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天使な幼女と都市伝説  作者: 麒麟太郎
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第4話 天使と悪魔 その2

 第4話 天使と悪魔 その2


 ようやく解放してもらった。観念して、「ハル姐さん!離してください!ハル姐さん!ハル姐さん!」と許しを求めたら、難なく解放してくれた。単純な人だ。


 ハルさんは俺を解放した後、ミカと白界寺の関係を教えてくれた。簡潔にまとめていたが、きっと、もっと壮絶で、もっと哀しい物語なのだろう。


 ミカの両親は、3年前に亡くなっていた。ミカの笑顔を思い出し、胸が痛む。

 ミカの両親は海外で貿易会社会社を営んでおり、そこの一人娘がミカだった。

 三人は都内に住んでおり、『裕福で幸せ』な家族といえば、近隣の人はミカの家だと口をそろえて言ったという。

 そんな幸せな家族に、突然悲劇は訪れた。


 家族三人の乗っていた車が、高速道路で事故にあったのだ。

 原因は母親と父親の関係にあった。

 周囲やミカには隠していたが、2人の仲は険悪であった。

 理由は、父親の貿易会社の事だ。父親の会社は何かの組織に狙われていたのだ。

 もう十分幸せな暮らしは手に入れた。会長を辞任して、三人で新たな暮らしを始めよう。それが母親の言い分だった。

 しかし父親は、断固として会長を続けると言い続けた。二人の間にできた溝は、どんどん深くなっていった。

 車でその話になり、父親の運転が危うくなる。車の中で、ミカは眠っていたという。極めつきは、母親のこんな言葉だった。

「もう、ミカと二人で暮らすわ!あなたといると、殺されてしまう!」


 父親は、ヤケクソだった。叫びながら、カーブに思い切り突っ込んだという。一連の出来事は、全てドライブレコーダーに録画されていた。


 その事故で、唯一生き残ったのは当時6才のミカだった。助け出されたミカは、父親の貿易会社と交流の深かった『愛塚あいづか家』に引き取られた。


 その愛塚家の現在の当主が、先程俺にプロレス技をかけていたオネェ言葉の、愛塚 愛春マハルさんだという。その息子が、先程俺に強烈なパンチを打ち込んだ愛塚 愛知アイチだ。とても愛の字を二つも入れていいような性格ではない。


 そしてもう一つ、ハルさんからミカの秘密を教えてもらった。


 ミカは事故にあった時、背中に強い衝撃を受けたという。それから一週間、ストレスで何も食べず、声を発することもなかったミカが、病室で急に背中の痛みを訴えたという。看護師は慎重に服を脱がした。

 すると、なんと背中に、まるで天使の羽のような痣ができていたのだ。


「看護師が最後に見たのは、光り輝く痣だったらしいわよ。その後、体と記憶がぶっ飛んだらしいけど」


 つまり、ミカのあの能力が発現したのは、その事故が原因だったのか。

 もしかして、ストレスで誰とも関わりたくなかったから、あの様な能力が発現したのだろうか。


 そういえば、言いたいことがあったんだった。

「ハル姐さん…ミカ、誘拐されかけていましたよ?大丈夫なんですか?その、お父さんの会社を狙っていた組織かなんかなんじゃないですか?」

 もっとキツく言うつもりだったが、そんな勇気はさっきぶっ飛んだ。

「家にいるように言っているんだけど…やっぱり、もっとはしゃぎたいんだろうね…ああ、組織は二年前に私たちが壊滅させたわ」

 最後の方は急にノイズが入って聞こえなかった。でもなんとなく、これ以上彼らに関わったらいけない気がする。


「じゃあ、帰りますね、俺。また来ます」

 手短に挨拶を済ませ、ちゃちゃっと帰ってしまおう。幼女と共同生活の夢は早くも崩れ落ちた。

 外を見ると、もう暗くなりかけていた。そういえば、まだ昼食を食べていない…そう思っていたところに、まさかの提案が出された。

「私の家に今日は泊まらない?もっとお話聞かせて欲しいのよ」


 おいおいまじかよ…しかし、空腹が判断を狂わせたのか、俺は首を縦に振っていた。


 そういえば、サンドイッチ返せ。


 ***


 サンドイッチでタイで釣るとは、まさにこのことだ(意味不明)。


 寺にいるのはハルさんとアイチとミカの三人だけで、それほど豪華な食事は出ないと思っていた。

 しかし、ハルさんには双子の兄弟がおり、大手食品メーカーのかなり上の位に属しているらしい。白界寺は愛塚家のシンボルなので、多額の支援金が出されるようだ。

 そのうちの8割は彼らの生活にあてられているだろうと思わせるくらい、彼らの生活は充実しているようだった。

「どうぞ、食べてくださいな!」

 食卓には見たこともない料理がズラリと並ぶ。全て、ハルさんの手がけた料理だった。そして、そのどれもが絶品だった。

 食卓には、俺、ハルさん、ミカの三人しかいなかった。アイチはどこに行ったのだろうか。試しに、ハルさんに質問してみると、「後でね」とスルーされた。ミカがいるからかな…?


 ミカは、先程から俺にずっとくっついている。ここまでされると、俺の中の何かが目覚めてしまいそうで怖い。


「アイチはせっかち過ぎます!せっかく友達ができたのに!」

 出会って一日足らずで友達とは、まさにアニメの中の世界だ。


「じゃあ、私お風呂入ってくるわ。覗きとか、しないわよね!?」

 誰がおやじの裸体なんか好んで見るか。


 ハルさんが風呂に入ったので、俺とミカはしばらくお互いのことについて話すことにした。


「フリーライターって知ってる?いろんなところに取材に行くんだけど、俺はこれから伊吹原を長期取材するんだよ。そのためにここに来たんだ」

「じゃあ、私の家に住んでください!みんな優しいですよ!」

「そうだなぁ…取材が終わったら、考えてみよっかな?」

 気になるので、アイチについて聞いてみた。

「アイチくんって、どんな人?」

「アイチはいつも怒ってて、せっかちだけど、本当はすごく優しいんですよ!」

 悪魔みたいだったけどな。

「それに、すっごく強いんです!」

 それは知ってる。

「でも、アイチとトワはきっと仲良くなれますよ!似てるもん!」

 まだ一瞬しか見てないが、確かにアイチは俺に似てイケメンだった。でも、ミカの言った『似てる』とは、少し意味が違う気がした。


 その後、ミカ、俺の順番で風呂に入ると、そのままアイチを除く三人で寝ることになった。ミカに一緒に寝ようと催促されたが、そろそろ俺の中の魔獣が出てきそうだったので、最初に運ばれた和室で寝ることになった。


 布団の中で一人、俺はこれからの生活に不安を募らせていた。まだたくさん取材するべき場所があるんだ。その度にこんな目にあっていたら、体が持たないのではないか。そう考えていた。

 ふすまが静かに開いた。

「ちょっといいかしら?」


「さっき訊かれたこと、お答えするわ。アイチは、ミカを狙う奴らを撃退しに出掛けたのよ」

 そういうことか。だからハルさんはミカが勝手に外に出ても咎めないのか。でも…

「残っていましたよ?奴ら」


「アイチが狙うのは、危険な能力を持った奴らだけなの。他はスルーなのよ」

 危険な能力…やはり伊吹原は恐ろしいところだ。

「そんな奴らと戦うアイチくんって、どんだけ強いんですか?」

 そう訊くと、恐ろしい答えが返ってきた。

「強いわよ〜アイチは。なんせ、『人間と悪魔のハーフ』だからねぇ」


 そんなの初めて聞いた。そんな生物がこの世に存在するのか。

「悪魔と契約した私を一時期支援してくれたのがミカのお父さんだからねぇ。この恩は忘れられないわ」


 この人、普通に話を進めているが、明らかに話の内容が足りない。悪魔と契約ってなんだ。男性ホルモンでも差し出したのか。


「それでミカのことだけど…これはミカにも秘密よ?実はね…」



 ミカにも言えない秘密…?もちろん気になった。が、その時答えを知ることはできなかった。玄関で何か大きいものが倒れたのだ。ハルさんは「何かしら」と玄関に向かった。そして聞こえてきたのは、彼の野太い悲鳴だった。


 俺も急いでその場に行くと、そこには大怪我を負ったアイチがいた。


「…大人数で来やがった…あいつら…『悪魔の力』を使えるなんて…」


 アイチはそこでがくりと気を失ってしまった。ハルさんは、「そんな…嘘…」と息子の負けを認めることができなかった。


 俺は何をしていいかわからず、ただただ、未曾有の恐怖に怯えていただけだった。




愛塚アイヅカ 愛春マハル…ハルさん

能力:なし

性別:男

心:女

妻:中級悪魔


愛塚アイヅカ 愛知アイチ…アイチ

能力:超人的身体能力の解放

好きなもの:ミカ

苦手なもの:父のオネェ言葉

得意技:腹パン



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