第23回活動報告:ひと時の休憩
ひと時の休憩
活動報告者:海川越郁 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「里中先生までそろって、部活動ですか? でも、昨日の初日だけでゴールデンウィークの間はお休みって言ってませんでしたか?」
そんなことを言いつつ、席に座る時範先輩。
その瞬間に上体が揺れて、たわわなおっぱいが揺れる。
お前、ブラちゃんとつけてるんだろうな?
ゆーやを誘惑してないよな?
なんてことを考えてしまう私。
隣の芝生は青く見えるんだよ。
私にも半分ぐらいでよこせよ!! それで私は体格的にバインバインだから!!
「ええ。お休みですよ。今日は打ち上げですね」
「そうそう。初めての活動が終わったしね。登頂もできたから」
「ああ、なるほど。でも、響。それなら私も誘ってくれればよかったのに。一緒に登ったじゃない」
私が時範先輩のおっぱいに嫉妬している間に話は進んでいく。
「うーん。そうは思ったけど、昨日はあれだけ疲れてたしね。今日はゆっくりしているかと思ったんだよ。昨日はメールもなくすぐ寝たみたいだしね。しかし、余計なおせっかいだったみたいだ。ごめんよ奏」
「あー、そっか。昨日は確かにメールとか電話してなかったわ。私も悪いか。ごめんね、我儘みたいなこといって」
この二人は仲がいいよね。
私とゆーやには及ばないけど、こうやって言葉だけであっさり納得ができるってのは、お互いによく信頼しあっていないとできないよね。
普通なら、仲間外れにされたと思うよ。
ま、その程度の仲ならまずあの登山にも参加しないか。
理由は元々、虚弱だった響せんぱいを心配してだからねー。
「で、見た感じ、もう食事は終わってる?」
「そうです。時範先輩。今はドリンクバーでのんびりしてますね。時範先輩はどかに向かう途中だったんですか?」
「ええ。響に用事があったのよ」
「僕にかい? 電話でも連絡してくれればよかったのに」
「したわよ。でも、朝から全然つながらないし。マンションにはいないし、心配して外に探しに出てみればこれよ」
あ、そっか。
私たちがいる異世界に電波なんて届くわけないよね。
「僕を探しに来てくれたのか。それはごめん。確かに、携帯に着信があるね。打ち上げをしていたし、マナーにしていたから気が付かなかったよ」
「はぁ、ここでのんびりしている響を見つけたときそう思ったわよ。でも、昨日楽々と山を登っていた響がどうにかなるわけないか……」
なるほど。
お互いがお互いを心配した結果か。
うん。やっぱりすごく仲がいいね。
でも、流石にここまで献身すぎだとまずくない?
「えーっと、時範先輩。この道を歩いてきたってことは……」
「ああ、響が練習しているって言ってたランニングの道を歩いて探してたのよ」
「そっかー。なるほど……」
これって異世界の出入り口がある公園までたどり着くよね。
「でも、凄いわよね。この距離をランニングしてるなら体力がつくのはわかるわ」
「そうだろう」
そんなふうににこやかに話している響先輩と時範先輩をよそに私は里中先生にこっそり話しかける。
「先生。大丈夫ですかね?」
「時範さんですか?」
「ええ。別に公園の扉を見つけるとかはいいませんけど、こうやって響先輩を心配して探していましたし、たった3時間で行方を捜してこれですよ? あと2日近くも響先輩が連絡着かずだとどうなると思います?」
「……警察沙汰は面倒ですね。しかし、今回だけですし。適当に催眠術をかけてもいいですけど」
「今後の長期はどうするんですか?」
「合宿で説明がつくでしょう」
うーん。
確かに合宿だといえば今後は心配ないよね。
でも、なんか嫌な予感がするんだよなー。
「越郁、そこはまあ心配しても仕方がない。今は、さっさとカタログの注文をしないと」
「あ、そうだった。大体決まってたっけ? 響先輩はどうしよう」
「そっちはいいみたいだ。ほら」
そういってゆーやはメモの切れ端をこっちに見せる。
そこには「僕の注文は終わっているし、このまま奏を連れて帰るよ。明日には合流する」と書かれてあった。
響先輩も私がそれを読むのを待っていたのか、読み終わったあとすぐに立ち上がり……。
「はぁ。奏が心配しているし、今日は帰りますね」
「なによ。私が邪魔したみたいじゃない」
「あんまり変わらないだろう」
「ぬぐぐ。それは響が黙っていなくなるから……」
「だからそれは謝っただろう。これから埋め合わせをするから」
「あー、もう。なんか先生。海川さん、山谷くんごめんなさい」
「いえいえ。お友達と仲良くするもの大事ですよ」
「響せんぱい、またねー」
「お疲れ様でした」
そんな感じで先に先輩たちはファミレスから出て行く。
それを確認したあと、里中先生は口を開く。
「では、さっさと注文を済ませてしまいましょう。残りの時間はゆっくり過ごすといいですよ。また明日からは異世界ですから」
「はい」
「はーい」
ということで、注文を手早く済ませた後は、すぐに私たちも先生と別れて家に戻ることになった。
が、その途中であることを思い出す。
「ゆーや。私たちって合宿みたいに言ってたよね。これって戻って大丈夫かな?」
「あー、確かに今戻るのはまずいな。里中先生に連絡しよう」
そういって、ゆーやが電話先生に電話をかける。
ま、里中先生の家か、駄目ならゆーやとちょっとデートでもして今日を過ごせばいい。
金貨の換金を一人当たり10枚だけ入り用ろうといって先に里中先生が出してくれたのだ。
なんと一枚で一万円つまり十万円。
学生には大金だね。
しかしだ、響せんぱいは親は出張で一人暮らしらしいからいいんだろうけど、あの時範先輩が引っかかるんだよねー。
なんか私の勘が危険だっていうんだよな。
あのおっぱいとかは関係なく、なんというか響先輩を心配して異世界まで追ってきそうなんだよねー。ありえないのはわかってるんだけど。
「……い。はい。そうです。あ、現金は先ほど換金してもらいましたし……はい、はい。わかりました。では、はい。なにか問題があればまた連絡します。はい、では失礼します」
私が色々考えている間に、ゆーやは先生と話を付けたみたいで、電話をポケットに入れて私に話しかけてくる。
「越郁。里中先生に連絡したけど、家に戻るのがまずいなら先生と合流するのはありだって。でも、休みだし、お金に余裕があるなら遊んで来こいってさ。買い物も兼ねて。どうする越郁?」
「私はお金もあるし、私物の買い物もしたいし、ゆーやとのデートだからうれしいから行きたい。というか、里中先生のちょっとした休日を邪魔するのはあれかなーって思う」
「それは同意。じゃ、デートするか」
「よっしゃー!!」
「デートの掛け声かそれ?」
「いいんじゃない。私とゆーやだし。と、そういう細かいことは気にしないで、さっさとデートだ!! まずは買い物だー!!」
ということで、心配過剰でレズっ気がありそうな時範先輩のことは頭の中から放り出して、ゆーやとのデートを開始することになった。
まあ、よく買い物は一緒に行くけどね。
向かうはちょっと歩くが、バイパス沿いにできた大型モールだ。
あそこで手に入らないなら、電車に乗っていかないといけない。
あとはネット通販とか?
余程大事な限定ものとか洋服探しでもない限りはモールでいいんだ。
「……人。多いな」
「……だね」
最初はゆーやとのお金たっぷりの豪遊を夢見てモールに来たんだけど、人が山ほどいた。
そこでようやく思い出した。
現在、日本は大型連休。
「……ゴールデンウィークだったな」
「……うん」
そう、ゴールデンウィーク。
暇人どもはこういった大型モールに集まってお金を落とす。
旅行にでもいけよ。モールは年中あるだろうが。
くそー、ゆっくりできる気がしない。
「まあ、買い物はできるし安売りもしてるから、行こう」
「……このまま帰るのもあれだしね」
ということで、最初の勢いを失いつつ、モールへと買い物に行く。
「いつもより五割り増しって感じだねー」
「開店当初よりはいいじゃないか」
「まあねー」
この大型モールで出来たときは駐車場も迂闊に止められないみたいで車がズラーっとバイパス沿い並んでたよね。
私たちは地元住民だから楽だけど、あそこまでして大型モールに行きたいものかな?
私は遊園地で何時間待ちとかをするのは苦手んなんだよねー。
そういうのに比べると今日はまだマシ。
「よし。気を取り直して、買い物だー!!」
「おー。で、何を買うんだ? 必要物資はさっき頼んだばかりだろ?」
「私物だよ私物」
「私物?」
「うん。私服とか、本とか、本の方は商売に関するやつとかね」
「あー、私服は越郁の趣味だけど、本は理解できる」
「ふふん。私服も向こうで着るようだよ。支給されたのばかりじゃつまらないしね」
「まあ、そうか」
「ゆーやのも選んであげるよ」
「任せる」
ゆーやはあんまり服装気にしないからね。
家では私はジャージだけど私服はちゃんと可愛い女の子なのさ。
そうでもしないと、ゆーやに女の子扱いしてもらえなかったからね。
女を見せるとこだよ。
と、そこはいいとして。
買い物、買い物っと。
「ゆーや、これはどうかな?」
「いいんんじゃないか?」
「興味ないお言葉ありがとう。ま、ゆーやにはこれが似合うよ」
「そこは信頼してるよ」
「そこは素直にうれしいね」
そんな感じで、私とゆーやは買い物を続ける。
基本的には、異世界できる普段着というやつ。
家にある物を持っていくとボロボロになりそうだからね。
両親に何があったって心配するよね。
そういう意味でも異世界は異世界用で用意しておかないとね。
下着とか特に。
色気のない支給品じゃゆーやに幻滅されるからね。
「しかし、これだけ洋服にお金使うとは思わなかったな」
「あー、それは私も同じく」
一から服をそろえる感じだったから、1人当たり5万近くかな。
なるべく安いやつを買ったのにこれだよ。
おかげで財布が一気に半分になった。
「とりあえず。ロッカーに閉まって、本だな」
「だね」
服はいったんロッカーに入れて、その後本屋に赴いたんだけど、その途中で100円ショップを見かけて中を物色することにする。
「こういうのって、カタログで頼むのじゃダメなのか?」
「手に取ってみたわけじゃないしね。自分たちでも持っておいて損はないよ。と、ほらこういうビニール袋の束とかはあった方がいいし、手帳は上物を本屋の文房具で買うよりもこっちの方がいいよ。何かあれば壊れるし、すぐに切り替えられるのがいい」
「それもそうだな」
そんな感じで、100円ショップで必要そうな消耗品を適当に買うことにする。
「お菓子とかも案外いいかもな」
「お、そうだね。アイテムボックスに入れておけばいつでもいける。でも、100円ショップだと種類少ないんじゃない?」
「じゃ、ここである程度買ったら、食料品売り場の方に行こう。というか、買った服はちょっと陰にでも入って、アイテムボックスに入れればよくないか?」
「あ」
言われて思いだした。
なんか、買ったものって自分の手で持っておかないとっていう感じがあった。
日本で魔術なんか使うことはないし、一般人のままでやってた。
調査員の仕事ってわけでもなかったらそういう風に考えられなかったんだろうね。
ということで、さっそくロッカーの荷物を取り出すふりをしてそのままアイテムボックスへ移動。
まあ、なんて便利なんでしょう。
さて、荷物問題を解決はしたが買い物はまだまだ続く。
「お菓子かー。嗜好品の売り物としても、カタログから仕入れている分もあるよな」
「うん。一応色々仕入れてる。商業ギルドから情報を得た後だと、異世界だから注文しても到着するまで時間がかかるからね」
「じゃ、お菓子の材料とか作り方の本とかあった方がいいんじゃないか?」
「あー、実演も大事か。小麦粉で作れる奴をなにか探そうかな」
本を買うまえに、こんな感じで右に左で買い物をしていると時間はあっという間に過ぎていき。
気が付けば日が暮れていた。
「思ったより長い時間モールにいたな」
「うん。必要なものが多いと結構時間かかるね。で、夜はどうするの? 集合は何時だっけ?」
「集合は夜の10時」
「あー、一泊はしなくていいのか。財布がピンチだから助かった」
「晩御飯は食べてから集合だから、このままモールで晩御飯も食べて行こう。昼もファミレスで外食だったけど、この後はまた異世界だからね」
「うん。モールで食べよう。バイキング形式の食べ放題の奴がいい」
「それがたらふく食べられそうだな」
最後の晩餐ではないけど、これからまた異世界だから、食い溜めしようということで、バイキングの食べ放題へ行ってしっかり食べた。
ちょっと、惜しい気がしたので、こっそりと100均で買ったタッパにでもと思ったがゆーやに止められた。
まあ、ルール違反だし仕方ないか。
さらば、日本のご飯よ。
これから私は一か月近く、異世界食生活になるわけか……。
あ、なんか気落ちしてきた。
そんなことを考えていると、気が付けば集合場所。
公園に到着していた。
「来ましたね。2人とも」
「やあ、こんばんは。って、越郁君がなにか落ち込んでないかい? 勇也君何かあったのかい?」
「ああ、これで贅沢な食事ができなくなるって気落ちしてるだけです」
「ああ……」
「そういうモノも買ってきたのではないですか?」
「あ、そうだった」
里中先生に言われて思い出した。
こういうひもじい食生活を改善するためにお菓子とか、レトルト系を買ってきたんだった。
「まあ、異世界で付き合いもあるでしょうから、異世界の食事を食べないということはないでしょうから、日本から離れるという気落ちする気持ちはわかりますけどね」
「先生はよくお肉食べれましたね」
「私は最初から少な目ということで100グラムぐらに切り分けたのを調理してもらいましたから」
「ああ、そういう手があるのか」
「あの領主ならではでしょうね。ほかの気位の高いところだと気を悪くするところもありますから、あそこが常識と思ってはダメですよ」
「と、そういえば、カタログで注文したものは?」
「はい。ちゃんと預かっていますよ。向こうでお渡しします」
私が里中先生と雑談をしている間にゆーやは響せんぱいと雑談をしていた。
「へー。そっちはその後モールで買い物かー。僕の方は近所のスーパーで済ませちゃったな。服は家にあるのを持ってきたけど、やっぱり別で買う必要があるかな。その時は付き合ってくれるかい?」
「あー、先輩がいいのであれば」
「うん。僕はゆーや君に付き合ってほしいね」
おー、押せ押せモードですなせんぱい。
ま、ゆーやはそれぐらいじゃないと無理だかね。
「宇野空先輩はあのあと時範先輩とは?」
「響」
「えーと、宇野空せん」
「ひびき」
「響、先輩」
「うん。ま、妥協してあげよう。いつか呼び捨てになるように頑張ろう」
「それはー……。って、時範先輩はの話しですよ」
「ああ、奏はあの後、少し雑談をしてすぐ別れたよ。心配性だよね」
「それって、明日以降は大丈夫なんですか?」
「そこは、親の出張先に顔をだすってことになってるから大丈夫だよ」
ふむ。
親との家族水入らずだから、携帯の連絡も防げるって感じかな?
それなら大丈夫かな。
「さて、全員合流しましたし。お話はいったんやめて向こうに行きましょう。夜の公園にいつまでもいると通報されそうですからね」
そりゃそうだ。
夜の10時過ぎに若いのが4人。
都会でもないし、夜になれば人気はなくなるから、人がいれば目立つ。
さっさと異世界に行かないと見かけた人から警察を呼ばれかねないね。
そういうことで、公園にある異世界の扉を抜けて、一日ぶり、時間的には半日ぶりに戻ってきた。
「さて、時計を合わせてくださいね。こっちは出て行ってから一時間しか経っていませんから」
「「「はい」」」
さて、そういうことで、僕たちは日本での用事も済ませて異世界へ再び戻るのであった。




