8day1
「飲め飲め井上、今日はお前の成功祝いだぞ、お前が飲まなきゃ始まらねぇよ」
「はぁ、じゃあ」
先輩が僕のコップにビールを注ぐ。これは夢だ。
「じゃあ先輩も一杯」
「おっ気が利く後輩だね」
先輩が自分のコップに残っていたビールを飲み干し、空となったコップにさらに注ぐ。
「そんじゃあ、我らが社員であり、他社を出し抜き、大口契約を結んだ井上殿に」
「「「「「乾杯」」」」」
大勢の人の乾杯の声と共にコップがぶつかり合う。
その音で目を覚ました。
「井上おはよう」
「僕、寝てた」
「うんぐっすり寝てたよ井上」
「そうか、なら他の人たちは」
「他の人たちも寝てるよ、井上」
「なら静かにしてないと」
そう言いながら時間を確認するためにスマホを取り出す。スマホの画面には02:00の文字が、要するに夜中らしい。
「んんっ、はぁ」
体を伸ばす。
「それよりも井上、この音なんだろうね」
今までもずっとであったが、大きな音が繰り返し聞こえる。しかもドアの方からなので予想はつく。
「あの犬がドアに体当たりしてるんだろう」
「そうなんだ」
「助けだとよかったんだけどね」
「そうだね」
音がする度にドアが揺れるのだが壊れそうな様子はない。だが声は聞こえず、呻き声だけだ。
「井上、助けに来るとしたらいつになるかな」
「朝じゃないかな」
「なんで」
「いや暗いとき動きたくないんじゃないかな」
「そっか、なら井上聞きたいことあるんだけど、いい」
「いいけど、何」
「井上って、恋人とかいた」
「いや、居ないよ」
「そっかよかった」
「なら紗枝は」
「私もいなかったよ」
「そっか」
「他に聞きたいことある」
「いや」
「なら私が聞くね、井上ってどこにすんでるの」
そう聞かれ、大まかな住所を言う。
「へぇ、私の家のそばなんだ」
「そっか」
「これが終わったら遊びにいくね」
「別に構わないよ」
そう約束する。
「へへへっ、井上の家ってあそこなんだ」
そう紗枝が呟くが、無視をする。時間だけがたんたんと過ぎていく。




