第61話 ~偉人の邂逅~
ルーネと第14小隊を乗せた馬車が魔導帝国ルオスに着いたのは、もうすっかり日が暮れて、帝都の繁華街にも明るい光が夜を照らし始めた時間帯だった。人様のご在宅を訪ねるような時間帯では本来ないものの、公の役目を背負って帝国に訪れたルーネに、そんな観点は関係のない話だ。
御者の操る馬車は帝都の広い街路を歩き、やがて帝国ルオスの本丸とも呼ぶべきルオス城の前でその車輪を止める。門からやや離れた場所に馬を止めたのだが、門前の兵士が目を細めてこちらを見ており、御者と目が合う。軽く会釈した御者に対し、御者台に建てられた魔法都市ダニームのエンブレムマークが描かれた旗を見届けた門番達は、馬車が何者たるかを遠方から察していた。
「さて、私のお仕事はここまでですね」
「ありがとうございます。また明日、お世話になりますね」
馬車から降りたルーネが御者にぺこりと頭を下げ、御者を乗せた馬車は帝都の一角に向かって歩いていく。こうした国家の拠点には、必ず馬車を止めるための馬車小屋があり、彼はそこに馬車を預けて、また明日ルーネ達を乗せて帰る心積もりなのだろう。
御者と別れたルーネを、ようやく待ち人が現れたとルオスの門番達が遠くから見届ける中、ルーネはひとまず第14小隊の面々に顔を向ける。
「どうしましょうか? ここからは、私一人でも大丈夫なのですが」
「私とユース、チータが同行しましょう。私達も、ルオス様とは少々お話がございますので」
ルオス城の中まで、シリカ達が護衛を貫く意味はない。極端な邪推をすれば、城の中でルーネが危険に晒されることになるとするならば、それはルオス帝国の意志がルーネに牙を剥くということだ。だとしたら、国家の遺志が個人を葬ろうとする強大な力に、シリカが立ち向かうには力不足過ぎる。まあ、そもそもダニームとルオスの関係をぶち壊すようなことをルオスがやるはずもないが。
加えてシリカにも都合があり、先日エルアーティとともにピルツの村跡地に、綿の雨が降り注いだ件の調査結果を踏まえ、ルオスと一言二言会話を交わしたいという想いもあったからだ。恐らくあの調査結果に関しては既に、エルアーティのいるダニームからエレムとルオスにも情報は伝えられており、話は進んでいるだろうけど、せっかくなのでこの際話を直接うかがっておくに越した事はない。
「お、俺でいいんですか? クロムさんの方が適任じゃ……」
「クロムは待機する方を纏めて貰うからな」
シリカはこういう公の場に顔を出す時、クロムを同伴しない傾向がある。いかに彼が彼女の目線で信頼のおける場所だとしても、シリカとクロムは別行動とし、別れたもう一組を纏める役目をクロムに一任することを重視するからだ。となると、この小隊でシリカとクロムを除けば、唯一の騎士称号を持つユースを、経験を踏ませるために自分の動く方に連れていくことが多い、という理由である。
ユースとしてはきつい。またあの皇帝様の前に顔を出すのは、前回ほどじゃないにせよ、粗相をはたらきやしないかと緊張せざるを得ないから。胃薬が欲しくなる気分だ。
「まあ、わかった。とりあえず俺達は自由行動ってことでいいのかね?」
「ああ。話が終われば、私達も宿を探してどこかに泊まるつもりだ。宿を探しておいてくれれば合流もしやすいな」
「あいよ。そんじゃ宿を見つけ次第、この場所に誰か寄せるわ。俺が来るかもしれんが」
煙草に火をつけるクロムに、ポイ捨てはするなよとシリカが念を押しておくと、マグニスじゃあるまいし、とクロムも活きた返答を返す。
「ああ、そうそう。マグニスをよく見張っておいてくれよ。エレム王国に身を置く者が、ルオスで揉め事を起こされてはたまらないからな」
「んあ? 流石に俺もそこまで分別無しじゃねえぞ?」
どうだか、と、じと目でマグニスを睨みつけるシリカを見て、クロムは小声で笑っていた。遠方の国で喧嘩を起こすようなマグニスではないが、夜の繁華街を歩かせればナンパのひとつぐらいは絶対にやるような人間だ。それでおイタするような形になったら問題なので、シリカが危惧しているのはどちらかと言えばその辺りだ。
「あー大丈夫ですよ、シリカさん。マグニスさんが変なことしたら撃ちますから」
「冗談は小説の中だけでやってくれ」
銃を光らせてシリカに笑いかけるアルミナと、げんなりした返しを見せるマグニス。まさか街中で本当に射撃されるとは思わないけど、とりあえず好き勝手なことはさせて貰えなさそうである。
「それじゃ後は頑張れよ。チータも、あまり気負わんようにな。ルオスの皇帝さんも寛大な方だし、別に怒っちゃいねえと思うからよ」
「……はい」
シリカがチータを同伴させるのは、先日チータが姓を名乗らなかったことに対して、ルオス皇帝に頭を下げる機会を設けるためだ。クロムやマグニスあたりの価値観で言えば、今さらそんなことをしなくたって国がどうこう言うはずないし、放っておいていいよという話もしているのだが、チータが筋を通したいという希望に基づいてそれは行われることになった。シリカにとっては、知っていて隠していた面もあるし、チータと一緒に頭を下げる心積もりはすでに出来ている。
シリカ達に、特にチータに手を振って街に向けて歩いていくクロムに率いられ、第14小隊の面々は夜のルオスに消えていく。その後ろ姿を見届けてルーネは、寒空の下でほうと息をつき、シリカ達に改めて目を向ける。
「参りましょうか。やっぱり少し、緊張しますけど」
「そうですね」
これから魔導帝国の皇帝様にご挨拶するのだ。シリカにだって緊張感はある。一方のルーネは言葉とは裏腹にそんな素振りはなく、シリカ達の胸中に共感する言葉を与えただけのようにも見える。緊張しているのが自分だけでないとわかれば、心の支えになり得ることもあるからだ。
城門に向かって歩きだすルーネと、その後に続くシリカ、ユース、チータ。門前に立つ3人の兵士のうち一人がルーネに歩み寄ってきたため、少し早めに足を止めるルーネ。
「凪の賢者、ルーネ=フォウ=ファクトリア様ですね?」
「はい。この度は、お招き頂けたことを光栄に思います」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
二つ返事で城門を開き、ルーネを招き入れる門番達。以前シリカ達がルオス皇帝に招かれてここへ訪れた時ですら、法騎士シリカであることの証明に、階級章を示すぐらいは求められたものだ。帝国の要たる城への道を開くためには、それぐらいの様式を踏むのが普通のはずなのに、顔と声と挨拶だけでこの門をあっさりくぐる資格を得たルーネという人物は、いかにこのルオスにおいても名高く信頼を寄せられているか、見ただけでわかるというものだ。
「さあ、行きましょう」
ふんわりとした笑顔をシリカ達に向けるルーネの姿は、その内面に持つ偉人の気質を幼い容姿に隠し、引き連れた騎士達の緊張感を和らげた。
以前と同じくして、ルオス城の中を歩き、所々で皇帝への道を塞ぐ番人と顔を合わせる。いずれもルーネが名乗り、頭を下げると、それだけで帝国いちの要人である皇帝への道が拓けていく。広い城、皇帝の元へ辿り着くまでの時間はそれなりに要したが、足運びそのものは非常にスムーズで、殆ど立ち止まることなく4人は、ルオス皇帝の待つ謁見の間の前に至る。案内役もなく迷わずここにルーネがシリカ達を招いたことからも、ルーネはルオス城に招かれ皇帝に謁見した過去が、今回以前にもあったのだろう。明らかに歩き方が、城の間取りの一部をよく知っていた。
謁見の間への扉を守る最後の番人がその扉を開くと、ユース達も以前見たとおり、赤い絨毯が真っ直ぐに王座へと続く、広大な部屋が広がっていた。足を踏み入れただけで、皇帝様のおわす部屋が持つ独特の重圧がのしかかり、ユースも思わず緊張感を高めたものだが、平静時と変わらぬままに胸を張って前に進むルーネの後ろ姿を追い、なんとかついていく。
やがて4人の視野の中心でピントを集める、玉座に腰かけた一人の人物。今なおその威厳と存在感を顕在とする大国ルオスを、見事に統べる名君として名高いルオスの皇帝、ドラージュ=ハイヤーン=ルオスの姿がそこにはあった。
皇帝に挨拶をするならば、ここだという距離感がある。前回はシリカが先頭に立ってその地点を示してくれたものだが、今回その先頭を担うのはルーネだ。そんな彼女も前回のシリカと全く同じ場所まで足を進め、皇帝に頭を垂れるならばそこだという絶妙な一点で立ち止まる。
そして言葉を放つ前にルーネがとった行動。それは両膝を同時に床につけ、正座の形を作ったかと思えば、その額と両手を床に伏せてみせたのだ。深い謝罪を示す土下座と全く同じ形のルーネの態度があまりに予想外で、シリカも膝をつこうとしたところでルーネに目を奪われてしまう。
「ご無沙汰しております、ドラージュ=ハイヤーン=ルオス様。この度は、ご招待頂けたことを心より光栄に存じる次第です」
「頭を上げてくれい」
柔らかな笑顔をルーネに向けるルオス皇帝、ドラージュの言葉を受け止め、ルーネはゆっくりと立ち上がる。そして改めてぺこりと頭を下げ、前に手を組んで真っ直ぐに背筋を伸ばす。
一歩遅れて膝をついて頭を下げたシリカに倣い、ユースもチータも同じ所作を取る。そんな三人に、よいよいと気さくな言葉をかけるドラージュに手を引かれるように、三人も背筋を伸ばす。ひとまず、お偉い様とのご挨拶はやんごとなく済ませられたようで、ユースは密かに胸を撫で下ろす想いだ。
「魔法学者ルーネ、よくぞ来てくれた。ここへ来てくれたということは、おぬしの中でもいくらかの区切りがついたと見てよいのかな?」
「はい。私の思うことを、率直に述べさせて頂きたく思います」
ルーネの後ろに立ち、彼女の顔が見えぬシリカ達に、今のルーネの表情は伺えない。しかし、日頃あれだけ柔らかい顔立ちが常のルーネと向き合う皇帝ドラージュが、王としてあれほどまでに真剣な表情を見せていることから、ルーネも相応の顔を見せているであろうことは察せられる。
「それでは、席を移すとしようか。ジャービルよ、彼女を案内してやってくれい」
「かしこまりました」
ドラージュの横に立つ、皇帝の側近として立つ魔法剣士、ジャービルが礼儀正しく頭を下げて返答する。かつて魔王マーディスを討伐した勇者の一人として知られる彼が、ルーネに近付いて小さく会釈すると、ルーネもまたジャービルより少し大きく会釈する。
「こちらへ」
「はい」
短い挨拶。第14小隊の前では物腰柔らかな一面しか見せていなかった両者が、必要最低限の端的な言葉のみを交換する姿には、シリカ達もこの後に控えるルーネの重要な役目の存在を、暗に強く感じ取らざるを得なかった。
ジャービルに案内されるままに、城の中を歩く4人。先ほどの短い謁見の間では、姓を名乗っていなかった無礼を謝罪する暇もなかったチータは、今ひとつ煮え切らない表情だ。流石にあの空気を打破して発言するタイミングはなかったし、皇帝様に顔を合わせる機会は今後もないだろうから、謝罪する好機は永遠に失ってしまったように思えてしまう。
「チータ君、だったかな。皇帝様にお伝えしたいことがあるなら、聞いておくが」
不意に、ジャービルが振り向かずにチータに向けた言葉。心中を射抜かれたチータは次の言葉に迷うが、今の言葉から察せられるジャービルの真意まで先読みして、チータは返す言葉を選び抜く。
「……黙っていて、申し訳ありませんでした」
「構わないよ。皇帝様も、気にはしていないようだった」
ジャービル達はもう、自分がサルファード家の人間だと気付いているのだろうと推測したチータの読みは、きっと正解だったのだろう。ルオスの名家サルファード家の末子、チータ=マイン=サルファードが家を飛び出した事実は、ルオスの内情をよく知るドラージュやジャービルが知らないはずがないし、前回姓を隠して名乗った時点で、もしかしたらと思われていた可能性は高い。
「君の家にも、君が訪れたことは公開していない。何か事情があったのだとすれば、それは君と君の家との間での問題だ。私達は口を挟むつもりはないよ」
ジャービルの隣を歩くルーネの目には、ほのかな温かみを帯びたジャービルの真顔が映っている。彼の後ろを歩き、ジャービルの表情をうかがい知れないチータにも、彼の声の柔らかさから、温かい目線で自分の立場を見届けてくれていることは感じ取れたものだ。
「……ありがとうございます」
繋がりを察した上で、個人の抱く想いを尊重し、介入もせずそっとしておいてくれる先人達。それらに対する想いを言葉に表すならば、今のチータのように、シンプルな一言しか出てこない時が往々にしてあるものだ。いつもどおりのトーンを抑えた小さな声に、ジャービルや皇帝に対する言い表しようのない強い感謝の念があったことは、経験豊富な大人たちには充分知れたものだった。
やがて、謁見の間からさほど歩かない距離の場所、ひとつの扉の前でジャービルが立ち止まる。同じくしてルーネもそこに立ち止まるということは、この場所こそ、ダニームからの来客ルーネが招かれた場所だということだろう。
「こちらです、ルーネ様」
「ありがとうございます」
謁見の間から遠くないルオス城の一室、すなわち言い換えれば、皇帝がその腰を落ち着ける一点のすぐ近く。この一室に住まう資格を持つ者は、ルオス皇帝を最上位の1とすれば、この帝国で2か3の地位高さを持つ者だということだ。
そしてルーネは、この部屋で自らを待つ人物の名を知っている。自らをこの帝都に招き、会談を設けたいと強く主張する大魔導士。そして彼が、自分に何を尋ねたくて、何を話したがっているのかも、概ね予想はついている。
ルーネがそのドアノブに手をかけ、扉を開いて敷居をまたぐ。部屋の主が、一対一でルーネと話をしたいという主張を重ねていたことを知るジャービルは、ルーネを追わず部屋の前で彼女を見送る形だ。扉が閉じられ、ルーネが入室したことを見届けると、ジャービルはシリカ達を見返した。
「――さて、本来ならばあなた達を城門まで案内するのが私の務めなのですが、今回においては少々、お話しすべきこともあるでしょうね」
「はい。よろしければ、お話をお伺いさせて頂きたく存じます」
「それでは、私の部屋へご招待します。こちらへ」
魔法剣士ジャービル。それはかつて魔王マーディスを討伐した勇者の一人であり、エレム王国においては、勇騎士ベルセリウスに並んで名高い偉人様。そんな方の自室に招かれ、これからルオスとエレム、ダニームの三国が手を結んで挑む、綿の雨を降らせる不届き者を捕える任務についての作戦会議をするというのだ。法騎士シリカとて、この役目の重要性は正しく認識しているし、それを差し引いても、魔法剣士ジャービルの自室にて会談に踏み込むことには、強い畏怖と緊張感をその胸に宿していた。
それは言うまでもなく、ユースも同じこと。なんで単なる騎士階級の自分が、こんな場違いかつ高尚な席に招かれるんだろうという想いでいっぱいだった。若いうちにこうした経験を得られるのは、周りからすればいいものじゃないかと囃し立ててくれそうだが、実際のところはどうなのやら。若いうちの苦労は買ってでもしろと言うものだが、身の丈に合わない苦労は胃を焼くだけである。
ルーネが踏み込んだ部屋は、一言で言えば奇怪だった。鷲の剥製や、ぐにゃぐにゃに曲がった変な形の壺、鼠を飼う小さな檻や、壁に落書きのように書き連ねられた数式など、一般的な民家の一室では見られそうにない物体が無数にあり、そんな物の数々が同時に並んでいることも、一層この部屋の異質さに拍車をかけている。魔導士という奴は自室に妙なものを置く者も少なくないが、ここまで数多くの不審なオブジェクトで部屋全体を満たすような魔導士は、流石にそうそういない。
鼠が檻の中の回し車を駆ける、カラカラという小さな音が鳴り響く静かな部屋の奥、その人物は机の上に腰かけて、足を組んだまま座って待っていた。右手に握る書物を眺めながら、左手に握るペンをくるくると回す姿には、その挙動だけで一般人とは一線を画した感性の持ち主だとわかるものだ。
「ただいま参りました。アルケミス=イブン=ズィウバーク様」
軋む扉が開く音にも気付かないような態度だったその人物は、ルーネの声によって初めてそちらに気付いたかのように、ふっと顔をそちらに向ける。
「……来て頂けましたか」
齢37にして、二十代前半のような若々しい顔つき。老いを匂わせない姿はルーネも同じことだが、長身の青年のまま時が止まったかのような肌を持つその人物は、ルーネを見定めて重い声を放つ。えんじ色の法衣を身に纏うルーネに対し、群青色の法衣で身を包むアルケミスと呼ばれた人物の姿は、似たものを身につけていながらも、ルーネとは全く対極の価値観を持つ人物に見えるものだ。ふんわりとした髪をツインテールにまとめたルーネの一方、腰まで届く長い黒髪を、頭の後ろから鋭く一本にまとめたアルケミスの姿は、尚更そんな印象を強めるものだろう。
アルケミスは手にした書物とペンを机に置き、机から降りて立つ。向き合う両者の大きな身長差は、見降ろすアルケミスと見上げるルーネの姿勢からも如実に表れている。まるで子猫を見下すような冷たい眼差しのアルケミスに対し、この会談に懸ける想いを熱く宿す目線を返すルーネの姿は、もはや彼女と浅く付き合う人々が知る、幼子のようなルーネとはかけ離れたものであったと言えよう。
「そちらへ」
「はい」
アルケミスの手に示されるまま、高級そうでありながらも埃をかぶった革張りのソファーに座るルーネ。そんな彼女とちょうど向き合う場所へ、机のそばにあった椅子を蹴って押しやると、アルケミスはその椅子に座る。それは針金で編まれたようないびつな形をした椅子であり、座ればそれだけで尻を痛めそうな椅子だったが、何の気兼ねもなさげに座るアルケミスの姿は、ルーネの目にも彼らしさを垣間見ずにはいられない。
双方、腰かけて沈黙のまま向き合う。どちらが先に口を開くのか、傍から見ていれば予想もつかない間が流れるが、やがてアルケミスが口火を切る。
「単刀直入に申し上げます。ラエルカンの英知、"渦巻く血潮"。その真髄を、お話ししては頂けませんか?」
「……あれは、呪われた力です。私は、誰にもあの技術を語るつもりはありません」
僅かに目を曇らせたものの、ルーネはきっぱりとそう言い捨てた。自らの望みを断つことを意味する返答に、アルケミスは表情を動かさず、無言を返すのみ。
「私はここへ、それを告げるために参ったのです」
魔王マーディスを討伐した4人の勇者の一人。今やルオス最強の魔導士と呼ばれるようになったアルケミス=イブン=ズィウバークを目の前にして、ルーネは揺るがぬ瞳でそう言い放った。




