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6 ついに、毒見をする時間です

「……話を聞く限り、鶏舎で卵を産んだのは、きっとフェイ・ドラゴンね。もちろん竜だから強いけれど、温厚で争いを好む種類ではないわ。土地と魔力が豊な場所に卵を産むとされているの。荒れた土地には来ない。欲に満ちた場所にも、卵は残さない。なので、幸福の竜とも呼ばれているわ」


 魔力枯渇のせいで、ベッドで横になる私の横で、お母様が竜の説明をしてくれている。

 優しい視線が、私に戻る。


「……きっとセシルが土地に魔力を流し続けたのと、無関係ではないわ。これはすごいことよ。竜が卵を産むと決めるような場所が、伯爵家のカントリーハウス内にあるのだから」


 褒められた。けれど、元王女であるお母様が『すごいこと』というと、政治の匂いがする。

 もちろん、わからないふりはするけれど。


「きっと、卵を王都へ運んだとして、王都では孵化しないわね。わざわざ鶏舎で、しかもセシルの魔力を得て産んだ。すぐにここに持って帰るのが良いでしょう。竜の怒りを買うわけにはいきませんから」


 つまり、孵化させないと竜に恨まれるのか。

 だったら尚更、鱗の所有権を主張したい。

 あれは孵化に必要な経費として置いていったんじゃないのか。


「アルフォンス、私はここに残るけれど、くれぐれもセシルをよろしくお願いしますね」


 お母様が、横に立って難しい顔をしているお父様を見た。

 二人がなんだか重々しい。よく考えたら、お母様は社交シーズンも王都に滞在せずにずっとここにいる。

 もしかして、我が伯爵家の黒歴史、『相手の婚約者を差し置いて結婚してしまった王女様事件』が何らかの影響を及ぼしている?


「マルグリット……」

「私はあなたを愛しているし、何の後悔もないわ。けれど、子どもたちには、セシルには罪はないの」

「俺も、君しか愛していない。あれは、最善だった」

「……あなた……」


 二人が何かに燃え上がり、熱く見つめあう。

 じっとりと、それを眺めてしまった。

 こっちは魔力が枯渇して、気持ちが悪くて、声を発するのもしんどいのですよ。

 小さく咳をしてみたが、二人は見つめ合ったままだ。

 どうしよう、弟か妹が生まれるかもしれない。

 とりあえず、いちゃいちゃは、外でして欲しい……。


 両親がお互いを抱きしめあいながら退室した後、リヒャルトお兄様が部屋に入ってきた。


「一応、背景だけ伝えておこう。押さなくても、理解できる時がくるかもしれない」


 じっとりとした目を向けると、お兄様はすぐに終わるからと小さく頷いた。

 家族は優しいが、なんだか容赦ない。

 お兄様は、今の王家の歪みのようなものを教えてくれた。


 第二王子とされているのは、現在の王の第一子であること。

 だが、王太子は、在位五年の先王の治世であったときの王子だ。

 つまり、現王と王太子に血縁はほぼない。


 在位五年の王は有名な話だ。

 魔族と魔獣が攻めてきた、五年戦争とこの話は切っても切れない。

 最初のころ、その戦いで、王が命を落とした。

 王族は震えた。彼らとの戦いで先陣を切らねばならない王となることを、誰もが嫌がった。


 そんな時白羽の矢が立ったのが、王の外戚であり、王位継承権がある男。

 魔族との戦闘に長けた辺境伯の娘を妻に持っていたこともあり、祭り上げられた。

 その五年の在位の際に生まれたのが、今の王太子である。

 先王夫婦は、魔族や魔獣を活発化させないために、戦いが終わると王位を譲り辺境伯領へ戻った。

 ただ、王太子だけは、人質のように王都が手放さなかった。

 辺境伯が在位時に生まれた王太子を理由に、王都を簒奪する、その恐れを封じた形だ。


 リヒャルトお兄様、さすがに五歳には難しいです。

 三十歳にも難しいです。

 意味わからんが、政治がめっちゃ絡んでいることしかわかりません。


 しかも、王太子派と第二王子派がいて、政治が混迷しているらしい。

 お互いに婚約者が決まっていないのは、どちらにつくべきかを、貴族が悩んでいるからだ。


「セシルの体調が戻り次第、王都へ出立する。父上と、フリードリヒ、ヨアヒムと一緒にだ」


 つまり、体調が戻らなければいいってことか。

 ついに、毒見の時間がやってきたようだ。


 その日の夜中、私はまだふらつく体を起こして厨房へと忍び足で向かった。

 火が落ちた厨房は暗くて、肌寒い。さらに肌寒い、地下の貯蔵庫へ向かう。

 卵は地下の貯蔵庫に、日付別に保管している。

 誰にも伝えていないが食材の保管に適するよう、温度を四度~七度に保てるように土魔法で調整していた。

 私は今日の卵を一つ手に持つと、厨房に上がる。

 そこで気づいた。

 醤油が無い。

 米もない。


「道が遠すぎるな……」


 ブツブツ良いながら、卵を割り、かき混ぜた。

 お腹を壊すのは怖い。

 けれど、王都で第二王子と、悪役令嬢に会うのはもっと怖い。

 しょうがないから塩を足して、覚悟を決めて口にした。


「え。おいしい」


 黄身が濃厚で、こってりねっとりとしていておいしい。

 これは、温玉とか絶対においしいやつだ。

 飼料を変えたりとか、違う種類の鶏も育てたくなる。


 お腹を壊さなければの話だけども。


「トイレの前で寝るのが良いよね……」


 私は部屋に戻ると毛布をベッドから降ろすと、トイレのそばで包まる。

 絶対に、絶対に、王都なんて行かないんだから。

 私はそのまま寝た。

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