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第15回活動報告:いきなりお城へ

いきなりお城へ




活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長




幸いというべきか、なんというべきか、僕は今、正直、悩んでいる。いや、迷っているのかな?


「うわー、すっげー。お城の中だー。かっこいい鎧が飾ってある!! おっちゃん、凄いね!!」

「ははは、喜んでもらえてなによりだ。その鎧は、先代、つまり俺の親父ののでな、今は王都に戻っているが、それを着て戦っていたんだよ。もう俺がおっちゃんと呼ばれる年で、親父はすでにじい様だからな。体型が違うんで譲られても着られずにおいてるだけなんだ。役に立たんよな」

「それをいっちゃっていいの?」

「いいんだよ。誰も使えない鎧なんぞ、さっさと潰して他の武具の材料にしたほうがいいっていうのに、周りはそれを止めるんだぜ?」

「はー、おっちゃんって合理的だね。名誉とか、威厳とか、歴史とかいいの?」

「そんなもんで、腹は膨れないし、町のみんなも守れないからな。金や権力は要るが、こんなただの鉄くずに名誉とか威厳とか歴史を求めても、誰も守れん。他人の大事な物ならともかく、俺が譲りうけたものだ。さっさと潰していい武具に生まれ変わらせたい」

「いいねー。おっちゃん、その考え好きだよ!!」

「おう。コイクはわかってくれるか!!」


そういって、色々城の中を案内してくれる、おっちゃ……ではなくガーナン辺境伯様。

そして、その話を聞いて頭を痛める、ダザンさんと私たち。

ダザンさんはきっと、先代の鎧を潰してという話だろう。

先代様が頑張っていた証拠っていう現物だし、それを見て奮起するとかあるし、名誉な物だから処分したくないのはよくわかる。

こんな大きい立派な鎧を着ていたということは、ガーナンの御父上は立派な偉丈夫だったとわかる。

それは、このリーフロングにとって誇りなんだろうが、譲り受けた息子のガーナン辺境伯様があの調子じゃねー。

私と勇也君も、町のトップである辺境伯様を呼び捨てどころか、おっちゃん呼ばわりで、無礼千万で仲良くやっていることに対して非常に頭が痛い。

こっそり、リーフロングの町を探るどころか、最初に合った人が領主様で、そのままお城に案内されてしまった。

一応、マンナ様というおそらく里中先生の繋がりで案内してくれたとなっているが、それが嘘の可能性もある。

私たちを嵌めるためにこんなことをしたとはいえなくもないのだ。

というか、越郁君が無礼千万だから、そのことを不敬罪といわれれば、その通りとしか言いようがない。

その時は、リーフロングを逃げ出さなければいけなくなる。

そうなると、こっちの国にはいられなくなる可能性もあるし、別の国へ移動ということになりかねない。

あー、どうしよう!?

情報が少なくて何も判断できない。

町もゆっくりみれなかったし、町の人と話もしていない。

こうなってしまうと、何とかガーナン辺境伯様と仲良くなって、敵対しないで、穏やかに過ごせることを祈るしかない。

越郁君と付き合っている今の姿が本音だといいなー。

そんなことを考えていると、広い食堂に通される。

そこには待ちかまえていたのか、メイドさんがズラーっと並んでいて、奥には執事さんみたいな人が立っている。


「旦那様、お待ちしておりました」

「おう、ファーマン。準備はどうだ?」

「はい、もうすぐ料理はできますので、そのままお座りいただいて構いません」

「そうか。よし、コイク、ユウヤ殿、ヒビキ殿、もういい時間だ、晩御飯にしようと思うがいいかな?」

「いいよー。ね、ゆーや、先輩」

「あ、ああ」

「そうだね」


嫌とは言えないこの状況。

なるほど、勇也君が越郁君がリーダーと認めているのはこういうところもあるんだろうな。

この胆力はものすごい。

いや、ただ単に考えてないだけとも取れるけど、異世界の知識は彼女の方が深いんだし、きっと深い考えとか、彼女だけがわかる判断があったんだよね?

そんな考えが頭をめぐっている間に、私たちは席に案内されて、出てくる料理を待つばかりとなっている。

しまった。こっちのマナーとか知らないよ!?

確か、中世ヨーロッパでは、食事のエチケットは時代が進むにつれてかなり進化したといわれている。

最初はスプーンだけだったのが、ナイフやフォークが出そろうのは大体14世紀ごろだったらしい。

一応、ナイフとフォークも出てるから、それなりに食文化は進んでいるのだろうけど、マナー、ルールがどのような物かは全く分からない。

この国の独自マナーとかがわかるわけない。

現代の洋食マナーのように、外側からナイフやフォークをとるなどといったややこしさはないのはわかる。

だって、備えてあるのは、ナイフとフォーク、スプーン一つずつだけだからね。

しかし、どれを使って、食べるのがこの世界にとってのマナーとか分からない。

下手をすると不快に思われるから、何とか先に聞きだしておかないと……。

私はそう決意して、こちらのマナーを聞こうかと思っていると、先に勇也君が口を開く。


「ガーナン辺境伯様。少々質問してもよろしいでしょうか?」

「ん? なんだ? ユウヤ殿?」

「申し訳ないのですが、僕たちはこちらの国の文化に疎いのです。一応、ナイフやフォーク、スプーンといった道具はわかるのですが、それらをどの料理に使うのがこの国としては正しいのか知らないのです。ですので、教えていただければ」

「あー、そういえば、そういうのってあるよね。どうなの? おっちゃん? 適当に自由に使っていいの?」


ナイス、勇也君。

そして、越郁君。おっちゃんはやめて!?


「マナーな。そんなのあったか? スプーンは汁物、フォークは突き刺す、ナイフは切る。それで食うだけじゃないか?」

「……旦那様。この前、テーブルマナーとして、王都から連絡が来ましたが?」

「あ? ああ、なにかあったな。なんだったか?」

「服やテーブルクロスを汚さないように静かに食べるというものです。小さいナプキンを胸にや足に掛けると書いてありました」

「あれは、無駄に豪華なテーブルクロスを汚さないようにするための、金持ちの馬鹿どもの話しだろう? ナイフやフォークも最近の話しだろう? 前までは手づかみだったぞ?」

「そういう流れなのです。ユウヤ様が言うように、この国の文化となりつつありますので、率先して、貴族がそれを見せませんと……」

「面倒だなー……」


なるほど。

ようやく、手掴み文化からナイフ、フォークへと移行してきた感じか。

食文化の流れは地球の歴史と似通っているようだね。

これは報告に書くべきだね。


「よし、そういうのは今度だ。今は普通に食べようじゃないか。それがいい。ユウヤ殿、コイク、ヒビキ殿、そういう堅苦しいのは今日は無しでいこう」

「わかりました」

「よっしゃー、たべるぞー」

「はい」


そういうことで、テーブルマナーについては難しいことなく、目の前の道具を使って好きに食べていいみたいだ。

安心していると、すぐに料理が運び込まれてくる。

が、それはなかなか斬新だった。


「うわー、すっげー。肉でけー!!」

「なはは、そうだろう。これは不帰の森にいた不帰オークだ。かなり美味いぞ!! なかなか手に入らない高級食材だが、マンナ様がな、ドラゴンとついでに持ってきてくれたのよ。だから、お前さんたちが食べて当然の物だ。遠慮しないでくれ」

「へー、オークって高級なんだ。味は期待できそう!! いたたぎまーす!!」


そういって、越郁君は遠慮なく、ナイフとフォークを持って食べにかかるが……。

目の前に置かれているは、焼いた肉の塊。

ブロック、大体1キロぐらいかな?

もちろん、4人で1キロではなく、1人当たり1キロである。

流石外国。量がハンパない。

そして、スープはある物の、野菜は無い。パンが添えられているだけ。

しかも、ステーキは焼いただけだ。ソースが付いているわけでも、香辛料が付いているようにも見えない。

いや、この時代の一時期では、胡椒を筆頭に香辛料は金と同じ価値があるとまで言われたっけ?

というか、ヨーロッパはあまり食に繊細さがないとは聞いていたけど……。

そうか、地球の現代でさえ、メシマズ国といわれているから、中世ヨーロッパ並みの文明レベルなら、考えるまでもないか……。

せめて毒でも入ってれば拒否できるのに、鑑定では肉に塩だけの豪快料理?としかでない。

そんな失礼なことを、料理?を口にも入れてないのに考えていると、越郁君から声が上がる。


「うわー。オークってこんなに美味しいんだ!? 味は塩だけなのにすげー!!」


美味しそうだね越郁君。

しかし、塩味だけで美味しいものかな?


「はは、喜んでもらえて何よりだ。ささ、ユウヤ殿もヒビキ殿も遠慮せず」

「はい。いただきます」

「では、遠慮せずいただきます」


もう、ためらっても仕方がない。

毒は無いし、普通にただの好意だろう。

食べなければ角が立つ。

食べきれない分は、正直に言うしかない。

そう覚悟を決め、オークの肉をナイフで切り分けて……って、なんでこんなに柔らかいの!?

これって高級な霜降り肉って感じの……、ああ、オークのお腹か!!

そうか、オークはデブだ。そこで一番霜、つまり油がのっているのはお腹。

魚でいうトロの部位が多いんだ。

意外なことに気が付きつつ、お肉を口に運ぶ。

すると、意外なほど美味しい。

塩味だけでここまで美味しいとは思わなかった。

越郁君の感嘆の言葉は事実だった。

その感想は勇也君も同じらしく、すぐに次のお肉を口に入れている。


「美味しいです」

「本当に」

「はは、喜んでいただけて何より。オークなどを倒して修行させているとは聞きましたが、見たところオークを食べるのは初めてのようだ。しかし、そうなると、不帰の森の中では何を食べていたのですか?」


えーっと、普通に日本から持ち込んだ食事です。というわけにもいかないね。

どう答えたものかと悩んでいると、ガツガツお肉を食べていた越郁君が僕の代わりに口を開く。


「えーっと、木のみとか、野草とか、あとは野兎かな」

「では、退治したオークなどはその場に?」

「いやー、ここで換金できるから、とっておきなさいって言われてたから、取ってるよ。私たちお金ないから」

「なるほど。ならば、コイク。いや、皆さん。その換金できるものは私が買い取ろう。どうかな?」


ありがたい話だけど、元々こういう狙いもあったんだろうな。

里中先生からオークやドラゴンを買い取ってたみたいだし、美味しいから、貴族とかのやり取りでは交渉の札の一つになるね。

しかし、僕たちの目的はこの町の情報を探ることだし、簡単に売ってしまっていいんだろうか?

ここをきっかけに、なにか……・

そう考えていると、越郁君が口を開く。


「いいよー」

「こら、越郁。勝手に決めるな」

「えー、ゆーや。別にいいじゃん。お金にしないといけないのは、変わりないし、冒険者ギルドで換金するのは今更めんどうでしょう? 登録とか手数料とか取られそうだし、おっちゃんが言うからにはそういう手間はないんでしょ?」

「ああ、もちろん。冒険者ギルドに売却するよりは、高く買うぞ。仲介がないからな」

「でも、あれだけ美味しいから自分たちのぶんは取っておきたいけどいい?」

「それは構わんよ。当然の権利だ」

「あと、一匹はただで上げるから、明日だれか手の空いてる人に町の案内してほしいんだ。ほら、私って小さいし、ゆーやと先輩も、この町に慣れてないし」


すごいね。

越郁君はこっちを見てウィンクをする。

狙っていたのだろう。

こっちの方が、下手に要求するより角が立たない。


「いや、その程度でオークはもらえんなー」

「なら、しばらく、このお城にお世話になっていい? 宿代ってことでさ」

「無欲だな」

「価値も何も分からないんだよ。そこら辺のサポートも頼みたいって話だよ」

「だますかもしれないぞ?」

「それなら、私の見る目がなかったってことかなー。ま、いい勉強になったと思うよ」

「くくく……。コイクが騙されるとは思えんな」

「そうかなー?」

「騙しているつもりが、コイクに騙されているというのが目に浮かぶ」

「ひどいなー。ま、そこはいいとして、明日の案内って頼めそう?」

「ああ、任せておけ。ちゃんと案内できる人をよこそう。と、食事の腰を折ってしまったな。どんどん食べてくれ。お代わりもあるぞ」


え?

まだ、お肉が存在するの?


「やったねー。じゃ、遠慮なくガツガツ食べるよ」

「おう。ガンガン食べて大きくなれよ」


そういって、越郁君はガツガツと食べていく。

が、僕はそうもいかず、お肉は4分の1程度を食べて、残りは勇也君に食べてもらうことになった。

うっぷ、僕は250グラムで一杯一杯のに、越郁君は、お代わりをして2キロを平らげた。

いったいどういう胃袋を……。


「さて、夕食も食べたし、さらに話でも、と行きたいが……」

「旦那様。本日は勝手に執務から離れていたので、仕事が残っています。お客様たちも長旅の疲れがありますので、お話などは明日に」

「……ということだ。やれやれ」

「おっちゃん、がんばれー」

「おう。コイクたちはこの城を我が家だとおもってくつろいでくれ、何かればメイドにでも言ってくれ」

「ありがとね」

「「ありがとうございます」」


ガーナン辺境伯様はまだお仕事が残っているので、この場で別れて、僕たちは部屋へ案内される。


「へー、1人1部屋かー」

「何か問題でもございましたか?」

「いや、こんな若輩である僕たちに気を使ってもらってありがたいです」

「いえいえ、ユウヤ様たちは、マンナ様のお弟子様ですから、当然のことでございます」


うーん。

いったい何をしたら、ただの弟子って設定の私たちがここまで歓待されるのだろうか?

いま聞くべきかな?

いや、明日ゆっくり話そうって言われているし、今執事さんに聞くのは失礼かな?

そう考えて、結局その日はもう部屋で休むことになった。


「いやー、蝋燭だけの明かりってくらいねー」


すでに外は暗くなっており、越郁君が言うように、蝋燭で部屋を照らしているのだが、やっぱり暗い。

この時代の人たちは日の出とともに起きて日の入りと共に寝るって感じだったはず。

地球だって電気代がかかるように、こっちでは蝋燭代がかかるのだから。

夜無理して明かりを確保しようとすると、コストがかなりかかるのだ。

こうした、領主様やお店でもない限り、個人で明かりにお金をかけるようなことないだろう。


「でも、ベッドは意外に普通だったね。藁のベッドかと思ってたよ」

「そこは幸いだったね。魔物のおかげか、魔術のおかげかは分からないけど、思ったよりは過ごしやすいみたいだ」

「オークは意外と美味しかったですからね」

「だねー」


そう。

ベッドもそこまで日本で使っているもとと比べて遜色がない。

技術的には劣っているから、そうなると材料がいいと言事になる。

勇也君のいう通り、オークが美味しかったのだから、ベッドに仕える素材を落とす魔物がいてもおかしくない。


「明日は、冒険者ギルドに行って、そういう魔物とかも調べてみよう」

「わかりました」

「美味しい、フルーツの魔物とかいないかー」

「そんなのがいるといいね」


そんな感じで、しばらく雑談した後、僕たちは各々に与えられた部屋に戻って、こっそり報告書を出しに戻る。



「到着したんですね。海川さんははしゃいでいましたよ」

「ええ。でも、マンナ様って里中先生は称えられていましたけど、一体何をしたんですか?」


僕は報告書を渡しつつ、そう尋ねる。

しかし、里中先生は口の前に人差し指を立てて、微笑みながらこう言った。


「それも、情報収集の一環ですよ。さて、私は一体何をして、リーフロングの領主様たちに覚えがよくなったのでしょうか? 頑張ってくださいね」


そういわれてはぐらかされてしまった。

なるほど、これを調べろという試験ですか。

人の情報を集めるという実践でもあるわけですね。

やってやろうじゃないですか。

明日への決意を抱き、初めて異世界の町で一夜を明かすのだった。





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