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第16回活動報告:町の様子

町の様子




活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員




……。……。……。


何やら先ほどから、扉の前を行ったり来たりしている気配がして、寝ていた意識が覚醒に向かう。

目を開くとそこには、見慣れない天井が存在していた。


「……あ、そうか。昨日はお城に止まったんだっけ」


そういいながら体を起こす。

特に異常はない。

ちゃんと休めていたようだ。

まあ、森の中でキャンプするより全然ましだからな。

里中先生に言われて、キャンプをした時とか、一睡もできなかったし。

しかもその後、戦闘訓練の地獄。

もちろん負けた。

と、そこはいい。

まだ、外はうっすら明るくなっただけで、腕時計は5時を少し過ぎたところだ。


「昔の人は朝が早いって言うのは本当なんだな」


目が覚めたので、レーダーを起動して1キロ範囲を調べてみると、多くの人がすでに動いているのがわかる。

しかし、結局警戒した意味はなかったな。

予想外の歓迎モードに、何か裏があるんじゃないかと、宇野空先輩と一緒に構えていたけど、ご飯は和やかに終わり、寝静まった夜も夜警の兵士さん以外は静かなものだった。

監視すらもついていなかった。

ここまでくると、逆に不安になるけど、何もないから何もしようがない。


「……越郁を起こすか」


ともかく、すでにお城の人が起きているなら、僕たちも同じように起きないといけないだろう。

こっちの世界では5時前後に起きるのが普通みたいだし。

郷に入っては郷に従えってことだ。

僕たちの部屋は並んで用意されているので、時間もかかったりはしない。

ドアから出て数歩歩けば越郁の部屋だ。


「こいくー。起きてるかー」


ノックをしてそう声をかけるが……。


……。


部屋の中からの反応はない。

いつものことだ。

とりあえず、ドアに手をかけると鍵はかかっておらずすんなりと開く。

今更遠慮する間柄でもないので、中に入ると、そこには衝撃の映像が広がっていた。


「すぴー……」


気分よさそうに寝息を立てている越郁だが、その状態はものすごい。

ベッドの淵から上半身がでて、エビぞり、またはブリッジのような状態になっている。

これで、寝息がなくて、血でも出ていたら、見事な殺人現場の出来上がりだろう。


「いつもなら、すでに床に落ちてるんだけどなー」


越郁のベッドはこの部屋のように背が高く、大きくもない。

なので、転がればすぐに落ちて冷たい床で寝ることになる。

そんのは寝ている間でも嫌らしく、眠りながらもとに戻るという行動を何度か見たことがある。

しかし、今回はまだ地面に落ちておらず、いまだベッドの上であり、温かいので体の不自然な恰好は気にならないのだろう。

まあ、この高さだと流石に落ちた衝撃で起きるか。

そんなくだらないことを考えつつ、起こす為に近寄ったとたん……。


「んぐ……」


越郁が寝返りを打ちたかったのか、少し身をよじるが妙な体制のため体は動かない。

が、その衝撃で、ベッドから越郁がずり落ちた。


べシャ……。


「……ん?」


流石にあの衝撃で起きないわけがないか、起きたところで話しかけるか。

そう思って、待っていると、越郁は身をよじり動きが活発になってくる。


「……んん? ん? ……ぐー」


と思ったら、再び寝始めた。


「寝るなよ!?」


ぺシンととっさに頭をはたく。


「あいた!? ……んぁ? ゆーや?」

「そうだよ。起きたか?」


僕がそう聞くと、越郁はのそのそとベッドの上に戻り、枕元に置いてある時計を見て、枕に突っ伏す。


「……まだ、5時じゃん。しかも薄暗いし、寝る」


まあ、日本ならこれが正しい選択だよな。


「まだ5時でもない。お城の人たちはもう起きて動き回っているから、そろそろ朝ごはんだと思う」

「……あー、そういえば、お城に泊まったっけ?」


そこでようやく目が覚めたのか、体を起こして辺りを見回す。


「うひゃー、無駄にでかいベッドだ。と、流石に起きないと朝ごはん食べ損ねるか。よっと」


そういって、越郁はベッドから降りる。


「いや、一応お客だし、起きるのが遅れても、朝ごはんは出してくれると思うけど……」

「そうだろうけど、見知らぬ人に迷惑かけるほど、私はおバカじゃないよ」

「知ってるよ。だから起こしにきた」

「うん。ありがとう。ゆーや」


ここは女というべきか、外に出ているときはそれなりにしっかりしている。

起こせば素直に起きるし、すぐにテキパキと準備を整える。

普段のだらしなさは僕や先輩だけに見せるといった感じか。

そんなことを考えている間に、着替え終わった越郁がこっちに来る。

着替えといっても、寝間着を持ってきてるわけではないので、下着から上着を着込んだというのが正しいだろう。


「んー。そういえば先輩は?」

「まだ声はかけてない。越郁が先」

「おー、流石は幼馴染。愛だね愛」

「いや、越郁が起きるのには時間がかかると思っていたから」

「そこは、愛っていってよ」

「お前、優劣つけるのは先輩と揉めるんじゃないか?」

「あー、まあ、この程度で憎しみなんて湧いてたら、ゆーやを半分こにしようとか思わないから、心配しなくていいよ。じゃ、先輩の所にいこうか」


越郁はすぐに部屋を出て行って、先輩の部屋へと歩いていく。

しかし、なんでまた僕を何だろうね。

未だに響と呼んでいいと言われているのに、宇野空先輩としてか呼べない僕をそんなに気に入ってるんだろうね。先輩は。

越郁も、なんで僕のハーレムなんか目指すのかよくわからん。

まあ、仲が悪いわけではないし、問題は今のところ僕の精神的なものだからいいか。

先輩とはまだ知り合って間もないし、この調査員の仕事の中でわかってくることもあるだろう。

深く追求すると、後戻りできない気がするし、そういうことにしよう。


ドン、ドン、ドン。


「せんぱーい!! おはよーございまーす!!」


そんなことを考えている間に、ドアをノックではなく殴って、元気よく挨拶している越郁がいた。

やりすぎだと思って、止めようとしたら、ドアが開く。


「やぁ、朝から元気だね……」


ドアの向こうにはまだ眠そうな宇野空先輩が立っていた。

起きたばかりといった感じだ。


「ありゃ? 先輩、まだ寝てた?」

「ああ、越郁君の声で起きたよ。しかし、やっぱりというかなんというか、朝早いんだね。ここの人たちは」

「みたいですね」

「とりあえず、朝食をわざわざ別に作らせる羽目になりますから、起きましょう」

「そうだね。ちょっと待ってくれ、着替えてくる」


そういって、ドアが閉じられる。

しかし、少し眠たそうな先輩を見るのは初めてだな。

いつもは冷静な感じがあるから、ああいうのは新鮮だ。


「うーん。ゆーや、そこは先輩の寝起きを見れてもえーとか、キュンときたってのが正しいと思うよ。健全な男子としては。なに珍しいもの見れたという、色気もなにもない感想になってるのかな?」

「いや、いつも越郁の寝顔みてるからな。今更、他の女性に幻想は抱いてないな」

「うげ、それって私のせいか……」

「たぶんな」


いつもいつも、Tシャツに下着だけで寝ている越郁を起こしているし、それで見慣れてるんだろうな。

いや、でも先輩はスタイルが越郁よりよっぽど女らしいのに、なんでこういう感想を持ってるんだろうな?

越郁のいう通り、そういう感情があってもいはずなんだけど……。


「なるほど。勇也君に近すぎるのが原因か。僕も越郁君と同じように、ここ一か月は普通にお世話になってるからね。露骨どころか自然に見せてた私にも原因があるな」

「あ、先輩。準備終わったんだ。で、どういうこと?」

「実戦訓練が始まってからはもう恥じらいもクソもなかっただろう?」

「ああー」

「なるほど」


里中先生のスパルタにより、そんなことを考える余裕もなければ、わざと越郁や先輩、果ては僕の服をはぎ取って……。


『戦っている時に肌を見たぐらいで動揺してはいけませんよ』


と、その隙を突かれてボコボコにされたんだった。

就寝中に襲われることや、相手が無手だからといって油断しないための訓練とか言ってた。

だけど、里中先生との訓練は本当にすごかったから、そんなことに思考を向ける余裕もなかった。

あれか、条件反射みたいなものか。


「まったく。必要なこととはいえ、これじゃ勇也君との距離は縮まらないね」

「いや、ある意味。むちゃくちゃ近いと思うけどね」

「だなー」


すでに、知り合いというより、戦友という感じになっているのか。


「とりあえず、勇也君と僕と越郁の幸せな家族計画はまた後でいいだろう。今は、朝ごはんを食べて、町の案内ついでに冒険者ギルドだったね?」

「そうそう!! 冒険者!! いやー、ファンタジーって感じだよね」

「その前に、朝ごはんと、案内してくれる人がいるか確認だからな」


いまにも外に飛び出しそうな越郁を押さえて、朝食に向かう。

場所は昨日と同じ食堂なので、特に迷うことはなかった。


「お、コイク、ユウヤ殿、ヒビキ殿、おはよう」

「おはよー。おっちゃん」

「「おはようございます」」


食堂ではすでにガーナンさん(辺境伯は長いからやめてくれと言われた)が朝食を取っていた。


「早いな。森を抜けてきたんだろう? 疲れてるなら無理に起きてこなくてもよかったんだぞ?」

「ああ、別に疲れてないよ。いつもの訓練の方がきついから」

「マンナ様からの訓練か……。想像もできんな。と、パンが来たな。遠慮なく食べてくれ」


そう話しながら、僕たちの朝食が運ばれてくる。

パンだけだ。

質素だなーと思ったが、そういえば、朝食って中世では貴族だけが食べるようなものだっけ?

というか、日本の学生の朝食もしっかり食べることはそうそうないよな。

トーストを焼いて食べるぐらいだし。

ということで、パンだけなのであっという間に食べ終わる。


「そういえば、今日の案内、誰か出来そう?」

「ああ、もちろん、俺がと行きたいが、流石にそれは止められてな。ダザンに案内を頼もうと思っている。大丈夫か?」

「ダザンさんなら顔も知ってるし、問題なし」

「そうか、なら後でそっちの部屋に行くように言っておく。はぁ、仕事がなければなー」

「おっちゃん頑張れー。って、そういえばオークとかはいつ渡せばいいの?」

「それは、案内が終わった後だな。成功報酬ということにしてくれ」

「あいよー。と、そのオークだけど、冒険者ギルドに少し売っていい? ここら辺の相場とか知りたいんだ」

「ん? そんなにオークを持っているのか?」

「そりゃー、たくさん狩ったしね」

「……沢山か。やはりマンナ様の弟子か」

「いや、森の中はオークとか普通にたくさんいるからねー。で、大丈夫? 何匹欲しいの?」

「余裕があるなら、城のみんなにも食わせてやりたいし、中央の連中にも送りたいのもあるから、そうだな……10匹ぐらいだな」

「よゆーよゆー。全部で30匹はあるから」

「かなりあるな。俺の分を確保してくれるなら、後は好きにしていいぞ。余っている分もこちらで買い取ってもいいぐらいだがな。しかし、それだけの量が入るアイテム袋を持っているのか。うらやましいな」

「あー、やっぱり珍しい?」

「珍しいは珍しいな。しかし、魔術師にしか使えんからな。一般人でも使えれば流通や食料品の腐りも防げてありがたいんだが、そう都合のいいことはないな」


なるほど。

アイテム袋は魔術師なら持っていて不思議じゃないのか。

こういう便利道具を持っていると狙われる心配があるかなーと思っていたけど、こっちの世界では魔術師にしか使えないっていう制約があるのか。

それなら、そこまで心配はいらないか。

というか、里中先生がオークをそのまま引きずっていったわけでもないんだし、ちょっと考えればわかることだったな。


「あとはー、なにかおっちゃんがおすすめで、ここは見てこいってような所はある?」

「んー。壁上の通路から外や町を見るのは高い視点からだからいいぞー、といいたいが、コイクたちは空を飛べるしな。一番の見どころの不帰の森なんだが、そこから出てきたお前たちには何の意味もないよなー」

「じゃ、なんか美味しいお店とか、お昼に食べて帰るよ」

「ああ、それなら……」


そんな感じに越郁が話を聞いた後、僕たちは部屋に戻って、さほど時間をおかずにダザンさんがやってきて、町の案内に出ることになった。



「いやー、凄いねー」

「喜んでいただけて何よりです」


越郁は町にでるや否や色々きょろきょろして、珍しいものがあれば見に行ってと、楽しそうにリーフロングの町を観光していた。


「越郁。楽しむはいいけど、最初の目的は冒険者ギルドだからな」

「わかってるって。あ、先輩!! あれ、猫耳!! 猫耳生えてる!! 猫耳美少女発見!! ぐえっ!?」


聞いちゃいないな。

さっきは犬耳の女の子にハァハァいいながら近寄った前科があるので、すぐに襟首をつかんで動かないようにしておく。


「本当だ。ダザンさん。この町の亜人の割合はどのぐらいなんだい?」

「詳しい数字はわかりませんが、亜人はそこまで珍しくはないですよ。10人いれば3、4人は見かけます」

「それなりに多いんですね。差別とかは?」

「私たちの国にはありませんが、隣国の一つには人間至上主義みたいなのを掲げているところもありますね」

「やっぱり、そういうところはあるんですね」


そっか、地球でさえ肌の色が違うだけで、差別があったんだから、こっちはもっとあってもおかしくないよな。


「戦争とかは、どうなんですか?」

「他国では聞きますが、我が国、ノンア王国はここ10年は戦争をしていませんな」

「10年ですか。それは長いんですか?」

「どうでしょう。正直分からないとしか言いようがないのですが、私の個人的意見ではおそらくですが長いと思います」

「なぜでしょうか?」

「私の祖父から聞いたのですが、30年ほど前までは毎日のように戦争をしていたらしいですから、その時に比べればかなりましでしょう」

「なるほど」

「まあ、この不帰の森や魔物を多く抱える土地があるからこそ、戦争があまりないのでしょうが」

「というと、やはり魔物は結構な脅威なのですか?」

「ええ。まあ、魔物の強さはピンキリですが、ヒビキ様たちが出てこられて不帰の森の魔物のように桁違いに強い魔物は一体でるだけで、軍を動かさなければいけないこともありますからね」

「へー。やっぱり魔物はやっかいなんだ。でもさ、軍を動かすって言ってるけど、そうなると冒険者ギルドって必要なの?」


確かに。

軍が魔物退治をするなら、冒険者の出番はないよな。


「いえ。それがそうでもないのです。事前に魔物の区域を調査しようにも、そこに派遣する兵を選抜するのが惜しいですし、隊もいくつもつくらなくてはいけません。そういう時は、冒険者ギルドと連携をして魔物の区域に入って情報を集めるのです。兵はあくまでも、敵国から国を守るための兵ですからね」

「なるほど。冒険者たちを使って、人不足を補っているんですね」

「そうです。あとは、個人的な依頼や手の回らない魔物退治などの業務を代わりに引き受けてくれるのが冒険者ギルドですね」

「何でも屋ってかんじかー。ゆーやと一緒だね」


いや、僕を何でも屋にしないでくれ。

というか、冒険者はやっぱり想像通りの仕事だな。


「ふむ。ダザンさんは特に冒険者と聞いて不満に思うことはいなんですね。なにか仕事が被っているような感じでもめそうだと思ったんですが」

「……ヒビキ様のいう通り、仕事をあっせんしているような関係で、冒険者を下に見るものもいますし、逆に、手の回らない仕事を回す私たち正規兵を馬鹿にする冒険者たちもいます。が、それはどこにでもあることですしね」

「なるほど。基本的には仲良くしているというわけですか」

「そうしないと、町がなくなることもありますからね。魔物相手には降伏もできませんし」


そういうことか。

確かに、いちいち反目しあっていたら死ぬわけか。

まあ、お約束な冒険者とかお貴族様はそうそういるわけないか。

だって自分の命に関わるから。


「と、あちらが冒険者ギルドですね」


そんな話を聞いているうちに、冒険者ギルドに到着したらしい。


「おー!! あそこかー!! 確かに、剣を持った人とかが出入りしている!!」


越郁のいうように、剣とか弓とか持った、リーフロングの兵士とは装いの違う人たちが出入りしている。

あそこが、冒険者ギルドか。


「思ったよりも女性を見かけますね」

「ええ。危険は多いですが、完全な実力主義ですから、女性でもやれる仕事というわけです」

「非力ではやれそうにないですけど」

「非力でも武器を持てば、人だって獣だって魔物だって殺せますからね。レベルも上がりますし、ほとんど仕事のない女性にとってはありがたい場所ですよ。戦闘でなくても、臨時の店の手伝いなどの斡旋もありますからね」


そっか。

ハローワークみたいなものも兼ねているのか。


「じゃ、私たちが冒険者登録してもそこまで変じゃなかったんだね」

「「「……」」」

「え? 何か間違ったこと言った?」


その越郁の言葉に沈黙する3人。

いやー、先輩はともかく、越郁はちっこいから変だろう。


「まあ、私もいますし、何か問題があっても大丈夫ですよ。それにマンナ様のお弟子様なのですし」


そういって、ダザンさんは越郁から目をそらしてギルドの中に入っていく。

僕と先輩もそれに倣う。


「おーい!! 3人ともこっちみろやー!! なにか言いたいことあるんだろー!!」





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