第7話 ~コブレ廃坑② 未知なる洞窟~
コブレ廃坑が、ひいてはここ、コズニック山脈が鉱山として栄えたことには非常に大きな理由がある。コブレ廃坑はかつて銅を主として、鉛や鉄がよく採れた鉱山だった。しかしそれよりも特筆すべきは、ここは"武鉱石"と分類されて呼ばれる鉱石が散見する鉱山だったということだ。
鉄や銅のような鉱物は、採取されたのち様々な用途に使われる。装飾品や建築物の一部、勿論武器などにも使われるものだ。しかし武鉱石と呼ばれる鉱物は、その特性上、使用用途が人の手によってほぼ決まっている。すなわち読んで字の如く、武具に使われるのだ。
最も代表的な武鉱石の一例としては"ミスリル鉱"が名高い。この鉱石をもとに作られたミスリル製の物資は、鋼鉄よりも硬く、強く、しかもその鋼鉄よりも遙かに軽いのだ。圧倒的な強度とその扱いやすさは、武具として使われるために神が与え給うた鉱石と呼ばれ、一部の物好きを除けば、武具の原材料として活かされることが十中八九だろう。
コブレ廃坑は、かつてミスリル鉱がよく採れた場所だ。漠然と、優秀な鉱物と称しても異論を唱えるもののいないこの鉱石を、過去多くの者が求めて訪れ、この鉱山を拓いていった。
シリカとユース、アルミナの3人が今歩いている場所は、もはや坑道ではなかった。ここ、商人ウォードに教えられた大きな横穴の奥は、人の手で拓かれた鉱山の一部ではないのだ。この場所を坑道と呼ぶよりは、洞窟と呼ぶ方が正しいだろう。
「噂には聞いていたけど、凄いですね。明かりもないのに……」
「この目で見るのは初めてだけど……」
薄暗い洞窟を歩くアルミナがぽつりとつぶやき、ユースが同調するかのように言葉を続かせる。シリカもアルミナの気持ちがわかるようで、それは初めて彼女がこの場所に来た時も同じような心地だったからだろう。
洞窟内は、不思議と暗くなかった。蝋燭も松明も持たずに入った洞窟内は、日の光が入り込まない以上、真っ暗闇のはずだ。なのに3人が歩く先はほのかな光に溢れ、足元の突起や石壁の気まぐれた模様も、はっきりと目で見てとれる程だった。そしてそれは、先ほどまで3人がいたコブレ廃坑にも同じことが言えた。
その理由は、このコブレ廃坑――もっと言えばここ、コズニック山脈のあらゆる場所に、"蛍懐石"が散布しているからだ。蛍懐石というのは非常に繊細な魔力を持った鉱石であり、ただの石ころと性質的にはあまり変わらないが、ただ一つの特徴として、石そのものが淡い光を放つという特徴がある。これらが岩壁の多くの場所から大小様々顔を出し、坑道内を柔らかな光で包んでいる。この光のおかげで、この鉱山を歩く鉱夫たちは、明かりも持たずに先を認識して歩けるのだ。
コブレ廃坑ならびにコズニック山脈の多くの鉱山が築かれた最たる理由は、まさしくここにあると言っていい。件の蛍懐石を採取して解析し、蝋燭や松明よりも便利な証明器具とされる魔具は現在開発済みであるが、それを用いずして先を照らす道が自然と出来るというこの山脈、しかも貴重な鉱物が採れるというのだから、この山々に鉱山が築かれ続けたことは、ある種の必然だったと言えるだろう。
「観光気分で訪れるのも悪くない場所だが、気を抜くんじゃないぞ。どんな魔物が姿を見せるか、わからないんだからな」
当然のことをシリカが口にしたところ、その言葉の重みを強く心に刻みつけ直したユースとアルミナが、気を引き締める。それは決して上官の言葉だからというでけでなく、まして気が緩んでいたわけでもなかった。
コズニック山脈の最奥地は、かつて魔王マーディスが拠点としていた場所だ。
魔王マーディスは既に討伐されたが、かの存在がこの山脈に君臨していた当時は、山脈のあらゆる場所に凶悪な魔物が出没したものだ。それはこのコブレ廃坑――当時はコブレ鉱山と呼ばれていたこの場所も例外ではなく、魔王マーディスの率いた魔物の中で代表的な、ミノタウロスやガーゴイルもわんさかいたものだ。当時のこの鉱山の危険度は現在の比ではなく、騎士団や魔導士団が警護についた上での、命懸けの鉱物採掘が常識だった。無論、想定を超えた怪物との遭遇によって失われた命も数多かったものだ。そういう意味では、武力を持たない一般人でもこうした場所に踏み入れる現在は、非常に恵まれているといえよう。
ユースやアルミナ、シリカにとっても、魔王マーディスは同じ時代に生きた恐怖の象徴であった。かの存在が討ち果たされて10年の時が過ぎた今になっても、当時マーディスの率いる魔王軍がもたらしていた恐怖は、人々の心に根強く残っている。それだけ当時は恐ろしい時代であったし、その戦災で両親を失ったアルミナにとって、あの日々のことは決して忘れ得ない。
魔王マーディスの率いていた魔物の数々の中には、未だ討伐されていない者も数多い。この10年間で、世界各地に隠遁しているそれらも、かなりの数討伐が果たされているが、騎士団にも名の知れた、マーディスの配下のうちで最も手練とされた魔物も数名、討伐記録が届いていない。最大の脅威である魔王は去ったものの、未だ魔物を恐れず世界を闊歩できる情勢ではないということだ。
そして仮にも、かつて魔王が拠点としていた山脈の一部の坑道。そこにかつてなかった魔物の出現を示唆されたとなれば、必要以上の警戒をして、し過ぎるということはない。想定を超えた魔物との遭遇が、現実味を帯びた未来として充分見えるからだ。
ふと、シリカが足を止めた。アルミナもほぼ同じタイミングで銃に手をかけ、二人の様子を身受けたユースが少し遅れて足を止める。
「岩陰に何かいますね。人……ではないと思いますけど」
「採掘者だとしたら恐れ知らずだな。調査団という可能性はもっと低い」
気配は一つだ。人間が、この未知の領域に一人で踏み込むというのは、この状況では非常に考えにくい。よほど自分の手腕に自信があるというわけでもなければ、ほぼ命を捨てている。
シリカの指示を聞くより早くアルミナは、何者かが潜んでいる岩の表に向かって一発発砲した。洞窟内に大きな銃声が響き渡り、岩に弾丸が着弾する。
「お前な……」
「……いや、つい」
いきなり過ぎてびっくりしたユースがじろりとアルミナを睨む。シリカはさほど驚きはしなかったようだが、この後に起こることを色々想定して、少し表情を不機嫌に染める。
「アルミナ、意図はわかるが迂闊すぎだ。帰ったらじっくりその辺りを教えてやる」
しゅんとなったアルミナをよそに、シリカが剣を構える。確かに前に進もうと思えば、何者かがいるあの岩陰のそばを通らなくてはならないため、遠い今のうちに牽制しておきたかったのはわかる。ただ、今の銃声に刺激されて魔物が洞窟の奥から続々出てきたりしたら、さらにその魔物達が対処しきれないほどの怪物揃いだったら、ちょっと洒落になっていない。後ろにある、コブレ廃坑の人々にさえも危険を及ぼしかねないからだ。
シリカが見据えた岩陰から、棍棒を持った子鬼のような人影が現れる。身長はユースより少し小さいぐらいで、ぼろ布のような衣服からちらつく肉体は成人男性よりも角ばった頑丈そうな筋肉に包まれている。そしてその手には、棍棒が握られていた。
「ゴブリンか……特に異質とも呼べるほどではないが……」
魔王マーディスの率いた魔物の中でも最下級に位置するその魔物を見て、シリカはさほど大きなリアクションを見せなかった。突然できたこの場所の不審さと関係あると考えるには、魔物ゴブリンの存在はどこにでもあり得過ぎて、脈絡がない。
ゴブリンは銃声の発生源であったアルミナの位置を見定めると、そこに向かって一直線に走ってきた。勿論その前には、シリカもユースもいる。
ユースが一歩前に出て剣を示すと、ゴブリンの目線はユースに傾き、その手の棍棒の狙いが明確にユースに変わった。シリカもアルミナも手を出さないと仮定すれば、ここの一騎打ちという空気がはっきりと出来上がる。
アルミナは一歩下がるも、緊急事態あらば即座にゴブリンを撃ち抜けるよう銃を構える。シリカは剣に手をかけもせず、動かない。ここはひとまずユースに任せるつもりのようだ。
ゴブリンがユースを射程距離に捕えた瞬間、その手の棍棒を勢いよく振り下ろす。同時にユースは踏み込み、その騎士剣を振り抜いた。
ゴブリンの棍棒が、投げ出されたように地面に転がる。棍棒を握った、その拳ごとだ。ユースのスイングした剣はゴブリンの二の腕を一断ちに両断し、棍棒を握ったゴブリンの腕はユースの横をかすめて落ちた。
一瞬何が起こったのかわからなかったであろうゴブリンが怪訝な表情を浮かべ、直後腕の切断面が熱くなったような感覚に眉をひそめる。しかしゴブリンが、真に今何が起こったのかを正しく認識するより早く、ユースの剣がゴブリンの左肩に振り下ろされた。
肩口から股に向けて振り下ろされた剣が、一瞬腹筋の辺りで鈍ったが、ユースはそこからさらに力を込め、歯を食いしばって剣を地面まで届かせた。肩口から身体を真っ二つにされたゴブリンは、2本の脚で支えられなくなった体を崩し、両断された体が気まぐれに倒れた。
痙攣するゴブリンの死体を見て、ユースが若干目元を歪める。直後、シリカが倒れたゴブリンの首を刎ね、ゴブリンの死体は地面に溜まった血の池の上で静寂する。
とどめを刺す必要はなかった。だが、もはや助からない命にこれ以上の苦痛の時間を与えないための処置でもあった。それはユースにも伝わっていたことだ。
「少し詰めが甘かったな。ゴブリンは筋力もあり、身体を斬り抜くのはさほど簡単ではない。真っ先に首を刎ねるのがベストな判断だ」
「……はい」
魔物の討伐、魔物を殺した経験は、ユースにとっても少なくない。そうは言っても、やはりその手に握った剣で肉を切り裂き血を見る感覚は、19歳の少年にすれば強烈な経験である。それ自体には徐々に慣れつつあるものの、今回のように切り落とした敵がわずかに息をするような姿を目の当たりにしてしまうと、やはり身震いせずにはいられなかった。
「まあ、ゴブリンの棍棒を盾で受けずに攻めたのは評価しよう。あの速度と力量なら、逃げに回らず最速で勝負を決めた方がよかったからな」
シリカはちょっと機嫌よさそうにユースを褒め、ユースは一礼を返す。ゴブリンの棍棒を左腕に携えた盾で受けるのは安全策だが、まともに受けたら腕を痛めるし、受け流しても体勢は少々崩れる。不要な防御を挟むぐらいなら、一度で決着をつける姿勢も必要ということだ。
しかし、予断を許される状況とはまだ遠い。洞窟の奥からまた2つ――いや、3つ、魔物の影がこちらに向かってくる。影の形から察するに2匹はゴブリン、もう一つは今日初めて見る形。
ユースだけ褒められてちょっと面白くないなぁと思っていたアルミナも、状況の変遷に応じてすぐさま銃を構える。先ほど叱られたことが少し頭をよぎったが、己の判断を信じ引き金を素早く引いた。
銃弾が1匹のゴブリンの眉間を打ち抜き、その体が進行方向とは真逆の方向にのけ反った。直後アルミナの放ったもう一発の弾丸がゴブリンの喉元を打ち抜き、その衝撃で、のけ反っていたゴブリンの肉体は一気に後方に倒れる。明らかな致命傷だ。
残るは2つの影、片方は先ほども見た影と同じでゴブリン、そしてもう一つはゴブリンより一回り大きな体つきをした獣人の姿をした魔物で、こちらは右手に棍棒ではなく剣を握っている。ゴブリンよりもやや素早い動きが特徴の、コボルドだ。長い手足とその長剣から繰り出されるリーチの長さは警戒すべきであり、ユースは間をおかず覚悟を決める。
アルミナが次に放った銃弾は、コボルドの脳天めがけてまっすぐ飛んでいく。しかしコボルドは走りながらかがんで、銃弾をかわして見せた。先のゴブリンが2発の銃弾で倒れたことで、コボルドにも飛び道具に対する意識が少なからずあるようだ。
ユースが一歩前に出るものの、まだ僅かに距離がある。アルミナは銃の向く先をコボルドからもう一匹のゴブリンに変え、発砲する。狙うはゴブリンの右足であり、銃弾はゴブリンのごつごつした太ももを貫いて、同時にゴブリンが体勢を崩しかけてつんのめる。
それを見たユースは視線をコボルドに集中させた。歩みを止めかけたゴブリンよりも、敵意を持ってこちらに突進してくる、剣を持った魔物に集中しなくてはならない。その脇でまた二度引き金を引いたアルミナの銃弾の一つが、よろめいたゴブリンの胸元を貫く。
アルミナの3発目の銃弾がゴブリンの眉間をぶち抜いて、ゴブリンが後方に倒れたのとほぼ同時、ユースに接近したコボルドが横薙ぎにユースに斬りかかる。ユースの左腕に盾が見えたことを意識してのことか、ユースの右から襲いかかる斬撃だ。
左から来る攻撃は盾によって捌く戦い方を多く学んだユースにとって、右から来る攻撃にはかえって敏感だ。ユースは両手で剣を握り、横から襲いかかる剣に振り下ろし、全力で地面に向けてその剣を叩き落とす。ユース目がけて真っ直ぐ進んでいたはずのコボルドの剣は、上から加わった力によって、勢いよく地面に叩きつけられた。剣を意地でも握ったままならば、コボルトの体ごと地面に向かって持って行けただろうが、剣をコボルドが手放したのは思わぬ衝撃によりつい落としたのか、はたまた咄嗟の判断だったのか。
いや、後者だ。剣を叩き落とされたコボルドは、もともと何も握っていなかった左手に力を込め、その拳をユースの頭部めがけて振り下ろした。剣を手放してから間もないその判断速度は、ユースの剣を叩き落とされることを一瞬早く悟っていたからこその動き。
しかし、コボルドの拳がユースに届くより早く、ユースの左手が素早く剣を手放し、その腕をコボルドに向かって振りかぶる。そして、左腕に装着された盾の平面が勢いよくコボルドの顔面に直撃し、コボルドの拳がユースの眼前で止まった直後、のけ反った体に釣られて離れていく。
裏拳をぶつけるよりも盾で殴った方が、リーチは短いものの威力があるという乱暴な理屈だが、事実、頬骨に激烈な衝撃を受けたコボルドは一瞬前後不覚になり、その隙を見逃さないユースの騎士剣が、コボルドがその動きを認識するより早くその首を捕えた。一瞬で切断された首は胴体から離れ、空中で一回転した後、洞窟の湿った地面に転がる。
不安定だった体勢の肉体は、首を失ってそのまま倒れる。先ほどのシリカの箴言を忠実に遂行したユースは、今度は痙攣する死体を目の当たりにすることはなかったものの、やっぱり首なし死体を自分で作った結果にはちょっと顔が引きつっていた。
四肢を持つ人型の魔物と戦うのは、やはり嫌なものだ。そんなことを言っていたら騎士たる魔物討伐は出来ないというものだが、まだまだ慣れきるには時間がかかりそうだ。
「さて、行くか。二人とも、好判断だったぞ」
今回何もしなかったシリカが、やや機嫌よさげに言う。第14小隊は僅か7人の少数部隊だ。下を、使える人材に育て上げることもシリカの役目。まだまだ頼りないユースとアルミナだけに3匹の魔物の討伐を一任することはシリカにしても肝の冷える決断だったが、上手く最善の結果に繋がったことへの嬉しさは彼女も隠さず、表情に表れていた。
自分達だけに魔物の討伐を任されて、それらを果たせた事実は、ユースとアルミナにとってやがてに自信に繋がっていく。シリカに褒められて、少年少女が嬉しそうな表情を浮かべると、シリカも気を抜くなよと、一応の釘を刺す。二人にとっては、故郷に無事帰るまでは緊張感を解いてはいけない旅路ではあるが、こうは言いつつ柔和な表情を浮かべてほのかに評価してくれた上官に、二人は内心通じ合った喜びを、顔をあわせて伝え合った。
「…………」
しばらく進んだのち、シリカが足を止める。ウォードに教えられた横穴の遙か奥地に、もうひとつ分かれ道があった。左の石壁にぽっかりと空いた少し狭い横道と、ここまで同様広く開けた前の道だ。
狭く限られた場所で戦うことには、利点もあるが難点もある。フットワークを活かして戦うタイプのシリカにとっては、広い場所で戦う方が利点も多く、行くなら前の道に進むということは心に決めている。選ぶ道をどちらにしようかという問題で悩んでいるわけではない。
ここに至るまでに出没した魔物は討伐してきた。先ほど倒した3匹のゴブリンと1匹のコボルドの後にも、2匹ほどゴブリンがいた程度のもので、それらはたいした事はなかった。とりあえず、今自分達の後方に魔物がいないことは決め打って考えてもいい。
良くないのは、正面の道を進んだ後、左の横道の奥に潜んでいた魔物に背後を突かれることだ。何も突然後ろを取られることもないし、それ自体には振り返って応戦すればいいだけなのだが、そこに正面からも魔物が襲いかかってきたら、完全に挟み撃ちの構図になる。
こうなってくるとシリカも悩ましい。今ここで撤退することも視野に入れている。第14小隊の他の4人のメンバーがいるなら、陣形も柔軟にとれるしこの先に進むことも厭わなかっただろう。
ここに来て、やはり頭数の少なさが悩みの種になってくる。
「シリカさん?」
どんな魔物が襲ってきても、並の魔物ならば何匹かかって来ようが斬り伏せられる自信はある。だが、想定を超えた魔物が現れた時、この若き二人を守りながら戦い抜くことが出来るだろうか。
ユースとアルミナは、立ち止まったシリカを不思議そうに眺める。自分達の身は自分達の責任で守ると決意している二人だが、ゆえにこそ隊長に未だ守られている立場であるということにやや鈍感になりがちだ。細かいことを考える過ぎるよりは。それでいいのだが。
「……いや、何でもない。行こうか」
剣から手を離さない少年と、銃に弾を込め直したアルミナを見て、シリカはそう言った。
シリカは退がることを選ばなかった。万が一のことがあった場合――その時、覚悟が必要なのは年若い二人ではなく、それを導いたシリカだ。ひとつひとつの決断に懸かっているもの。それを認識した上で前に進むのが、導く立場の者のすべきことに他ならない。
コブレ廃坑、未知の領域のさらに奥、第14小隊の法騎士と少騎士と傭兵の3人が歩いていく。彼女達が尻目にして進んだ、小さな横道の奥から響いていたはずの、殺気に満ちた鼻息はあまりに小さく、遠く、3人の耳や直感に届くものではなかった。彼女たちがその道を選ばなかったことは幸運であったのか、不運であったのか。
かつて魔王が腰を据えていた山脈の一部である、この洞窟。何が起こるかわからない、という、ありふれた表現が的を射ているこの空間の奥で、やがて3人は想定を超えた存在と直面する。