壊れた少女の笑みの値段は?
よろしくお願いします
馬車から街道を1キロ程離れた大河側の草原、道の脇には人の背程有る大岩。その周りには枯れた木が数本存在する、そんな身を隠すには絶好の場所にアハトはいる。黒に近い濃いグレーのシャツに灰色のロングジャッケットを羽織り、グレーのウォッシュジーンズとグレーのアーミーブーツを履いているアハトは『どのタイミングで的の前に出ようか?』『どうすれば、よりインパクトの有る出方が出来るか?』などと考えながら身を潜めている。
そして、こちらの方へと向かって来る勇者候補の少女を待つ。
よ〜く考えてみるとチョッと難しいし、しかも面倒くせぇし! あの腹黒上司めぇ〜!
今度、銀座で奢ってもらわねーと割りに合わねえワ! クライアントはクライアントで、これまた面倒くせぇコト追加で頼みやがるしよぉ〜。は〜、まぁでも結局するっきゃねえもんな〜。
ま、今は仕事に集中集中っと。
ふ〜ん、あのコの必死に逃げる表情ってーのは、目を大きく開いてる以外は無表情なんだな〜。今まで見たコトが無いタイプだなー。身体強化魔法使ってある程度スピード出てるだろうし、10mくらい迄来たらタイミング良く街道に飛び出すって感じだなっ! ・・・・…………良しっ!今だッ‼︎
オッケ〜イ! バッチリ! ナイス・タイミング!10、0!!
うわ〜メッチャ引き攣ってブサイクな顔してるワ〜。化粧してればそれなりにカワイイ顔が台無し!
「ダ、誰よあんた!」
・・・俺、お前なんかに " あんた " 呼ばわりされる覚えねぇ〜ワ。 俺はその辺り煩いからネっ!
「・・ミゾナカ、ユキエ…さんですよね?」
つい、さん付けで丁寧語使っちまった!リーマン時代の癖が出ちゃったよ。 あっ!今、ビクっとしたゼ、この女! " 何で知ってるんだ? " みたいな顰めっ面してるけど、お前の顔のタイプだと眼ツケにしか見えねえからなっ! ま、俺の方が年上だしな、俺は大人の対応してやっか!
「・・俺はアナタに用が有って仕事でここに来た。」
「はあ?仕事?・・あんた何言ってるの?」
何言ってるって仕事だって言ってんだろ!・・・クールにキメルのは俺には難しいゼ!それに、どーせ俺には似合わねーしよ!
「・・フぅ〜・・・俺の名前は言えねぇけど、テメーを殺りに来たんだワ。」
魔法の詠唱に入っちゃったよコイツ。近頃の若いヤツは駄目だね〜、言葉のキャッチボールって〜もんが出来なくて!まあ、殺るなんて言ったんだから犯ると間違えて" ついカッとなって
" って感じかもなぁ〜? ←(どこをどう見ても怪しい人物に見える事を理解しているが脳内で華麗?にスルーしています。)
片脚を一歩前に出して威圧しながら低めの声で
「無駄な事は止めとけやッ!」
俺はそう言って、ジャケットに隠れた左脇のホルスターからコルトGCNMを取り出して目の前の女の左脚に撃ち込んでやった。
『いギャっ‼︎』と言う声を出して脚を抑えて身悶えているターゲット。当然、魔法の詠唱も止まっている。
そして女の側までゆっくり歩いて近付こうとする。すると、痛みを堪えて涙目になりながらも、また魔法の詠唱を唱えようとする女。
大袈裟に銃を構えてニヤリと笑うと詠唱を止めてしまい震えながら女は叫びだす。
『こっちに来んな!・・来るな、来るな! 来るなぁー!!』
『来ないでよぉ お願いだから,や,止めて ・・な、何でもするからっ! 何でもするから殺さないでえー‼︎?』
他にも、生きる為に思い付く限りの言葉を俺に言ってくる。俺は、依頼主から頼まれた他のメンバーにも言って無い仕事を果たす為に、女の言葉を意識に残さないように無視して近付く。
「幸河 翔 (シアワセガワ ナツル) って知ってんだろ? あの嬢ちゃんからのお願い(依頼)でオメーを殺すんだけどヨ・・」
俺は一旦言葉をを切る。女は『えっ⁉︎』と涙に濡れた目を見開き何かを言おうとするが俺が言葉を被せる。
「殺す前に伝えて欲しい事があるって頼まれちまったんだヨ。いいか、よく聞けよ? 『貴方の事は最初から殺したいくらい大嫌いでしたが、何時も裏から貴方を利用させてもらいありがとうございました。』だってよ!」
「・・他にも何かグチグチと言ってたけど・・・忘れちまったからいいやっ! じゃっ、確かに伝えたゼ・・・・」
口を開いたまま『えっ?』って感じでフリーズしてたターゲット。そして何かを言おうと口を開きかけるが、俺は額に銃口を突きつけてそのまま引き金を引いた。
自分の仕事を終わらせた俺は、みんなと合流する為に街道をトボトボと歩く。
コッチに来出して4年。未だに怒りや闘争心がないとクールに決められない。もう引き返せないアウトローの生き方は自分で選んだ道だ。
ハッキリ言って後悔しっぱなしだ。しかし生き方ではなく、やり方で後悔している自分は何処か壊れているのかもしれない。
街道を歩き続けると皆が見えてた。俺はタバコに火を着けて右手を軽く挙げた。
仕事も無事終わりアリバイ作りのバーズギルドの討伐&採取の仕事の処理をして、アハト一行は7日後にはディザイアシティーに帰って来ていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
◇◇1ヶ月後◇◇
アハトは仕事の終了報告をクライアントにする為に花街に隣接する公園へと来ていた。
アハトが着くよりも早くその場所で待っていたクライアント。
公園のベンチに腰掛けアハトが公園に入って来ると一度だけ目線を向け、また最初から見ていた方向へと目線を戻すクライアント。その人物の座るベンチの後ろ側にある木までゆっくりと進み、木に寄りかかりながらアハトは静かに声をかける。
「・・・キチンと終わりましたよ、シアワセガワ ナツルさん。」
「・・わたしの個人的なお願いの方も?」
「ええ。鎮魂歌を流してくれた約束のお願いですから。」
「そうですか・・・」
「・・彼女の最後の事は聞かないんですね・・」
「聞いて何か意味が有るのですか?・・・それに・・」
「それに?」
「・・(クスッ)・・聞いたら笑いだしてしまいそうで・・・」
「もう笑っていますよ・・・」
「フフフフ、それもそうですね。・・・それはそうと隣には座らないのですか?」
「・・・あなたの側で聞くと・・特に顔を見ながら話を聞くと断り辛くなるという噂を聞いたもので・・・」
「・・ヒドイですね〜、まるで人の心を誑かす悪女みたいじゃないですか〜」
「悪女だったら、俺も好きなんですけどねぇ〜・・まぁ近くに寄らないと追加報酬も貰えないんで座らせてもらいますよ。」
1人が座れる程の間を空けてベンチに座るアハト。ナツルは体の向きを少し変えアハトの方を見ながら魔法の袋から追加報酬の2000万を2人の間に置く。そしてアハトはナツルの顔を見ながら『ニヤリ』と笑みを浮かべ金に手を伸ばす。するとナツルの手がアハトの手に添えられナツルは話す。
「やっぱり効かないじゃないですか〜。追加依頼をした時に『私のお願いを目を見て聞いた』のに追加報酬を要求して来るなんて変だと思ったんです。・・・でもこれで私が人の心を誑かす悪女では無いと解りましたよね?」
「ソレ、悪女より性質悪いからね!解ってる?解ってて言ってる?」
「フフフ、その普通の話し方のほうがステキですよ、アハトさん」
「・・・報酬もらいますね・・」
多少のやりずらさを感じながらもアハトは金を仕舞う為に声を掛けたが、ナツルは手を退けないどころかアハトの手を握ってきた。そして
「実はお願い・・では無く相談があります。私自身を利子と担保としてその2000万を出資してもらえませんか?」
「・・・利子と出資ねぇ〜。つまり、俺に抱かれる代わりに金を貸せってコトだろ?」
「そうです。もしなんでしたら今この場でシテもいいですよ?・・実はその報酬を作る為に私も身体を使って何人かの人達にお願いをして用意したものなんですよ。ただ今後の事を考えると円の現金は是非持っていたい事情もあるので・・だから私としましょう?ねっ?」
と言ってアハトの手に置かれたナツルの手が、今度はアハトの太ももに置かれる。
「・・俺、野外プレイに興味は無えからいいや。・・それにこの金が無くても本当は困る事は無いんじゃないの?」
「・・こちら側では円は持ってるに越した事はないですよ。・・・でも私が困る事も無いですね。」
「やっぱりねぇ〜。で、自分で俺への貸しを作って何がしたいのよ?」
「ではハッキリと言いますね?アハトさんとの繋がりですよ。この先どちらが相手をどう使うかは解らないけどアハトさんとの繋がりは私には必ず必要になると確信してるんです。だからアハトさんに抱かれる為にお金を借りるんですよ?」
「・・借金の繋ぐ縁って何かヤダなぁ〜。それで俺である理由は何?」
「・・・アハトさんの事は調べました、それもかなり詳しく調べましたよ?それでこの人は私の理想の人だと解ったんです。」
「何かスゲ〜高評価っぽいけど、それってプロポーズしちゃうゾ的な感じなの?」
「ウフフ、アハトさんのお嫁さんも悪くは無いですけど、私が言った理想の人とは夫としてでは無く、今後私が進む道で必要な理想な人と言う意味ですよ」
「・・ふ〜ん、進む道で理想ねぇ〜?」
「ええ、アハトさんは私の考える理想の " 悪党 " なんです。そんな悪党のアハトさんと是非縁を持ちたかったんですよ!」
「・・悪党って・・ソレ誉めてる?」
「ええ、これ以上無いくらいに!・・それに先程『お嫁さんも悪く無い』と言いましたけど、本心ですよ?」
「・・・・・とりあえず報酬は仕舞わさせてもらうワ。そんで、別にアンタを抱かなくても話しくらいなら何時でも聞くから・・・」
「う〜んダメでしたか〜。フィフティ、フィフティくらいで抱いてもらえると思ってたのですが・・では次回の楽しみにしておきますね?・・それと私の事はナツルと呼んでください!」
「ハイハイ、ナツルちゃん。」
と言って金を魔法の袋に仕舞ってベンチを立つアハト。ナツルもベンチから立ちアハトに言う。
「でもさすがですね?アハトさんは・・」
「ん?・・・断ったコトが?」
「それも評価してますけど、最初にベンチの後ろ側の木を背にして射線の間に私を入れた位置取りですよ。」
「・・俺は恥ずかしがり屋だからナツルちゃんの友達から見え辛い場所に立ってただけだよ?」
「ふふ、恥ずかしがり屋ですか・・・でも私の友達は居なくなったみたいですよ?」
「ああ、俺の友達が説教してくれたようだからね。・・それとナツルちゃんの友達全員は説教が効いたせいか遠くに行っちゃったみたいだね〜」
「・・・そうですか全員・・・その友達の方達はとても凄いのですね。・・・では私も帰りますね。」
とニコニコしながら公園の出口に向かい歩き出すナツル。少し進んだところで手を後ろに回して振り向きアハトに聞く。
「最後に1つだけ・・あの2000万で『私を買って』と言ってたらどうしました?」
ナツルを目に捉えながら周りの状況確認を終え歩き出そうとしていたアハトは正直に答える。
「う〜ん、そう言われたらたぶん、買うじゃ無くて2000万を貸してたなぁ〜・・・それに利子としてHしてたかも・・・でも今のナツルちゃんに2000万の価値はね〜よ」
アハトにハッキリと辛辣な言葉を言われたナツルは何故か笑みを深くし見惚れるような笑顔で言う
「・・今のですか・・(フフッ)ありがとう!では必ずまた逢いましょうね?」
「・・・・・・・・・」
何も言わないアハトに、嬉しそうに歩きながら出口に向かうナツル。
一見壊れている様にも思える業深い腹黒の少女。その少女が見せた笑顔にアハトは少し顔を紅くして見惚れた。
そしてアハトもナツルの向かった逆方向の出口へと歩き出してから小さく呟く。
「・・ありがとうねぇ〜、やっぱりどっかブッ壊れてるワ、おまえ・・・」
と。今迄で見た中で1番可愛い笑顔だったなと思いながら・・・。
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