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法騎士シリカと第14小隊  作者: ざくろべぇ
第4章  広き世界との協奏曲~コンチェルト~
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第65話  ~フィート教会② 獣魔メラノス~



 司祭が逃れたであろう、地下道の先に見えた岐路。目の前に二股に分かれた道が見える一方、その前に立つ神官服の人間二人。魔物を従えながらも、その表情は迫り来るクロードを前にして当惑に満ちている。


「せ、聖騎士クロード……!? ライフェン様、話が……」


「に、逃げるぞ……! 勝ち目なんてあるはずがねえ……!」


 二人の人間は、従えた魔物がクロード達に襲いかかるよう指示を出すと、一目散に逃げていく。片方は右の道、もう片方は左の道へだ。


「小賢しい……!」


 帰路の番人とも呼べる存在、人間をその大口でまるまる呑み込めそうな巨大な体躯を持つヒルのような怪物、ジャイアントリーチがその体を伸ばしてクロードに襲いかかる。素早い動きと巨体が繰り出すパワーが恐れられるその魔物は、たとえばユースが抗うならば苦戦を強いられることはまず間違いない怪物だが、クロードが相手では不運としか言いようがない。クロードの頭めがけて大口を開いて飛びかかるも、しゃがんでそれを回避したクロードが、素早くその後方からクロードを捕えようとするジャイアントリーチの動きより早く、鉄球棒でその肉体を突き上げた。


 肉体ごと天井まで吹き飛ばされ、叩きつけられるまま落ちてくるジャイアントリーチの顔面を、クロードの鉄球棒のフルスイングが捉え、壁と鉄球の間に挟んで叩き潰す。明らかな致命傷をあっという間に敵に負わせたクロードは、右の道に逃げた人間にすぐさま迫り、鉄球棒の石突を振るってその足を払い、転ばせる。


 転倒した人間が次の行動に移るよりも遙かに早く、クロードの怒りの鉄球棒が、倒れた人間の両足首を勢いよく叩き潰した。稲妻のように貫く激痛と共にその人間が悲鳴を上げるが、うるさいと一言言い捨てて、クロードはその人間の腹を蹴飛ばし黙らせる。


「魔物などと手を結ぶ輩には良い薬じゃ……! 後続がおぬしを捕えに来るまで、おとなしくしておれ!」


 クロードは、そのまま真っ直ぐに駆けていく。憎き魔物達と結託する人間達に対する怒りを隠さぬその姿は、後方から彼を見るユースの目にも身震いするものだった。


 一方、シリカは左の道に逃げた人間を追っていた。あっという間にその人間に迫ると、その騎士剣を振るい、両足を切りつけて転ばせる。


 転倒した人間は呻き声をあげたが、自らを見下ろすシリカを視野に入れると、その表情を絶望に染め上げて言葉を失う。魔物達と手を結んだ人間に怒気に孕んだ目を向けるのは、シリカとて同じだ。


「く、くそぉ……ライフェンめ……! 追手はたいした奴じゃないから、大丈夫だって言っていたくせに……!」


 ジャイアントリーチという強力な魔物を従えさせ、部下に足止め役を求めたライフェンの大嘘を今さら悟り、シリカの目の前の男は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。ジャイアントリーチで葬れるような敵しか来ないから、それを操って足止めすればさっさと逃げればいい、なんて甘言に騙され、聖騎士クロードや法騎士シリカの目を引く囮に使われた立場、実に哀れなものとも言えるかもしれない。悪党同士、身内の尻尾切りに使われた身なのだから。


雷撃錐(プラズマデルタ)


 その人間を容赦なく打ち抜く、チータの雷撃魔法。三つの亀裂から放たれた稲妻の数々が人間を貫き、光輝く稲光の中心で絶叫をあげる悪党。光が止む頃には、全身を焼けただらせて痙攣する、無残な人の形をした何かがそこにあったものだ。


 それを見下すチータの目は、極めて冷ややかながら怒りに満ちていた。その怒りの所以は、騎士達のように魔物と手を組む人間を蔑む目線に加え、フィート教会の悪事を指揮していた黒幕と、それに従い悪行を重ねてきたならず者に対する憤りが含まれていた。


 司祭ライフェン=マイン=サルファード。チータの実兄であるその人物が、配下を率いてこのような愚行を犯していることに、言いようのない憤慨を抱くチータの姿には、苛烈な裁きを今この目で見たユースでさえも、推し測って責める気にはなれなかった。


 シリカがチータに目を向けると、かつてと同じく罪人を無慈悲に焼き払った自覚を持つチータは、ほんの少し詫びるような目を返す。まして今回は感情的になってしまっただけに、尚更だ。


 シリカの目は厳しいものだった。だが、それはチータの行為を咎める意図によるものではない。


「冷静さを失うな。お前の全力は、冷静な判断力に基づいて引き出されるものだ」


 愚行に対する過剰な裁きが適切なものかどうかを論じるのは、今すべきことではないのだ。いかにこの状況が彼にとって特別なものであろうと、彼本来が持つ実力を発揮するためには、その冷静な判断力が必要であると、シリカは知っている。そして、努めればチータがそれを為せる人物であることも、シリカは何か月も見守ってきた彼を見て知っている。


 小さな声で、しかしはっきりと、はいと返事を返すチータの目が、平静時と同じく無表情のそれに切り変わる。ここは戦場、私情に捕われて判断力を失ってはならぬという隊長の言葉に、チータは極めて忠実にそれを為す精神を取り戻す。


「ガンマ、チータ。お前達はクロード様の後を追え。出来ることはあるはずだ」


「ういっす!!」


「了解しました」


 ガンマにとっては、近い体格と戦法を持つクロードと、近しくして戦う機会となる。ガンマにとっても目標となる人物だし、同時にクロードほどの人物のそばで戦えるなら、猪武者であるガンマ自身の命も、自分のそばにいるより安全だろう。そう判断したシリカの真意をどこまで読み取ったかはわからなかったが、二つ返事で了承してクロードが駆けていった方へ向かうガンマ。疑問や詮索を一切踏まず、素直に言うことを聞き動くその姿勢は、皮肉っぽく言えば従順すぎるものだが、敬愛する人物の言葉を信じて真っ直ぐに動くガンマの決断力を表わしたものでもある。


 そしてチータがそれに伴うのは、先走りがちなガンマを支える知恵をそばに置くためだ。その役目を預かったことを言外から読み取るチータは、既に向かう先でのガンマの動きをいくつか想定しながら、地から浮く足を滑らせて前方の二人を追う。快速のクロードに追いつくべく猛進するガンマの後ろ、それに負けず劣らずの速度で進むチータは、見送る側としても充分に頼もしい。


「シリカ、俺達はこっちの道でいいのか?」


「ああ、ここからは三人だ。クロード様の助力を頼れぬ中、油断は絶対にするなよ」


 クロムに語りかける形で、この場に残った中で最も未熟なユースに対して警告するシリカ。一方のユースは、力強くうなずいたものの、さほど意味のない言葉だと思って聞き流していた。


 聖騎士クロード様は、確かに頼もしい。それでもユースにとって、この世で誰よりも頼もしい人物が、二人もそばにいる。実力の問題ではなく、この人達と肩を並べて戦えるならば、どんな難関にだって立ち向かえるという存在が、誰の中にもあるものだ。一方で、だからと言って気を抜いてはいけないことなんて、日頃から常に自分に言い聞かせていること。


 何も、いつもと変わらない。尊敬する人の背中を追い、足を引っ張らずその力となれるよう、全力を尽くすだけだ。わざわざユースの方を振り返らないシリカの隣で、敢えて少年を振り返り、強い決意を眼差しに宿す少年の瞳を見たクロムは、うなずくことで若獅子の頼もしい意気を肯定していた。


「行くぞ!!」


 クロードが進行した右の道に反し、左の道へ駆けていくシリカ。それを追うように続くクロムに倣い、ユースもその後を駆けていくのだった。











 目先に現れる魔物達をなぎ払い、足を止めることなく突き進む聖騎士クロード。瞬殺という言葉がこれほど似合うものもない勝利を続け様に重ね、真っ直ぐに地下道を駆けるクロードに、それを追うガンマもチータも、ついていくのに全力を費やすのみだ。


 やがてその地下道の先、広く開けた広大な空間が現れる。そこは本来、ラルセローミの地を襲う脅威から、人間達が逃げおおすための逃走経路として作られたこの地下道の、人が集まり一度小休止する目的を想定して作られた大空間。地上から地下5階ぶんほどの深さに位置するこの場所は、建物の1階から上に天井を二枚突き破り、4階の天井を見上げるかのような高い天蓋を持っている。壁や天井に埋めつけられた蛍懐石の数々が暗いはずのこの空間を照らすが、天井に埋められた蛍懐石の光はほとんど地面を照らすほど行き届いておらず、その高さに天井があることだけを主張している。


 フィート教会大聖堂の面積にも勝るとも劣らないこの広大な空間、クロード達が進んできた方向と真逆の場所に、さらに先へと続く道がある。そして、この空間に足を踏み入れたクロードと、この空間から先へと進むための道のちょうど中間点、言いかえればこの空間の中心地に、一つの人影らしきものが立っている。


 遠かろうともその存在を目に映したクロードが、思わずその足を止めた。ここまで快進撃を続け、立ち塞がる敵を有無を言わさず葬ってきた聖騎士が、その存在を目にしただけで足を止める存在。


「見知った顔を迎えることになるとは、意外だったな」


「メラノス……貴様……!」


 敵対する者の名を呼び、その目の色に強い憎しみを宿すクロード。メラノスと呼ばれたその者は、(わに)のような頭部と真っ黒な鱗に包まれた四肢に、一般的な成人男性とほぼ同じぐらいの背丈を持つ、人型の魔物だった。全身をこの教会の地下道よろしく神官のような衣服に身を包んだメラノスは、右手に持つ鈴のついた錫杖を揺すって、挨拶代わりに鈴の音を響かせる。


「最後に顔を合わせたのは、ラエルカン崩壊のあの時か? だとすれば、20年ぶり以上になるな」


 目元から離れた鼻から息を噴き出して笑い、クロードの神経を逆なでするメラノス。過去には何度も皇国ラエルカンを魔物達が侵攻し、ラエルカンは魔物達を討伐、撃退しつつ、その度に痛手と犠牲者を生み出すことを強いられてきたものだ。そんな祖国の深い痛みを経験を以って知るクロードは、そんな過去を懐かしむかのような敵の姿を見て、今にも青筋が立ちそうな心持ちだった。


「……貴様がここにおるということは、この教会を唆したのはアーヴェルか」


「そうだ。目先の欲に駆られた人間どもはつくづく扱いやすいと、アーヴェル様も笑っていたよ」


 魔王マーディスの遺産と呼ばれる三匹の魔物、獄獣、黒騎士、百獣皇。魔物達を統率する最強の魔物の一角であり、策謀と姦計に長けた百獣皇アーヴェルの名は、口にするだけでかつての辛酸を思い出す、人類にとっては極めて忌まわしい文字列だ。


「司祭の若造はこの先に逃げたのか」


「こちらではないな。奴を追いたいのであれば、お前は分岐点を間違えたのではないか?」


 ジャイアントリーチが守っていた岐路。右の道を選んだクロードの選択は、ライフェンを追う意味でははずれていたようだ。しかし、代わりにこの場所で待っていたメラノスの存在は、クロードにとっては祖国の仇とも言える、魔王マーディス軍の中でも有力な魔物。これを討ち果たせるならば、思わぬ形で目指していた道を拓くことが出来る事実に、クロードは自らの思考から、本来追っていたライフェンの存在を締め出す。


 獣魔メラノス。魔王マーディスの遺産の一角、百獣皇アーヴェルの側近として、長く人類を苦しめる立場に立ってきた怨敵が、目の前にいる。そしてその実力は、魔人ヒルギガースをいとも簡単に仕留める実力を持つクロードとて、全力を費やさねば絶対に渡り合えない相手だとも知っている。


「アーヴェル様に、この教会の秘密に気付いた人間どもを葬るため、任を授かった。お前のような有力な騎士を葬ることが出来たなら、アーヴェル様もさぞかしお喜びになられるだろう……!」


「ぬしら、死を覚悟せい……! こ奴はぬしらが今までに見てきた魔物とは、次元が違うと知れ!」


 メラノスの錫杖の先に、獣魔の魔力が集中する。高い身体能力と高度な魔法を放つ魔力を併せ持つ獣魔の名は、それゆえにエレム騎士団にも、ルオス帝国兵にも広く恐れられるもの。身構えて後ろの少年達に最大限の警告を放ったクロードに応じ、ガンマもチータも緊迫感を引き締める。


水噴柱(ウォーターピラー)!」


 メラノスが唱えたその瞬間、騎士団の三人の足元から突然吹き上がる、高すぎる天井まで届こうかというほどの間欠泉のような水柱。経験則から、反射神経から、魔力の揺らぎからそれを察知した、クロード、ガンマ、チータは一瞬早くその場から跳ね走り、クロードが鉄球棒を振りかぶって獣魔に勢いよく襲いかかった。











 地下道の先には、何もなかった。シリカは走る先に立ちはだかる魔物達、ないし人間の反逆者の存在を想定していたものの、分かれ道もない一直線の道は、綺麗に拓かれている。警戒心を解くことは決してしないものの、徐々にその足を速め、この先にいるかもしれない黒幕の影を追い続ける。


 そして、見つけた。曲がり角を一つ曲がった先、遙か遠方に見えた司祭服の後ろ姿。快活に走るには不向きの服を引きずって、それでも必死に前方に向けて逃亡を計る人間の姿を視界に捕え、シリカが目を鋭くしてその足で全力で地を蹴る。


「騎士どもめ……あと少しだと言うのに……!」


 暗く静かな地下道に、騎士団三人の駆け足音はよく響く。その音が徐々に自分が離れるよりも早く近付いてくるのには、フィート教会司祭にして魔王マーディスの遺産と繋がっていた黒幕ライフェンも寿命が縮まる想いだ。


 全力疾走のシリカ、それを追う形のクロムとユース。ついていくだけで必死のユースも、決して憧れたる彼女に引き離されることなく、その背中に迫っている。第14小隊の中にあって、騎士の称号を持つ三人の呼吸の一致は、まさにこの小隊のみで構成される分隊においては最上の組み合わせのそれだ。


「――よし!! メデューサ、撃て!!」


 地下道を駆け抜け、広く開けた空間に到達した瞬間、ライフェンは希望に満ちた声でそう叫ぶ。直後、ライフェンの正面から彼に直進する方向に、人一人を丸々呑み込めるような大きさの巨大な火球が放たれた。


 ライフェンは横に跳んでその火球を回避し、ライフェンを素通りした大火球は、その後方にいるシリカに向かって一直線だ。舌打ちすると同時に、シリカはその手に握る騎士剣に、万物を切り裂く業、勇断の太刀(ドレッドノート)の魔力を集わせ、自らに迫る大火球を一刀両断に切り捨てた。


 真っ二つに分かれた火球は、シリカの真後ろにいたクロムやユースの脇を素通りして、地下道の壁にぶつかり爆散する。振り返りそうな衝動を抑え、ユースがシリカに導かれるままに進むと、その正面にあったのはフィート教会大聖堂の半分ほどの大きさ、天井の高さは家屋の1階の床から2階の屋根までほどまでの距離感の、クロード達が辿り着いた場所よりは小規模な大空間。そして、立ち止まったシリカの斜め後ろに同じく立ち止まったユースの目に飛び込んできたのは、まさに今正面に腰を据える怪物の後ろに、ライフェンが隠れようとした光景だった。


「いやはや、こりゃあ……俺達は神話の世界にでも迷い込んだかねぇ?」


 薄暗い洞窟の中にある、壁に埋められた蛍懐石の数々がほのかに照らす空間。そこに辿り着いた自分達の前に、神話から飛び出してきたような怪物が目の前にいては、今つぶやいたクロムの心境もあながち冗談に聞こえないものだ。


 人間の胴体の倍はあるほどの太さの、蛇の肉体。伸ばせば凄まじい長さになるであろうその蛇腹を、自らの周囲にぐるりと落ち付け、その蛇の頭にあたる部分には、巨大化したような人間の姿がある。下半身を大蛇のそれ、そして均整の取れた女性の肉体をそのまま拡大したような上半身に、頭から髪の毛のようにわらわらと生え出る小さな蛇の数々。そしてうねうねとその蛇一匹一匹がうごめいて、その目でシリカ達を見定める一方、頭から生えた蛇の群れに隠れて表情が陰に隠れた異形の姿には、ユースも幼少の頃から読んでいた騎士道物語に出てくる、勇者様に危機を運んでくる怪物を思い返さずにはいられない。


「メデューサ! 後は任せたぞ!」


 ライフェンは切り札とも呼べる大怪物の名を呼び、大空間の奥に向かって駆けていく。あの先に、外へ通じる道が続いていることは、もはや語るべくもなく想像できたことだ。そしてライフェンの声に呼応するかのように、メデューサと呼ばれた怪物の頭から生えた蛇の数々が、正面にいるシリカに視線を集めてその口をかっと開いた。


 ライフェンを追おうとしたシリカの眼前、両手を広げてその掌を天井に向けるメデューサ。そしてシリカが、ライフェンとシリカの間に立つメデューサに迫るより早く、その掌の上に発生した、人の頭ほどの大きさの火球の数々が、散弾銃のようにシリカに襲いかかった。


 く、と声を漏らしてそれらを横に跳ねて回避するシリカ。着地した先にも別のタイミングで火球が飛び交い、シリカは右往左往してその火球を回避することを強いられる。それは後方のクロムやユースも同じことで、目の前にいる三人の人間をまんべんなく狙撃するメデューサの火球は、騎士三人が自らの方向に差し迫ることを激しく阻害する。


 火球の発射が収まるや否や、メデューサはその両手を目の前に組み、握った両手が淡く光る。魔力を集わせ、次の一手を放つことを示唆する仕草に、シリカも厳しい眼差しで警戒する。


「……こいつを討伐しなければ、先に進めそうにはないな」


 横を素通りできるような脇の甘さを持つ魔物ではない。決して大きな体格だけによるものではなく、魔法使いを本職としない騎士でさえ肌で感じるような、魔力の強さを匂わせるメデューサには、歴戦の戦士と呼ばれて久しいクロムも、長い槍を正しく構えて臨戦態勢を整える。


「ユース、気を張れよ。お前が今までに顔を合わせてきた魔物の中で、こいつは間違いなく最強だ」


「はい……!」


 少年騎士がその覚悟を声に表わした次の瞬間、メデューサの蛇髪に隠れた奥から、聞きとれぬほどの小さな声による詠唱が発される。


爆風魔法(アトモスボマー)


 シリカ、クロム、ユースを各点とする三角形を描くなら、その重心に当たる一点。そこに突如大気の渦が巻いた瞬間、危機を感じた三人はその一点から離れる方向に散る。次の瞬間、メデューサの魔力がその火を吹くかのように、大気の渦を中心に焦熱を伴う爆発が、耳をつんざく轟音とともに巻き起こった。

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