10day1
夜、僕は1人で会社に残っていた。先輩から飲みに誘われていたが断った。これは夢だ。
「先輩には残業だといったけど、やっぱり先輩の話は気になるよな」
気になったのは、裏金の件だ。どうして気になったのかと言うと正義感なんかもあるが、ただの興味本意だ。これは夢だ
「それにしても静かだな」
僕しかいないので当たり前であるが、いつも誰かがいて騒がしいところが静かだと違和感を感じる。そのためか独り言が多い。これは夢だ。
「さてと、調べるべき所はやっぱり上司の机かな」
そう言うと少し離れた所にある上司の机に向かう。これは夢だ、夢だから早く覚めてくれ。
「あんまり時間かけるわけにはいかないから、引き出しの裏側とか底だけでも調べてみるか」
そう言って上司の机を漁る。やめてくれ。
「ここにはないか」
ひとつひとつ漁っていく。やめろ、やめてくれ。
「後はここだけか」
1番下の深めの鍵がかかる引き出しに手をかける。やめろ。
「鍵かかってたら諦め、開いてる」
引き出しを開けると、たくさんのファイルが。だがそれらに見向きもせず、そこを探る。やめろ。
「まあ、さすがに先輩の冗談か、当たり前だよな」
その時何かが落ちる音がする。やめろ、やめろ。
「んっ」
引き出しを閉じるとそこには1冊のファイルが、そしてそれに僕は。
「やめろっ」
「ごめん」
謝られる。
「あれ」
ここは会社ではなく、どこか別の場所。そして目の前には、ここ最近常に見ている少女の悲しそうな顔。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
そしてやっと状況を理解する。
「いや紗枝にいったわけじゃなくて」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「紗枝、落ち着いて、落ち着いてね」
「ごめんなさい、私が悪いんです、ごめんなさい」
紗枝は謝るのをやめない、涙を流し、謝り続ける。
「ごめんなさい、私が悪いんです、ごめんなさい、私が悪いんです、ごめんなさい、私が悪いんです」
彼女は壊れたレコードの用に同じ言葉を繰り返す。
「ごめ」
だから僕は彼女を抱き締める。
「紗枝、落ち着いてね、あれは紗枝に言った訳じゃないから」
「そ………そう……なの」
「うん、ちょっと夢でね、嫌なもの見ちゃって」
「ほんとう……なんだよ…ね、いのうえ」
「うん、そうだよ」
「なら…………よかったよ」
紗枝は泣き止む、だが顔は赤くなってしまっているようだ。だがその事を気にせず紗枝は尋ねてくる。
「けど怖い夢ってなんだったの」
「いやそれは………」
話す気にはなれず、目をそらす。外は明るくなっていた。
「ってもう朝なの」
「井上が辛そうだったから、でどんな夢だったの」
「移動しながら、話すよ」
そう言って荷物をまとめ、バイクに積み込み、宿として使ったガソリンスタンドを出発した。そしてその道中、夢のことについて話す。
「いや、昔の嫌な思い出だったんだけど」
「そうなんだ、ごめんね井上、無理に聞いちゃって」
「いやいいよ」
その後はずっと無言であった。無言のまま走り続けると、遠くの方に目的地と思われる所が見えた。
「海だ」




