魔物図鑑:第101話~第200話
第7章から第12章終了時点までに登場した、魔物達の紹介です。
~第7章~
【火竜属】サラマンダー
エレム王国の歴史を語る中で、名前だけ登場した魔物。火を吹く巨大な竜の魔物で、一匹で人里一つを焼き払い滅ぼすだけの力を持つ恐ろしい魔物だったという。
かつてエレム王国をそれらの群れが襲撃した際、騎士団の力によって多数のサラマンダーを撃退したことが、今までどうにも出来なかった強大なる魔物を打ち倒す人類の力を証明する、歴史的な出来事だった。のちに多くが掃伐され、現代では火山深層ぐらいでしか見られない魔物になっている。飛竜ではないため、ブレイザーやワイバーンといった、空を飛び火を吐く竜の魔物とは別種に分類される模様。
~第8章~
【ナメクジ属】イビルスネイル
アルム廃坑に放し飼いにされていた、巨大ナメクジのような魔物。
強力な消化液は触れると危険だが、動きが遅い上に触れない限りは大丈夫なので、基本的に恐れるべき類の魔物ではない。しかし黒騎士ウルアグワよって、体内にクロリィという魔物を潜まされており、自分ごと爆裂して消化液をばら撒く、危険な爆弾生物としてアルム廃坑各地に分布していた。
【創造生物種】クロリィ
目では視認できない、ウイルスのような存在。黒騎士ウルアグワが悪意のもと作り上げた魔物のようだ。
潜入した生物の体内に寄生すると、やがて熱病を伴う症状を宿主にもたらし、やがて昏睡状態にまで陥らせる。あまりに大量に寄生されると、宿主は体まで操られることになるという。主にヴァルチャーやイビルスネイルに寄生させられており、宿主の体を操って、人間を傷つけてそちらに寄生するよう命令を受けている。寄生された人間は、病に侵されたように戦う力を失う。
【創造生物種】サイデル
魔王マーディスの遺産が配下に置く魔物の中で、最も凶悪な魔物の一体。
骨を集めた巨大な体躯で動き、無数の腕に備えられた骨の鎌を振り回して獲物を狩る。頭部の主核たる骸骨頭からは、強大な魔力を伴う地獄の炎を吐き、それらを操り獲物の動きを遮る炎の壁を作るなどの知能も持ち合わせている。体を構成する骨はすべてが本体であり、一つでもサイデルの操る骨が残っていれば、それが発する魔力により他の骨も再生して、やがては完全回復も可能という生命力を持つ。また、自らが始末した対象から骨を抜き出し、それを我が身に変える力も持つため、犠牲者を生めば生むほど大きくなっていく。一つ残らずすべての骨を破壊することが唯一の討伐手段である。
【創造生物種】アズネオン
厳密には魔物ではなく、魔物の血を流された人間の胎児が成長した"魔物じみた姿の人間"。赤ん坊のような外観を持つが、体躯は人間の少年ほどに大きく、頭は赤子の頭部二つを溶かして合わせたように異形。体も真っ白な肌にむき出しの血管が絡みついたもので、見る者の嫌悪感を駆り立てる。
憎悪の連鎖という魔法を使い、対象の記憶と深層心理の奥にある、"自分を憎んでいるであろう死者"の存在を探り当て、その亡霊を生み出し嗾けて戦う。自身は浮遊能力と、防御障壁を生み出す魔法により、敵の攻撃をかわしたり防いだりしながら、呼び出した亡霊を差し向けることを攻撃的手段とする。
【巨人属】ギガントス
トロルやスプリガンの最上位種。ミノタウロスやヒルギガースといった、人間よりも遥かに大きな魔物達よりさらに大きい。
下位種が敵軍の足場を挫く程度の地震魔法しか使えなかったこととは別格で、たとえば町の真ん中でそれを行使しようものなら、大惨事に繋がるような大きな地震を起こす魔法を使える。身体能力も下位種とは比べ物にならないほど高く、凄まじい怪力とスピードで敵を薙ぎ倒す実力は恐るべきものである。巨大生物が集まる獄獣軍においても、とりわけ上位に位置する最強の魔物の一体。
<第9章>
【魔術師属】ダークメイジ
全身をローブに包み、枯れ枝のような手だけを覗かせる魔物。
漏れなく主であるウルアグワによく似て性格が悪く、口を開くたび悪辣な思想を表す。他の魔物に比べて知能が高いことも相まって、低級から中級の魔物を指揮する役目を担いやすい。近接戦闘は得意ではないが、強力な魔法を行使する力に長け、稲妻の魔法を最も得意とする一方、その気になればあらゆる属性の魔法を使えるようだ。いよいよ敵が近付いてきても、防御の魔力でひとたび難を逃れれば、至近距離での大魔法で敵を仕留める力もあるため、白兵戦に不慣れな魔導士と戦う場合にありがちな、懐に入れば有利という価値観で挑むのは非常に危険である。
【騎人属】スフィンクス
獅子の下半身と人間の上半身を持つ魔物。
ケンタウルスの上位種にあたる魔物だが、それらが身につけていた鎧はなく、逞しい人間の肉体の裸体を晒している。ただし身体能力は下位種に勝るため、むしろ重い防具を纏わぬ上でそれなので、身軽さからくる速度がケンタウルスよりも遥かに向上されている。錫杖を片手に戦い、強力な氷の魔法を行使する能力に秀でる一方、錫杖による攻撃も人間離れした筋力で放たれるため非常に危険。
<第10章>
【狼属・古代種】マナガルム
魔界アルボルに存在する魔物。つまり太古に滅びたアルボルを蘇らせた世界の生き物であり、現代における魔界の外ではそうそうお目にかかれない存在である。獅子のような巨大な体躯を持つ狼の姿をしている。
種族としてはジャッカルやヘルハウンド、サイコウルフの上位種にあたり、サイコウルフと同じく水と風の魔法を行使することが出来る。魔力は下位種のそれとは比較できるものではなく、無数の風の刃は散弾銃のように獲物を強襲し、守りのために生み出した水柱は敵のあらゆる攻撃を撃退する。巨体からくるパワーや、それが生み出すスピードも見た目以上のものであり、近接戦闘においての戦闘力も非常に高い。
【魔樹属】エブルート
魔界アルボル、あるいは大森林アルボルにも分布する魔樹。ただし、大森林アルボルに点在するエブルートは、大精霊の結びつけた人類との契約に従い、自分から人間に危害を加えることがない。
根元で息絶えた命の魂を吸い上げ、その霊体を釣瓶落としのように枝から降らせ、近付く者の魂を傷つける牙を生み出す。そうして息絶えさせた命から養分を吸い、また新たな霊体の武器を生み出すきっかけにするサイクルを形成しているようだ。
【蝶属】スペルパピー
蝶の姿をした魔物。普通はちょっと大きな蝶ぐらいのサイズだが、古代の大森林の姿を蘇らせた魔界アルボルにおいては、人が背中に乗れるほど巨大なスペルパピーの存在が確認されている。
獲物に多数で群がって、触覚から放つ電撃で攻撃する。小さなスペルパピーなら、その電撃の威力は強いものではないが、群れを為して集中砲火を受けると命にも関わるので注意が必要。巨大な方のスペルパピーであれば、森に火災を起こさせるほどその電撃も強力。また、触覚から放つ魔力で仲間を呼び寄せ、獲物を仕留めるため積極的に群れを為そうとする習性を持つ。小さなスペルパピーなら、それによっていよいよ警戒しなくてはならなくなるが、一匹でも恐ろしい巨大スペルパピーがそれをやると、大変なことになる。
【水竜属・古代種】プレシオ
魔界アルボルの河に棲む、首長竜のような魔物。古代の大森林においてすら希少種だったようで、現代においては存在の確認すら難しい魔物である。
陸上に上がることはないようだが、水の刃を放つ魔法を使えるため、地上や空中の相手にも攻撃を放つことが出来る。森を強く愛する心の持ち主のようで、森の平穏を荒らす存在には怒りを露にし、容赦なき殺意の水の刃を放つ獰猛さを持つ。また、そうした対象が自らの手が届かぬ地上へと逃げ延びても、志を同じくする森の番人を呼ぶ声を放ち、決して逃がそうとしない。
【熊属】アウルベアー
グリズリーの上位種にあたる魔物。大熊の肉体を持つが、フクロウのような目とくちばしを持つことが下位種と大きく異なる。
身体能力はグリズリーを上回り、さらには夜目が非常に利くことで、夜の狩猟者としては、下位種を遥かに超えた恐ろしさを持つ。夜闇に乗じて忍び寄られ、熊を超える速さとパワーで背後から襲いかかられることを想像すればわかりやすいだろうか。
【植物属】マンイーター
魔界アルボルに数多く分布し、大森林アルボルにも実はこっそり大量に生息している魔物。大精霊との契約により、大森林アルボルのマンイーターは、自分から人類には危害を加えない。
巨大なハエトリソウのような口を持ち、普段は牙を葉の中に隠し、草陰でじっとして獲物が近付くのを待っている。射程圏内に獲物が入れば、素早く茎を伸ばして食らいつき、鋭い牙で肉を引き千切る。食い千切った肉は消化液で溶かして養分とするため、生物としては肉食に分類されるだろう。
【コウモリ属】デビルフライヤー
ウェアバットの上位種。人の子ほどの大型コウモリの姿をした下位種より遥かに大きく、人間の大人ほどのサイズである。
闇に乗じて上空から素早く獲物に飛びかかり、鋭い牙で噛み付いて引き千切る顎の力を持つ。翼の先端は刃のように鋭くなっており、それによって獲物を斬りつけるという攻撃手段も持っている。ややずる賢い思考回路を持つようで、単身であったり、獲物が強そうだと思ったら手を出してこない。仲間がそばに多い時や、他の外敵によって獲物が弱っている時など、自分にとって有利な状況でこそ活発に狩りを行なう習性を持つ。森に迷い込み、消耗していく自覚がある人間は、自分が弱るのを待っているデビルフライヤーが常に上空にいることを意識すべきである。
【熊属】グレイマーダー
グリズリーやアウルベアーの上位種。灰色熊、という言葉が文字通り似合わせたかのような、ねずみ色の体毛を持つ。
単純に下位種の身体能力を遥かに上回るだけの存在なのだが、その体捌きは洗練された格闘家のように機敏で、よほどに腕の立つ戦士でも、動きに翻弄された末に圧倒的なパワーで粉砕されてしまうほどに見事。また、知能も非常に高く、魔王軍のように体系立てられた組織化になくとも、そばの魔物達を束ねるボスとして信頼される存在であることが多い。
魔界アルボルのギガントスにも言えることだが、古の大森林で長く生きてきたこのレベルの魔物達は、外界の同種の魔物に比べて高い能力を持つようだ。魔界アルボルのグレイマーダーに至っては、口での人間との会話能力まで持ち合わせており、これは魔外界のグレイマーダーにはない特徴である。
【魔樹属】ザックームの大木
魔界アルボルにのみ生息する魔樹。
元は、アルボルを復活させた大精霊が、森を広げるために作り上げた魔性の樹であり、タンポポの種のような綿を魔界外にばらまく。綿には、何かに触れた途端に急成長する魔力のこもった種子が伴われており、それによって大森林アルボルを作り上げてきた。
人類との領分を考えるようになった大精霊の計らいにより、現在は大森林アルボルに危害を為す対象にのみ綿の雨を狙い撃つ樹となった。しかし魔界内においては、生まれた意義を忘れられないのか、今でも時々綿をばらまいて植物を増やそうとする。基本的にそうして急造した植物は、アルボルの草食の魔物や動物によって喜んで食されるため、あまり迷惑な結果には繋がらないらしい。ただし、綿に直接触れると体に根差されて大怪我するので、綿の雨自体は各生物も非常に警戒している。
【魔樹属】ロートスの樹
魔界に迷い込んだ魂を、森の命として生まれ変わらせる魔樹。
魔界アルボルは"生に未練ある魂"を引き寄せる世界であり、それらを取り込んだ魔界の中にあるロートスの樹が、動物や植物として新たな命に生まれ変わらせる役割を果たす。それを目的に大精霊によって作られた樹であり、基本的に生者の魂に積極的に干渉することは少ないが、たとえば魔界内に、今の生を悲観し死を望む魂を見つけたりすれば、魔力で包んで魂を取り出し、転生への道を進んで開くこともある。ロートスの樹の妖精であるベラドンナは、そうした概念からキャルの魂を、新たな命に生まれ変わらせようとしていた。
<第11章>
【悪魔属】バルログ
ガーゴイルやネビロスの上位種。悪魔的な体色を持つ下位種とは異なり、高き地位であることを誇示するような金色の肉体を持つ大悪魔である。恐らくそれは支配欲に満ちた主、魔王マーディスに創造されたがゆえの体質なのだろう。
高い戦闘能力を持ち、空の接近戦においては飛竜にも劣らぬパワーで敵を圧倒する。下位種と同じく炎の魔法や風の魔法も扱うが、下位種の魔法とは比べ物にならない速度と熱を持つ火術まで習得しているのが最大の特徴。それを活用し、遠い場所から対象まであっという間に届く破壊魔法によって、敵対陣営を遠方から切り崩す能力にも長けている。配下を合理的に使う、指揮官としての頭脳にも秀で、単身で戦うことは殆ど無く、無数の魔物を指揮する将として戦場に立つことが殆ど。魔王軍の中でも数が少ない、魔物達の貴族格とも言える存在である。
<第12章>
【騎人属】ワーグリフォン
ケンタウルスやスフィンクスの上位種。獅子の下半身に逞しい人間の上半身を持ち、獣の背からは鷲の翼が生えている。人間部分の顔にもくちばしがついているのも特徴か。
長い槍を駆使して戦う能力に長け、高い位置から射程距離の長い槍での連続攻撃を繰り出す攻撃は、腕に覚えのある人間でも対処が難しい。下位種スフィンクスよりも強力な氷の魔法を扱う腕を持ち、翼を伴ったことで機動力も増したため、一定の実力を手にした人間が相手であっても、ろくな反撃を許さずに勝利を収められる実力者である。
【創造生物種】マンティコア
百獣皇アーヴェルが作り出した凶悪な魔物。巨馬のような大きな体躯の獅子の姿であり、背中には巨大なコウモリのような羽を持つ。大蛇のように太く長い尾の先には、蠍の尻尾のように鋭い毒針を携えている。
巨体に見合わぬ素早い動きと、見た目どおりの獰猛さで、威圧して縛った相手を容易に噛み砕く狩猟者。翼によって短時間の飛行も可能だが、どちらかと言えば空中姿勢のコントロールや、脚力以上の跳躍力を突発的に生み出すために翼を使うことの方が多いようだ。毒針を備えた長い尾は、先端まで自在に操れる神経が通っており、軌道の予測が困難なほど自由に振り回して獲物を突き刺すことが出来る。尻尾を包む甲殻も非常に頑丈で、切断されるリスクもカバーされている。何より開いた口から放たれる太い怪光線が、着弾場所に大爆発を起こし、火の手を上げる高威力の砲撃として恐ろしい。
単純な身体能力に加え、使い分けが明確かつ人間に対しては一撃必殺の攻撃手段を多数持つことから、対人類における最強の魔物の一体であると言える。人類に対して差し向けるにあたり最高の兵とは、という命題に向き合った創始者アーヴェルが、長き研究の末に辿り着いたひとつの集大成であるとも言えるだろう。




