真のアウトローとしての1歩と兄弟盃
よろしくお願いします
ロクサーヌファミリーに着いた俺が見た光景はロイに治療してもらってるダンの姿だった。ボロボロでは無いが口の端は切れて血が出ていて頬や目の周りも青アザになってる。服も何ヶ所か汚れていたり擦り切れている。『もしかして俺の所為か?いや、マフィアの職業病とでもいう喧嘩か?それとも・・』などと俺の頭の中を色々な考えが過る。ソファーに座らず立って黙ったまま見つめる俺にダンが口を開いた。
「これなぁ〜、お嬢を迎えにに行った時にチンピラ4人組に襲われてなぁ、その怪我だ・・」
え?シャルちゃんを迎えにに行った時?あれ?シャルちゃんは?・・・シャルちゃんを迎えに行った時と聞いてそんな事を思い呆然としながらも何とか声を出す
「シャル・・シャルロットお嬢は・・どこだ?」
「お嬢なら叔父貴と上(部屋)にいるぜ、もちろん無事だ!頭はパルを連れて治療院に行ってる。」
ロイがダンの治療を続けながら答える。
「・・・治療院・・パルも怪我した、のか?」
「ああ、命がどうこうは(イテテ)無えが俺よりも大怪我だな・・(イテ)」
シャルちゃんが無事なのには安心したがパルが大怪我・・・俺は違ってくれ!と思いながらも聞く。
「・・だ、誰が・・」
「・・12Kだ。どうやらお嬢の身柄を攫おうとしたみたいだナ。」
階段に繋がる奥の部屋からバルザさんが出て来てそう声をかけた。
「「叔父貴!お嬢は?」」
ダンとロイがバルザさんに聞く
「魔法薬入りのお茶を飲んで落ち着いたから、今は寝てもらってる」
「・・魔法薬・・シャルロットお嬢は興奮してたんですか?」
「お嬢は優しいからナ。ダンとロイが目の前で怪我したんだ、涙流して心配してたぜ?」
・・・俺は力が抜けた様にソファーにドサリと座った。そして絞り出すように声をだした。
「・・・ぉ、おれ・・の 所為・・だ・・・」
「ん?アハトの〜?どうゆうこった?」
とダンが聞けばロイは頭に?マークが付く感じで頭を捻ってる。そしてバルザさんが聞いてくる
「アハト、どうゆう事か話してくれ」
ダンとロイそしてバルザさんに今日あった事、そして引き金となったアルバッケンとのやり取りを話した。聴き終えたバルザさんは『ふぅ〜』とため息を吐いてから口を開いた。
「それはアハトの所為じゃねぇだろ。いくらお前がウチの客人だって言っても、それだけの理由でマフィアに、しかもその家族に手を出す奴はよほどのアホか最初から計画してたかのどっちかだゼ?でアルバッケンが絡んでるとなりゃ〜予定通りの行動だったんだろうよ!」
「そうだぜ!それに同じタイミングでアハトの女も襲われそうになったんだろ?どっちかって言うと俺等がアハトに謝んなきゃなんねぇゼ!」
とダンの治療を終えたロイが言う。
「アハト、お前は堅気だろ?そんでオレ達はマフィアだ。これはしょうがねぇ事なんだヨ!お嬢だってまだ子供だけど何となくは理解してるんだ。だからお前は気にするな!」
痛々しい怪我の痕がありながらもニカッと笑い話すダン。
・・・俺は此処に来るまでに、今回の件が終わったらもう異世界には関わらない様にしようと決意していた。
レイチェルとベティーちゃんの件で思い知らされた。守りたい人達が傷付き死ぬその理由があるとすれば俺の所為だと、俺は何も解って無い異世界人だと。だから日本に戻ろうと思った。そうすれば、今ならレイチェルやベティーちゃん達は大丈夫だからと思い込んで・・・そう、もう恩人でもあるロクサーヌファミリーにも火の粉は飛んでいた、もはや手遅れなのだ。あとは目を瞑り耳を塞いで日本に帰るか他の道を探すしかない。・・・・・・・・・・そうだ!今回の事が起こらなくても日本に戻るという事は、異世界であった全てに目を瞑り耳を塞いで自分の世界に閉じ籠ることじゃないのか?・・・まるで引きこもりのガキじゃないか!結局、俺が守りたいのは俺自身のちっぽけな心じゃないか!新しい身体に新しい世界、そこで俺は本当は何がしたかったんだ?スキルに影響されない本当の俺は何を・・・・?
・・俺が・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・そうだ、そうだよ!俺はやり直したかったんだ! 新しい身体で、新しい世界で、新しい人生を!!
アハトは立ち上がり頭を下げる。そして
「ありがとうございます。しかし俺が絡んでるのも事実です、なので詫びをさせてください。」
そう言ってソファーからずれ土下座をして
「大変申し訳ありませんでした!」
「おい!何やってるんだよ、いいって言ってるだろ?」
「そうだぜ!・・とりあえず起きてくれ、なっ?」
とダンとロイに起こされるアハト。その顔を見たバルザは一瞬目を大きくし、それから声をかけた。
「アハトの心意気は受け取った!その辺りの話しも含めてこれから俺と飲みに行こうゼ?」
◆◆◆◆◆◆
バルザに連れてこられた酒場。その奥の個室に2人は居る。酒を飲みバルザが言う。
「なあアハト?この街でのウチの立場や状況は解るか?」
頷くアハト。
「ウチは先代と息子で前の若頭だったお嬢の父親が死んじまった。そうなるとファミリーを継げるのはお嬢だけだ。ただ成人してないから俺が代行と後見人になってるからロクサーヌが存続している。でだ、成人さえすればロクサーヌのボスになれる訳じゃあ無え。先代から正式に指名されて無い以上ノースコサトラっていうこの大陸の大手マフィアの互助会みたいな所で認めてもらわねえとイケねえ。そして15歳の女の子に継がせる許可は絶対降りない。」
アハトが言葉を引き継ぐ
「男ならば成人直後でも条件付きで何とか。女の場合は成人していて実績があり、尚且つボスからの指名が必要って事でしたっけ?」
「そうだ。だからお嬢がロクサーヌを継ぐには婿を取ってソイツを代行にして実績と時間を稼いで正式に継ぐか、子供を作ってその子が成人してから継がせるかしか無い。その所為かここ1年でお嬢への結婚の申し込みは凄い事になってる。」
「それだけロクサーヌの持ってる縄張りに魅力が有る・・と言うよりはマフィアの掟のしがらみって感じがしますけどね?」
アハトがグラスを傾けながら感想を混ぜて言う。
「・・まさにその通りだ。今、ディザイアシティーに進出する為にはロクサーヌに許可を取って自分達で店を出した上でさらにウチに貸料を払うか、ウチ以外のマフィアに守り代を払いたいという店を見つけて、そこをシマにするしか無い。しかしその場合でも貸料は発生するから相場よりかなり高い守り代になってしまうが、そんな店が有るとは思えねナ。だがこの街はこれからも発展するだろうよ、そうしたら益々大手マフィアが進出して来てトラブルは増えてくはずだ。今でさえかなり厳しいのに、そんな時ウチだけじゃあ絶対対応できねえ。・・だからある程度シマを認めてディザイアシティーのマフィア互助会を作る事になる・・・」
「・・それで、いいんですか?」
「しょうがねぇさ、お嬢を守るためだ!・・本当なら先代と息子が亡くなった時点でロクサーヌは終わりのはずだった。けど解散したらお嬢はどうなる?だから俺はロクサーヌを存続させてんだ。お嬢が成人まで5年を切ったからなソロソロ動かないとマズイしな・・・だからアハト、俺達に気を使わなくていいから好きな様にやれよ?大手が入る互助会があればアルバッケンでも止められるし12Kの奴らを潰す事も出来るからよ・・・殺るんだろ?」
アハトは静かにそして正直に答える。
「・・ええ、殺ります。12Kとアルバッケンで指示を出した奴は絶対に・・」
するとバルザは笑みを浮かべて
「漢の面構えになったな!先代や息子が生きてりゃお嬢の婿になってロクサーヌを盛り立ててくれって絶対言われたゼ!・・・なあトシ、俺と兄弟にならねぇか?」
以前使っていたアハトでは無い本名、田乃山 俊彦から取ったあだ名。その名をあえて呼びバルザは兄弟盃を申し込む。
「よろしくお願いします、兄貴。」
アハトに迷いは無い。自分自身で新たな人生を切り開く事を決め、恩の有るロクサーヌに己を使って貰う事に躊躇いは無い。
「トシ、舎弟じゃ無いんだ・・5分の兄弟盃を受けてくれ、頼む!」
「・・・どうしてですか?俺はロクサーヌの身内になるんですよ、俺とバルザさんじゃ俺が舎弟で当然ですよ。」
「違うんだトシ、ロクサーヌじゃ無くて俺個人の外兄弟で盃を受けてほしいだ!・・・もし、俺やロクサーヌに何かあっても外兄弟なら影響は少ない、それに皆が居なくなってもお嬢の事をトシに頼める!だから頼む!この通りだ」
頭を下げるバルザ。アハトはバルザがシャルロットの事だけを考えて行動していることが解り嬉しくなった。元より自分なんかにマフィアで二つ名持ちのバルザに盃を申し込まれる事がおかしいのだ。しかしそれは全てシャルロットの為。自分もシャルロットには救ってもらった恩もあれば義理もある。ならば考えるまでも無い。
「シャルロットお嬢さんは命に代えて必ず護ります。・・・だから安心してくれよ兄弟?」
バルザはガバっと頭を上げアハトを見る。そして自分のグラス持ち上げアハトにも促す。
「こちらこそよろしく頼むぜ兄弟!」
『チン』とグラスのぶつかる音がする。簡易的ではあるがそれが2人の兄弟盃になった。
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