プロローグ
夕闇が、真の闇にとってかわられようとしている。
その微かな光の中で、彼女はただひとり立ち尽くしている。
彼女は、少女というにもまだあまりにも幼かった。整った身なりと整った顔立ち。本来であればこの上なく愛らしい表情で、まわりのものを微笑ませずにはいられない、そんな女の子のはずだ。
顔の中でもひときわ目立つその瞳は、しかし、どこをとらえてもいない。
まわりの光景はただその目に映っているだけだ。
そのまわりに倒れる人、人、人の身体。それらの身体は、もう動かない。息をしない。
すべて、死んでいるからだ。
死体のいくつかからは、夥しい血液が流れ出れいる。多くの死体が武器を持っているところを見ると、これは互いに争い殺しあったのだろうと思われる。
けれども、少なくない死体に、外傷はまったくなかった。外から傷つけられることなく、突然心臓を止められたかのようにそのままその場で崩れ落ちたようだった。
いや、「突然心臓を止められたかのように」ではない。彼らは実際にそのように殺されたからだ。
少女はそれを知っている。知っているのも当然だ。なにしろそれは自分がやったのだから。
はじめてのことだった。でも、やり方はわかっていた。
それから十年経った今でも、彼女は、あの光景を忘れない。