すれ違いの王子とバラ
ちょっと忙しくて間が空いちゃいました><
みなさんお話覚えてますか?^^;
若干私はこの作品のリズムを忘れていて錯綜気味です・・・;
すれ違いの王子とバラ
近頃、花梨の様子がおかしい。
どこがどうと言われると説明しにくいが。とにかくおかしい。
夏休みという長期休暇が終わって、花梨は再び学校へバイトへと忙しい日々だ。
規則正しい朝の日課も戻って来た。ある一部を除いて。
「おはよう!二人とも」
朝食の用意をしていた俺とアインは、一人で起き出して来た部屋の主を振り返る。
「おはようございますぅ、花梨様!」
元気よく返事を返した妖精に引き換え、俺はあいさつも忘れて思わず眉を潜めた。
「ザイ?どうしたの?」
「・・・いや、別に・・・」
ここ数日、花梨は俺が起こしに行く前に自力で起きてくるようになった。
2、3日は珍しく自分で起きてきた花梨をからかったりしてもいたが、今はもうそんな気にもなれない。
朝花梨を起こすのはこの世界に来てからほとんどずっと俺の役目だった。眠る花梨に声を掛け、開いた瞳一杯に自分が映る瞬間が好きで。花梨が寝ぼけ声で俺におはようと言うその声で俺の中の何かが満ち足りた気分になる。
頭じゃわかっちゃいる。俺が花梨を起こしに行くのは約束でも契約でもない。自分で起きられればそれに越したことはないはずで、それを不服に思うのは俺の我が侭だ。
それでも俺は渋面になる自分の顔を緩和することも、声が完全に不機嫌になるのも止められなかった。
「・・・そう?朝食の準備いつもありがとうね」
この対応だってやっぱりいつもと違う。
俺がここまで不機嫌そうにしていて、理由を聞いてこない。
そうだ、おかしい部分はいっそ明確だった。態度が他所他所しくなったのだ。
余所余所しくなった分、花梨に甘えていた部分を俺は持て余している。
急に何故そういう態度になったんだ?
(何か、やっちまったんだろうか)
俺が悶々とする目の前で、花梨はトーストに噛り付いてどこかそわそわと視線を彷徨わせた。
秋になっても夏の暑さが和らがないことを残暑というらしいが、その残暑も幾分落ち着いて今日は随分涼しかった。俺がまた花梨のカバンに入り込んで学校に来ていいか聞くと、花梨は少し躊躇いを見せた。
今まで簡単に承諾を得られていたこと。それが今日、硬い表情をされたのがちょっと、いやかなり精神的に堪えた。
気付かない内に花梨を傷つけるようなことをしたのかもしれない。
俺はどうも感情にとんと疎いから、自信がない。今の状況を作り出している原因がそれ位しか思い当たらないしな。
「HRを始めるぞー。席着け」
その声にハッして俺はカバンの薄暗闇の中顔を上げた。
いつの間にか放課後だ。約2ヶ月ぶりの学校だというのに、終始埒の明かない考え事をしていたら懐かしく感じる間もなく時間が過ぎてしまった。
「あんまり遅くまで作業すんなよー」
HRが終了すると花梨の担任の松やん・・・あだ名で呼ばれているところしか聞かないから未だに本名を知らないが・・・が間延びした声で言った。
数人がはーい、と返事をしてすぐにガタガタと机を移動させる音で騒がしくなる。
かく言う花梨の机も移動が始まり、振動が伝わってきた。
「工具はどこ片したの?」
「掃除用具入れに入ってないー?」
ざわざわと教室内でトントン、カンカンと何か硬いものを叩くような音や何か紙を裂いているような音、色々な雑音が飛び交い始める。
いつもと違うこの騒ぎは、今日来る前に花梨には説明を受けた。
何でも学校の一大イベント、「文化祭」の準備をしているのだという。
クラスごとに出し物があり、花梨のクラスでは喫茶店をすることになっているそうだ。
受験のない生徒は勉強で準備に参加できない人間分も準備に励む。花梨もまた大道具班でバイトそっちのけで頑張っているらしい。
こんな国王が好きそうな催しで素養審査だどうだと言ってこないのは意外だが、花梨も楽しみにしているらしい祭り事が審査で台無しになるようなことがなくて良かったと思う。
カバンの少し口が空いた部分から外を覗く。机を寄せて出来た空間に木材や色の着いた液体を並べている生徒が見えた。
花梨はどこに行った?
ガヤガヤと騒がしい教室。急に俺は心細くなるのを感じて首を一振りした。
もう半年もいる世界。慣れているはずの一人。それなのに花梨の気配が近くに感じられないと心がざわつく。俺はいつの間に一人でいられなくなっていたんだろう。
今までずっと一人だった。寄り添おうとする人を片っ端から俺が拒絶していたから。
国も王宮も何の関係もないこの世界で、拒絶するものを失って戸惑っているしかなかった俺に花梨が手を差し伸べてくれた。
その手の温かさを知って、手を離せなくなって。
少しでも手が離れただけで許せなくなっているのかもしれない。
(・・・ああ、だからなのか)
ふと、理解する。花梨が他人行儀になったわけを。俺の手を離れていく理由を。
・・・花梨は俺を、友達として扱いたいのだ。
ずっと感情に名前を付けないでいた。
名前でしか知らないその感情は俺にとって理解できないと思っていたものだった。もしかしたら嫌悪していたのかもしれない。自分の出生を狂わせただろうその感情を。
愛だとか、恋だとか。そんな感情だ。
明確にしないならいつまでもあやふやにしていられる。
その間にも俺の求める距離感はどんどん友達を逸脱していたのに。花梨が拒絶しないことに甘えて俺はこの距離を当たり前みたいに思っていた。
拒絶されて初めて、自分の距離感が分かった。
花梨が求める距離と俺の求める距離に違いがあることも。
「・・・ははっ」
乾いた笑いが口から漏れて、力が抜けた。
ああ。俺は。
気持ちに自覚もない内にフラれてたのか。
「・・・バカだな・・・」
俺の呟きは暗闇に消えて、整理のつかない気持ちだけが心に降り積もった。
―――これで良かったのかもしれない。負け惜しみでも何でもなく、そう思う気持ちもあった。
花梨に気持ちを伝えていたら確実に花梨を悩ませていた。だから、これで良かったのかもしれない。
その時ふわっと急に浮遊感を感じた。カバンが持ち上げられたのだ。
「あれ?花梨ちゃん今日は帰るの?」
「え?う、ううん。えーとほら、荷物の中にちょっと大事なもの入ってるからさ。机を寄せてカバンが押しつぶされるといけないと思って」
花梨の声がした。慎重に降ろされた先ですぐ傍に花梨が座ったのを気配で感じる。自分の作業場に俺を連れてきてくれたのだろう。
・・・嫌われたわけじゃない。でなきゃ、こんな風に気遣ったりしないよな?
嫌われたわけじゃないんだともう一度心の中で繰り返すと、俺はゆっくり目を閉じた。
声が聞こえるだけでいい。姿を遠くから見るだけで良い。友達としてでも何でもいい。
傍にいられるなら何でも。
だから、花梨の望む距離にいるから。せめて俺が帰るその日まで。
暗闇の中に響く喧騒。隣にある花梨の気配だけが鮮やかだった。
カバンを傍に置くと私は軽くため息を吐いた。
本当は一回教室を出てザイの様子を確認してきたかったのだが、呼び止められた時とっさに外に出る言い訳が浮かばず作業場にとんぼ返り。
こう人が一杯いちゃさすがにそっとカバンの中を覗くというのも危険だ。
大丈夫かなザイ。残暑が和らいだといっても、まだ少しムシムシする。
・・・はあ。
「花梨ー、トンカチ取って」
ザイ、怒ったかな・・・。
「・・・花梨?」
朝も不機嫌そうだったし、学校に来たいって言われた時思わず詰まっちゃったし。
「・・・・・・。」
自然体って心がければ心がけるほど不自然になるってどゆこと―――。
「か・り・ん!」
「うわきゃ?!」
耳元に響いた声で私は少し飛び上がった。
すごいな。人間って本当に驚いた時って漫画みたいに飛び上がっちゃうんだ、初めて知った。・・・じゃなかった。木々四ちゃんがジト目で私を睨んでいる。
「な、何でしょうか?大道具リーダー!」
文化祭で私のクラスは喫茶店をやることになった。コンセプトは『不思議の国のアリス』で私たち大道具班はアリス風のセットやらインテリアやらを作るのに大忙しだ。
コンセプトを聞いても分かるかもしれないが、私のクラスは正直言って女子が強い。男子が大人しめな人ばかりなのでイベント事には女子の発言力がグイグイ増すのだ。女子層をターゲットにしたメルヘン調の喫茶店を目指すことになったのも、男子が挙げたメイド喫茶案を黙殺した女子たちの権力のおかげだ。
そんな発言力の強い女子の一人であり、大道具リーダーの木々四ちゃんはサバサバしたボーイッシュ系美人。
女子にも人気が高く、男友達も多い。進路はすでに推薦入学が決まっているとか。
「ト・ン・カ・チ。取って」
「あ、ど、どうぞー」
私はすぐ横にあった工具箱からトンカチを取り出す。トンカチを受け取っても木々四ちゃんはジトっと私の顔を見つめ動かない。
な、何かな?このねっとりした視線。
ちょいちょいと手でこまねきされ、内緒話をする距離になる。
「恋のお悩みかい?相馬女史」
「!!」
耳を寄せた先で囁かれた言葉に私は思いっきり動揺してガバッと顔を上げた。
あああ、こんな反応しちゃ図星ですと言っているようなもんじゃないのー!
ジト目のまま木々四ちゃんはヒュウっと口笛を吹いた。
「ほー。いかにも奥手そうな花梨がねぇ。ほー」
「・・・な、何でわかったの?」
「最近やたらぼーっとしてるからありがちな線でカマ掛けただけだよ」
・・・くっ。どうせありがちにぼーっとしてたさ。大多数の人がやるからありがちって呼ばれるんだ。
「で、相手誰?」
「・・・星の王子様」
「そりゃあ豪気だ」
木々四ちゃんはカラカラと笑ってそれ以上相手について聞いて来なかった。こういうさりげない気の遣い方が出来るから彼女は美人なのに男前と言われるのだと思う。
「それじゃさしずめ花梨は星の王子の帰還を待つバラの花って所かい?」
「・・・そんなんじゃないよ」
私は臆病で弱虫だ。いつ還るか分からない人をずっと待ち続けるほど強くない。
同様に、いつ元の世界に還るか分からない人をずっと好きでいる強さもない。
私たちが一緒にいるには必ずどちらの世界を選ばなくてはいけなくて。引き止める覚悟も、私が向こうの世界に行く覚悟もなくて。グズグズ悩んだ私はまた逃げたのだ。
彼が還る時、悲しくて寂しくても、今ならまだきっと耐えられる。
この感情が大きく育つ前に距離を取ろう。
そうやって、逃げた。
「ま、バラに足はない訳だし。そんな気なくとも待ち続けるしか出来ないわな」
「童話にそういう現実的なこと言わない」
サン=テグジュペリの「星の王子さま」。小さな星で暮らす星の王子と気位の高いバラ。バラに心傷つけられて王子は星を出て行ってしまった。その時バラはどんな気持ちだっただろう。
ひどく後悔しただろうか。足がないのを悔しがっただろうか。
いっそ、私も足がなかったら良かった。一つしかない選択肢なら選ぶ必要もない。逃げるか逃げないかの選択の自由もない。
・・・もしそうだったら、今みたいなもやもやした気持ちを抱かずに済んだのだろうか。
私には分からない。分かるのは自分が迷走中であることだけだった。
釘を打ちつける音が鳴り響く。
私が作っているのは立て看板だ。ベニヤ板に描かれたアリスのキャラクターたちを打ち付けていく。
チェシャ猫の描かれた板を打ち付けて看板を立たせると、私は大きく背伸びした。
「お疲れ相馬さん」
「え?あ、ありがと」
声を掛けられて振り返ると、紅茶のペットボトルが差し出されている。
差し出し人を見ると私の斜め前の席の佐藤君だ。
「あれ?佐藤君、今日塾は?」
「あー、いいのいいの。たまには勉強も休息が必要だって!」
佐藤君はクラスでも大人しめ男子の代表格で、裏では女子に草食系男子として話題に良く上る。
気遣いが女子並みにきめ細かく、肉食系女子の多いこのクラスではかわいがられる存在だ。
ペットボトルを受け取る。私が好きなメーカーの紅茶だ。ペットボトルを買うのはもったいないので基本私の水分補給は水筒に水だが。
「もらっていいの?」
「おう。みんなも差し入れだ。適当に取ってってくれ。準備お疲れー!」
近くのコンビニで買ってきたらしくコンビニの袋に入った大量のペットボトルを佐藤君はドサッと床に置いた。
そういえばザイは水分補給大丈夫だろうか。作業に熱中してしまっていたけれど結構時間が経った。
「ちょっと外に休憩行ってくるね」
私がカバンを持って教室を出ようとすると、何故か佐藤君が慌てたように付いてきた。
彼もたまたま外に用事かと思ったが、明らかに私の後を付いて来る。
私としては付いてこられるとすごく不都合なのだが。
「どうしたの?佐藤君」
付いてくるのだから用があるのだろう。振り返って尋ねると佐藤君は眉を八の字にして困った顔になった。
「え?あ、いや・・・あのさ。・・・もう、文化祭近いよなって思って!」
「うん?うん、近いけど・・・。それがどうかした?」
人目を憚るようにキョロキョロする佐藤君。挙動不審だ。
私は早くザイの様子を確認したいし、ソワソワしている。キョロキョロする佐藤君とソワソワする私。
佐藤君は決死のジャンプをするダイバーのような顔つきで私に向き直ると、出し抜けに言った。
「良かったら、文化祭、一緒に回らない?」
「え?!」
他意はない・・・ってことないんだよね?
まさか佐藤君がそんなこと言い出すと思わなかった私はポカンとして彼をを見返した。佐藤君は慌てたように手を振った。
「あ、友達と回る予定とかあったらそっち優先してくれていいから!なんというかその、そういうことなんで!返事待ってる」
それだけ早口で言うとダッシュで教室に駆け戻っていった。
嘘みたいだった。ついこの間まで私には恋愛のれの字もないバイトと節約が趣味の寂しい女子高生で。
誰かに恋をして誰かに好意を伝えられる日が来るなんて思ってなかった。
ふと我に返ってカバンを見る。私は無意識にカバンの口を手で押さえていた。
文化祭を一緒に回る、という行為がカップルの定番ごとだなんてザイは知らない。きっと今の言葉を聞いても感情迷子のザイならピンと来ないだろう。そう思って、勝手にホッとする自分がいた。
何気にしてるんだろう私。勝手に距離を置こうとしているくせに、決定的に離れるようなことは嫌がっている。私は卑怯だ。
恋ってもっとキラキラしているのだと思っていた。恋をする女性はどんどん綺麗になって輝いていくものだと。
今の私はどうだろう。恋をしている自分は自己中心な醜い感情に振り回されて、ひどく惨めだった。
空き教室に来て、私はそっとカバンを開いた。
いつまで経ってもザイが中から出てこないので、覗き込むと彼はぼんやり虚空を見つめていた。
「・・・ザイ?」
「え?」
驚いたように顔を上げるザイ。カバンを開けられたことも気が付いていなかったらしい。
「平気?ぼーっとするの?熱中症かな・・・」
私はザイ用に自作した小さい容器の蓋に取っ手をつけた不恰好なマグカップもどきに水筒の水を入れる。
小さいカップに水を注ぐのももうすっかり慣れて職人技だ。
手渡すと気まずそうに目を逸らされた。
ああ、そういえば今朝はザイを怒らせたままだったんだ。
「あのザイ・・・今朝は―――」
「・・・俺のことは気にしなくていいからな」
唐突に呟いたザイの言葉に私は目を瞬いた。
「え?」
「・・・さっき、サトウに誘われたんだろ?俺は、家で待ってるから気にする必要ない」
頭の中が真っ白になった気がした。
(それは。ザイ、それは・・・意味が分かって言ってるの)
口に出して確認できなくて私は心の中で呟く。
今自分が感じている感情をうまく理解できなかった。嵐で吹き荒れているような気もするし、静かな湖面のように耳が痛いほど静まっているようにも感じた。
「な、んで?せっかくの文化祭なんだから・・・楽しまなくちゃ。ザイも一緒に回ろう・・・?」
心はそんな状態なのに、口は「友達面した私」が勝手に言葉を選んで喋っている。
暗い光を帯びた赤い目が私を見上げた。
「サトウは二人だけを望んでるんだろ?・・・俺にも分かってんだよ」
何だか足元が崩れそうだった。
座り込みたい気持ちとここから走って逃げたい気持ちがない交ぜになって混乱する。
ザイの感情の分かりやすい表情はなりを潜めて、ひどく無感情な瞳が私を見つめた。
「花梨は俺の大事な・・・・・・友達、だから。・・・・・・邪魔にはなりたくない」
私が望んでいる言葉。
大事な、友達。
それなのに、心が悲鳴を上げる。辛い、悲しいと心が裂けて血を流す。
「・・・・・・。」
口を開けて。何か言おうとして。何も言葉が浮かばなかった。
私に何が言えるだろう。私が先に望んだのだ。
友達として終わること。恋愛感情を捨てること。
私に、何も言う資格なんてないのだ。
教室は長い間沈黙が降りた。降りた沈黙の分だけザイと私の溝が深まっていく気がした。
その溝を目の前にして、私は動けない。
まるで王子を待つバラのように。
大地に根を下して動けない。
体育祭が抜けてない?と最近思ったのですが、、、
ええ。すみません。すっかり忘れておりました。。。
暗雲たれこめる二人ですが。。。ようやっと両者自覚したわけですね。
当初の予定ではもう少しサクッと自覚するはずだったのですが、いつの間にかこんなに引き延ばされてましたね。




