くてお金の管理ができないからな」

「だから、私はハメらただけで!!」

「ああ、黙ってろ。今はこのコイクの嬢ちゃんと商談中だ。こんなのでいいのか?」

「いいよー。ばっちこい!! あと2人もなんかこんなかわいい子いない?」

「うーん。他の獣人となるとなー」

「あ、おい!! 私を無視するなよ!!」

「僕も無視しないでほしいなー」


そんな感じで、昼食の材料買いのついでに奴隷も買うことになりそうだね。

勇也君、驚くだろうな。

あははは……。






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