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1-4

近代魔術とは何か。

 旧魔法とは何か。

 

 同じく魔法の力を使う者同士とはいっても、近代魔術ならびにその使い手である〈魔術師〉と、旧魔法とその力の持ち主である〈魔法者〉では、魔法に対する考え方も、またその力の使い方もまったく対照的といってよい。

 近代魔術からしてみれば、旧魔法――この呼び方自体、魔法/魔術を近代化したことを自負する魔術師の側がつけたものだ――は、もはやその役目を終えただけではなく、その理念や存在自体が有害であって、一刻も早くこの世界から消え去るべきものだ。

 とはいっても、旧魔法の力を持つ人間、〈魔法者〉は一定の割合でこの世界に存在してしまう。魔力とは一種の生命力であり、魂の力である以上、それが特にユニークな表れ方をするという事例を根絶することはできない。

 まともな魔術師であれば、そこまで無茶なことは言わない。

 けれども、その素質の持ち主を探し出し、その力を発現させ、あるいは促進育成しようとするような組織は――たとえば〈結社〉がその一例だが――許しておくわけにはいかない。

 魔術師は、魔法という力の大きさと深さをよく知っている。

 近代魔術が成立する前までは、人はその力を制御することも、あるいはそれを発展させることもできなかった。しかし、今はちがう。

 魔法は技術であり――よって今は魔法の技術的側面を重視した〈魔術〉という言い方の方が好まれている――その仕組みは探求することができ、その成果は知識となって積み重なる。

 また、その知識は教えうるものであるし、その力は訓練によってよって伸ばすことができる。いまだ人間が知りうる知識の世界は狭く、魔術を学ぶことにあっても持って生まれた才能の比重は大きくとも、ともかく、人が魔術の上に立つ時代がきたのだ。

〈学院〉も、魔術の探求と魔術師の教育のために作られた組織であり、そしてそれは着実に成果を上げてきた。

 第一、旧魔法は危険すぎる。

 魔法に対する理念がどうこうという以前に、ある種の旧魔法は社会や世界の秩序を乱すおそろしい不確定要素なのだ。

 一定のルールやメカニズムによって働く近代魔術とちがって、旧魔法には整然とした論理が存在しない。それにともなって、旧魔法の使い手である魔法者の能力の多種多様さというのは想像を絶するものがある。

 もちろん、よくあるタイプの力というのはある。手を触れずに物を動かす力――〈念動〉、物の温度を上げ下げする力――〈加熱/冷却〉、など。

 だが、稀に規格外の力の持ち主というのが存在するのだ。

 たとえば、〈瞬間移動〉者。

 そして、近代魔術とちがって、その発現には必ずしも訓練を必要とするわけではない。

 力を持ちやすい家系というのはあるらしい。力を引き出したり、それを強めたりコントロールするにも経験に基づいた方法論らしきものがあるにはある。しかし、どんな力をどんな人間が持つかは、旧魔法においては基本的にはわからないことに属すのだ。

 悪名高い〈瞬間移動〉者だったある男は、悪いことに猟奇殺人者だった。自分の楽しみのためだけに多くの人間をその手にかけた。瞬間移動の能力はほとんど無体といってもいいもので、その趣味を邪魔するのはほとんど不可能のように思われた。

 その後、学院の尽力もあって彼を葬り去ることには成功したが、学院の、あるいは各国のお偉方にとっては、猟奇殺人などというのは、旧魔法の真の脅威からすればまだまだかわいいものに思われた。

 もし、瞬間移動の能力者が、暗殺者としてある「好ましくない」勢力に雇われたらどうなるか。要人たちも、いつでもあらゆる魔法を無効化する多重結界の中に閉じこもっていられるわけではない。

 練度の高い軍隊、優秀な戦士たち、あるいは近代魔術のエリートたちをもってしても、たかが魔法者ひとりの能力に翻弄されてしまうこともあるだろう。

 そして、おそろしい力はなにも〈瞬間移動〉程度を上限としている保証はない。

 中には、世界を滅ぼしかねない力の持ち主もいたし、そういう人間はこれからも出ないとは限らないのだ。

 どんなに力を尽くしても、そういう魔法者が存在する可能性をゼロにはできない。けれども、その確率をできるかぎり低く抑えるため、旧魔法の存在を助長するような組織や考えは除去し、弾圧しなくてはならないのだ。

 魔法者の巣窟である結社の集会に踏み込む危険はもちろん大きい。だが、それはなされなくてはならない。旧魔法は、社会の、世界の敵だということを、魔法者たちにも善良な市井の人々にも知ってもらわなくてはならないのである。

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