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法騎士シリカと第14小隊  作者: ざくろべぇ
第1章  若き勇者の序奏~イントロダクション~
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第16話  ~魔法使いの少年⑤ 明日は今日とは違う日に~



 時計塔から4人が出てきた時の歓声は、すっかり暗くなった街中を真昼のように賑わせた。外から見ていれば、時計塔の壁をぶち破った何者かの攻撃力は不安を覚えるものであったし、固唾を飲んで見守っていた村人達も、騎士達も、この結果には心底胸を撫で下ろしただろう。


 騎士団により、逃亡者はより強い拘束を施されて馬車に押し込められる。魔法を使うという情報に則って、猿ぐつわを口にくわえさせられた上でだ。魔法を使うにあたって詠唱は必ずしも必要なものではないため、詠唱を防ぐことが完全な魔法の封絶にはならないが、これも意味のある措置だ。魔法学を嗜んだ者なら、その意味も充分にわかることである。


 シリカは逃亡者を連行する騎士達に後の事を任せて、勝手に帰ってもよかったのだが、シリカ自身の希望で、この連行を最後まで見届けるべく同行することとなった。罪人を乗せた馬車の中でシリカとユース、アルミナが咎人を囲う形に座り、チータはシリカの意向で、別の馬車に座ることになっていた。


 そして夜もすっかり更けた頃、シリカ達を乗せた馬車がエレム王都に辿り着く。そのまま騎士館へ向かう、シリカと罪人を乗せた馬車は、ユースとアルミナをシリカの家の前で降ろし、チータも少し遅れてその場に合流することとなる。


 レットアムの村に居合わせた上騎士と、罪人と、法騎士シリカを乗せた馬車が騎士館へ向かう。いつしか目を覚ましていた逃亡者は、やつれた顔色で暗い馬車の天井を呆けるように見上げていた。






 シリカが騎士館に赴いている間の、第14小隊の3人が居座る居間の空気は、相変わらず重かった。この小隊では一番後輩ながらも、ユースの意向によって先にひとっ風呂浴びたチータが、さっぱりした髪をかき上げ、今しがた上がったばかりのアルミナがその正面に座っている。まだ濡れた少女の髪が水滴を纏って艶めいているが、その顔色はいつもほど、元気いっぱいではなかった。


 ユースが入浴中の今、チータと二人きりの居間というのは居心地が悪かった。差し当たって嫌悪感はないものの、アルミナ目線で過激な思想を持つチータは、同室するとやはり萎縮してしまう相手だ。かと言って逃げるように自室にこもるというのも、避けているのを明らかにするようで憚られる、と考えてしまう辺り、アルミナもその世話焼き癖から、そこそこの損をしているといえよう。


「えっと……あ、あのさ……」


「ん」


 おずおずと声を発したアルミナに、チータは顔も上げずに短く答えた。考えごとに耽りながら自分の杖を眺めたまま応じた姿は、目に見えてアルミナに興味なさげだったが、無視しないだけでもまだましなのかもしれない。


「その……き、気分悪くさせたらなんだけど……私の思ってること、言うからね? 違うと思ったら、聞き流してくれていいから……」


 真昼頃にチータと元気よく話していた時の態度とはかけ離れた姿勢は、チータへ感じる恐れを如実に表わしているといえよう。チータにだってそれは感じて取れたが、気にかけるような素振りは無い。


「出来れば、えっと……あんまり、先走った行動は取らないで欲しいなって……チータにも、考えはあるんだろうけど……」


「考えがあるだろうと譲歩してくれるなら、口出ししても欲しくないんだが」


 静かに突っぱねるチータに、アルミナの肩がびくりと揺れた。だが、少しの間を置いてから気を取り直し、言葉を紡ぐことを諦めない。


「……私達がしたことの責任は、シリカさんが背負うんだよ。チータのしたことが、考えなしの行動だなんて思わないけど……でもさ……」


 黙ってアルミナの言葉を聞き受けるチータ。ひとつの確かな見解が、語らぬ少年の胸にどう響いたか計り知れず、目を逸らさないまでも緊張感を高めるアルミナ。


 しばらく、長い沈黙が続いた。遠い風呂場からの水音さえも聞こえてきそうな静かな部屋に居座るその無音を破ったのは、アルミナではなくチータだった。


「……そうだな」


 反発を予想してびくついていたアルミナが目を丸くする。首を縦に振るのと等しい回答に、次の説得の言葉を探していたアルミナの口と思考が、完全に停止した。


 またしばらく、誰も語らない居間が帰って来る。ただ、先ほどまでよりは空気は緩和した。自分の言葉が通じたかどうかはわからなくても、そうした可能性を一厘でも感じられる返答だった以上、アルミナもほんの少し肩の力が抜けたようだ。


 そこに、やがてユースが加わる形になる。乾ききらない全身と、室内の風にひやつきを覚える薄着の少年の肉体は、若い外見からはちょっと予想を上回って逞しい。未熟であれど、少騎士として日々を鍛練とともに生きる少年の、小さな財産だ。


「……なあ、チータ」


 ひととおりの事を済ませたユースは、居間の椅子に座ってチータに話しかける。沈黙を破ってくれるのはアルミナにとってありがたいことではあったが、これはこれで一触即発の空気が漂って胃痛の原因になる。アルミナから見ても、ユースがチータの行動に好印象を抱いてないのは明白だ。


 無言で応えるチータ。予想はしつつもそうだとはっきりするまで待ったユースは、しばしの間をおいてから次の言葉をチータに語りかける。


「……俺さ。悪いことした奴が裁かれるべきだって考え方は間違ってないと思うんだ。でも、俺達が独断でそれを決めてやってしまうのって、少し違うんじゃないかな」


 真っ向から自身に浴びせられる異論に、チータは顔を上げてユースを見据える。一歩も退かない眼差しに、チータも次の言葉を思索した上で紡ぎだす。


「自分以外に咎ある者の裁きを任せた結果、より悪しき結果を招くことになった時、僕には後悔しか残らない。自分の決断を信じ、為すべきと感じたことを為して進みたい」


 ユースにとっては否定しづらい答えが返ってきた。道理に言及するでもなく、価値観の相違でもって己の決断を肯定する発言というのは、少年には否定材料が見つからない。


「……それを判断するのが仕事の人が、自分以外にちゃんといるじゃないか。それに任せるよりも、自分の決断の方が正しいって、チータは思うのか」


「正しい正しくないじゃない。これ以上の最悪が起こらないために、判断したことだ」


 発言する両者を、交互に見ながらびくつくアルミナ。張りつめた空気を破るどころか、より凍らせる両者の発言の続きは、意外にもチータの口から連続して繋がれた。


「お前は、どうなんだ。間違った道に進んだ者が目の前にいたとして、その過ちを正すよりも早く、その道を断たねば次の悲劇を招く可能性があるとしても、お前はその決断を他者に委ねるのか」


 ユースは問いかけに対し、少し机に目線を落として思考を巡らせる。だが、


「……わからないよ。自分が正しい決断が出来ると思うなら、自分で動くことだってあるさ」


「僕にはそんな悠長な考え方は出来ない。決断すべき時に決断するために、そこに自分がいるんだと僕は思ってる。信じる答えが自分の中にあるのに他人に答えを求めるのは、僕は逃げだと思う」


 一人立ち出来ていない自覚のあるユースには、これ以上の反論ができなかった。自分自身が未だ責任を以って決断できる立場にいない以上、誰かに決断を委ねて従うことしか出来ないのだ。自らの考えに基づいて信念を貫く人間に対し、返す言葉が見つからなかった。


 その空気を打破する者が、ここにようやく帰還する。ちょうど、両者の主張が出揃った頃だった。


「――ただいま」


「あ、シリカさん……!」


 アルミナが強張った表情を少し安堵に染め、シリカの帰宅を迎え入れた。おかえりなさい、と挨拶するユースとアルミナをよそに、シリカに対して目線を送らないチータが対照的だ。


「騎士団に報告を済ませてきた。チータの今後の処遇だが……」


「隊長」


 言いかけたシリカの言葉を遮る形で、チータが声を発した。ちょうど自分の話題に移ろうという時に言葉を切った形になったが、これは意図的にしたものではなさそうだ。


 立ち上がってシリカの方を向き直るチータに、シリカは口を閉ざす。語るより先に相手の言葉を先に聞く心積もりのようだ。


「……昼間は、申し訳ありませんでした。軽率な行動だったと思います」


 日中のひったくり騒動の一件を指しているのだろう。それを聞き受けたシリカはしばし間を置いて、チータに問いかける。


「――お前は、自分の考えに基づいて行動したのだろう。あの行動は正しくないものだと、思い直したということなのか?」


「いいえ、間違っていなかったと思っています。ただ、あの時の自分の行動の責任を取る立場は僕ではなく、貴女だったということを加味した行動ではありませんでした」


 やったことは正しかったと思っている、しかし責任を背負わせたことに対しては謝る、そういう意味合いの謝罪だ。その答えに対しシリカは、そうかと一言返すのみだった。


「僕は、自分のしたことの責任は自分で取る形で常にありたい。そして、自分の信じた決断に反し自身を偽ることはしたくない。だから……」


「チータ」


 今度は、シリカがチータの言葉を遮った。そしてこれは、意図的なもの。最後まで言う前に、自分の言葉を聞いてから次を思えという意思表示だ。


「私はお前を傭兵として、このまま第14小隊に迎え入れたい。短い間ではあったが、私がお前を見てきて導き出した結論がそれだ」


 ユースとアルミナが目をぱちくりさせてシリカの表情を見た。シリカがチータを小隊から追放するような未来は想定していなかったが、こうして歓迎を明言するのは少し意外だったからだ。


「……僕は、自分の信じた道を進みたいと言っている。その行動の結果、責任を取るのはあなたであっても、あなたがそれを潔しとするなら顧みませんよ」


「構わない。上官というものは、責任を取るためにいるんだからな」


 チータなりに中間策を出したつもりだったところを、シリカは呑まずにチータを迎え入れるという答えを返している。予想に強く反する答えを返されたという意味では、チータの調子も狂っている。


 チータは悩むかのように考え込んでいた。その背中を押すかのように、シリカは口を開く。


「責任など、気にしなくていい。思うことがあれば、言えばいい。行動に移せばいい。それが誤りだと判断すれば、未然に私が言及するさ」


 自分がいかに責任者にとって厄介者であるかは、今のチータにもわかっている。その上でこんな言葉を自身に向けられることに、今日までで初めてチータが戸惑う顔色を見せた。


 シリカは敢えて、懸念を表情に表わすユースやアルミナの方を顧みない。隊の方針を決めるのは自分に他ならないと、シリカ自身がわかっているからだ。


 しばらく、今までのように室内の空気が新しく硬直する。やがて、チータが導き出した答えは、シリカの望むものだった。


「……よければ」


「うん、歓迎しよう」


 シリカの差し出した手を、チータが握り返す。それは目に見える形で、チータの第14小隊入りが決まった瞬間だった。


「アルミナも、それでいいな?」


「……そうですね。シリカさんが決めたことなら」


 上官の決めたことゆえ渋々、ともとれる言葉尻だったが、アルミナの柔らかい顔つきは心からその決断を受け入れたものだったと推察するに足るものだった。チータにもそれが伝わったかは計りかねるが、その誤解を招かざるべく、アルミナはすぐに動く。


「チータ、これからよろしくね」


「――ああ」


 チータに駆け寄って快活な笑顔を見せるアルミナに裏表がないことは、魔導士の少年にも伝わっただろう。チータも肩の力を抜いて、アルミナと握手を交わした。


 シリカが浴場に向かい、この場はお開きとなった。交わされたやりとりはこれがすべて。ただ一人この場で、シリカに意見を一切求められなかった少年は、動けず話せず椅子に腰かけたままだった。


 アルミナにチータの加入を問いかけた一方で、ユースにはそれを尋ねなかったシリカ。そこに確かにあるはずの意図を、ユースは自分で導き出さなくてはならない。それは文字通り言葉で語られぬ、上官から少騎士に向けられた辛辣な宿題だった。






 扉を叩く音。


「――どうぞ?」


 真夜中の騎士館、ダイアン法騎士の部屋をノックして入ってきたのは、彼やシリカよりも2階級上に位置する、騎士団の要人ベルセリウス勇騎士だった。くつろいでいたダイアン法騎士も、この来訪にはさすがに姿勢を正して敬意を払う。


「夜遅くにすまないね、ダイアン法騎士。もうおやすみの時間だったかな?」


「いいえ、お気になさらず。退屈な毎日なんで、夜更かしが癖になってますから」


 蝋燭の明かりに照らされた、ダイアンの手元に握られているのは一冊の小説だった。それを見たベルセリウスもまた、彼の言葉を肯定するように、相変わらずだねと笑った。


「先日、騎士団に訪れた傭兵希望の魔導士はどうなったかな。君に任せたはずだったけど」


「第14小隊に所属する予定のようですよ。隊長のシリカ法騎士は、そのつもりだと言ってました」


 驚いた素振りも、感心する素振りもなく、やはりかと言った顔つきでベルセリウスはその言葉を受け取っているようだ。その一方、答えを聞いて小さくため息をつく。


「わかっていたんだろ? 君なら、彼女がそうするであろうことも」


「ええ。付け加えるなら、それが彼女にとってもベストな選択だったと思っています」


 ダイアンは、シリカに向けていたような朗らかな笑顔を見せない。むしろ今見せている笑顔は、強い眼差しと自信に満ち溢れたものだ。


「彼女にとって、か……第14小隊にとって、ではなく?」


「いい質問ですね」


 くくっ、と露骨に先行きの楽しみを声に出して笑って見せるダイアン。その真意のほどまでは旧知のベルセリウスにも知り得なかったが、この笑い方を見て思い当たる彼の胸中はただ一つだ。


「……上手くいくといいね」


「まだ、わかりませんけどね。時間はかかると思いますよ」


 遠い未来、自らの望む何かを叶えんとするために先手を打った時のダイアンのこの表情は、他のどんな時よりも特徴がある。拠点の掴めぬ野盗団や魔物の群れを探し、追い詰めるための布陣を練る時など、こんな表情を見せて先の収穫を想い笑うのがダイアンという人物。


 薄暗い騎士館の一室で交わされる、真夜中の密談。その話題の中心にいるのは、法騎士シリカという一人の人物。この話を聞き耳立てて聞く者がいるとすれば、多くがそう感じ取るものだろう。


 それが誤りであることにベルセリウスが気付くのは、まだ先の話である。






 自室のベッドで天井を仰いで眠れずにいる少年騎士は、想いを巡らせ目が冴える一方だった。考えれば考えるほど、先行き不安な思いに駆られて眠れない。今日までにも、何度もあったことだ。


 近い記憶から順番に、暗い記憶が脳裏を駆けていく。チータの第14小隊への加入の一件をアルミナにだけ確認し、自分には声をかけなかったシリカ。レットアムの村で逃亡者を捕まえた際に注がれた、シリカの冷たい眼差し。そしてその逃亡者に不用意に特攻し、シリカによっていかづちの槍から自分の命が守られたという現実。その直後も、シリカに守られる形で逃亡者の放つ爆炎を免れている事実。


 アイマンの村はずれの入江でランドタートルと戦った際、1匹のランドタートルに苦戦したのち、2匹目と交戦しようとした際のことを思い出す。疲弊した自分が、2匹目のランドタートルに体勢も整えないまま勝てたであろうか。結局その一戦は、シリカの援護によって危機を回避されている。


 コブレ廃坑の一件など、思い返せば不自然だ。自分達がワータイガーを仕留めた後、シリカはすぐに巨人サイクロプスを撃破している。すぐに出来たことを、なぜ成さなかったのか。それに、あれだけ余裕を持って華麗に倒すことの出来る相手に、なぜ一度静かに逃走を図ったのか。


 ワータイガーとサイクロプスに挟み撃ちにされたあの時、サイクロプスの矛先はシリカ一人に向けられていたとは限らない。その目から光弾を発射するサイクロプスの狙う先は、シリカだけでなく自分達に向けられる機会も少なくなかったはずだ。それが、ワータイガーと交戦中の自分達に向けて一発の光弾も飛んできなかったのは、シリカが防いでいたか引きつけていたからに他ならない。実際、ワータイガーとの戦いに必死だったあの時に、サイクロプスの攻撃までこちらに飛んできていたら、当たれば致命傷、かわしてもその隙を見たワータイガーに殺されていたことはほぼ明らかだ。


 自分達がワータイガーを仕留めた後、すぐにシリカはサイクロプスを撃破した。ワータイガーの脅威が無くなった後に、サイクロプスもアルミナへ砲撃している。その状況だからこそアルミナもその攻撃をかわせた。自分に砲撃が来ていてもそうだっただろう。


 自分なりに導きだしたこの答えが一番理に叶っていることに、ユースは歯噛みする。シリカがすぐにサイクロプスを討伐できなかったのは、自分やアルミナがそばにいたからだ。


 第14小隊に属する少騎士として為すことは、一人の騎士として任務の達成に対し尽力すること。隊長に力及ばずとも、その支えとなればいいはずなのだ。そしてここ数日の自分を振り返って、それが為せていたかどうかを自問すれば、どうしても首を縦に振ることが出来ない。


 サイクロプスやワータイガーの討伐、ランドタートルやヒュージタートルの討伐、逃亡者の捕縛。シリカ一人でも充分に為せていたであろう任務の数々。逃亡者の捕縛に至っては、自らの先走りが原因で、シリカに要らぬ手傷まで負わせる始末。一方、同じ隊に属するアルミナや、新参であるチータは、少なくとも任務の成功を早めるための助力となる結果を出している。



 自分は第14小隊において、必要である存在なのだろうか。



 明日には、遠方への任務に赴いていた、第14小隊の残る4人が帰って来る。いずれもシリカの助けとなって、第14小隊で功の数々を為してきた仲間達だ。そんな彼らと久しぶりに顔を合わせ、見違えた自分を見せたいと、ささやかながら心の隅で思っていた。小さくて、大きな目標であり、夢。時間切れを目の前にして突きつけられる、それは叶わなかったという現実。


 いつから自分の力不足を自覚して、変えたいと強く思ってきただろう。いつになればそんな自分を変えて、前に進んでいけるだろう。いつまでこんな自分のまま、変わらずいていいものだろう。


 悔しさと焦燥感に、前進の毛穴がちりちりと汗ばむような実感に襲われる。何度も何度も経験したはずの無力感は、慣れるどころか回を増すごとに痛みを増していく。頭の後ろの枕を握りしめる右手はいたずらに汗ばんで、軽く目を閉じただけのつもりでも眉間にしわが寄る。


 苦悩から眠れない夜は、明けるまでが永遠に感じるほどに長い。ユースは疲れた体を最後の綱に、眠りにつくことを待つべく目を閉じて、じっとしていることしか出来なかった。

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