十年目の地図・距離の穴
雨の残るボルティモアで、規制線の内側だけが静かだった。事件発生地点を地図へ置くと全土へ広がるが、距離にも時期にも明確な法則はない。空白地帯さえ意図か偶然か分からない。 射線候補を計算するほど、通常の距離では説明できない事件が残る。計算違いか未知の手段か、班は判断を保留する。
赤いレンズ反射は一度だけ鮮明に見えた。古い布と分解された金属片も見つかったが、同じ人物の所有物だと結ぶ証拠はない。
標的の予定変更が直前でも事件は起きる。情報源を一つずつ監査しても、全土を見渡す入口は見つからなかった。
サムは証拠袋を年代順に並べた。物は増えても、射手の年齢、性別、人数を確定できるものは一つもない。
会議が終わると、誰もいない窓に街の赤い灯が映った。全員が一度そちらを見たが、ただの反射だと確認してから席を立った。
夜になっても通報は増えなかった。静けさは安全の証明ではない。次がないことを願いながら、担当者は記録を閉じずに帰った。
記録には推測と確認事項が別の色で書かれた。赤い文字ばかり増えても、それを事実へ混ぜないことが捜査側に残された最低限の規律だった。
誰も発砲の瞬間を見ていない。音の記憶さえ証言ごとに違い、確実なのは標的が一度だけ倒れ、二発目がなかったことだった。
標的以外の負傷者はいない。偶然にしては正確で、正義と呼ぶには冷たすぎる。その矛盾が、事件を都市伝説へ近づけていった。
記録には推測と確認事項が別の色で書かれた。赤い文字ばかり増えても、それを事実へ混ぜないことが捜査側に残された最低限の規律だった。
誰も発砲の瞬間を見ていない。音の記憶さえ証言ごとに違い、確実なのは標的が一度だけ倒れ、二発目がなかったことだった。
(本文実測:708字)




