第2話 未確認幻想ガール その2
第2話 未確認幻想ガール その2
幼女は申し訳なさそうにこちらに近づいてきた。こちらも心配させてはいけないと思い、気絶したおじさんを押し抜けて立ち上がった。
だが、おじさんの下敷きになり地面に叩きつけられたダメージはとても我慢のできるものではなかった。思わず声を上げる。幼女の怯えた顔はさらに歪み、今にも罪悪感で泣き出しそうだった。
今まで年下の女の子と仲良くしたことのない俺でも、このまま放って置けないと思い、幼女に話しかけた。
「俺は大丈夫だけど…君こそ、何があった?」
俺くらいの年代の男性と言葉を交わすのは慣れてないのか、幼女は一歩後ずさる。しかし、慣れてないのはこちらも同じだ。不覚にもドキドキしてしまう。
しかし、本当に何があったのだろうか。アパートに一人でいるところを誘拐されるなんて、なんて物騒な街だ。
もう一度、今度は声質を和らげて尋ねると、「寝てたら、ここにいた…」と答えた。当たり前か。それじゃ、自分が誘拐されかけていたことも知らないのか。呑気な娘だ。
幼女は辺りを見回し、倒れているおじさんを見つけると、「はぁ、…またか…」と呟いた。
この娘、過去にも誘拐されてるのかよ!?
こりゃあ早めに保護者に預けたほうがいいな…
そう思い、手を取ろうとすると…
「ひぃやあ!?やめてください!」と完全拒否された。俺はゴキブリか。
「俺、ちゃんと手洗ってるよ?」
そんなことは関係ないだろうと分かっていたが、自分が年下の女の子にゴキブリだと思われているとはどうしても認めなくなかった。
「ぃや、そんなんじゃなくて、そのぉ、違うんです!」
何が違うんだ。もしかして、おじさんと同じ誘拐犯だと思われてるんじゃなかろうか。
誤解を解こうとすると、やはり「違います」の繰り返しであった。
「助けてくれたのは、分かってます。でも、触るのだけは…危ないですよ!」
どうやら、危ない人だと思われてるらしい。心外だが、通行人にでも見られると本当に危ない状況なので、「気をつけろよ…」と言い残し、傷ついた心を再生させるためにもアパートに戻ろうとしたその時だった。
幼女が倒れたおじさんにつまづき、バランスを崩した。反射的に、俺は幼女の細い腕を掴んでいた。
幼女の、声にならない悲鳴が聞こえた。
あ、とうとうやっちまった。あれだけ嫌がっていた幼女に、ついに触れてしまった。幼女の瞳が潤い始め、慌てて弁解する。
しかし、今にも泣き出しそうだった幼女は、愕然とした顔で思いもよらぬ言葉を発した。
「あれ…?干渉できる…」
突然幼女は、あれだけ嫌がっていたのに、俺の体に抱きつき、「なんで?なんで?」と、まるで俺の存在を確認するかのように何度も何度も顔をうずめた。
先程とは正反対の状況に戸惑いを隠せなかった。しかし、小さな体から伝わるぬくもりが余分な感情を忘れさせた。萌える。
だが、至福の時間は忘れ去られた彼によって破壊される。
「おや、さっきので『力』も尽きたようだなぁ…お嬢さん?」
おじさんが目を覚ましていた。幼女はすぐさま恐怖を感じ取って俺のシャツの裾を掴む。『力』とは、おじさんを吹き飛ばしたあれのことだろうか。
「天使は俺のものだぁぁ!」
猛烈な勢いでおじさんが掴みかかってきた。必死に抵抗するが、かなりの力持ちで、俺の腕をあっという間に振り払い、少女に手を伸ばした。
「おい止めろ!」
そう叫ぶが、もう遅かった。男の手が、しっかりと幼女の手首を掴んだ。「あうぅ…!」という幼女の声が聞こえた。
その瞬間、激しい光と、バチン!という破裂音とともに、またもおじさんは宙を舞った。「やっぱダメかぁ…」と幼女が呟いた。
もしや…この娘、触れた生物を見境なく吹き飛ばす力を持っているのか…?
俺の手首を掴んだ幼女を見て、背中に汗が伝っていくのが分かった。
「……さて、アパートに戻るか」
そう言うと、幼女は「…うん!」と首を元気よく縦に振った。紫色の髪がふわりと広がる。
「私、ミカって言います!」
「ミカ、か。俺は永遠。葛城トワだ」
「トワって凄いね!私に触れる人、初めて見たよ!」
ハハハ…
そう言えば、親御さんは?
俺は、早速伊吹原の洗礼を受けてしまったようだ。
***
「ミカに干渉しただと…?!」
ヤギの頭蓋骨がプリントされた黒のTシャツは、『悪魔』を連想させる。
「見た目はひ弱な奴だが、一体どんだけの潜在能力を秘めてやがるんだアイツ…」
建物の陰に隠れた青年は、好奇心旺盛な目でトワを見つめる。その瞳の奥には、隠し切れない殺気が牙をのぞかせている。
「『保護者』に相応しいかどうか…俺が試してやるよ。」
ミカ…天使(っぽい幼女)
年齢:九才あたり
能力:人間との直接干渉を許さない力
属性:ロリっ娘天使
お気に入り:トワ
※追記
トワ…俺
能力:天使に直接干渉できる力