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法騎士シリカと第14小隊  作者: ざくろべぇ
第7章  勇士達への子守唄~ララバイ~
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第105話  ~休暇③ わかめ記念日~



「さて、3戦目は俺達のゲームだな。石拾いだ」


 浜辺に水着姿で集まった第14小隊の前、クロムが袋に詰めた蛍懐石を取り出す。淡い光を放つ、コズニック山脈ではありふれた石で、土産物屋に行けば玩具と一緒によく売っているものだ。


「海に石を投げる役と、投げられて沈んだ石を拾いに行く役に分かれる。拾いに行く役の連中は、より多くの石を拾ってくればいいだけだ」


 クロムは浜の足元にあった石を、ひょいっと沖に向かって投げる。着水した石は沈んでいくが、本番では蛍懐石を投げるため、海の中でも光を放つそれを探して拾えるというわけだ。


「俺達のチームは、俺が石投げ役でシリカが拾いに行く役だ。お前らも決めてくれ。念のために言っておくが、魔法の使用は全面的に禁止するからな」


 魔法を使うと、一部は泳力が必要なくなる。マグニスもチータも空中を移動できるし、それを許してしまうと勝負の趣旨が狂ってしまう。というわけで、純粋に泳ぎの得意な方が、石を拾う役を担えばいいという形だ。


 アルミナはユースに、キャルはガンマに、チータはマグニスに、海の中で活躍する役目を預ける。まあ、チーム分けから察するに充分予想できる内訳だ。


「石投げ役には4つの石を預ける。投げ役は4人いるから、合計16の石が海に投げ込まれるわけだ。より多くの石を拾えばいいわけだから、海の狩人達は頑張れよ」


「旦那、石を投げる人の順番は決まってるんすか?」


「別に決めていなかったが、今の総合順位の順番で投げることにするか? 手本を見せるために、最初は俺が投げようと思ってたしな」


「なるほど。まあそんな感じでいいんじゃないっすかね」


 さりげなく、勝負のポイントを押さえる問いをするマグニス。このしたたかさは、今はまだ表面化していないが、間違いなく本番で響いてくる。


 浜に並んだ水着姿の、シリカ、ユース、ガンマ、マグニス。何気にシリカと直接対決の機会を得たユースは密かに燃えているし、シリカも部下に負けてなるかとこっそり闘志に火をつけている。ガンマはいつもどおり張り切っているようだが、マグニスだけがゆったりと冷静に相手を観察している。特にシリカのお尻を眺めて、ああいい形してるなぁと、勝負に関係ないことを考えつつ。


「まあ理解が追いついてない奴は、やりながらルール実感しろ。それじゃいくぞー」


 クロムが握った蛍懐石を、沖の方に向けてぶん投げた。けっこうな距離を飛んだその石は、水面に落ちて低い水柱をあげると、海の底へと沈んでいく。


「ほら、行った行った! 石を拾うだけの簡単なゲームだ!」


 趣旨を始めから理解していたシリカのスタートダッシュが最速で、数瞬遅れて理解した三者も海へと追っていく。クロムの投げた石は大海に沈む小さな欠片だが、4人ともその着水場所はしっかりと目に留めて把握している。


「次はアルミナが投げる番だからな。ほれ、持っとけ」


 クロムはアルミナに4つの蛍懐石を渡す。その後キャルにも、チータにも、同じ数だけ石を渡した。


「これって要するに味方陣営――たとえば私にとってはユースですが、パートナーにとって有利な場所に投げるのもアリなんですよね?」


「おう、そのために投げ役を4チーム全員で回してんだからな」


「石を着水させず、空中で石をキャッチして貰うのはありですか?」


「別に構わんが、それをアリにしちまうと俺の投げる石は全部シリカが取るぞ。俺はそれじゃあ興を削ぐから、ある程度は自重するつもりでいるがね」


 尋ねたチータに、出来るものならどうぞ、というクロムの態度。当人クロムにはその細かいコントロールも出来るようだが、チータやキャル、アルミナにはその百発百中の腕はなかろうので、それは無しとした方が懸命だろう。


 シリカ達が一つ目の石を拾いに行っている間、投げる側の趣旨を確認するアルミナ達。そうこうしているうちに、海の上で蛍懐石を拾ったシリカが、石を握って手を上げる姿が見えた。ルールを把握し一番先に動いただけあって、初手はやはりシリカがリードを握った形だ。


 ユースやガンマ、マグニスもそれを確認した後、全員が浜の方に目線を送る。四者のポジションはバラバラだが、同じゴールに向かって進んでいただけあって、距離は近い。アルミナはこの状況でユースに近い場所に蛍懐石をパスしたいが、よほどユースのそばに石を落とさない限り、大きな有利は作れないだろう。


「ちゃんと受け取りなさいよー!!」


 浜から手を振り、石を投げる構えを取るアルミナ。それを遠方から見たユースに、違和感一瞬。あれ、その構えってもしかして。


 平たい石を手首のスナップ利かせて、きゅるきゅる回して投げてくるアルミナ。水面に触れるたびに跳ねるその石は、水上を滑空してユースに向かって一直線。正面から見ると恐ろしい速度である。銃弾かと。


 ぞわっとしつつも顔の真ん前に飛んできたその石を、反射神経全開でキャッチするユース。掌に石がぶつかった痛みに表情を歪め、直後湧き上がるのはパートナーの破天荒に対する怒り。


「アルミナァ!!」


「あははは……ごめん、自重する。届かせようとしたら、思ったよりスピード出るわね……」


 各人動く前にユースの元へ石が収まってしまったが、ゲームは続行だ。拾った石を、沖から浜へと投げ捨て返すシリカとユース。浜浅い部分にそれらが落ちるので、あまり浜に近い場所へ蛍懐石を投げるのは好ましくなさそうだ。使用済みの蛍懐石と混ざって紛らわしい。


「上手くいくかな……」


 非力を自覚するキャルが次の番だとわかっているマグニスは、一足先に浅瀬寄りのポジションへと移動する構えを取っている。その動きを、周囲のシリカ達に、浜のキャルに気付かれぬようにこっそりとだ。こうして先取った動きをするために、先程石を投げる順番を尋ねていたのである。


 この動きがキャルにバレると、ガンマも気付いていい位置を取るまで、キャルも石を投げないだろう。影を薄くして好ポジションを取りに行くマグニスの動きに、浜のチータも感心模様。クロムも勿論気付いているが、それもまた気付いた者の戦略と認め、キャルにマグニスの動きのことは教えない。


 ガンマの方向目がけて蛍懐石を投げたキャルだが、勿論クロムほどの飛距離は出ない。キャルの手から石が離れた瞬間、そう投げることを予見していたマグニスはすぐさま潜り、一気に水を蹴って進む。着水の瞬間なんて見なくても、キャルと今のガンマの位置を結んだ線分上に石が落ちるのはだいたい予想がつく。沈んだ後も、光る石は目立つので見つけられる。


 石が着水するまで出遅れた他の3人を出し抜いたマグニスが、あっさりとその石を拾った。そしてその次に石を投げるのは、マグニスの相棒チータだ。沖から帰ってくる方向に進んで、最速でキャルの石を拾ったのがマグニスなんだから、浜に一番近いのはマグニスに決まっている。


「流石ですね」


 マグニスの手前目がけて、低い放物線を描いて蛍懐石を投げるチータ。邪魔者もなく、あっさりと2つ目の石を回収したマグニスが得意顔だ。


「案外戦略性あるだろ? それ、今度は俺の番だ」


 散見する海の4人の位置取りを見て、クロムは石を投げた。シリカからはやや離れた位置、しかし恐らくシリカからが一番近い場所目がけて、石を落とす。クロムはどこを目がけて投げるのかわからないため、しっかり石の軌道を追わなくてはいけないマグニスも、リードは取れない。曲者は何もしなくても相手が警戒してくれるから、日頃の油断ならなさがブラフとしてがよく利いている例だ。


 その石を拾ったのはシリカ。次に投げるアルミナの石は、先程のような暴挙は抜きにして、ユースのそば目がけて送り出す。それぞれの位置がバラバラの乱戦模様なので、あまりユースが一人勝ちで有利な場所に石が行ったとは言い難い。


 こうなってくると、全陣営にとってのチャンスだ。誰もが、最速で辿り着き得る場所に落ちた石を目指し、突き進む。特に勢い任せに速度を出すガンマが、張り切っている。


 それでも石に最も早く辿り着いたのはシリカ。スレンダーな肉体と確かな筋力のせいか、泳ぐのが誰よりも速いのは彼女のようだ。海底に沈んだ蛍懐石目指し、潜っていくシリカ。彼女の勝利が決まったと思える到達速度だったが、明らかに遅れてでもシリカを追って潜っていく影が一つ。


 大局決しているなら素潜りなんて息苦しい業を好むはずがない、マグニスだ。明らかに一手遅れているのに、なぜか諦めないという"らしくなさ"には、浜から見守るクロムも疑問顔。まさかとは思うが、と、ほんの少しマグニスのやりそうなことを想像しつつ。


 数秒後、海面から顔を出したマグニス。えらく上機嫌な顔。石も取れていないのにだ。


「――ぶはっ!」


 そそくさとその位置から離れていくマグニスの後方、シリカが息を荒げて顔を出す。顔だけ海面から出して、慌てふためくようにきょろきょろ周りを見回している。あれは何かあったリアクションだ。


「おーい、キャルー。石はシリカが拾ったぞー。次を投げろー」


「!? お前っ……!」


 沖から叫ぶマグニスが、いそいそと女物の水着を頭にかぶり、あごの下で水着の紐をきゅっと括る。絵に描いたような変態ルックスの完成だ。


 やりやがった。クロムは死をも厭わぬ勇者の誕生に爆笑している。マグニスの挙動を見たユースは、直後シリカの方を見て、まさかと感じて大慌てで目を逸らしていた。あの水面の下を見てはいけない。


「行け行け、キャル。続行だ」


「い、いいんですか……? 止めた方が……」


「戦略は戦略として認めるべきだからな。シリカの陣営の俺が容認してんだから、いいんだよ」


 もう勝てようが勝てまいがクロムはどうでもいいらしい。この状況で続行した方が、今後二度とない楽しみを味わえそうで、この機を逃すつもりはなかった。


「キャル、待……っ、く……!」


 目で必死に中断を訴えかけていたシリカの主張も空しく、胸の守りを失った法騎士は、キャルが浜に近い位置に向けて投げた、石へと向かっていく。ただ、片手で胸を抑えながら泳がなくてはならないため、やはりスピードが出ない。というか、あんな状況に追いやられても、ゲーム続行だというのならちゃんと参加する辺り、根が生真面目な奴だとクロムも感心する。


 シリカが速度を出せないため、ガンマとユースにとっては好機である。ユースは極力シリカの方に顔を向けないようにして、ガンマはまあいっかとばかりにお構いなしに石へと一直線。今のシリカに近付いては危ないと確信しているマグニスは、ゆらゆらと沖を漂って待っている。どうせ次に石を投げるのはパートナーのチータなのだ。


 ガンマが石を拾ったのを確認すると、さっさと次の石を投げてしまうチータ。一人で沖に残ったマグニスの方に投げれば、苦労なくマグニスも石を拾えるので、簡単な仕事だった。


「さーて、これ勝ち目あんのかねぇ」


 悪い笑いを浮かべて石を投げるクロムは、シリカに近い場所へちゃんと石を落とす。だが、自由な身動きのとれないシリカがスピードを出せるはずもなく、シリカに近い場所に石が落ちると正しく読んだガンマが、その石を横からかっさらっていった。潜る際にも、片手で水を漕いで、その手を伸ばして水底の石を拾うという行動を強いられるシリカは、クロムの懸念どおり行動速度があまりに鈍っている。


 アルミナは安全にユースのそばに石を投げる。動物的本能かと思えんばかりに、すぐさま着水場所に直進してくるガンマのせいで一瞬危なかったが、その石はユースがなんとか回収した。石の動きを目で追うことに専念し、視界にシリカを入れないように努めるユースの姿が印象的だ。それを見たクロムの、悪戯を思いついたような表情を、チータは見逃さなかった。


 さておき、キャルは安全にガンマ近くの場所に石を投げる。これは余裕の顔でガンマが拾い上げた。続くチータも、沖に残るマグニス目がけて石を投げれば必勝だ。


 現時点で拾った石の数はマグニスが4つ。シリカとガンマは3つで、ユースは2つだ。騎士階級を持つ二人が、色んな意味でやりづらそうである。特に水着を奪われたままの方。


「おーい、取れよシリカ」


 悪意全開、高い弧を描く軌道でシリカのもとへ石を投げるクロム。そう、丁度シリカが手を上げればキャッチできるであろうような軌道で投げたのだ。


 勝敗が懸かっているシリカは、愚直にも海上から手を高く上げてその石をキャッチしようとする。その動きに伴って、片腕で胸を覆っただけの裸体上半身が海上に飛び出し、その瞬間に思わず萎縮したシリカは、石を取り損なった。石を目で追うユースの視界ど真ん中に、尊敬する彼女のあられもない姿が飛び込み、勝負度外視してユースは海の中に潜ってしまった。


 取り損ねた蛍懐石を、なんにも気にしませんよと素早く潜り込んだガンマがさらっていく。次に石を投げる立場のアルミナだが、ユースがぶくぶく泡を立てて潜っているので、なかなか次の一投に移れない。


「ユース、いくよー! ちゃんと取ってよね!」


 海面からユースが顔を上げた瞬間、アルミナはユースのそばに石を投げつけた。その方向に向けば、視界からシリカが消える位置にだ。そうでもしないと、彼はもう身動きとれまい。


 頭の中に刻み込まれた先程の光景を必死で頭から締め出し、蛍懐石を拾いにいくユース。拾った蛍懐石とお見合いして、さっきの光景に必死で上書きする。あれはカボチャだ。人間の胸にひっついたカボチャなのだ。そうでも思い込まないと記憶に頭を乗っ取られる。


 後はキャルがガンマのそばに石を投げ、悠々とガンマが拾う。チータも毎度よろしく沖に孤立したマグニスへ石を投げれば、マグニスが得点してゲームセットである。


 すべての石が投げられ、マグニスとガンマの拾った石が5つ。ユースとシリカの拾った石が3つ。同点二組。


「サドンデスいくぞー。今から投げる石、マグニスかガンマが拾え。拾った方が優勝だ」


 そう言って浅瀬から拾った蛍懐石を、マグニスとガンマの中間点に投げるクロム。先に辿り着いた方が勝利という縮図を煽り、もう一つ蛍懐石を浅瀬から拾う。


「こっちはシリカとユースで競い合えー。拾えなかった方が最下位だからな」


 その蛍懐石を、これまたユースとシリカの中間点に投げる。1位と2位の決定戦、3位と最下位の決定戦だ。


 石の着水場所だけ確認すると、ユースはぐっと目をつぶってその方向へ直進する。シリカも自分の目指す場所へ向かってくるのだ。見てはいけない。見たらこっちの心臓が持たない。


 そろそろかという場所でぱちりと目を開け、勢いよく潜ったユースの目の前、海底に光る蛍懐石。これをいち早く拾ってゲームセット、そう思って手を伸ばしたユースの正面、横から割り込んでくる一本の手。


 両者の手が石に向かっていく過程で、二人の体が接触した。片腕で胸を押さえたシリカの胸の上部にユースの肘が当たり、なんかもう今まで経験したことのない柔らかさが、ユースの肘に伝わる。何が起こったのか一瞬で把握できてしまったユースは、その瞬間に肺の中の空気をがぼりと吐き出し、そのリアクションと今しがた起こったハプニングに顔を真っ赤にしたシリカが、両腕で胸を覆って勢いよく後方に逃げてしまった。


 頭の中がぐちゃぐちゃで意識が飛びそうなユースだったが、ともかくともかく蛍懐石を拾うことに意識を集中し、酸欠の肺に鞭打って石を掴み取る。その後、勢い良く海面から顔を上げて息を吸うユースだったが、ふと目の前に紅潮した顔でふるふる震えながら、自分を睨みつけるシリカを見て、慌てて海中に顔をうずめて隠る。


 よくもやってくれたな、という目。どうやら本当に触ってしまっていたらしい。気まずいどころか目も合わせられないユースは、こそこそするように浜へと帰っていくのだった。


「ういーっす、取った取った。やったぞチータ」


「ちぇー。マグニスさん、スタート早くて追いつけなかったよ」


 各人の拾った石の数を覚えていたマグニスは、クロムの性格上サドンデスを行うであろうことは読んでいた。フェアを好む彼の性格上、あの辺りに石を投げてのサドンデスだろうな、とまで推察していたマグニスが、身体能力で勝るガンマに読み勝った形だ。意気揚々と優勝者の証である蛍懐石を片手に笑うマグニスの後ろ、2位という結果にはある程度満足なのか、ガンマも楽しげに帰ってきた。


 3位を獲得したユースの顔は、表面上は無感情かつ無表情だった。起こった数々の出来事、記憶を頭から掃除しようと一生懸命のようだ。お疲れ様、と語りかけたアルミナの言葉も完全に無視で、クロムやマグニスの失笑を買っている。アルミナも肩をすくめて苦笑い。


 お召し物をド変態にかすめ取られた法騎士様が、なかなか海から帰ってこない。顔だけ水面から出して、ゆーっくりとこちらに帰ってくるが、羞恥と憤慨に満ちた目が、怖いような、一周回って可愛いような。本気で怒っている人間を、可愛いだなんて言ってはいけないのだろうけど。


「マグニス……お前、覚悟は出来てるんだろうな……」


 海面から体を出して立ち上がったシリカを見て、ぶはっと噴き出してしまうクロム。チータも笑ってはいけないと想いつつ、顔を逸らして笑いを殺してしまう。シリカがどこで拾ってきたのか、長く大きな海藻、具体的に言えばわかめを胸に巻いて、それを片手で押さえる形で現れたからだ。でも、彼女は真剣かつ本気だから困る。


 つかつかとマグニスに早歩きで迫ってくるシリカの表情は激怒に満ちているが、格好が格好だけにマグニスも笑いを堪えきれずに後ずさる。こんなに怒っているシリカを、にやにやして迎えては、怒りに火を注いでしまうのもわかっている。でも、絵面が面白いんだから仕方ない。耐えられない。


「時間勿体ねえからとっとと捕まってこい」


 シリカはマグニスに制裁するまで、次のゲームには絶対移行しないだろう。マグニスの尻を蹴飛ばしたクロムに伴い、前に思いっきりつんのめるマグニス。体勢を整える頃には、過去最大級の怒りを豊満な胸の奥に宿したシリカが目の前に。歯をくいしばり、ふるふると涙目で真っ赤な顔を震わせるシリカの顔は、もとがお綺麗な顔立ちなので、マグニスにとってはいいもの見れたやという感想。


 何も言わずに自分の胸の前で十字を切ったマグニスを見届けると、シリカが一瞬でマグニスの背後にまわり、その腕をマグニスの喉元に巻きつかせて締め上げた。わかめ越しに胸の感触が後頭部に伝わるお幸せなシチュエーションだが、シリカが冗談抜きの本気で気道を締め上げてくるので、お楽しみする余裕はマグニスにも無い。


 ぺちぺちとシリカの腕を叩いて切なるギブアップを訴えかけるマグニスにも、一切手を緩めずに締め上げるシリカ。やがて落とされて白目を向いてマグニスが脱力しても、絶対にその手を緩めない。まあ気を失っても、そう簡単には死なないだろう。本気の殺意ではないにせよ、一回ぐらい本当に殺してやろうかこいつ、という程怒っているのも事実だが。


「こらこら」


 マグニスが狸寝入りでなく本気で落ちたと見えたクロムが、ぐいっとシリカを引き離す。同時にマグニスの頭と自分の胸で挟んでいたわかめがずるりと落ち、絶対に公開してはいけない光景が、一瞬だけ太陽の下に晒された。大慌てで両腕で丸裸の胸を隠すと、シリカは半ば八つ当たり気味にクロムの尻を鋭く蹴飛ばす。何がこらこらだと。どうせあの状況下になっても続行させたのはお前のくせにと。


「いてて……ほれ、水着」


 マグニスの頭に変態装備されていた水着を、シリカに渡すクロム。片手で乱暴にそれを奪い取ると、海に駆けていくシリカ。海の中に体を隠して水着を身につける背中は、悲壮感に溢れている。


「……アルミナ、ちょっとごめん」


「はいはい、いってらっしゃいな」


 シリカとは違う方向に歩き、海へと頭を冷やしにいくユース。さっきの"絶対に公開してはいけない光景"も、目に入れてしまったのだ。この下半身で人前を歩けるかというユースは、風呂に浸かるかのように海に体を沈め、頭の中を支配するシリカの肌模様の数々を、必死で締め出そうとしていた。






 何はともあれ1位のマグニスとチータは10ポイント、2位のガンマとキャルには6ポイント、3位のユースとアルミナには3ポイント、最下位のシリカとクロムには1ポイントが入る。


 現在、ガンマとキャルが合計13ポイント。

 マグニスとチータが合計14ポイント。

 シリカとクロムが合計17ポイント。

 ユースとアルミナが合計16ポイント。


 気付けば殆ど横並び。最後に控えるゲーム次第では、暫定最下位のガンマとキャルにも優勝の可能性が見えている。逆に暫定トップであるシリカとクロムとて、最終戦の結果次第では、一気に最下位まで転がり落ちる可能性もあるだろう。


 そして最終戦の種目を決めるのは、悪知恵のよく利くチータとマグニスだ。最後まで気の抜けない小隊内対抗戦である。

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