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ドリーム・タイム

人形の様に整った容姿の少女は、暗い夜道を真っ直ぐに、一切の迷いを感じさせずに歩いて行く。

蔵岡瑞羽。

そう名乗った彼女は、すぐ後ろにピッタリと貼り付く様にして着いてくる悠に振り返る事もなく尋ねる。


「…大体のところは理解したかしら?」


「えぇっとぅ…あ、はい…」


悠はか細い小声で答える。

短時間のうちに、信じられない程の量と重さを誇る情報を頭に叩き入れられた。

この世界にぴったり重ね合わされる様にして存在している、“神話領域”。

そこに住まい、活動する邪神“ダエーヴァ”。

今回現れたのは彼ら邪神の一柱、渾沌(こんとん)の一部分、それの“腕”の様なもの。

本体はその“神話領域”の奥深く、最深に潜み、蠢いている。

神話領域に存在できるのは神的存在のみであり、故に悠も洪健も、そして瑞羽自身も、ダエーヴァと等しく神的な存在、“アフラ”の化身なのだと言う。

ダエーヴァはそうした神的存在を神話領域に引きずり込み、自らのチカラを増すため、“喰らう”。


…信じがたい情報の大洪水。

圧倒されて悠は、言葉を失った。

瑞羽の小さなセーラー服の肩を食い入る様に見つめる。

…不意に、彼女は悠の目の前で歩みを止めた。

堪らず悠は瑞羽の背中に鼻面をぶつけた。


「うわぁ。」


思わず尻餅をつく。

そのままの体制で、彼女は瑞羽を見上げた。

その向こう側には先程見かけた様な、奇怪でグロテスクな怪物が彼女達を見下ろして存在し、切断されてもはや存在しない、瑞羽の頭部があった場所を通してそれが確認された。

それを見て、悠は絶叫する。


「きゃああああああああああああ!」


悲鳴を上げて布団から飛び起きた。


「おかえり。」


簡素に挨拶をする瑞羽。

手元のテーブルにはパーツごとに分解された自身の愛銃。

メンテナンス器具を使い、整備している様だった。

汗に塗れた自身の手のひらを見て、悠は徐々に落ち着きを取り戻した。


…ここは瑞羽の自宅アパート。

ミリタリー系の雑誌や、スコップ、土埃にまみれた工具箱が並ぶ、およそ女子高生の部屋とは思えない、六畳一間の和室。

時は土曜日の昼下がり。

一人暮らしをする彼女の家で、これからの指針を話し合っていた。

その最中に悠は気分が悪くなって、布団を借りて横になっていたのだ。

未だ悪夢の感触冷めやらぬ彼女は、激しく動悸する自分の胸を両手で押さえた。


「大丈夫?“ピカッ”してあげようか?」


そう、手のひらサイズの銀色の円筒を掲げて提案する瑞羽。

彼女が言うには“記憶処理装置”、通称“ピカッ”。

直近一時間以内の記憶を消し去る効果があるそうだ。

…何だか、何かの映画で見た気がする…


「無理しちゃ駄目よ。悪夢はいずれ泡の様に膨れ上がって、湧き上がる事があるの。悪化する前に、消去した方が良い記憶もあるわ。」


「…ご心配なく。私、そんなにヤワじゃないので…。」


言いつつも固く両手を握り締める悠に、瑞羽は続ける。


「…本当に綺麗に記憶が消えるんだから、これ。もし必要な時はいつでも言って。これを使えばたとえ、私が貴方を拘束して、濃厚レズ行為をしたとしても、綺麗サッパリその事を忘れるわ。」


「えぇっ!?」


驚愕の声を上げて後ずさる悠。


「…冗談に決まってるじゃない。」


そう、微笑んで言いつつ、完全に瞳孔が開いた瞳で悠を見つめている。


「……!」


「さて、そろそろ出発しなきゃ。王君との約束時間が近いわ。」


語りながら手を動かし、組み上げた拳銃を手品の様に空中にかき消して、彼女は立ち上がった。


「先ずは手始めに、“悪夢”を狩ってみましょう。」

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