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天使な幼女と都市伝説  作者: 麒麟太郎
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第3話 天使と悪魔 その1

投稿遅くなりました。すみません。

 第3話 天使と悪魔 その1


 ようやくアパートに着いた。

 伊吹原の土地勘など全く持っていなかったので、ちょっと路地裏に入っただけで、迷子になってしまったのだ。この娘も、全然頼りにならないし…

 視線の先には、先程誘拐犯から救出したロリっ娘天使、ミカがいた。呑気にもバッタと戯れている。しかし、ミカがバッタに触れた瞬間、バッタは見えない壁に押し出されるかのように吹き飛ばされ、そのまま草むらへと消えた。ミカの目が潤う。俺が慰める。元気になる。そして、今度はハトを追い始めた。慌てて引き止めるが、ミカは納得のいかない様子だ。


 彼女には、生物との干渉を一切受け付けないという不思議な力があった。実は、誘拐犯を倒せたのもほとんどミカの活躍によるものだった。


 そして、俺自身もなんか不思議な力に目覚めた(かもしれない)。


 何故か俺だけが、ミカに直接干渉することができるのだ。ミカも、こんな人に出会ったのは初めてですと心底驚いていた。


 東京都最凶の街、伊吹原。

 伊吹原でのミカとの出会いを境にまさかあんな目に遭うとは、当時誰も想像していなかっただろう。


 ***


 俺のために用意された部屋は、アパートの7号室だった。7号室と言えば、一部屋だけ窓が異常に汚かったというあの部屋だ。

 管理人の人はすでに理由を聞かされていて、家賃は払わなくていいと言ってくれた。


 何しろこの管理人は、毎月家賃以上の大金を貰えるからだ。


 俺に伊吹原の取材を依頼したあの編集者。彼が勤めている会社は、一体どれだけ大きい組織なのだろうか。


 …そんなことを考えていては日が暮れる。もう昼飯も食わずに午後二時になろうとしていた。とりあえず、部屋の中で弁当食うか。


 7号室の中は、意外にも綺麗に整っていた。汚いのは窓だけで、あとは俺の住んでいたアパートよりも上等だった。俺に続いてミカも部屋に入る。「アパートの前で保護者が来るのを待て」と言っておいたのに、まるで聞かない。


「…ミカには、両親はいるのか?」

 ずっと考えていたことを思い切って訊いてみる。

「ううん。でも守ってくれる人ならいるよ。」

「そうか、保護者はいるのか。良かった」

 そう返事をしたが、『守ってくれる人』という言葉が引っかかった。ミカはついさっき、容易く誘拐されそうになっていた。本当に守ってくれる人はいるのだろうか。


 何かに、狙われているのか…?


 そんな不安が頭をよぎった。もし、そうだとしたら、一体このロリっ娘天使にどんな秘密が隠されているのだろうか。やっぱり、伊吹原は異常だ。都内なのに、まるで異世界に来てしまったようだ。


 もし、保護者がいないとしたら…


 心の隅に、ある選択肢が現れる。


 幼女と共同生活…


 …いや!保護者がいないはずがない。そんなことは夢にも思ったらいけない。そんな邪悪な考えは捨てろ!


 そんなことを考えていると、ポケットの中の携帯が突然鳴り始めた。電話に出ると、相手が雑誌編集者だということが分かった。


「どうですか?取材の支度はできましたか?」

「ああ〜、はい。当分の間は支障なく生活できそうです」

 ここが伊吹原という時点で支障ないはずがないのだが、まあいっか。

「そうですか。では早速ですが、取材してほしい場所があります。願いを叶える天使が現れると噂の、『白界寺びゃっかいじ』を取材して来てください」期限は明後日までです。と、一方的に期限を決められ電話を切られた。

 

 もしや、現れる天使というのはミカのことではないか?そうだとしたら、どんな願いを叶えようかな…


「ミカ〜、俺白界寺行くけど、お前どうする?」


 そう訊くと、まさかの返事が返ってきた。


「あ、そこ、私のお家です」




 俺は昔から激しいツッコミが得意だ。

 友達がボケると、ここぞとばかりに力強いチョップと大きな罵声を浴びせたりして、激しいツッコミを披露した。

 いつもの静かな俺がツッコミになると豹変することがみんなのツボにはまったらしく、その一瞬だけ俺も人気者の気分を味わえた。


 それは今回も例外ではなかった。

 反射的に幼女のおでこにチョップを炸裂させる。「迷子じゃないんかい!」

 ミカはその場にうずくまり、「ひえぇ、すみません〜」とおでこをさすっていた。


「トワと、少しでも一緒に遊びたかったから…ごめんなさいぃ!」


 ………許す。


 ***


 白界寺は、俺のアパートから大体徒歩5分くらいの場所にあった。奇妙なことに、寺全体が白く塗られていた。

 ミカは、時々住んでいるこの寺を抜け出して、街を動き回っているそうだ。それで、今日のような事件にあったそうだ。


 俺が昼食として持ってきたサンドイッチの袋をバックから取り出していると、「ただいまー」と言いながらミカが駆け出していった。事情は彼女が話してきてくれるだろう。

 保護者は俺に顔を見せるだろうか。そうだとしたら、もっと気を配りなさいと小一時間は説教してやる。


「あんたが、トワだよな?」

 突然名前を呼ばれたので、驚いてつい振り返ってしまった。

 この時、もっと神経を研ぎ澄ましておけば…まあどんなに神経を研ぎ澄ましても蚊に刺されたことにさえ気づけない男が、後ろからの殺気に反応できるはずがないのだが。


 振り返った瞬間、打撃音とともに意識サンドイッチがブっ飛んだ。

「ああっ!昼飯!」

 完全にサンドイッチに俺の意識が持ってかれたところで、今度こそ、打撃音とともに意識がブっ飛んだ。


 …サンドイッチ伯爵…お守りすること、できませんでした…


 ***


 目を覚ますと、そこがサンドイッチ帝国だったらいいなぁ〜。…しかし、目を覚ましたのは、どこかの和室だった。

「全く、話の通じん奴だ!」

 いきなり怒鳴り声が聞こえ、「すいません!」と返したが、俺に向けた言葉ではないことが分かった。誰か聞いていたら恥ずかしい。


 どうやら、和室の隣の部屋で誰かが喧嘩してるようだ。体を起こし様子を見ようとすると、急に体が痛み始めた。

 どうやら、頭に強い衝撃を食らったようだ。未だクラクラする頭は、受けた攻撃が、『外側から破壊する攻撃』ではなく、『内側から破壊する攻撃』だったことを物語っている。

 だったら、古代武術か…?昔中国に家族旅行に行ったことがあったが、危険なもの好きの父が古代武術のプロの拳をもろに食らい、そのまま失神した父を連れて、予定より早く帰宅する…ということがあった。


 隣の部屋での論争は、そろそろ終局を迎えようとしていた。

 怒られている方は、「俺は試しただけだ!」の一点張りで、怒っている方は、「そんな必要ない!」の一点張りであった。声からして、怒られているのが青年、怒っているのがおじさんだろう。

 ようやく、青年が非を認め始めた。というかいつまで待たせるのか。誰か俺を気にかけてくれる方はいないのか。


 その時、和室のふすまが勢いよく開いた。同時にガタイのいいおじさんが入ってきた。

「大丈夫〜?坊や?」

 女性らしき声が聞こえたが、部屋には、おやじしかいない。女性の声もかなり野太い気がする。キョロキョロと周りを見渡す。

「あんた、誰探してんのよ」

 恐ろしいことに気づいてしまった。

 もしやこの声の主は…

「どうにか言いなさいよこのロリコン!」

 おやじにプロレス技をかけられる。こっちは被害者だぞ。

「イタタタタタ!すいません!おやじ!すいません!」

 そう謝ると、おやじは激怒した。

「おやじじゃねぇ!ハル姐さんと呼べぇぇ!」

 プロレス技は加速していく。ミシミシと音を奏でる俺の体はまるでアコーディオンのようだ。


 そんな綺麗な絵面じゃねぇ!


 開いたふすまの先に、こちらを観察している青年がいる。たまらず話しかける。

「助けて!助けてください!」

 ところが青年は、そっぽを向いて、ぶっきらぼうにこう言い放った。

「…弱すぎだろ…」


 …取材できる気がしない。





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