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自然散策部ではなく異世界調査部だったりします  作者: 雪だるま弐式


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第22回活動報告:いったん日本へ

いったん日本へ




活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員



ホーホー。

夜の森は静かで、フクロウが鳴いている声がよく響く。

幸い今日は月が出ているので、真っ暗で何も見えないということはなかった。

その月明りだけが照らす世界に、人工的な明かりが灯る場所が存在する。

そこは、この世界には不自然な作りの家で、どちらかというと地球の構造物だ。

そして、その家と思しき玄関の前には一人の女性が佇んでいた。


「はい。おかえりなさい」


そういって、僕たちの帰りを迎えてくれるのは里中先生だ。

僕たちはリーフロングのお城で夜寝静まるのを待ってから、指輪の転移機能を使って本拠点の方に戻ってきた。

本拠点って言うのは不帰の森にある異世界管理局が用意してくれた家のことで、リーフロングにある家は支部ということにした。

どっちも家っていうと区別がつかないってことで。これからも他の場所に家を持つこともあるだろうから、わかりやすいように本部、〇〇支部って区別をつけるようにした。

と、そこはいいとして、僕たちが全員そろって戻ってきたのには理由がある。


「里中先生。先ほど連絡していた件ですが、通せそうですか?」

「ええ。大丈夫ですが、一応説明があるので、家に入ってください」


まあ、玄関で話すようなことでもないし、そのまま里中先生についてリビングへ入る。

事前に連絡して準備していたのか、4人分のコーヒーが用意してあって、それを飲みながら話すことになった。


「さて、たった2日、いえ、もう3日ですね。それだけの時間ですぐに家屋を手に入れるとは担当としてうれしい限りです。まずはそのことをお祝いします。おめでとう」

「ありがとうございます」

「でも、里中先生があばれたおかげでしょう? マンナ様って里中先生の本名?」

「ああ、それは僕も聞きたかったです」

「ええ。そうですよ。言ってませんでしたっけ? まあ、日本では必要ない名前ですし。里中恵も私の本名ともいえますから」


どうやら、間違いなくマンナという名前でリーフロングで幅を利かせたのは里中先生で間違いなさそうだ。

昨日、報告書を出すときに聞けばよかったんだけど、いきなりお城に入れられたりして警戒してたからそんな余裕なかったんだよな。


「と、本題に入りますが、宇野空さんから連絡を受けた、緊急拠点改善措置は問題ないですね」

「緊急拠点……なんだって?」


予想はしていたけど、越郁はなんだそれという顔になった。


「緊急拠点改善措置っていうのは、異世界で拠点を手に入れた際に、補助金や時間遅延などの補助が受けられる措置だよ。主に、衛生面が最悪だったり、拠点として機能しないとまずいときに使われる。って、勉強したろう?」

「あー、そんなのがあった気がするけど。それってリーフロングの拠点に適応できるの? 確かその緊急拠点なんとかって、この家が建つ前ぐらいに何も拠点がないときぐらいじゃないと使えないんじゃなかったっけ?」

「はい。海川さんのいう通り、基本的には異世界での拠点を作るために使われる措置ですね。しかし、今回のように拠点を得て、環境を整えるためにも使えます。わざわざ不衛生なところで具合わ悪くなる理由もありませんから」

「でも、それだけ拠点を得るたびにって感じになりません?」

「そこは、ちゃんと年間予算が組まれているっていったろ? その範囲内なら、里中先生に要請して許可が下りればいいんだよ」

「あー、そっか。自腹だとキツイし限界もあるか」

「はい。必要最低限という枠で予算の配分がされています。まあ、横流しなどはできないようにカタログから選ぶことになりますが」

「カタログ?」

「現金などは横流しされやすいですから、本部が用意したカタログから予算に応じて必要物資を選んで頼むといった具合なります。不便かと思うかもしれませんが、そうでもありません。必要な家具などはしっかりその時代に合わせて不自然ではないように見た目を細工をしていますし、商店などを開くための商品の注文もできる優れものです。予算が足らない、または予算が下りない場合は個人で自腹を切れば注文できますし、なにより、発注すれば5時間ほどで注文が届くことでしょう」

「はやっ!?」

「アイテムバックに入ってきますので、簡単に持ち運びもできます」

「すげー!!」


なんだが、深夜の通販番組みたいだな。

いや、今深夜だけど。

でも、よく考えられている精度だと思う。


「まあこの制度がつくられた一番の理由は、現地協力者を不憫な扱いをしないため、また現地協力者のわかりやすい労働対価といいましょうか」

「あー、そうか。お手伝いさんたちを雇おうとか言ってるけど、その分も家具とか服とかいるのか」

「はい。しかし、現地の異世界において、お手伝いというのはオブラートですが、具体的に言って奴隷の扱いは、ただの労働力の一部として考えられることが多いので、家畜や道具とあまり変わりがありません。そうなると服は粗末、食事は必要最低限、寝床は雨風凌げて、布一枚とかが当たり前みたいなこともありますが、我が異世界管理局の協力者となるのであればそのような待遇を認めるわけにはいきませんし、させるわけにはいきません。たまにいるのです。管理局の中から奴隷を集めるだけ集めて、馬車馬のごとく働かせて当然と考えるアホが」

「そんな馬鹿がいるの?」

「います。あれです。自分がブラックな仕事をしていたので、環境に逆らうというのが出来ず、奴隷は奴隷のように扱うのが当然と考えるんですよね。あるいはそうやって立場が低い人たち相手に鬱憤を晴らす輩が」

「さいてー」

「最低だね」


はぁ、そんな奴がいるんだ。


「ええ。最低です。そのアホはすでに記憶を消して望みどりブラックな職場に戻してあげました。奴隷たちのフォローなど後釜に来た人は大変でしたよ。前のアホの関係者ということで印象最低ですからね」


そりゃそうだろうな。


「こんなことは言いましたが、奴隷と低所得者の雇われの違いは何かといわれると難しいんです。現実には地球でも奴隷のように扱われている人は山ほどいますからね。聞きませんか? 低所得者で生活ができないとか」

「え、まあ聞いたことありますけど……」

「はい。低所得者になると生活がままなりません。衣食住が保障されている奴隷の方がましという考え方もあるんです。ほら、わざと犯罪を犯して、刑務所暮らしをしているという話も聞くでしょう? アホとは言いましたが、そういう経験をしたが故の結果かもしれませんね」

「「「……」」」


そういわれると何か微妙な感じになってくる。


「しかし、異世界管理局として定めているルールを逸脱する行為なのでこれはダメです。そして、自分が苦しい目にあったからといって、他人を粗略に扱っていいはずがありません。憎しみに憎しみをぶつけるだけではだめだと、地球の人たちは特に日本人は知っているでしょう。第二次世界大戦での凄惨な殺し合いのあと、その恨みや憎しみを持ちつつも手を取りあい、分かりあい、今の地球があります。それを忘れないでください。力で押さえつけるのでははなく、言葉で、気持ちで、人と繋がりも持っていく。それが日本人の本当に力だと、私はそう思っています。それで私もこの場にいますからね」


そういって里中先生はにっこりと微笑む。


「ですが、力を見せつけるのは必要なことでもありますので、今回の話しで畏縮したりしないように。今のは奴隷を粗略に扱う事のないようにという話です。そして、奴隷でない人であっても、低所得という背景に苦しい思いをしている人は地球以上に存在していますので、奴隷だけでなく視野を広げて協力者を探すといいでしょう。そこから突き崩していくのです」

「突き崩すって、どっかを攻めるわけでもないのに……」

「海川さん、何をするにも味方は多いこと越したことはありません。周りの支持とはそれだけ大事なんですよ。なにより奴隷より数が多く、支配層が一番管理しなくてはいけない低所得者層の支持を得るというのは、王政であり貴族社会において、絶対的有利に立つためのモノです。それを理解して、地球の先進国のような治世を行っている貴族は存在しませんし、そういう発想がないのです」

「まあ、そうですよね」

「ふむ。私の説明の意図がわかっていないようですね。これを重視して頑張れば、領地持ちとなるのは遠い話ではないということです」

「「!?」」


越郁と先輩がいきなり驚いた顔をする。


「よし!! せんぱい頑張ろう!!」

「そうだね。まずは店舗のお手伝いさんから初めて、そこから一般の人たちといった感じだね」

「うん。それがいいと思う」


そして、テンションMAXで話し始める。

はぁ、領地持ちがそんなにいいのかな。

余計な手間が増えるだけだと思うけど。


「山谷君も忘れているようですね。私たち異世界調査員は異世界に対する外交官でもあります。そのため、有力者との繋がりは必須ですし、侮られるようなことは逆に日本や地球を危険にさらすことになります。だからこそ、必要な行為なんですよ」

「あ、そうか。すいません。なんか訓練ばかりで失念していました」

「いえ。そうなりやすいですからね。だから、近くの町でよさそうな場所があれば私のような指導員が先に手回しをして足掛かりを作っておくんですよ」

「なるほど」

「こういうのは最初から意識してやった方がいいですからね。利用するのではなく、今後の奴隷や低所得者の立場向上の為の慈善事業も兼ねていると思ってください。それが、異世界調査員の後押しにもなりますから」


そっか、異世界調査員ていうのは最終的にはそれを目指すんだし、結局のところある程度権力がいる。

だから、早いうちにそういう足掛かりを作るのか。

旅するのはちゃんと国交とかを結んだ後の方が、安全面とかでは一般人よりはいいだろうし、待遇も保障されるだろう。


「さて、まずは日本に戻ってから、時間の流れを逆転させますので、それから日本の方で必要なものをこのカタログから選んでください」

「はーい。って、そういえばその場合この時計って狂わないですか?」


越郁はそういって、日本時間と現地時間を示している時計を見る。


「大丈夫です。時間に変更が加えられる影響もちゃんと受ける特別仕様の時計なので。あ、でも指輪の方や自前の腕時計は戻ったときに合わせてくださいね」

「なるほど。わかりました」


そこらへんはちゃんとして言うらしい。

というか、時間の流れを変えるってすごいよな。

里中先生にどうやるのかを聞いても機密だと言って教えてもらえなかった。

まあ、当然か。

そんなことを考えながら、一旦日本へ戻る。


「うひゃー、約3日ぶりだけどさ。地球じゃ、朝、家をでてから3時間しか経ってないってのはあれだよねー」

「あと、なんというか安心できるよ」

「それはわかります」


こっちは魔物とかいないし、人の目を気にするようなことないからな。


「さて、一応向こうの時間は遅らせましたが、時間は有限です。のんびりしていてはいけませんよ。向こうの人たちがあなたたちがいないと気が付いて大騒ぎしないうちに終わらせなければいけません」

「はーい。で、どれだけ時間を遅らせたんですか?」

「いつもの逆ですね。異世界での1時間が地球での1日です」

「ほ、それだけあれば少しはゆっくりできそうだね」

「そう思うかもしれませんが、こっちの時間がなくなるので、総合的には調査時間が減るのでそこは注意してください」


里中先生のいう通り、僕たちはゴールデンウィークの休みを利用して長期間の調査をしようという話だったので、地球で時間を消費すると、その分異世界の調査時間がへることになる。


「あ、そうか。でも、最低1日はいるしなー」

「まあ、それぐらいならいいでしょう。3連休のうち1日を使って、のこり2日はまた異世界でということで、48時間全部使うわけにもいきませんが、30日以上にはなります。これぐらいあればある程度は進むでしょう」

「よし、それならゆっくりしている時間はないね。さっさと必要なものを選んで注文しよう。里中先生、このカタログの営業時間とかは……」

「一応24時間対応ですが、夜になると人員が少ない分対応が遅れますね」

「なら、昼の間にやった方がいいね。ちょうどお昼時だし、ファミレスで御飯食べながら選んでいいですか? それとも部室がいいですか?」

「一応、部活動中みたいなものですが、そこまでお堅い部活でもないですね。登山のあとの打ち上げと考えればいいでしょう。あと、拠点確保のお祝いと言ってはなんですが、私の奢りでいいですよ」

「本当!? やったー!! ただ飯だー!!」


はぁ、越郁はこれだからな。

まあ、まだ正式な給料とかもらってないし、自腹切る外食は辛いから先生のお言葉に甘えさせてもらおう。



そういうことで、公園から出て、近場のよくあるチェーン店のファミリーレストランに入る。


「なんか、本当にこうやってメニュー眺めていると、日本って、裕福なんだなーって思う」

「それはわかる」

「そうだね。辺境伯の所で出された食事は2日続けて塩を振ったお肉だったからね……」


向こうではごちそうなんだろうけど、2日続けてお肉1キロは越郁でも実は堪えていた。

笑顔で食事をしていたけど、お肉を出されたときは顔が引きつっていたからな。


「食事一つでもあっちは大変ですからね。そういう意味でも、足掛かりとなる拠点の環境を整えるのは必要なんですよ」

「なっとくです。あ、すいませーん。注文いいですか」


そんな雑談をししつ、僕たちは注文をして、約3日ぶりの日本での食事を楽しんだ。

そこまで長い間離れてはいないはずだけど、食べたファミレスの食事は美味しかった。

うん。食事関連の発注もしておこう。


「ふいー。食べた食べた。さて、後はドリンクバーで水分を補給しながら、カタログを見て選ぼう」


越郁のいうことに特に否はなかったので、3人でカタログを広げながら、家具の注文や食料、必要物資の注文をしていく。

あ、ちなみに注文は里中先生が持ってきた専用のタブレットで行うので、注文書とかを手書きする必要はないので楽だ。


「そういえば里中先生。商店で何を扱えばいいかとかアドバイスありますか?」

「うーん。私も詳しくはあの町は調べていないので、なんとも言えませんね」

「やっぱりそうですよねー。後日商業ギルドと話して、流通関係を聞く予定ですからその後の方がいいですね」

「そうですね。その方がいいと思います」

「先生。商店で思い出したんですが、お手伝いさんを雇って管理を任せようっていう話があるんですが、そこらへんはどう思いますか?」


あ、先輩が言わなかったら聞くのを忘れていた。

人選びとかどうしたらいいんだろう?

そういう経験はないし。


「……3人には嫌な方法かもしれませんが、奴隷を購入することをお勧めします」

「奴隷ですか? 誰かを雇うのではなく?」

「はい。あちらの世界の奴隷を確認しましたが、魔術による契約で行動に制限ができますので、裏切り、情報の横流しなどを心配を考慮すると、奴隷の方が安全です」


あー、そういう心配があるか。


「でも、その秘密を守るとかいう魔術的な契約は管理局でもあるって聞きましたけど?」

「あります。ですが、それは異世界管理局に依頼するものでして、料金がかかります」

「うげ、有料かー」

「まあ、初めての人なのでそういう方法もありではありますが、人を見る目などを養う練習にもなりますし、奴隷を買い取って大事にすると信頼は得やすいので、そういう意味でも奴隷の方をお勧めします」

「そうか、奴隷という不遇の立場から救い上げることから来る信頼関係もあるのか。これはただの雇いではなかなかできないことかもしれない」


先生や先輩のいう通り、そういう信頼が築けるのはありがたいよな。

うーん。

これは悩むなー。

そんなことを考えていると、不意に、ファミレスの窓が叩かれる音が聞こえ、そちらに顔を向けると……。


「時範先輩?」

「え?」

「あ、奏」

「あら」


歩行沿いの席に座っていたおかげか、外を歩いていた時範先輩が僕たちに気が付いたようだった。





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