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1-3

第一回の会合では、今回の作戦に従事するメンバーと初の顔合わせがあった

 作戦に参加するのは、六名。戦士と魔術師が三人ずつの標準的なパーティーだ。

 チームの構成は、相手や任務のあり方によってさまざまに変化するが、この組み合わせは、小回りと応用がきき、予算や情報管理の観点からも使い勝手のよいものとして、多くの作戦で用いられている。

 チームリーダーはディスタだ。

 講師としても、研究者としても一流の彼だが、学院のエリートの例に漏れず、現場や実戦での実績も評価されている。

 まだ、二十代後半だが、作戦のリーダー役を任命されたことも数々あり、ルイドではもっとも信頼できる指揮官のひとりだろう。

 破壊系の魔術を得意とするが、臨機応変に数々の魔術を使いこなす。

 体術についても、かなりの技量の持ち主であり、いざというときには、戦士の代わりに近接戦闘をこなす力すら持っている。

 ほとんど完璧と言っていいエりート魔術師だ。

 会合でも、作戦の主な説明と司会進行は彼の役目である。

「どうやら、みな揃ったようですね」

 会議室の大きな一枚板の机には、男女あわせて五人が席についていた。

「いや、あのまだひとり来ていないみたいっすけど……」

 声をあげたのは、若い男だ。着ているもの、体つきなどは彼が戦士であることを明らかに示している。

「ああ、いや。もうひとりは、ちょっと直前になるまで来られない。だから、会合自体は五人で行う」

「へえ、ずんぶん大物なんですねえ、そいつ。ま、普通は、こんな程度の作戦にいちいちこんな手間なんてかけないから、そっちの方が当然か」

「そりゃ、大物だよ。だってあのウルトスだもん」

 ディスタが答えるよりも先に、男の隣に座っていた女が口を挟んだ。隣の男と同年代くらいの若い女性で、身体つきや雰囲気から察するに彼女もまた戦士らしい。

 ただし、その格好はといえば、なんだかチャラチャラしている。腕輪やイヤリングなどのアクセサリーも、キラキラと下品な感じで光っていて、アーニアは、なにか軽薄な人という印象を受けた。

「あたしが一週間も拘束されるのに、今度の仕事を引き受けたのも、ウルトスさんといっしょだって聞いたからだよ。あんたも……ええと名前なんて言うんだっけ」

「ニッケス」

「ニッケスもさ、戦士ならウルトスさんの名前くらい聞いたこと、あるでしょ? ここらではナンバーワンの戦士だと思うね。この国でいちばんとは言わないまでもさ」

「もちろん名前は知ってる。そうか、ウルトスさんか。なら仕方がないな。うん、俺もこの作戦、少しは楽しみになってきたぜ」とニッケス。

「いやまあ、たいした仕事じゃないから、ウルトスの技うんぬんを見せてもらう機会になるかどうかは疑問だけどな」

 さらに口を挟んだのは、ちょうどアーニアの父、ミルドくらいの年齢の魔術師だ。その軽口に対してディスタが咎めるような口調でいう。

「オルゴさん、貴方までがそういう気持ちでいてもらっては困りますよ。旧魔法を相手にするときは、どんな不測の事態が起こるかわからない。なにより油断が禁物だ、ということをいちばんよくご存知なのは貴方でしょう」

「や、もちろん、よく知ってる」

 オルゴは軽い口調で反省してみせる。

「ならいいんです。――で、ちょっと話が横にそれたが、今回はテテロサさんが――ああ、ニッケスくんの隣に座っている彼女、彼女がテテロサさん。後で詳しく紹介しよう――テテロサさんが言うとおり、ウルトスさんにも参加してもらうことにした。ただ、これもオルゴさんが言ったように、もちろん油断は禁物なんだが、特段危険な任務というわけではない。ウルトスさんも第一線を退いているけど、たまには現場の仕事もやらないと勘が鈍るということで、定期的にこの手の仕事を引き受けてもらっているだが、今回はちょうどその「たまに」にあたっている、というわけだ。みなさんにとっても心強いことだと思うが、くれぐれも彼女を当てにして油断はしないように」

「もちろんです。ウルトスさんと組めるだけで光栄です」とテテロサ。

「まあ、俺だって足を引っ張ったりはしないよ」とニックス。

(うーん。そんな大物呼んだのか。やはりお父様は過保護だ……)

 とアーニアは思う。

 しかしまあ、自分でも緊張していることは否めないし、このような任務において、やはり戦力は高い方が好ましいし、頼りになる人がいるのはありがたいことだ、と思う。

(ディスタ先生も、オルゴ先生も、まちがいのない人だと思うし)

「それでは、メンバーに自己紹介をしてもらおうか。まずは、私、今回の作戦のリーダーを務めるアッチス・ディスタだ。〈学院〉ルイド支部の教官をやっている。専門は破壊魔法。高出力ではないが、発動速度と精密さはまあまあのものではないか、と自負している。戦闘と、旧魔法の取締には経験がある。みなさん、よろしく頼む。では、以降、右回りで自己紹介してもらおうか」

 ディスタの右隣は若い男の戦士だ。

「俺は、ニッケス。ニッケス・ペテンナ。十九歳だけど、戦士登録してもう五年なんで、それなりのキャリアだと思う。旧魔法とのケンカ経験も少しはある。どうぞよろしく」

 次はチャラチャラした感じの若い女性。

「あたしは、テテロサ。戦士登録はしてないけど、ミルドさんとはちょっとした知り合いで、で、今回誘われてこの作戦に参加することになった。よろしく」

 次はアーニアだ。

「わたしは、アーニアです。アーニア・デジメル。十六歳の未熟者ですが、ひととおりの魔術は学んでいるつもりです。今回は主に結界の担当として作戦に参加します。よろしくお願いします」

「デジメル、って。そうすると、ここのミルド学術長のお嬢さん?」とテテロサが口を挟む

「はい。ミルド・デジメルは父です」

「なるほどね」とテテロサ。

 ニックスは、ひゅー、と口を鳴らして、ディスタに睨まれる。

 最後に立ち上がったのは、オルゴで、全体に大柄で顔つきもいかつい。ちょっと見は魔術師よりも戦士に近く思える。

「オレはオルゴ。ディスタと同じく、ここの魔術師だ。とはいっても正教官ではなくていまだ助手どまりだがな。専攻分野は治癒魔法だ。オレの出番はないことを祈るが、ケガはちゃんと治してやるから安心していろ」

 アーニアもオルゴのことはよく知っている。腕も人柄もいい、一級の治癒魔術師だ。もっとも、多少偏屈なところがあるので、なかなか順調に出世はしないが、本人も特にそれを気にしてはいないらしい。

「ともあれ、いまのところはこれで全員だ」

 とディスタが後をひきとる。

「すでに大まかな作戦は聞いていると思うし、また言うまでもないことだが、本作戦については一切他言無用。旧魔法の取締にあたっては、戦略的にも戦術的にも奇襲をかけることが第一だ。情報が漏洩することによって、敵に逃げられるのももちろん問題だが、十分な準備をされた場合には、こちらに甚大な被害が出ることだってありえる。まずはそれをあらためて認識してほしい」

 当たり前の確認であるが、それを茶化すような人間はいなかった。圧倒的な戦力差がありながら、旧魔法の魔法者の特殊な力によって熟練の魔術師と戦士の部隊が壊滅するというのは、必ずしも珍しい話ではない。

「それで、今回の標的だが、旧市街の外れにある古い宗派の寺院、これを五日後に襲撃する。あそこが〈結社〉の拠点となっていることはしばらく前から調べがついていたのが、最近どうやら動きが活発化しているらしい。五日後の夜、そこで集会が開かれる、という情報も手に入った。これを一網打尽にするのが今回の任務だ。向こうにもある程度の手練は集まっているだろうが、これはこの街にいる魔法者を一網打尽にするチャンスでもある」

「手練ね。どんな能力の持ち主ですかね」

 とニッケスが口を挟む。ニッケスでなくとも、第一に知りたいところだ。

「そう、そこが一番知りたいところだろうな。では、まずそこから説明しておこう」

 ディスタは軽くうなずいて話を続ける。

「結社の支部である寺院の建物を管理し、あれこれの事務をやっているのが、バスペスという男だ。小柄で、年齢はたぶん五十くらい。この男の力は、〈遠聴〉だそうで、後で詳しく説明するが、だから本作戦にはある一定の制約がつく」

「まあ、たしかにやっかいだが、それ自体ではどうということもないし、特に珍しい力ではないな」とオルゴ。

「そうですね。――ほか、若い女性でラジーというのがいる。背はかなり高く髪も長い。彼女は〈念動〉力者で、それを使ったナイフ投げが得意とのことだ。たぶんこれが反撃にあたっての主戦力だろう、と思われる。ニッケス、テテロサ、念動力者を相手にしたことは?」

「それなりに」

「よくある能力ですもんね」

「けっこう。けれども、ラジーのナイフ投げは相当のレベルにあると聞いている。報告者の話では、ナイフであれば同時三本は可能ということだが、これはあくまでも最低の数字。実際はもっと上を想定して事に当たってほしい」

「「了解」」

「〈遠聴〉対策については、後で説明するが、下手に気取られたら六本のナイフの奇襲遠隔射撃でいきなり全滅ということもありえなくはない。注意してくれ。さて次は、〈硬化〉の魔法者でヨリトシという男。中年の中肉中背。能力レベルは不明。あとは、ああ、これが要注意で、かつ今回の作戦でぜひ保護してほしいと言われている〈反射〉の力の持ち主。十歳前後の女の子で名前はヤポンナというらしいだが……」

「〈反射〉? 聴いたことがないな」とオルゴが怪訝な顔でいう。

「オルゴさんでもですか。私もはじめて聞きました。学院でもはじめて出会うケースらしいです。〈反射〉ももちろん便宜上の仮称で、どういう力はよくわかっていないようです。ただ、これは魔力を反射するらしい」

「へええ、魔力を」とオルゴ。

 アーニアも、関心が顔に出るのを隠しきれない。

 旧魔法の力は、近代魔術師にとって厭うべきものとされているが、近代魔術の理論では説明が難しいこうしたユニークな力について聞くと、好奇心が湧き出す魔術師も少なからずいる。これも、魔術の探求に人生を捧げる身からしてみれば致し方のないことではある。

「どんな魔力でも反射できるのかどうかはわかりません。反射が意識的なものなのか、それとも自動化されているのかもわからない。それらについては一切不明で、わかっているのは、彼女に対していわゆる破壊魔法を撃った際、それが跳ね返ってきた、という事実があるらしい、ということだけです。あるいは、物理的な力に対しても、もしかしたら反射が可能なのかもしれない」

「物理に〈反射〉?」とオルゴ。

「ええ。殴りかかったり、斬りかかったり、矢を放ったり石を投げたり、といったものについてです。まあ、たぶんそこまでの能力ではないとは思うんですが……。とにかく、彼女には、手を出してはいけない。ただ、助かるのは彼女がまだ幼い少女だということですね。いずれにせよ、そんな子供にはそもそも攻撃を控えるのが私たちの方針だし、こちらから手出しをしなければどうということのない能力でしょうから、実際、助かりました」

 ディスタの口吻には、本心らしい安堵があった。

「わかっているのは以上だ。〈結社〉の集会には、だいたい十数人が集まるというので、他にも魔法者はいるだろうと思われる。油断は禁物だが、強い力を持つのはだいたい今挙げた面々が主と考えていい。しかし、さらにひとつ、能力がわかっていない大物がいる」

「それは?」とテテロサ。

「〈結社〉のこの支部を預かる司教だ」

「それはさっきバスペスという奴の説明を聞いたが……」とオルゴ。

「いや、彼はアジトの敷地と建物の管理人と事務責任者であって、司教ではないんです。司教は別に存在します。――報告によると男で、若く端正な顔立ちらしいが、その能力はまったく不明。報告者、というか内部の様子をうかがわせていた密偵にも、能力は愚か、素性も掴めなかったらしい。名前はタオと名乗っている、とのこと」

 素性もか。よほど用心深い男らしい。それだけで十分警戒に値する、とはその場にいた誰もが抱いた感想だった。

「ともあれ、そこはあまり考えても仕方がない。魔法者の能力は無際限で計りようもない。ほか、数人の用心棒を雇っていることも考えられるが、それについては、ニッケスとテテロサもいるし、なにしろウルトスさんが参加している。魔法魔術抜きの肉弾戦になれば、その時点でほとんど決着はついていると言ってもいいと思う」

「まあ、それはそうだね」とテテロサ。

「まかしときな」とニッケス。

「アーニア、初陣だから緊張するかもしれんが、おれたちがいれば大丈夫だ」

 とオルゴが、アーニアににやりと笑いかけてくれる。

「は、はい。ありがとうございます!」

 思わず裏返ってしまったアーニアの返事を聞いて、思わずみんなが笑った。

 アーニアは、自分の緊張ぶりを笑われてしまったようで、少し気分を害したが、それでもこチームの雰囲気は気にいったし、頼れる仲間だと思った。

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